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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第5話「30日目」
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最強の技

「彼、目がいいね」


 白い仮面の下、抜けのいいソプラノ声がひびく。

 ヘクサーは関心したように息をつき、眼下の戦況をみつめる。


 目下のところ、タクマとトキナの試合は五分だった。

 手数でいえばトキナの圧勝だろう。

 風の刃で牽制し、接近または離脱には高速移動のスキルを使う。

 中距離からつかづ離れず危なげない戦法でタクマを圧倒している。


 しかしながらヘクサーの見立てでは、トキナはもうとっくに勝っていても良かったはずだ。

 むしろこの状況は、あの黒髪の剣士が攻め手に欠けているようにも思える。


「集中力もあるし、なにより体力が段違いだ。このままだと先にへばるのはむしろ……」


「あの片目の勇者だろうね」


 ベッサもまた、ヘクサーの見立てに同意する。

 赤髪の女剣士は、自身の経験則により勝負を決めるふたつの大事な要素を心得ている。

 それは派手な大技や、意外性のある隠し球ではない。

 目、と体力である。


「タクマは、そもそも目が異常にいい。そこの大男とちょっとした勝負で目を試したことがあったんだけど、その結果は驚くべきものだったさ」


「覚えてねぇか、霧刃の。おまえさんともやったことがある。ジャケンっていう遊びなんだが」


 ホルガに言われて、ヘクサーもああと納得する。

 相手の癖や、身体的な動きの特徴を見抜くための訓練のことだ。

 向かいあって、同時に指の形をつくって優劣を決める遊び。

 武人にとっての不可欠な資質である『目』を試されるものだ。


「ホルガ、たしか君はあれが上手かったね。ボクも初見ではなかなか勝てなかった覚えがあるよ」


「……まあその後は全敗だったが。ただタクマのやつは、オイラを1回目の勝負で攻略しやがったよ。あいつの目はここにいる誰よりもいい」


「アタシもそれには異論はない。やっぱり目がいいと型の稽古も飲みこみが早いし、実戦にもそれは顕著にあらわれてくるよ」


 つまりタクマは、ひとつめの要素である目を持ち合わせている。

 そしてふたつめは言わずもがなだろう。

 日々、重たい斧を振りつづけて手に入れた足腰の強さ、広い背中。

 ひとつのことを粘り強く追い求められる彼が、戦いの最中に集中力を欠くことがあるだろうか。


「……なるほど。彼の動きがどんどん洗練されていくのがわかるよ。まるで角ばった岩がはげしい川の流れに丸くなっていくように、実戦の中でむしろ無駄な動きが省かれていっている」


「そりゃ、オイラだって稽古に付き合ったのがたったの二日間だったんだ。ありゃ、その延長線上にあるみたいだな」


「ベッサ、思い出すよ。まるで舞のように洗練された美しい体技、するどい剣筋……あれこそ舞踏剣士の剣だ」


 ヘクサーは隣をのぞき見る。

 てっきり彼女のことだから怒りだすか、照れ臭そうにはにかんでいるのかと思えば、まっすぐ誇らしげに舞台を見つめていた。

 ベッサの瞳はまるで宝石のように輝いている。

 あの怪我以来、失っていた表情だ。


 ここで戦況に動きがあった。

 トキナの『風動(ストリーム)』が、目測を誤ったのだろう、闘技場の壁に激突。

 思った以上にタクマの剣圧に押されていたのかもしれない。

 おおきく体制を崩し、またスキルの発動待ち時間のため離脱することも叶わない。


 その隙を逃さず、タクマが剣先を眼前に突撃する。

 低い姿勢からの転がるような疾走は、まるで獲物を射程圏内にとらえた肉食獣のように、またたくまに間合いを無に詰めた。


「いけっ……!」


 誰もがタクマの勝ちを確信していた。

 ホルガは思わず椅子から立ち上がり、ベッサは力のこもった声をあげる。


 しかしその横でヘクサーは思案する。

 たしかにこれが剣士と剣士の試合ならばここが終幕だろう。

 タクマの剣先はトキナののど笛を斬り裂き、勝負は決まったはずだ。

 しかし、これは勇者と勇者の戦いなのである。


「トキナ、君は『暴風の獣』を倒したんだ。あのおそるべき風の獣を、君の剣は討ち滅ぼした……その快挙は君をつぎの段階へ進めたはずだろう?」


 ひとり、口の中でつぶやく。

 ヘクサーは、仮面の下でうすく笑っていた。

 やはり自分は負けず嫌いらしい。

 勝つつもりのない大会に出てうっかり優勝してしまったり、こうして弟子同士の戦いでも負けたくはない。


 勝負には3つ目の要素がある。

 むしろひとつあればいい。


「ユニークスキル『暴風装衣(アウターストーム)』」


 理不尽なまでに強力で、いかなるものにも破れない絶対の存在。

 いわゆる最強(ユニーク)(スキル)


 その瞬間、タクマの体がふわりと浮かびあがり、背後に尻もちをついた。

 なにが起きたのかは本人にもわからない。

 ただ見えない強い力が、体を押し上げていたのだ。


 まるで暴風の壁のような。

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