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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第4話「それぞれの決戦前夜」
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魔法実験教室

 以前まではそこに、墓地の管理人が寝泊まりするための小屋があった。

 引き払われて、いまは空き地になっている。

 ちょうど幽霊屋敷の裏手に位置し、墓地との境目にある土地だ。


「ふぅぅん……! あともうすこし……!」


 コニカは、台車にのせた荷物を空き地に向かって押していた。

 これがとにかく重い。

 反対側ではヤシカも助力していたが、彼女の小柄な体躯ではまるで助けになっていなかっただろう。


「も、もうここでいい……降ろそう」


 ぜぇぜぇ言いながら、ヤシカがその場に座りこむ。

 とりあえず空き地の中へは入ることができた。

 台車をかたむけると、重厚な鏡台が柔らかな土にめりこんだ。


「はぁ……こんなことならタクマくんを連れてくればよかったよ……秘密の特訓なんて言わずにさ」


「とはいえ、あやつとも戦う可能性があるのじゃろ? ここで行われることは他の勇者から秘匿せねば」


 コニカは、ヤシカから魔法の特訓を受けるためここにいた。

 魔術師であるヤシカには、どうやらコニカを強くするためのアテがあるらしい。


「さて、コニカよ。まずはこの鏡に魔法をぶつけてみせるのじゃ」


「えっ、でも。これってかなり高価なんだよね……? 壊しちゃってもボク弁償できないよ?」


 コニカの心配ももっともである。

 空き地まで運んできた鏡台は、ただの調度品ではない。

 いわく家一軒分の価値がある、ユニークモンスターのドロップアイテムらしいのだ。


「ふふっ……おぬしに壊せるならの話じゃが。案ずるな、やってみせよ」


 しかし、ヤシカにはなにか考えがあるらしかった。

 コニカも言われるがまま、目をとじて意識を集中する。


「詠唱スキル、も・え・あ・が・れ」


 手のひらに、ソフトボール大の火の玉があらわれる。

 それはたしかな熱を秘めながらも、コニカの手を焼くことはない。

 さらにコニカは呪文の一節を追加する。


「と・ん・で。は・ぜ・ろ!」


 かるく振りかぶって、コニカは火球をリリースした。

 ストロークの勢いよりも、それ自体が推進力をもって加速する。

 まっすぐ鏡台に向かってとび、あとは呪文のとおり炸裂するはずだった。


 ぷすん、と。

 はたして鏡面にぶつかると、火球は不発のままかき消えてしまった。


「あれ? ヤシカちゃん。詠唱が失敗しちゃったんだけど……」


「失敗してはおらんよ。これこそ、この鏡の能力なのじゃ!」


 魔物のなかでもっとも強大な龍種。

 そのうちの一体が落としたウロコであるこの鏡には、落し主のもつ特殊能力が込められているという。

 ヤシカはえっへん、と誇らしげに説明する。


「ふつうの魔物ならばごく稀に落とすものを魔石という。これがユニークモンスターともなると、ただの石ではなく具体的な形質をともなったアイテムを落とすのじゃ」


「この鏡は、魔石みたいなものなの?」


「さよう。魔石とはつまり魔物をかたちづくる黒いモヤ、仮に『黒魔素』とするが、それが結晶化してできあがる。強い魔物であれば黒魔素をより多く内包していて、ウロコのように具象化するのじゃ」


「ふつうの魔素と、黒魔素はちがうの?」


「ワシが勝手に定義しただけじゃが、魔素はこの空気中にもあふれている。魔物を形成するそれとは違う性質をもつので、便宜上は黒魔素として区別しているだけじゃ」


 たしかに、魔物を倒したときに噴き出る黒魔素は勇者にとっての経験値となる。

 ただの魔素がそれと同じであれば、勇者は呼吸しているだけでレベルアップしてしまうのだった。

 魔素と黒魔素は、まったく別ものと考えた方がいいらしい。


「はなしを戻そう。この鏡には、落し主である鏡鱗龍の能力が備わっている。魔法をはね返すという性質じゃ」


「……ボクの魔法は消えちゃったけど?」


「弱い魔法だと、はね返えるまでにかき消えてしまうようじゃな。鏡が壊れる心配をしてなかったのは、そういう理由じゃ」


 なるほど、ヤシカもそれで余裕だったというわけだ。

 コニカの魔法をはかるためにも、この鏡の性質を利用したかったらしい。


「おぬしの魔法は残念ながら、あまり強くない。他の勇者がどれほどできるか知らないが、これでは難しいじゃろう」


「うん。だからヤシカちゃん、ボクは強くならなきゃ……このままだともとの世界に戻されちゃうんだ」


 コニカにはまだ帰りたくない理由があった。

 しかし勇者の禁則事項では、召喚から30日目におこなわれる模擬戦闘の結果によってはもとの世界に強制送還されてしまう。


「ワシは言ったろう、コニカよ。おぬしを強くしてみせると。ワシならおぬしに戦うすべを与えてやれると」


「おねがい、ヤシカちゃん……! ボクはまだこの世界にいたいんだ」


 ヤシカはうなずいた。

 見た目こそ9つくらいの女の子だが、その態度には心強いものがある。


「ならば、これより実験を行う!」


「……実験?」


「題して、秘密の魔法実験教室じゃ」


 その目はらんらんと輝いている。

 はたして研究者としての探究心によるものか、子どもらしい純真なまなざしなのか。

 コニカからは、そのどちらにも見えたのだった。

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