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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第5話「30日目」
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努力の剣

 対人戦においてそのスキルの有用性はふたつある。


 ひとつは、間合いを測られないこと。

 ただでさえ抜刀術というものは、刀のリーチを見抜かれにくい。

 そのうえこのスキルは、じゅうぶんに開いた間合いを一瞬でゼロにできる。


 そしてふたつめは、予備動作が限りなく無いということ。

 柄に手をかけ、ただ口の中でスキル名を唱えればいい。

 相手からはとつぜんこちらの姿が消えたように見えるだろう。

 そしてつぎの瞬間には斬られている。


 絶対不可避、神速の抜刀術。

 トキナの『風動(ストリーム)』を防げるものはいない。


 そしてトキナは、闘技場にいた彼を認識したとき、勝負を一撃で終わらせることに決めていたのだ。


 勇者タクマ。

 その手には『1』の刻印。


 やはり彼は、この30日間なにもやってこなかったのだ。

 おおかた私欲にかまけて楽してきたのだろう。もしくはただ戦うことに怯えていたのか。


 どちらにせよ進歩していない。

 トキナは腹が立った。

 その姿が、よく知っている誰かさんに似ていたから。


 だから後悔する暇も与えない。

 一瞬でケリをつける。

 ドラの合図と共に、トキナはスキル名を唱えた。


「剣戟スキル『風動(ストリーム)』」


 そして動きだす。

 6メートルは開いていただろう間合いを無視して、瞬きのあいだに相手の懐へもぐりこむ。

 そしてすかさず抜刀。

 ギィン、となにやら重くて鈍い手応えがトキナの刀に響いた。


「……っ!」


 その違和感に顔をしかめる。

 たしかに刀は外れてなどいない。

 げんにタクマの体は勢いよく弾かれて、闘技場の地面を転がっている。

 砂煙が舞う。


 それが晴れるとき、決着するはずだ。

 なすすべなく斬り捨てられたタクマが、絶望に打ちひしがれる姿。

 煙幕のむこうに浮かぶシルエット。

 はたして、トキナの期待は打ち砕かれていた。


「ふぅ……危なかった」


 無傷である。

 たしかにタクマは、両刃の剣でもってトキナの斬撃を防いでいた。

 その威力こそ殺しきれなかったようだが、ダメージらしいものは負っていない。


 なにより彼は立っている。

 勝負はまだ終わっていなかったのだ。


「なぜだ?」


 トキナが問う。

 スキルの再発動までまだ時間があったのだが、それにしてもこの距離では届かないだろう。

 なにより純粋な疑問として、風動を防げた理由を投げかけたのである。


「その技はいちど見ていたからな。はなから警戒していたさ」


「いちど見たくらいで看破できるはず……おまえにはなにが見えていた」


「あんたが口の中でなにか唱えたあと、俺からはあんたの肩が強ばるのが見えた。きっかけさえ掴めれば、あとは構えの角度からどこに刃がくるのか予測がつく」


「バカなっ! オレに予備動作など……」


 しかしここで、風動を防がれたのがはじめてではなかったことを思い出す。

 このスキルは、いちど斧使いのまえに見破られていた。

 もしその彼がタクマの味方についていて、攻略法なんかを伝授していたのだとしたら納得がいく。


「……っ、卑怯ものめ」


「ん? それより、来ないならこっちから行くぞ」


 剣を正眼に構え、なんの小細工もなくタクマが向かってくる。

 速力もなければ、ただ一直線なダッシュだったろう。

 しかしそれさえブラフで、なにか罠や仕込んだアイテムを使ってくる可能性もある。


 トキナはあえて真っ正面から受けた。

 剣よりもあやしい動きがないか、目で追いかける。

 しかしとうとう間合いに入ったタクマは、なんのてらいもなく上段から剣を振りぬいた。


 ひゅ……。

 かすかに風を切る音。

 わずかばかり半身になったトキナの肩に、刃先がかすめる。

 ただ愚直に剣を振っただけである。


 それにも関わらずトキナは、風動を再発動させて今度はタクマから距離をとる。

 刀を下段にかまえて、驚きに見開かれた目で相対する。


「いまのスキルはなんだ……!」


「スキル?」


「おまえ、レベル1だろう? 『剣術の心得』も取得できないはずだ……まさか剣戟系のユニークスキルか?」


 トキナは先ほどの光景を反芻する。

 上段からくることはわかっていた。

 剣のリーチも見抜けていたし、すこし身をひねれば切っ先が届かないことも承知していた。

 だから反撃することはじゅうぶんに可能だった。


 そんなトキナが気圧されていた。

 外れたはずのその一閃に。

 おそろしく冴えた剣技。

 ただ振りおろされただけの剣に込められた、想像もつかないような重み。


 そんなものがレベル1の勇者に放てるはずがない。

 同じ剣士系の勇者だろうトキナでも、おそらくレベル30より先で到達できるだろう境地だ。


 ただの上段斬りである。

 しかし洗練されていて、美しくさえある。

 当たっていないはずなのに、まだ脳裏に焼きついている閃き。


「ああ、あんたのいうスキルはレベルを上げると手に入れられるやつのことだな」


「ユニークスキルはその限りじゃない。なにか特別な条件を満たすことによる取得が可能だ」


「どっちにせよ、スキルじゃないさ。俺の剣は舞踏剣士から習った努力の剣だ」


「努力の剣……?」


 理解できない。

 この世界はまるでテレビゲームだ。

 魔物を倒しレベルをあげ、順当に強くなる。

 そのシステマチックな仕組みから外れて強くなる方法などあるはずがない。

 そんな抜け穴があったとしたらゲームなんて成立するはずがない、とんだクソゲーだ。


「……騙されるな。やつはオレになにか有益な情報を隠している……まだ他にスキルがあると仮定しろ」


「なにぶつぶつ言ってるんだ……喋ってばかりで試合にならないぞ」


「剣戟スキル『太刀風(ソードライン)』」


 一転してトキナがスキルを放つ。

 風の刃がまっすぐタクマに向かい、横なぎのそれに続くように、トキナが駆ける。

 今度は袈裟斬りにスキルを発動した。


「……『二閃(ダブル)』!」


 待ち時間なしで放つ2撃目。

 進化した剣戟スキル『太刀風・二閃』は十字を描くようにタクマへと迫った。

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