五話
俺たちは盗賊を食べ終えた後、再び村があると思われる方へと歩みを進めた。
道中何匹か魔物と遭遇するも、俺たちの敵ではなくただのおやつとなり果ててしまう。
「ふむ。これと言って新しい力は得られないな」
歩きながら自分の手を見ながらグーパーと開閉する。
「そりゃあな。あの領域にいた魔物のほうが強力だからな」
ふむ。確かに領域にいた魔物達に比べると、外で遭遇した魔物は雲泥の差がある。食べる分には変わりはない……。いや、領域にいた奴らのほうが味が濃かったな。
異世界物定番の鑑定の力や、召喚されたときに使った水晶がないためステータスの確認は出来ない。
だが、召喚されたときに比べれば相当強くなったと実感している。
「ククク。そう心配しなくてもお前は強くなっているさ。まだまだだがな」
「……まだ強くなれるんだな」
「与えた力なら無限に強くなれる。だから食え。ひたすらに食え」
「どうせならドラゴンとか食ってみてぇ」
「旅の途中で食えるさ。ほら見ろ。村が見えてきたぞ」
話しながら歩いていると、ベルゼが前方を指さしたのでそちらを見る。
そこには人の背丈より高い木製の塀で囲まれた村があった。内側には木製の建物がいくつも建っているのが遠めから見てとれる。
建物の中には煙突のついているものもあり、領域を出たときに嗅いだ煙の臭いはこの煙突から出ていたものだろう。どうやら俺の鼻は結構な距離でも利くようだな。
「さあ、どうする?」
村を見つめているとベルゼが問うてくる。
「どうするって?」
「あの村をだよ。食い荒らすか?」
そう言うことか。ベルゼからしたら人間なんて全て飯にすぎないもんな。
「一晩泊ってから考えるさ。もう日が暮れるしな」
「はあ? オレたちはもう寝なくても平気だろうが」
「寝なくても平気だがな。俺としては普通の布団で一回休みたいんだよ」
領域にいたときは疲労で休憩するときなんて硬い床の上だったしな。久々にベッドで寝転がりたいぜ。
「そう言うもんか?」
「そう言うもんよ」
俺の返答にやれやれといった感じで首を振ると、村へと歩き始めた俺についてくる。
村の門まで行く。
「お、旅人か?」
門の前には一人の門番がおり、俺に問いかけてきた。
視線が俺にしか向いてないことから、ベルゼは姿を消しているようだ。
「ええ。一泊したいのですが宿屋はありますか?」
「ククク」
にこやかに返答する俺に対し、ベルゼは小さく笑う。
悪態でも吐いてやりたいところであるが、門番にはベルゼが見えていないので視線すら送ることが出来ず、内にあるちょっとしたイラつきを鎮めることしかできなかった。
「ああ。宿なら入ってすぐに看板のぶら下がってる家がある。そこが宿だ。泊っていくなら歓迎しよう。ようこそ名もなき村へ!」
「ありがとう」
すんなりと入れたな。
「……おお」
門の先に広がる光景に感嘆の声が漏れる。
現代日本では山奥とかに行かなければ見れない、木材をそのまま建材に使った山小屋のような建物。それがいくつもあり村となしている。
「辺境の村ってのはだいたいこんなもんだ」
なるほど。
ベルゼの言葉に納得し、俺は門番の言っていた看板のぶら下がっている建物へと向かった。
一見普通の民家のようだが他の家々とは違って、宿の看板がぶらさっがおり、扉は両開きだ。
扉を開けると、カランコロンとベルが鳴る。その音に気が付いたのか、受付らしきカウンターの奥からふくよかな女性が出てきた。
「あら? 旅人さん? いらっしゃい」
柔和な笑みを浮かべ、俺ら――いや、俺を歓迎してくれた。
「はい、日が落ちるので一泊お願いしてもいいですか?」
「ええ、受け付けるからこちらにいらっしゃい」
女性に手招きをされたので、受付カウンターの前まで行く。
「一泊なら銅貨十枚。夕食朝食付きなら銅貨十五枚になるけど、どうする?」
どうする? と聞かれて気が付いた。俺はこの世界の物価や貨幣をしらない。銅貨と言うからには銅でできた物なのだろう。ファンタジー小説なんかでは定番だな。
一応お金は領域内で死んでいた人間の持ち物から拝借してはいるものの、ベルゼからは「それがこの世界の金だ」としか教えられていない。
「あいにく今はこれしかないのですが……」
だが、困ったことに領域内で手に入れたお金は金貨しかなく、ちょっと困り顔で金貨を差し出す。
「ちょっ!? 待って待って! 金貨なんて釣りが出せなやしないよ!」
まあ、銅貨請求して金貨なんて出されたらこういう反応になるだろうな。
「おつりはいらないので、朝食付きで一泊お願いしても?」
ないものはしょうがない。
「……ったく困った客だねぇ。あとでやっぱり返してくれって言っても返さないからね!」
「言いませんよ」
