インターバル
ホルガが斧をふる。
彼の剛腕からくりだされる斧は、いとも簡単に薪を両断していく。
散らばったカケラを、今度はタクマが拾って軒下に並べていった。
「ホルガ。あんたのあの遊びは、つまり剣術の稽古でもあるんだね」
「なんだ、姐さんにはバレてたのか……」
タクマは薪を積むのに夢中で、ベッサとホルガのふたりはこそこそと話し合っていた。
ずばり、先ほどの勝負についてである。
「あのジャケンは、腕の動きやら形を相手によく見えるようにしていただろう。それは、剣術でいうと剣気や型を読むこととよく似ているね」
「そうだな、つまり指のかたちをつくるときに発する気配や、そのときに出るクセを見抜くための遊びだ。オイラ、この遊びだとほんとうに負けなしだったんだぜ?」
「そうだね、あんたは目がいいから」
ホルガには必勝の策があった。
それは、さいしょの3回戦ですべてパーを出すことである。
それによりこちらのクセは出にくく、うまくいけば相手のクセを引き出せるのだ。
「目論見どおり、オイラはあいつが2回目のチョキを出した段階で見抜いていたよ。形をつくるとき、ちょっと親指がひらくのさ」
「へぇ、それだけのことで」
「そう、つぎの6回戦までで逆転できた。まあ、どちらにせよ相手の手がわかればいずれ逆転していただろうよ……問題なのは7回戦目だ」
7回戦目。
タクマがパーを出し、ホルガはグーを出していた。
相手がなにを出すのかわかっていたならば、ありえない負けだ。
つまりタクマがチョキをだす限り、ホルガはかならず1勝をあげることができるのだから。
「あいつ、自分のクセに気づいて隠しやがったんだよ。普通ならそんなことは無理だ……つまりこの遊びの肝を、タクマはあの時点で気づいていたんだ」
「アタシもあんたの目論見ならわかっていたけどね。だけど、クセは無意識だからクセなんだ……それを自分で矯正できるっていうのは、並大抵のことじゃないよ」
「そうだ。オイラもこの遊びを仲間うちで続けるうち、ようやく自分のクセを直せるようになったんだ。あいつは斧を振る姿勢がいいように、自分のことについてやけに自覚的なんだよな……」
ホルガは素直に感心していた。
もし自分の肉体を思ったとおりに動かせるのだとしたら、どんな武術をやっても大成するだろう。
逆にいえば体というものは思い通りには決してならない。だからこそ、このゲンテイジャケンという遊びが成立するのだし、訓練としても重宝しているのである。
「さて、ここまではわかった。そこからの引き分けはどうしたんだい?」
「それがだな、どうやらあいつ、わざと引き分けになる手をつくってたみたいなんだよ……」
ホルガは悔しそうに認める。
それはようするに、タクマが勝とうと思えばいつでも決着がついていたということだ。
まったく格の違いを見せつけられたのである。
「あいつ、オイラのクセを見抜いてやがったんだ。もうそんなものはないと思っていたんだが、どういう目をしてやがんだ」
「アタシもひとつ見つけたよ。あんた、グーを出すとき左の眉がすこし上がるんだ」
「……そうか、それであのとき姐さんはパーを出したんだな」
ベッサにしてみれば、不毛なあいこが続くことに嫌気がさしていた。
そこで、どうせなら無理やり勝負を終わらせようと思ったのだ。
なにせホルガの手が見抜けたのだから、あとはそれに勝つよう手をつくれば、自然とタクマをも負かすことができるのである。
「だけどあいつ、なんで引き分けにし続けたんだ? オイラをいたぶって楽しんでやがったのか?」
「いや、そういうやつじゃないよ。タクマはあれでも優しいとこが……」
「姐さん、顔が赤いぜ?」
ぱかーん、とホルガは叩かれた。
余計なことを言ったばかりに、舞踏剣士のおかんむりに触れたらしい。
すると、そこのとき薪を並べて終えたタクマが帰ってきた。
「向こうはいっぱいになったぞ。ホルガ、変わるか?」
「いや、あんたはもう帰りな。稽古は明日からも続くんだからね」
「そうか……インターバルならもうじゅうぶんにとれていたんだがな」
そう言って首をひねる。
ベッサもその様子を見てピンときていた。ホルガと顔を見合わせると、彼もどうやら気づいていたらしい。
「筋肉にとって休養は大事だからな。今日はもう休ませてもらうとしよう」
「……ああ、そうしな。それがあんたの勝ち取った権利だからね」
ようするに、勝負を引き延ばしてその間に休憩したかっただけなのだろう。
それだけのためにプライドを傷つけられたホルガは、がっくりとうなだれていたのだった。




