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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第5話「30日目」
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闘技場

 そこはいわゆる闘技場とよばれる場所だ。

 円形のフィールドは砂で平らにならされて、見回すほどの広さがある。

 上段には観客席が並んでいる。

 そして中央に、おそらく女神を象ったものだろう巨大な石像が建っていた。


「俺が一番のりだったか」


 タクマはまだ誰もいないその空間でつぶやいた。

 かるい革鎧を装備して、腰には剣をたずさえている。いつも練習で使っていた、ありふれた両刃剣だ。


 そして時間をもてあましそうだったので、軽い柔軟運動をはじめる。

 足首からじゅんばんに、怪我を防ぐ目的もあったがなにより血の巡りがよくなる利点がある。


 そうして15分くらい経ったか、むこうからタクマを呼ぶ声がひびいた。


「タクマくーん! ひさしぶりー!」


 ものすごい勢いでつっこんできて、ちょうど肩まわりを伸ばしていたタクマの背中に抱きつく。

 ぐりぐりと頰を押しつけながら、なやましく息をついた。


「はぁ……タクマくんだ。このおっきな背中が懐かしいよぉ……」


「コニカ、はなしてくれ。というかせいぜい1週間ぶりだろう」


「1週間って長いよ! ボクたちでいえば140日ぶりくらいだよ!」


 それは勇者の成長速度のことである。

 この世界でも1日は共通して24時間なのだから。


 タクマがふりかえると、コニカもこの日のために装いを変えていた。

 またすこし髪が伸びただろうか、その明るさがはえる純白の上着。


「それ、白衣か? 理科の先生みたいな」


「そうだよ。ボクのせんせーに借りてきたの……知的にみえるでしょ?」


 コニカが着ると実験ごっこしてる女子中学生といった感じだ。

 ただ本人が得意そうだったので、タクマもなにも言わなかった。


 そのとき、この闘技場にふたりめが現れる。

 タクマにしろコニカにしても、その人物に見覚えはない。


 長い藍色がかった髪の少女。

 体つきは痩せていて、目つきにもどこか鋭さがある。

 肌の色はやや褐色で、それと対比するような白いエプロンがまぶしい。


「メイドさんだ……」


 コニカがそう漏らした。

 まさに、少女の格好はメイド服というやつである。

 この場にいったい何の用があって来たのだろうか、タクマからはなんとなくそれがわかっていた。


「できるな……」


 彼の目測では身長162センチ。

 体重は45キログラム。

 やせ型だが下半身や背中にしっかりとした筋肉を備えている。

 そして上体をまったく揺らさない、気配を消すような独特の歩行法。


「ねぇ、あの首輪。あれ魔素を感じるよ」


「首輪……?」


 またコニカは目の付けどころが違ったらしい。

 たしかにメイドの首には、ごつい真っ黒な首輪がついていて、音もなく鎖が繋がっている。

 その先から歩いてきた人物に、ふたりは今度こそ見覚えがあった。


「おや、これはタクマ氏、それからコニカ氏ではござらんか。ふたりともお早いでござるな」


「ミノルか……! またデカくなったな」


 タクマがうれしそうに彼に近寄る。

 もはや貫禄のようなものがある。上等な仕立てのシャツを押し上げる、お腹の贅肉。

 たっぷりとしたボリュームのある肩まわりは、樽のように丸い。


 なんの邪気もなく、タクマはミノルに近づいたつもりだった。

 するとその喉元へ突きつけられた刃。

 いつのまに背後へ回っていたのだろうか、メイドの少女がタクマを拘束するように腕をひねりあげる。


「ミノル様へ近づくなっ!」


「……って、やめてくれ。おまえに敵意を向けられる覚えはない」


「ミノル様はこうおっしゃられました。今日に限っては勇者といえど敵同士だと」


 耳元では、少女の熱気のこもった声。

 脅しではないという真剣味がある。

 もしタクマが拘束から抜けようとすれば、お互いに無事じゃ済まされないのだろう。


「こらっ! メミたんっ!」


 そんな凍りついた空気を一蹴するように、そこへミノルの野太い声がひびいた。

 すぐさまタクマの拘束は解かれ、メイドの少女があわててその場に膝をつく。


「だめじゃないか、タクマ氏は拙者の友人でござるよ。それに敵同士っていうのは試合の間だけでござる」


「も、もうしわけございません。ミノル様……なんなりと罰をお与えください」


 メミ、とよばれたメイドの姿勢はまさに土下座だ。

 こうしているとミノルが主人で、彼女がその従者というような立ち位置である。

 そしてミノルの手首からは、首輪につながる鎖がゆらゆらと揺れていた。


「タクマ氏、すまないでござるよ。うちのメイドの粗相をゆるして欲しいでござる……」


「いや、俺なら大丈夫だ。それにいくら油断していたとはいえ、こうも背後を簡単にとられるようじゃまだまだだな」


「おぅ、タクマ氏が戦士の目をしているでござるよ。そういうの憧れるでござるなー!」


 するとコニカが、ふたりの間にずいっと割り込んだ。


「ねぇミノルくん。それで、このメイドさんはどちらさんなの?」


「ああ、彼女はメミたん。拙者の奴隷でござるよ」


 ドレイ、とミノルはこともなげに言った。

 あまりにも軽い調子だったので、コニカも二の句を失う。


「それで首輪をつけていたのか……俺にはよくわからんが、さっきのことで彼女を罰する必要はないぞ。べつに気にしてないからな」


「感謝するでござるよ、タクマ氏。今後はこのようなことが二度とないよう、しっかり教育しておくでござる」


 そうは言っても、奴隷のメミからは相変わらず敵意のこもった目を向けられていたタクマだった。


 4人が揃ったところで、神官たちが姿をあらわした。

 その中にはエルマリートと、この世界にきて最初に会っただろう灰色の髪の男がいる。


「よく集まってくれた、勇者諸君。まだひとり足りないようだが……これより模擬戦闘の1回戦を行う」


 タクマは名前こそ覚えていなかったが、その無感情な目には心当たりがあった。

 底冷えするような、ひたすら無味乾燥としたまなざし。

 その隣で神妙な面持ちのエルマリートも、普段は苦労していたんだなとふと思う。

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