三十四話
眠り。と言っても娯楽でしかないため部屋に人が来れば気配で起きることが出来る。
俺はよく知っている気配が部屋の中に現れたのを感じて起き上がった。
部屋の中を見渡すと、備え付けてある椅子と机。その椅子に座っているハエ頭の男を見つけた。
「楽しかったか?」
そう問いかけると、ベルゼは一度立ち上がって反転。椅子をまたぐように座りなおして背もたれに肘を置いた。
「おう。目新しいもんばかりで楽しかった。楽しかったがよぉ。この街にいる、と言うよりあの変な武器使ってる連中は魔力が少なくて不味かったわ」
不味いのか。
「これ土産。いるか?」
己の影から食った奴のであろう武器を複数取り出して言うベルゼ。
その武器は武具屋で見た特殊な武器だ。
「……足がつくだろ。食っちまえ」
「あっそ」
つまらなそうに言葉を吐いたベルゼは複数ある武器に手をかざして黒い靄を発生させると、自らに取り込んだ。
おかげでごちゃごちゃした床が綺麗になる。
「俺はもう外に出るつもりはないが、どうする?」
「あぁ? んだよ。つまんねぇなぁ。適当にぶらついてくる」
「ああ」
椅子から立ち上がったベルゼは部屋から出て行った。
ベルゼの気配が遠ざかるのを感じながら、再び目を瞑る。
***
翌日。宿を出た俺は、夜通し遊び歩いていたベルゼと合流してミルへと向かう。
帝国内の地図を見てミルの方向は把握した。
メイルクラッドの防壁門から外に出て、人目のつかないところまで行って飛ぶ。
魔導列車に乗っていた時は荒野や平原しか見えなかったが、こうして空を飛ぶと帝国領内の自然の豊かさに目が行く。
首都周辺は平原が広がっているようだ。
おそらく首都防衛のために距離を決めて伐採したのだろう。
首都を中心として綺麗に円を描くように平原が広がっているのが証拠だ。
しばらく飛ぶと森が見えてきた。
森の上を飛行中、下を見ながら飛んでいると何匹か魔物を発見する。片手間で腕を伸ばして捕食しながら移動。我慢は出来るとは言え常時空腹状態なのだから食べ物を見つけたらそりゃ食べるよな。
「おいリンドウ」
「夜通し飯食ってたんだろ? その辺の魔物で我慢しろよ」
「ちっ」
舌打ちすんな。
適当に干し肉をベルゼの方へと放り投げながら言うがとても不服そうである。
朝帰りなんだからたらふく食ってるはずだろコイツ。
そんなこんなしながら俺たちは飛び続ける。しばらく飛んでいると、遠目だが山脈が見え始めた。地図的にはあの山脈の麓にミルがあるはずだ。
山脈の方から流れてくる川のほとりにいた猪型の魔物を捕食して地図を確認する。
もう少し飛んだら降りて徒歩にしよう。
山脈へと向けて飛び続け、ようやく街らしきものが見えてきた。
煙のにおいに人のにおいもするから合っているだろう。
ベルゼの方を向いて降下することを伝えて地へと降り立つ。もちろん周りに人が居ないことは確認済みである。
ここからは徒歩だ。
ゆったりと歩きながら街を目指すこと十分ほど。山脈地帯と言うこともあり開拓はされているものの森に囲まれた自然豊かな場所に、明らかな人工物である石造りの外壁はよく目立つ。
帝都の城壁とまでは行かずとも見事に気づきあげられた壁は見上げるほどである。石造りとはいったが、材質的にはコンクリートのように滑らかな壁面。こちらの世界にコンクリートがあるかわからないが、地属性魔法を使えば出来ないこともないのだろう。
そんな外壁を観察しながら、俺たちは門までやって来た。
ここまで来ると煙のにおいがかなり強く感じる。さすがは鍛冶の街だな。
門でギルドカードを提示して中へと入る。Aランク冒険者ともなれば身分や実力としては申し分ないため、一人旅でも何か言われることは特になかった。
かなり分厚く作られているのか、門を潜ってからトンネルのようになっている。俺たちはまっすぐ出口へと向かっていく。
トンネルを抜けた先は煙をあげる鉄製の家々が立ち並んでおり、そこかしこから鉄を打つ音が聞こえてくる。まるで街全体が工場のようにも見える。
「煙くせぇ」
と、隣にいるベルゼは口元を手で覆いながら言う。
確かに、ここまで鍛冶場が多いと煙のにおいも充満するよな。
結構な距離からでもにおいがわかるほどだったし。
「まあ、我慢しろ。食ったらすぐに出るからよ」
「ちっ。とっとと見つけて食っちまうぞ」
「へいへい」
とはいえ、彼らの居場所は俺にはわからない。
つまりはいつもの聞き耳タイムである。
ギルドの場所を聞き、さっそくギルドへとやって来た。ミルの街のギルドも鉄で出来た建物でごつい。扉や床、テーブルにカウンターは木材だったのがまだ救いである。全部手伝ったらちょっと居心地が悪いからな。
ギルドの食堂エリアで食事を頼み、俺は端っこの席へとつく。
しばらくして料理が運ばれてきた。山脈地帯で川も近くにあるため、今回は川魚の料理を頼んだ。さすがに米はないが、まあパンで我慢しよう。魚料理にパンは合わん。
さて、本題である情報収集だが、勇者は有名なためすぐにヒットした。
彼らはちゃんとこの街に来ているようだ。今はアダマンタイトを取りに奥地に向かっているらしい。
アダマンタイト自体ピンとこないが、山脈地帯の一つにある鉱山に向かったのだろう。さすがにこの街の人々は場所を知っているためかどの山かまでは喋っていなかった。
となると、次に行うとするなら鍛冶屋に行ってアダマンタイトの採れる鉱山を教えてもらうことだな。
俺は飯をたいらげ、金を置いて席を立つ。
向かうは有名どころの鍛冶屋の所だ。
ちなみにベルゼはどっかいった。奴のことだし、俺が移動するってわかったらその内ひょっこり現れるだろう。
お読みいただきありがとうございます。
食い殺すだけの物語ですがどうぞよろしくお願いいたします。
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