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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第3話「剣と魔法の世界」
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インターバル

 ホルガが斧をふる。

 彼の剛腕からくりだされる斧は、いとも簡単に薪を両断していく。

 散らばったカケラを、今度はタクマが拾って軒下に並べていった。


「ホルガ。あんたのあの遊びは、つまり剣術の稽古でもあるんだね」


「なんだ、姐さんにはバレてたのか……」


 タクマは薪を積むのに夢中で、ベッサとホルガのふたりはこそこそと話し合っていた。

 ずばり、先ほどの勝負についてである。


「あのジャケンは、腕の動きやら形を相手によく見えるようにしていただろう。それは、剣術でいうと剣気や型を読むこととよく似ているね」


「そうだな、つまり指のかたちをつくるときに発する気配や、そのときに出るクセを見抜くための遊びだ。オイラ、この遊びだとほんとうに負けなしだったんだぜ?」


「そうだね、あんたは目がいいから」


 ホルガには必勝の策があった。

 それは、さいしょの3回戦ですべてパーを出すことである。

 それによりこちらのクセは出にくく、うまくいけば相手のクセを引き出せるのだ。


「目論見どおり、オイラはあいつが2回目のチョキを出した段階で見抜いていたよ。形をつくるとき、ちょっと親指がひらくのさ」


「へぇ、それだけのことで」


「そう、つぎの6回戦までで逆転できた。まあ、どちらにせよ相手の手がわかればいずれ逆転していただろうよ……問題なのは7回戦目だ」


 7回戦目。

 タクマがパーを出し、ホルガはグーを出していた。

 相手がなにを出すのかわかっていたならば、ありえない負けだ。

 つまりタクマがチョキをだす限り、ホルガはかならず1勝をあげることができるのだから。


「あいつ、自分のクセに気づいて隠しやがったんだよ。普通ならそんなことは無理だ……つまりこの遊びの肝を、タクマはあの時点で気づいていたんだ」


「アタシもあんたの目論見ならわかっていたけどね。だけど、クセは無意識だからクセなんだ……それを自分で矯正できるっていうのは、並大抵のことじゃないよ」


「そうだ。オイラもこの遊びを仲間うちで続けるうち、ようやく自分のクセを直せるようになったんだ。あいつは斧を振る姿勢がいいように、自分のことについてやけに自覚的なんだよな……」


 ホルガは素直に感心していた。

 もし自分の肉体を思ったとおりに動かせるのだとしたら、どんな武術をやっても大成するだろう。

 逆にいえば体というものは思い通りには決してならない。だからこそ、このゲンテイジャケンという遊びが成立するのだし、訓練としても重宝しているのである。


「さて、ここまではわかった。そこからの引き分けはどうしたんだい?」


「それがだな、どうやらあいつ、わざと引き分けになる手をつくってたみたいなんだよ……」


 ホルガは悔しそうに認める。

 それはようするに、タクマが勝とうと思えばいつでも決着がついていたということだ。

 まったく格の違いを見せつけられたのである。


「あいつ、オイラのクセを見抜いてやがったんだ。もうそんなものはないと思っていたんだが、どういう目をしてやがんだ」


「アタシもひとつ見つけたよ。あんた、グーを出すとき左の眉がすこし上がるんだ」


「……そうか、それであのとき姐さんはパーを出したんだな」


 ベッサにしてみれば、不毛なあいこが続くことに嫌気がさしていた。

 そこで、どうせなら無理やり勝負を終わらせようと思ったのだ。

 なにせホルガの手が見抜けたのだから、あとはそれに勝つよう手をつくれば、自然とタクマをも負かすことができるのである。


「だけどあいつ、なんで引き分けにし続けたんだ? オイラをいたぶって楽しんでやがったのか?」


「いや、そういうやつじゃないよ。タクマはあれでも優しいとこが……」


「姐さん、顔が赤いぜ?」


 ぱかーん、とホルガは叩かれた。

 余計なことを言ったばかりに、舞踏剣士のおかんむりに触れたらしい。

 すると、そこのとき薪を並べて終えたタクマが帰ってきた。


「向こうはいっぱいになったぞ。ホルガ、変わるか?」


「いや、あんたはもう帰りな。稽古は明日からも続くんだからね」


「そうか……インターバルならもうじゅうぶんにとれていたんだがな」


 そう言って首をひねる。

 ベッサもその様子を見てピンときていた。ホルガと顔を見合わせると、彼もどうやら気づいていたらしい。


「筋肉にとって休養は大事だからな。今日はもう休ませてもらうとしよう」


「……ああ、そうしな。それがあんたの勝ち取った権利だからね」


 ようするに、勝負を引き延ばしてその間に休憩したかっただけなのだろう。

 それだけのためにプライドを傷つけられたホルガは、がっくりとうなだれていたのだった。

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