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勇者レベル1、経験値より筋肉を求む  作者: 倉矢あきら
第2話「町のひとびと」
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勇者レベル13

 店内はごちゃごちゃしていて、両手を満足に広げられないほどだった。

 背の高い棚に分断され、右側にはいくつもの樽や木箱が置かれている。

 まるで傘立てみたいに、乱雑に詰め込まれていたのはいわゆる武器である。


 この店の看板には剣のレリーフが施されていた。

 つまりここは武器屋なのだろう。

 タクマも、興味ありげにうなずきながら商品を眺めている。


「……なるほど」


 本当はなにもわかっちゃいないが。

 せっかく剣の稽古をはじめたので、帰り道の途中にあったその店を覗いていたのだった。


 これがプロテイン売り場なら、成分表やアミノ酸スコアをくまなく見比べていただろう。

 また筋トレ器具やアタッチメントならば、自分の使っている姿をありありと想像できる。

 しかし武器ともなるとそうもいかず、ただの冷やかしになっていたのだ。


 店内はとても静かだ。

 店主だろうか、男がカウンターに肘をついて気だるそうにしている。

 タクマの背後にはたったひとり先客がいて、そうでなければ日も暮れて、店じまいにしていた頃合いなのだろう。


 タクマは横目に先客のようすをみた。

 彼は一振りの剣を手に、しげしげと見入っている。


「刀か……」


「わかるのか?」


 つい口に出ていたらしい。

 タクマは彼とまともに目が合う。

 片目を前髪で隠した、ほっそりとした肩つきの少年。

 身長167センチ、体重は平均よりやや下か。


 少年がぬらりと、剣を半ばまで鞘から抜いた。

 入口から夕陽がさしている。

 濡れたようなその刃に、ぼうっと茜色が映りこむ。


「美しいな……」


「あぁ……」


 ふっとどちらともなくため息がでる。

 波模様が刃を縁どり、冷ややかに光って見える。触れていなくても、そのするどい斬れ味を連想させた。


「まるで夕空に浮かぶ上弦の月だ」


「血管の浮いた上腕のようだな」


 ふたりはほぼ同時に感嘆を述べていた。

 ズレているようだが、その剣に対する尊敬の念は同じなのだろう。

 ふたりには連帯感のようなものが生まれつつあった。


 少年は刃を納めた。

 するとその手の甲に、数字が刻まれているのをタクマは見つける。

 なにか言おうとしたとき、背後で戸がひらかれた。


「……また会ったな、勇者」


 半身になって入口を潜るひげ面の大男。

てっきり自分のことかと思えば、その目はタクマをスルーして少年に向けられていた。


 あきらかに敵意のある視線だ。

 少年もそれを受け、剣を腰にかまえる。

 ふたりのあいだに冷たいものが流れた。


 それを受けて、タクマは珍しく記憶を掘り起こそうとしていた。

「次会ったら半殺しにしてやる」と、その台詞だけが脳から取り出される。


「俺に提案がある!」


 そう言って、タクマはすばやくその場に伏せた。

 つま先と手の指を支えに、体をぴんと伸ばす。その姿勢を、ふたりに見せつけるように維持した。


「ここは腕立て伏せで勝負しようじゃないか。どちらが高回数できるか、男と男の真剣勝負だ!」


「……いや、なにしてんだ?」


 大男もやっとタクマのことに気づいたらしい。ふたりはつい昼間、ギルドで会ったばかりなのだ。


「お互いのトレーニングにもなり、まさに一石二鳥。もちろん俺も参加するがな……!」


「もはや意味がわからねぇよ……おいタクマとか言ったな。姐さんはどうした?」


「ああ、俺があんまりにも薪を割れないから、今日はもう帰れと言われた」


「あの人も苦労してんだな……」


 大男のホルガは色々と察したようだ。

 すっかり毒気を抜かれたように、構えを解く。


 ただ少年はというと、今度はタクマに対して気を吐いていた。


「おまえ、その手はなんだ?」


「……手幅を狭めて二頭筋に効かせろということか?」


「その手の刻印、レベル1とはどういうことだ……!」


 タクマはすでに気づいていた。

 少年の手に刻まれた『13』の数字。

 つまり、彼はレベル13の勇者なのだ。


「この世界に来てなにをしていた」


「なにって、筋トレだ」


「おまえが遊んでいるあいだ、オレは魔王を倒す為レベルを上げてきた……おまえみたいにやる気のないやつが、オレのパーティだっていうのか……?」


 勇者は怒りを隠そうとしない。

 タクマも遊んでいたつもりはないが、しかしたったの2日間でずいぶんと差が開いてしまったようだ。


「俺には俺なりのやり方がある。もしそれが間違っていたのだとしたら、30日目にはっきりすることだろう」


「その前にオレがこの手で脱落させてやろうか。勇者レベル1……!」


 すると殺気立つ勇者から庇うように、ホルガがその巨体を割り込ませた。


「おう、そうやって誰かれかまわず噛みつくのはいいがよぅ……まずはオイラだろう? いつでも相手になるぜ」


「しゃしゃり出るな脇役が」


「あ? なんだって?」


「オレたち勇者……いやオレだけでも世界は救ってやる。おまえらモブキャラはせいぜい邪魔にならないよう隅で震えてろよ。目障りなんだよ……っ!」


 もはや言葉は不要だろう。

 と、この狭い店内では大斧を振りまわすわけにもいかず、ホルガは拳をにぎり固める。

 勇者も剣気を高めた。

 しかしふたりが動きだすよりも先に、火ぶたを落としたのはタクマの声だった。


「いまなんて言った……! モブキャラってどういう意味だ!」


 うわんっ、と傍に置かれていたからっぽの樽に反響する。

 なりゆきを見守っていた店主が、もう付き合いきれんとカウンターに身を隠すのだった。

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