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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第3話「剣と魔法の世界」
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ゲンテイジャケン

 小屋には立派なえんとつがある。

 しかし、しばらくは煙を吐いていない。

 軒下に本来なら薪を置くスペースが設けられていたが、がらんとして心もとなくなっている。


「こりゃ、きいていたよりひでーな」


 ホルガはタクマの斧のあつかいを見て、あちゃーと額に手をおいた。

 そうしているあいだにも丸太に立てた薪が、ころっと転げ落ちる。

 まるで薪の方が斧から逃げる訓練をしているみたいだ。


「姐さん、調子はどうなんだい?」


「このとおりさ。まだ一本もいい音をひびかせてないよ」


「まあ、力みすぎだよな……格好は悪くないと思うんだが」


 ホルガにしても不思議なものである。

 薪割りとは、要領さえ覚えれば小さな子どもにもできる仕事だ。

 それなのにタクマのフリだけ上手な薪割りは、いっこうに成果を出せていなかった。


「おい、おまえさんジャケンって知ってるか?」


 そんなタクマに、ホルガは中断を求めた。

 彼は額に汗をかきながら、思いつめた様子でこちらを向く。


「なんだそれは。カンフー映画か?」


「いや、大昔に勇者から伝わった遊びらしい。かけ声とともに、手のかたちをつくって優劣を競わせるんだ」


 そう言ってホルガはじっさいにフリをしてみせる。

 ポン、のかけ声で出したのは握りこぶしだ。


「……ああ、ジャンケンのことか」


「やっぱり知っていたな。オイラ、この遊びであたらしい競技を思いついたんだが」


 ちょっと気晴らしのような調子だった。

 ベッサも、それにはなにも言わない。

 すこしの間なら手を止めていても黙っていてくれるらしい。


「オイラはこれを『ゲンテイジャケン』と名づけた。すなわち通常のジャケンに制限をもうけた遊びだ」


 制限は3項目。

 1.腕まくりをするなどして、相手に自分の手がよく見えるようにする。

 1.肘を固定し、腕を振ったりはずみをつけて形をつくらないようにする。

 1.ぜんぶで10回戦をおこない、合計の勝ち数で勝敗を決める。


「……なるほど、ルールは覚えた」


「とりあえずやってみようぜ。おまえさんもこん詰め過ぎて疲れただろ」


「ああ、もうクタクタだ……」


 めずらしく弱音を吐くタクマ。

 遊びにも乗り気の様子で、まずは3回戦までが行われた。

 結果、2勝1分でタクマの優勢。


「なんてこった。さすがに三連続パーを出すとは読まれなかっただろうに……」


「まあ、こんなものは運だからな」


 そう言いつつ、ふたりの顔には熱がこもっている。

 続く6回戦、勝負も半ばにさしかかる。

 結果はホルガの3連勝。

 これで3勝2敗1分と、逆転したことになる。


「たしかに勝負は時の運だな。オイラに流れがきてるらしいぞ!」


「……ああ、そうだな」


 わざとらしくはしゃいだ様子のホルガ。

 しかし、次の7回戦目。

 タクマがパーをだし、ホルガはグー。

 ここから空気はがらりと変わった。


 ホルガに真剣さが宿る。

 タクマも、まるで相手との間合いをはかるように構える。

 やはり限定、というからにはただ運に任せた遊びなどではない。

 残り3回戦が山場になるのだろう。


「ポン……!」


「……またあいこだな」


 しかし、おおかたの予想は裏切られた。

 すでに引き分けが10回も続いている。

 ホルガは息を切らし、目を血走らせている。

 タクマの方はすずしい顔をしていたが、油断しているわけではないようだ。


 その傍で、すっかり座りこんでベッサが頬杖をついていた。


「いつまで続くんだい……」


「どちらかが勝つまでは延長戦だ……! ここでやめたらゲンテイジャケン王者の名が廃るってもんよ」


「やっぱり、あんたの得意な遊びだったわけだね」


 そんなベッサは、おもむろに立ち上がった。

 ふたりが顔を見合わせて、まさに「ポン」の合図で手をつくろうというとき、自分もそれに割り込ませる。


 結果、タクマはグー。

 ホルガもグー。

 ベッサだけがそれに対してパーをつくっていた。


「負けたやつは薪割りだよ。さ、そろそろ在庫がないんだからちゃっちゃとやってくれ」


「そ、そりゃないぜー姐さん!」


 勝負はおもわぬ横槍で決した。

 壮絶な引き分け合戦の末にベッサのひとり勝ち。

 しぶしぶ、ホルガが斧を手にとるのだった。

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