拝啓
私はある一人の先輩に手紙を送った。これを送ったというのでしょうか。むしろ渡すという言葉がこの時、あっている気がした。その先輩はあの時までは接点が一つもなかった。
中学二年、秋。私は、私は自分が生きるていることが好きと思えなかった。部活という壁にぶち当たった。決して嫌でない授業。しかし、授業を受けずに私はある場所に向かった。その時、受けていたのは理科だった。そして、その授業を受ける人は皆、モーターを作っていた。
向かった先。そこには三人の人がいた。そのうち一人は先生であった。私は保健室に足を踏み入れていた。
「頭が痛いです」
私はその言葉を放って椅子に座った。その行動が自らに阿呆らしかった。
私は、その時決心した。自分の進む道を。それは自分自身いいことかは分からなかった。しかし今はそのようなことを自問しているときではなと思うた。
その決心を言うのに五分かけて迷った。ここには知らない人もいる。馬鹿にされたくない。自分の感情を押し殺し、我慢していた。いつしか、その我慢が怒りへと変わった。怒りを他人にぶつけるべく、それが私の本当の決心となった。
そこまでにどれだけかかったかは分からない。時計の針は十時を回っていた。
そしてついに口を開いた。しかし、その口を開いたのは私ではなかった。先生であった。自身がなく、うつむいているように見えるその存在感はもはや人ではなかった。物置の奥底にある存在感のない置物のようだった。
「どうしたの」
その問いかけに言葉が詰まった。ただ「授業をさぼった」とも言いずらい。自分が今思いつく、文字を頭の中で並べやっと、先生に話した。
「決心しました」
その威勢の良い言葉に周りにいた二人の生徒も驚いていた。そして、その決心を細かく話した。先生は感心しているようだった。また、向かい側に座っていた生徒もその会話に口を挟んだ。「かっこいい」その言葉に私は感動した。先生以外に自分の話を聞いてくれる人などいないと思っていた。そして先生との会話の後再び静かな時間が続いた。
そして、一人の生徒が私に訊いた。「どんなの書くの」
私は何も言えなかった。それが悔しかった。しかし、その時私の心が動いた気がした。秒針がゆっくりと時を刻むように。その生徒こそ、先輩であった。女子の少しおとなしそうな人だった。しかし内面話明るく誰とでも話すような人間にも見えた。
私は先輩に、紙切れに手紙のようにして一通書いた。そして、私は生きる事を選んだ。
手紙の返事は決して遅くはなかった。一週間足らずで返事を手渡しでくれた。私とは書き方が少し違った。私は、拝啓より分を始めた。そして敬具で終わらせた。P.S. など知らなかった。先輩がその言葉を使い終わらせていた。その手紙の中身を読んだ時、感心した。この学校にこのようなすごい人がいたのか、と。実際その先輩は全国大会まで部活でコマを進めるような人であった。それがあるからか、できる人は何をやるにしてもできるのか、と思った。
そして私の中で一つの感情が生まれていたような気がする。心の奥深くで。
一つの挑戦をした時もこの人に会ってからだった。初めて私は、女子と面と向かって話したのかもしれない。そしてこの時、どこか心の中で何かが吹っ切れた気がした。
手紙の中。私は何故か、電話番号を聞いていた。私自身、何をしたいかが分からなかった。
そして、手紙の返事の中には住所も含めた土地情報が書いてあった。このようなことを、ほとんど話したこともない人に言うのか。この時思った。そしてこの人を私は、信用しなければならない。相手方は私を信用しているのかは分からない。しかし、予想以上のことをしてもらって信用しないわけにはいかない。それが迷惑かもしれない。もしそうだったら、もしそうならば自分のしている事は恥だ。恥の言葉で表せない。その何かがあるかもしれない。
先輩は受験生だった。勉強もあるうえでこのような私に気を使っているのがすごいな、と感心してしまった。別にそれが悔しいわけではない。何に対してもできる能力がうらやましいとは思う。そう思っている時点で悔しいのかもしれない。
時は経ち、三月になってしまった。感謝を伝えることのできない。このもどかしさをどうすればいいのだろう。学校では話す機会も全くと言っていいほどない。
そして卒業の時が来た。
その時、何か一つのつながりが消えた。そのような気がした。これからの学校生活どうしようか。自分に悩んだ。自分の心の中でモーターが空回りする気がした。音も少しずつ変わっていく。存在感を知った。卒業式までだった。私の思いが一番阿呆らしい。そう感じた。