お助けキャラ
二度目の戦いでは、一度目よりも効率よく進められた。
敵の攻撃パターンは見切っている。
前脚によるなぎ払いに、後脚による蹴りつけ。牙による噛みつきや、その場に留まったままでの高速回転。
一発ずつは必殺の破壊力をもっていたが、間合いとタイミングさえわかれば脅威ではない。
そのうえ、こちらを積極的に追いかけるような習性もなかった。
あくまで獣の王として君臨する魔物だ。
敵がどっしりと余裕をもって構えている限り、つけいる隙はある。
暴風の獣は、いずれ必ず倒せる敵である。
「ウォォ……ン」
しかし、追いつめると状況が一変する。
遠吠えとともに身にまとう、荒狂う風の衣。
その特殊能力こそが名前の由来なのだろう。
こちらの攻撃を一切寄せつけず、近づくだけで足もとをすくわれる暴風の壁。
「……っ!」
またしてもトキナは尻もちをついた。
敗北は濃厚である。
しかし、この経験もまた次戦への糧になるだろう。
迫る凶刃。
そのとき、トキナの体がすごい力で真横にひっぱられた。
それは風ではない。目視できないくらい細い糸が、獣の攻撃範囲からむりやりトキナを離脱させたのだ。
「グルルル……」
暴風の獣はのどを鳴らすと、興が削がれたように背を向ける。
そしてどこぞへと走り去っていった。
「……助けてくれなど頼んでいないが」
トキナがうらめしそうに糸を払おうとする。
その背後から、仮面の人物がゆったりとした歩調でやって来た。
「そうはいいつつ、ぼくの横槍をあてにしていたんだろう? まったく、キミは無茶な戦い方をするよ」
「ふんっ……使えるものはなんでも利用するだけだ」
そう言って解放されたトキナは、手の甲を確認する。
そこには『21』の刻印。
昨日からまたレベルが2も上がった。
どうやらユニークモンスターは、倒さずともダメージを負わせるだけで経験値が得られるらしい。
「かなりいい動きだったよ。もしかして、あたらしい勇者のスキルとやらを手に入れられたのかい?」
「おまえに説明する義理はない」
「そりゃないよ。義理といえばぼくはキミの命を二度も助けたんだから」
するとトキナも、仮面の人物を邪険にしつつ語りはじめる。
スキル『剣術の心得』がレベルアップしたのだ。
剣のあつかいを習得できるそのスキルが、刀を用いた戦闘スタイルに特化したのだ。
その名も『抜刀術の心得』。
一撃離脱を得意とした身のこなしや、納刀した状態からくりだす高速の剣技を可能とするスキルである。
「なるほどね、でもあの暴風の衣を剥がさないかぎり、キミは打つ手なしなわけだ」
「はっ、攻略法ならもう見えている」
トキナも強がっているわけではない。
抜刀術から派生したスキル『隻眼の見切り』による恩恵である。
一定割合のダメージを与えた魔物の、ステータスがわかるというスキルだ。
それによると暴風の獣の『暴風ノ衣』には自分より低レベルの攻撃をすべて弾く能力があるという。
その上限レベルは28である。
つまりこの調子で戦っていれば、いずれこちらの攻撃が通るようになるというわけだ。
それよりもトキナは、気配を潜めていた。
剣気を悟られないよう、すり足で僅かずつ仮面の人物に近づく。
底の見えた敵のことはどうでもよくなっていて、いまは目の前の彼に興味がわいていたのだ。
「んー? なんだい?」
あと一歩でこちらの間合いだった。
しかし背を向けたままで、トキナの動向は気づかれていた。
やはり『霧刃』のヘクサーという冒険者はかなり強いらしい。
「チッ……」
トキナも自分のレベルがあがったことで、スキルとは無関係に相手の力量が測れるようになっていた。
それによると、おそらくヘクサーは暴風の獣よりレベル換算でも上だろう。
霧刃や、剛腕の斧使いなど異名のある一部の冒険者はまるで実力の底がみえなかった。
「どうしたんだい、怖い顔して」
「昨晩、どうして俺を助けた?」
トキナは話題を変えるつもりでそう言った。
うっかり本心を投げかけてしまったことになる。
すると霧刃のヘクサーは、文字どおり顔色ひとつ変えずこう答える。
「ぼくにはね、目の前で困っている人を見過ごせない性質があるのさ。これはなんというか、ぼくにかかった呪いみたいなものでね、だからぼくは何度だってキミを助けるだろう」
「だったらどこへでも消えればいいだろ。どうしてオレにまとわりつく」
「そりゃ、キミはまた明日もユニークモンスターに挑み、無茶するじゃないか。それがわかっていて見過ごすこともできないんだよ」
ヘクサーはなにがおかしいのかくっくっと笑う。
白い仮面に隠されて表情こそうかがえないが、どこか投げやりな空気だ。
「ぼくからも尋ねたい。キミは勇者なのだろう? どうしてそこまで必死に、この世界を救おうとするのさ」
すると思わぬ問いかけに、トキナは目を丸くした。
たしかに、必死になってレベルを上げ、強い魔物を倒し、これではまるでこの世界のために頑張っているみたいじゃないか。
「違うっ……この世界のことなどどうでもいい。ただ……」
「ただ?」
「なにもしないのが嫌なだけだ。……あの勇者みたいに」
トキナにとってこの世界はゲームみたいなものだ。
飽きるまでは遊んでやってもいい、くらいのスタンスだ。
だからこそ、さいしょの町でいつまでもレベル1のままでいるあいつを見ていると、胸がムカムカするのだ。
しばらく会っていないが、きっとこのゲームに真剣に取り組むつもりはないのだろう。
するとヘクサーが、なにやらふっと気配を和ませた気がした。
「やっとキミ自身のことを話してくれたね。これでぼくらも仲間になれたかな?」
「仲間など……弱いやつが群れたがるだけだ」
「そう言うと思ったよ……キミはどうして他者を敵としか思えないんだろうね」
「当たり前だ。おまえたち冒険者はオレにとって……」
ただのお邪魔キャラだ。
そう言おうとしたトキナだったが、現状はどうだろう。
暴風の獣へ再挑戦できるのは、このヘクサーがいるという前提のもと成り立っている。
まるでレベリングのための救済措置そのものではないか。
「……まあせいぜい、お助けキャラとしていいように利用してやるよ」
「あれれー? キミって意外とかわいいとこあるんだね。ちょっと胸がキュンとしたよ」
「黙れっ……! ヘンタイが」
現状トキナのレベルは21。
暴風の獣と並ぶまではあと7レベル。
この調子でいけば、30日目の模擬戦闘日までに倒しきることも可能だろう。
もしそのときの相手があの勇者だとしたら。
レベル1のまま目の前に現れたとしたら。
そのときは完膚なきまでに叩きのめして、引導を渡してやろうと、トキナは心に決めるのだった。




