二十六話
「うへぇー」
ひとまず落ち着いたベルゼ。
いつまでも国境付近にいては怪しまれる可能性があるので移動した。
移動先は国境から一番近い町アール。
今はアールの町にあるギルドで昼ごはん中だ。
落ち着いてはいるが、未だグロッキーであるベルゼはテーブルに突っ伏している。
情報収集もしているが、これと言って俺の欲しい情報は無いため、聞き耳をやめて食べる方に集中することにしている。
ただ、アイテリオールで作られた食物にはすべて光属性の魔力が微量ではあるが混ざっているようで、俺が食うと少しばかりピリッとする。
これがまたアクセントとなり美味である。
試しにベルゼにも勧めたが全力で断られた。
契約満了時に俺を食うのにこの程度の光属性魔力くらい食いなれとけよ。
と、ベルゼに言ったら
「リンドウが食った光属性は、お前の能力である『適応』によって悪魔でもあるお前に適応した物になるんだよ。いわば汚れた光だな。クククおえ……」
と、言われた。
汚れた光。他にも言いようはあっただろうに。
俺が食って『適応』した光ならベルゼでも食えるようで、契約上問題は無いようだ。
「悪魔が使う光属性だ。人間に使うと何が起こるかわからんな。ククク、うッ……」
汚れた回復魔法って感じか?
あとで実験してみよう。
ひとまず、今日はこの町で泊まるとしよう。
ベルゼも本調子に戻らなさそうだしな。
食事を終えて、ギルドから近い所の宿を取り、部屋へと行く。
背嚢とレッグポーチをベッドに放る。
ベルゼはと言うと、備え付きの椅子に座り、背もたれ体重をかけて上を向いていた。
飯を食う時の口がだらしなく開いているところを見ると相当キテるらしい。
放った背嚢から、アイテリオールの領内に入る前に手に入れておいた人間の足と腕を出してベルゼの方へと放る。
「んがっ!」
それを口でキャッチしたベルゼは、咀嚼して飲み込んだ後再びだらしなく口を開けて天井を向いた。
「こりゃ重症だな」
しばらく放置しておこう。
俺はアイテリオールの地図を開いてベッドに腰かける。
ここから首都まではおおよそ十日ほど。
明日は朝から飛んで四つ目の規模の大きい街に向かうか。
明日の予定が決まり、地図を背嚢にしまって寝転がる。
夜には少しだけ食事でもしよう。
俺もまだ本調子じゃないしな。
寝れはしないが瞑想でもしてれば時間はたつだろう。
ベッドに放った背嚢とレッグポーチをベッド横に下ろして、俺はベッドに寝転がる。
目を瞑り、身体の内を巡る魔力に意識を向けて瞑想を開始。
***
夜。
日本時間に換算するなら二十一時くらいだろうか。
魔物などの警戒が必要のないアイテリオール領内は夜も人通りが多いようだ。
他の国であれば、飲み屋とギルド、それに風俗くらいしか開いていない時間帯。
だが、この国では飲み屋はもちろん食品店や武器屋、道具屋なども開いている。
そんな夜の町へと繰り出した。
ベルゼはまだ口を開けて椅子にぐったりしたままだったため放置してきた。
フラフラと歩いているのだが、一人になるような人が見つからない。
風俗への客引きが結構来たが無視。
少し人気の少ない道に入り休憩。
「いやぁ、今日も平和だねぇ~」
しばらく休憩していると、俺のいる道へと冒険者っぽい男がふらふらと歩いてきた。
覚束ない足取りから見るに、かなり酔っているようだ。
そんな彼は俺に気付く様子もなく前を通り過ぎていく。
壁に寄りかかるのをやめて、その男の後ろをついて行くことにした。
店の多い大通りから外れたこの場所は人気が少ないので、この男を食うとしよう。
大通りから離れた位置まで来たところで腕を獣の口に変化させて頭から胴体まで一気に食らう。
残った半身はバランスが崩れドサリと倒れた。
ぴくぴくと痙攣する半身を横目に腕の口で咀嚼する。
「……不味いな」
今まで食った人間の中でも一番不味い。
苦みとえぐみが酷く、飲み込んだ後でも口の中に残る。
だが、残った半身がもったいないので、味に慣れるためにも残さず食べた。
「ペっ」
食べ終わった後も残る味に思わず唾を吐いてしまった。
この男だけが無駄に不味かったのか、それともこの男がアイテリオール教国生まれの人間だったのか。
一人だけでは判断できないからもう少し食ってみるか。
残った血を地属性魔法で消して大通りの方に向かった。
その後、夜が更けるまでに五、六人食ったのだが、結果としては全員不味かった。
冒険者はギルドカードの発行元を確認したが、アイテリオール外の冒険者も同じく不味い。
おそらくだが、アイテリオールで飲食をしたからなのかもしれない。
アイテリオール産の野菜や肉にも何かしらの加護的な何かが付与されている可能性がある。
あくまで可能性でしかないが……。
夜も更け、人気がなくなったため宿へと帰った。
翌日。
やっと放心状態から回復したベルゼ。
「アイテリオールにいる人間食ったのか?」
「ああ。よくわかったな」
「……お前から光の臭いがぷんぷんしてくるからな。味は?」
「ゲロまず」
「クク。だろうな。とっとと目的達成して出んぞ」
「ああ」
宿を出て門へと向かう。
途中でギルドの前を通った時少し騒がしかったのはいつものこと。
町に常駐している騎士が数人来ていたのを横目に町を出た。
町を出て人目がなくなる所まで来たところで飛ぶ。
空中で地図を見ながら方角を合わせて加速。
「……本当に魔物がいないんだな。動物っぽいのはいるのに」
「平和ボケしそうな光景だろ?」
「ああ。ここだけ地球みたいに感じるな」
「ほう? お前らがいた世界は魔物がいないんだけっか」
「魔力や魔法なんて物はおとぎ話でしかなかったからな。危険な動物とかはいたが、こっちの人間からしたら子犬程度にしか感じないだろうよ」
「平和な世界だこって」
「だろ?」
その代わり人間同士のいざこざが後を絶たないけどな。
ベルゼと適当に喋りながら飛ぶこと一日。
早朝に出て夕方に着くことが出来た。
空の魔物もいないから速度を保って飛ぶことがきたのが大きい。
予定としては日が落ちてからの到着だったが、早いことに越したこたぁない。
ギルドカードを提示して街に入り、ひとまず宿を取った。
「おいリンドウ。移動時間が早すぎて怪しまれてるぞ」
「っぽいな」
門を通る時に門兵たちがギルドカードを見てこそこそと話していた。
すんなり通してくれたのだが、少し警戒した方がよさそうだな。
でも、なぜ怪しまれたのかは謎だ。
通知された時にいた冒険者のギルドカード情報を共有でもしてるのだろうか?
今日は食事に出かけるのはよしておこう。
「ベルゼ、今日は食いに行くなよ?」
「そもそも食えねぇわ!」
そうだった。
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