金貨を握りしめる女性――女将さんに対して苦笑しながら言う。
「ほら。これが部屋の鍵さね。二階の一番奥の部屋だよ」
「ありがとうございます」
「それから食事は今すぐにでも出来るけどどうする? ほんとにいらないのかい?」
「ええ、村に着く前にウサギ捕まえて食べましたので」
「そうかい。もうしばらくすると村の連中が飲みに来るから騒がしくなるけど気にしないでちょうだいね」
どうやらこの宿屋は食事処としても使われているようだ。
「ええ。では私は部屋に行きますね」
「ごゆっくりー」
女将さんに会釈をして二階の部屋へと向かう。
「一番奥……。ここだな」
二階の廊下の一番奥の部屋の鍵を開け中に入る。
部屋の中は簡素で、ベッドと机が一つずつある程度。机の上にはランプが置いてあるので、夜の明かりはこれで確保するのだろう。夜目もあるため、俺には必要ないものだがな。
「さて、気づいたかリンドウ?」
「血の臭いだろ?」
「お、気づいてたか」
「そりゃ村に入る前からあれだけにおってればな」
この村は臭い。
動物や魔物の血の臭いに混じってわかりにくいが、村に着く前に食った盗賊たちの血。つまり人間の血の臭いもあった。
魔物とかに襲われて怪我したとかならわかるが、怪我をしたような形跡のない女将さんからも血の臭いがしたのだ。
「こりゃ、変な村に来ちまったようだな」
ククク。と楽しそうに笑うベルゼ。
「これはよくある盗賊の村か何かか?」
こんな領域からも近い危険地帯に村なんかあるわけないもんな。
しかも、村の近くで盗賊に襲われているわけだし。
「ベルゼ。下で村人が飲み始めたら確認してもらっていいか?」
「しゃーねぇな」
「悪いな」
「悪魔を顎で使うたぁ。リンドウもなかなか肝が据わってんな」
そう言い残し、ベルゼは部屋から出て行った。
「さて、ひと休憩するかね」
領域のしたいから持ってきていたリュック下ろし、俺はベッドで横になった。
どれくらい経っただろうか?
下の階の騒ぎもおさまり夜も深かまったころ、暗くなった部屋の角の闇からベルゼが現れた。
「どうだった?」
「ククク、予想通りだ。オレ達を襲ってきた盗賊が未だに帰ってきていないと騒いでたぜ」
「……んじゃ、今夜寝込みを襲いに来そうだな」
「外の盗賊を倒したのがオレらだって予想してるっぽいからなぁ。来ると思うぜ?」
「ま、来たら食うだけだ」
「ククク、いいねぇ。いい感じに悪魔に染まってきたじゃねぇか」
殺しに来るんだから殺されてもしょうがないだろ。
少しは力になるような奴がいるといいんだがな。
目を瞑ろうとしたところで宿の周りに人間のにおいが集まっていることに気づいた。
「扉から来るぜ?」
ベルゼが言った直後扉が静かに開かれる。
寝てると踏んで音を立てずに殺すつもりなのだろう。
俺はそのまま目を瞑ったまま、訪れた者が接近してくるのを待った。
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる気配。俺に気づかれてるとも知れず、気配の主は俺の寝転がっているベッドの横までやってきた。横に来た部屋への侵入者は何かを振り上げるような気配をする。振り上げられたものが俺へと降ろされたところで俺は侵入者の胸に向かって腕を突き刺し、心臓をわしづかんで引き抜く。
「か…は…っ!?」
侵入者の正体はなんと女将さんだった。
彼女はいきなり心臓を抉り取られたことによる驚きの表情をしながら床に倒れこむ。
「この建物にいたのはこの人だけっぽいな」
俺は手に持った心臓をかじりながら呟く。
「ん、この人魔力量が少し多いのか。美味い」
食べ終わり、袖口で血に濡れた口元を拭う。
「躊躇いなく人を食える辺り、お前悪魔の素質があるみたいだな」
そんな俺を見てベルゼが「ククク」と笑いを溢した。
「そんな素質いらんわ」
「ククク。外の飯でも食いに行こうぜ?」
変わらない表情で笑いを溢すベルゼは窓の外を親指で指す。
「そうだな。夜食と行こうか」
「馳走があるといいがな」
ベルゼは闇へと溶けるように消える。
「さて」
俺はベッドから立ち上がると、助走をつけて窓から外へ飛び出す。
「っ!?」
驚く村人――盗賊たちの前へと着地する。袖口に着いた血を確認した彼らは女将が死んだことを悟ったのだろう。俺への警戒を強めた。
「おいおいおい。俺だけ警戒してていいのか?」
「何を言って――」
俺が笑みを溢すと、口を開いた盗賊の一人が言葉を紡ぎ終わる前にその上半身が何かに食われたように消滅した。
「なっ!?」
「はははっ! いただきまーす」
ベルゼが食ったのを合図に俺も盗賊に食いかかった。
お読みいただきありがとうございます!
評価していただける嬉しいです!
よろしくお願いします!