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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第3話「剣と魔法の世界」
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魔術師

 昼間だというのにどことなく陰気な雰囲気がただよっている。

 墓地に隣接しているせいだろうか。

 古びた外観からも、まさに幽霊屋敷といった感じだ。


「タクマくん…….ボクこういうの無理なんだけど……」


 コニカが身をぎゅっと縮めている。

 安心させるように、タクマが頭にぽんと手を乗せた。

 そして呼び鈴を鳴らした。


 しばらくして、扉をあけたのはまだ小さな子どもだった。

 はたして、この家の子息だろうか、それとも小間使いか。

 女の子はムラサキ色の瞳でこちらを無感情に覗きこんでいる。


「とつぜんすまないが、こちらに魔術師なる人物がいると聞いてきた。合わせてはもらえないだろうか?」


「わしじゃよ」


 はじめタクマは、その子の言葉をよく聞き取れなかった。

 鈴の鳴るような凛とした音色は、たしかによく響いたはずだ。

 ぼーっとする彼に、女の子は気分を害されたように眉をしかめる。


「魔術師とはワシのことじゃ。それとも、こんなお子様がこの家の主人とは思わなかったか?」


 今度こそよく理解できた。

 まだ9つくらいの少女にみえた、彼女こそ幽霊屋敷の家主のようだ。


 するとこちらを油断なく観察していた彼女が、なにかに気づいたらしい。

 無言で扉の奥へとタクマたちを誘う。

 リビングへ通されると、うす暗いがこざっぱりとした部屋の中で、彼女は揺り椅子にふかく腰かけた。


「お主ら、勇者じゃろう」


「……なぜわかった?」


「その手の甲の刻印、見るものによってはそれと一目でわかる。それにこの家に勇者が訪ねてきたことは一度や二度ではない」


 見た目にはあどけないが、声にも、態度にもどこか高圧的なものがあった。

 タクマの目にも少女は見た目どおりの年齢にしか思えなかったが、しかし中身はその限りでないのだろう。


「先ほどは失礼なふるまいだった、申し訳ない。俺は勇者のタクマ、こっちは同じくコニカだ」


「はじめまして、勇者のコニカです」


 そう言ってタクマは深々と頭をさげる。

 それを意外そうに見て、コニカも彼に倣った。

 ややあってふぅ……と少女が息をつく。


「まあ、素直に謝れるならまだ見込みはあるか……ワシは世間から魔術師と呼ばれておる。魔術師のヤシカじゃ」


 魔術師、ヤシカの弛緩した気配に、ふたりも緊張をといた。

 息のつまるような空気が去ったからなのだろう、この部屋にもとから漂っていたお香の香りが鼻をついた。


「それで、お主らはどのような要件で来たのじゃ? まあ大方、ワシを訪ねてきたのだから魔術のことじゃろうが……」


「そこにある姿見を譲ってもらえないだろうか?」


 ヤシカは意外そうに目を丸くした。

 この部屋の隅に、どっしりと鎮座している大きな姿見。

 タクマはそれを指して譲って欲しいと言ったのだ。


「……かまわぬが、しかしお代はいただくぞ。なにせ家一軒はくだらぬ高価な品じゃからな」


「……そんなにするのか?」


「あれはただの鏡ではない。この界隈で流通しているものは、もっと小さくて加工精度が低い粗悪品じゃろう」


 その問いに、コニカはうなずく。

 もとの世界ではワンコインで買えるような品でも、こちらでは貴重なようだ。

 コニカの私物のものは、うすく曇っていて像にもゆがみがあり、かろうじて顔を映せる程度のものだった。


「あれは魔物の王、龍種の落とした鱗だという。お主らのいうユニークモンスター『鏡鱗龍』のドロップアイテムというやつじゃ」


「それじゃあ、そのユニークモンスターを倒せば手に入るのか?」


 タクマの問いに、ヤシカはゆったりとした口調で反論する。


「お主らには無理じゃ。この国でも龍種を倒した冒険者は『龍殺し』と呼ばれ英雄視されている。まして……レベル1の勇者であるお主には逆立ちしても敵わぬ相手じゃよ」


「そうか……」


「ただ、北の山脈には鍛治師の里があるという。なんでも勇者の技術が伝わった土地だという。そこに行けば精度のいい鏡も手に入るかもしれんな」


 ヤシカの提案に、タクマとコニカは顔を見合わせてうなずいた。

 どうやら今すぐ手に入れることは無理らしい。が、まったく入手不可能な品ではないようだ。


「いろいろとありがとう。わざわざ俺たちのために親身になってくれて」


「いやはや、こんな要件で訪ねてくる勇者ははじめてじゃったものでな……ところでそこの娘。お主にはどうやら他の要件があるようじゃな」


 するとヤシカが、コニカに向けて目を光らせた。

 コニカにしても意外だったのだろう、ただ期待を言い当てられたようで、おずおずとヤシカのもとに向かう。


 そしてこっそりと耳打ちした。

 どうやら、タクマには聞かれたくないことらしい。


「……ふむ、なるほどな。残念ながらそのような魔法は聞いたことがない」


「……そっか」


 ヤシカが、コニカのことをじっと値踏みするように見やる。

 なにやら意味ありげにうなずくと、ふっと表情を緩ませた。


「お主の望むものは、もしかすると西の果てにある『魔術の町』にあるやもしれん」


 ヤシカのコニカを見るその目には、どこか同類に対する親しみのようなものが浮かんでいた。

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