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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第3話「剣と魔法の世界」
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リーンバルク

 町はいつものように賑やかだ。

 やがて『魔王』と呼ばれる世界を破滅させるほどの災厄が迫りつつある、とはとうてい思えない。

 平和を絵に描いたような様子である。


「……歩きにくいんだが」


 タクマは横目でうっとうしがるようにコニカに言う。

 まるで腕にまとわりつく重りである。

 コニカに腕をしっかりと組まれ、歩調も自然とあわせる形になっていた。


「ボクはこっちのほうが歩きやすいんだもん、ふふっ。それにタクマくんの二の腕がたくましくていい感じだし」


「そうか。筋肉を褒められるのはわるい気がしないな」


 はた目にはどう思われていただろう。

 往来からもふたりはけっこうな視線を集めていた。

 俺の筋肉も一目置かれるようになったか、などとタクマは的外れなことを思う。


 すると向こうから見知った顔がやってきた。

 その彼は、歩くだけではふはふと激しい息をついている。重りを背負っているという点ではタクマと一緒である。


「おや……これはタクマ氏ではないですか! 奇遇ですな!」


「おお、ミノルか。久しぶりだな」


 鉢合わせたのは勇者ミノルだった。

 間近で声をかけられなければわからなかったかもしれない。

 なにせ彼の体型ときたら、もはや風格のような堂々としたものを感じさせていたのだから。


「また増えたな……すごいぞ。俺はおまえのことを密かに尊敬しているんだ。すばらしい増量の才能だが、筋肉に興味はないか?」


「筋肉でござるか? うーん、拙者は運動神経があまりよくないでござるからな……それより、タクマ氏」


 ずいっ、とミノルが顔を寄せる。

 体重は80キロを超えるだろう、熱気のようなものを発している。

 そんな彼はもっちりとしたほお肉に隠された元来の切れ長の目を光らせる。


「タクマ氏も隅におけないでござるな……この世界でこんな可愛らしいカノジョさんをゲットしていたなんて……!」


「はぁ? なんのことだ」


「恥ずかしがらなくていいでござるよ。いわゆる現地妻でござるな……いやはや、うらやまけしからんでござる」


 すると警戒するように身を固くしていた、コニカがあっと声をあげる。


「もしかして勇者のミノルくん? えー、初日ぶりだからぜんぜん気づかなかったよー!」


「……はて、拙者の知り合いでござったかな? 修羅場でござるか?」


「おまえは俺と違って覚えているだろ。おなじ勇者のコニカだ」


 するとこの往来で、ミノルは悲鳴にも近いものを発した。

 ぶひぃー! と。

 その声に驚いた売り子が、商品の入ったザルをひっくり返していた。


「こ、コニカ殿! なんとも、見違えたでござるよ。すっごく可愛いでござる! その現地風の格好もすごく似合ってるでござるよー!」


「ふふっ、ありがと。ミノルくんもおっきくなったねー。なんかお父さんって感じ」


「むはっ、よろしければ拙者のことはパパと呼んでくだされ。……それにしてもタクマ氏、彼女は見違えたでござるな」


 そう言ってタクマに同意を求めている。

 たしかに髪はのびた。

 うすく化粧をしているのか、くちびるは艶やかな桃色に色づいている。

 そしてこの異世界風の、神官服に近いだろう、ゆったりとした丈の清楚な白い服。

 手首にある黒い宝石がよく映えている。


「そんなに変わったか? 毎日みているが背も体重もほとんど変化ないぞ」


「むぅ……ちょっとー! 今日のボクは特別なんだからねっ。準備にすっごい時間かけたんだからーっ」


「そのせいで出かけるのが昼前になってしまったがな」


 かるく言い争うようなやりとりを見ていたミノルが、ふとつぶやいた。


「まるで同棲カップルのような会話でござるなー。ふたりの関係はどういったものでござるか」


「ボクはねー。タクマといっしょに住んでるの。寝食をともにする仲なんだよねー」


「ああ、こいつひどい寝相なんだ。今朝だって起きたら俺のうでに巻きついていてな……」


「おぅ……せ、拙者には刺激が強すぎるでござるよ……ぐふぅ」


 そうしてその場からふらふらと離脱しようとするミノルを、タクマは呼び止める。


「ミノル、なるべく大きな鏡を売っているとこを知らないか」


「な、なんに使う気でござるか!」


「なにって……あった方がいろいろと捗るだろ。それにコニカも欲しいと言っていたからな」


「……もう勘弁してほしいでござるよ。ふたりの同棲生活があまりにも赤裸々でござる」


 どういう意味だろうか。

 タクマの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいたが、それでもしぶしぶミノルは教えてくれた。

 なんでも、魔術師ならまじないに使うものだから持っているかもしれないということだ。


「こんなことを拙者から言うのもへんでござるが、その……ほどほどにするでござるよ」


「……? ああ、それなら体調と相談してやってはいるが」


 筋トレや、剣の稽古のことだろうか。

 しかしもう、ミノルは聞き耳をもたなくなったらしい。

 なにやら熱にうかされたような足どりで、通りの向こうへ歩いていく。

 その途中、先ほど転がった豆だろうか、それに足をとられてすっ転んでいた。


「あいつもデカくなっているな。俺も頑張らないといけないな……!」


「タクマくん、あんまり太っちゃいやだよ?」


「だいじょうぶ。俺はリーンバルク、つまり体脂肪をあまり付けずに筋肉を増やすことが目標だから」


 タクマにとってミノルという存在はいいモチベーションの向上になった。

 またミノルにとっても、タクマは刺激物である。

 色々な意味で。



 それから関係ないものを見て回ったり、休憩がてらお茶にしたり、遅めの昼食をとったりと、いろいろコニカに振り回されたタクマだったが、ようやく有力な情報を得ることができた。

 姿見についてである。

 その魔術師と呼ばれる人物は、町はずれに住んでいるそうだ。

 ふたりは、墓地のあるさびしげな区画を抜けて、そのそばにある一軒の古い屋敷を訪ねていた。

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