三十二話
魔導列車で移動している最中なのだが、流れる景色は荒野ばかりで少々飽きが生じてくる。
森などを開拓して線路を引くと魔物を轢いてしまい、脱線する可能性があるため、迂回して荒野などの見通しのいい所を通している。とパンフレットに書いてあった。
すでにいくつかの街を経由している。
もうしばらくで帝国の首都に着くだろう。
帝都に着いたら乗り換えてミルの街へと向かう予定なのだが……。
「飽きた。飛んだ方が速ぇだろこれ」
最初こそワクワクしていたベルゼが干し肉を齧りながら悪態をつく。
馬車や徒歩なんかよりも圧倒的な速度で移動は出来るのだが、飛行での移動は森や沼なんかを迂回せずに移動できるため短縮に繋がる。物珍しさで乗るべきではなかったのかもしれないな
車内販売で買った菓子や車内弁当をつまみながらそんなことを思う。
停車駅も多いから余計に時間がかかってしまうしな。
首都で一泊したら飛んでミルに向かうとしよう。
退屈ではあるが、もうしばらく列車の旅を満喫するか。
窓の外を見ながらコーヒーを飲もうとしたところで急停止をしたのか、身体が前へと押し出されてしまう。
前にある座席に手をついてぶつかるのを回避。
横を見るとベルゼが見事にひっくり返っていた。
「クソがッ! いきなりなんだってんだッ!?」
頭をぶつけたのか、後頭部を撫でながら立ち上がる。
そこへ車内アナウンスが鳴り響いた。
『現在進行先の線路にて大型の魔物を確認したため停車しております。これより魔物を追い払うための攻撃に大きな衝撃が伴いますので、手すりや椅子にしっかりと掴まりお待ちください。繰り返します――』
大型の魔物か。
地球と違って列車の停まる理由のスケールが違って面白いな。
それより衝撃と轟音が出る武器が気になる。どう魔物を追い払うのだろうか。
ジャーニアス帝国と言えば、ゼクスの武器である狙撃銃を思い浮かぶ。
あれみたいな先進的兵器が開発されているなら列車砲みたいなのを備えているのだろうか。
「よし」
俺は窓を開けて隠蔽魔法を使って姿を消して外へと出る。
空中へと浮かび上がり、視力を強化して前方を見た。
「へぇ、ロック―タートルじゃねぇか。しかもかなりの年寄りだなぁ」
そう言うのはいつの間にか横にいたベルゼ。
ベルゼが言うように、前方にいるのは巨大な岩を甲羅にしている亀だった。
動きが遅いものの、その巨体故に魔導列車の速度で突っ込んだら脱線の未来しか見えない。
巨大な岩亀を眺めていると、魔導列車の最後尾の方から歯車が回るような機械音が響いて来た。
そちらに視線を向けると、最後尾の車両の屋根が少し浮き上がり、横へとスライドしながら開いていく。
完全に開ききったが歯車の音はまだ止まらない。
屋根の開いた列車の内部から一つの巨大な砲がゆっくりと顔を出してきた。
「おー」
「おぉー」
それを見た俺とベルゼの感嘆の声が重なる。
列車砲が外へと出た所で歯車の音は止んだ。
列車砲の方を見ていると、魔力が充填されて行っているようで、砲の中が光り輝いている。
その光が一層輝きを増した後、列車砲が放たれた。
魔力の塊ともとれる光の放流が光線のように一直線にロックタートルへと向かう。
「すっげ」
「でもこれじゃ殺せねぇだろ」
どれほどの魔力を充填したらこれほどの魔砲になるのか。
だが、ベルゼの言う通り、あの巨大なロックタートルにはダメージは入らないだろうな。
魔砲はロックタートルに脇腹あたりに直撃するも、その威力では甲羅を少しばかり焦がす程度でしかない。が、破壊力よりも押し出す力に長けているようで、ロックタートルの身体が浮き上がり始め、片足が浮いた瞬間、出力が上げた魔砲がロックタートルを吹き飛ばした。
「殺すと言うよりも退かすだな」
「まあ、あれほどデケェのだったら殺すよりも退かす方が楽かぁ」
撃ち終わった列車砲がしまわれる音を聞きながら話す。
面白いものが見れたので、ひとまず自分らの車室へと戻った。
だが、あの山ほどある巨大なロックタートルは勿体ないな。
俺は立ち上がり、客室の扉に手をかける。
「おん? どこ行くんだ?」
頭の後ろで両手を組んでくつろいでいたベルゼが問うてきた。
「勿体ないだろ?」
「クカカ」
俺の答えに納得したのだろう。ベルゼは一笑いしてその目を閉じた。
その目閉じられたのか。
新事実に驚きながらも、俺は客室を後にした。
客車を後ろへ後ろへと進んでいき、客車の最後尾へと辿り着いた。
この車両の後ろが列車砲の積まれている車両らしい。
入り口には立ち入り禁止の看板が下げられている。
俺は隠蔽魔法で姿を消し、今いる客車と列車砲がある車両の間から屋根上へと登り、列車砲の車両の上を歩いて一番後ろへと向かった
一番後ろの屋根の座り込み列車が動き出すのを待つ。
しばらくして魔導列車は動き出した。
徐々にスピードを上げていく。
背中に風圧を感じながら後ろへと流れていく線路を眺めながらロックタートルの横を通るのを待った。
のそのそとゆっくり線路から遠ざかろうとするロックタートルを視界に収めた所で腕を伸ばす。
まるでゴムのように伸びた腕がロックタートルへと接触したのを手のひらで感じ、体積変動の力を使いスライム状にした手で覆う。
そして一気に吸収。
味を感じないのが欠点であるスライムでの吸収だが、こういう時に限ってはとても便利である。
急がねばならない時や、デカすぎてすぐには食いきれない時など。
吸収により、ロックタートルの無駄に高いDEFが俺を強化していくのを感じながら腕を元に戻して立ち上がる。
そして口笛を吹きながら自分の車室へと戻り、暇そうに窓の外を眺めているベルゼの斜め前に座って目を閉じた。
もうしばらくかかる魔導列車の旅。
瞑想でもしながら到着するのを待つとしよう。
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