二十話
あれから一週間。
ルンドブルムへと辿りつた。
ロードほどの魔物は出てこなかったが、魔物の襲撃や盗賊の襲撃は何回かあった。
魔物は解体し魔石だけを取り出して燃やした。
盗賊については襲撃してきた奴らは全員殺し、拠点にいると思われる残りは放置して移動を優先。
拠点にいた奴らはベルゼが食いに行ったので全滅してるだろうな。
羨ましい。
「ようこそルンドブルムへ」
クロイツが門番とのやり取りを終え、馬車が動き出す。
さすがは王都周辺の街だ。整えられた道によって馬車の振動が少ない。それにとても賑やかだ。
王都が襲撃されたと言う話は嘘なのだろうか?
それとも箝口令でもしかれているのだろうか?
まあ、なんでもいい。
聞き耳を立てて情報収集をしているが、その類の話は一切出てこない。
「おっと」
聞き耳を立てていたため、馬車の停車で少しバランスを崩してしまう。
どうやら目的地に到着したようだ。
馬車から降りるとクロイツが待っており、少しするとハイルとクルリアが合流した。
「今回はありがとう。これは依頼達成の証明書だ。ハイル殿に渡しておく」
一枚の紙をハイルに渡すクロイツ。
「正直、今回の依頼はリンドウがいなかったら厳しかったな」
紙を受け取ったハイルは俺の背中を叩く。
「そうそう! 僕たちだけじゃオークロードなんて相手できないもん」
「出来ても私たちが囮になってクロイツさんたちを逃がすことくらいかしらね?」
「ああ。あれはリンドウがいなかったら俺たち死んでたかもな」
ハイルの言葉に同意するように頷くゼクスたち。
どう反応していいかわからず、苦笑いを浮かべて頬をかく。
「そのことも証明書に書き留めてある。報酬の上乗せもされるだろう」
報酬の上乗せ。
その言葉に喜ぶハイル達。
俺の分だけだぞ。多分。
「では、私は仕事の方にかかる。今回は本当にありがとう」
クロイツは礼を言うと店へと入って行った。
彼を見送ったあと、俺たちはギルドに向かう。
ダンジョンで儲かっているグランダルのギルドよりは大きくないが、それでも実入りはいいほうなのだろう。それなりに大きい。
ギルドの中へと入ると、冒険者たちがちらりと俺たちを確認して談笑を続けた。
受付まで行きハイルが証明書を受付嬢に渡す。
「護衛依頼の証明書ですね。確認しますので少々お待ちください」
紙を受け取った受付嬢は、証明書に記載された内容を確認し始める。
しばらくして読み終わった彼女はこちらに笑顔を向け、問題がないことを伝えてきた。
報酬を渡されそれを背嚢にしまい込む。
「今回の依頼でリンドウさんはAランク試験を受けることができますが、どうなさいますか?」
「受けます」
今回の依頼を受けた理由がそれだしな。
断るつもりはない。
「かしこまりました。一番近い日程ですと三日後ですね。ご予定がおありでしたら別日も予定されてます」
「そうですね。特に予定は決めてませんので三日後の試験を受けます」
「はい。では三日後の午後一時開始ですので、その前までにお越しいただいてこちらのカードを受付にご提示してください。このカードは試験資格の証明になりますので失くさないようお願いします」
「わかりました」
受け取ったカードをレッグポーチに入れる。
「では、三日後にお待ちしております」
受付嬢にお礼を言ってギルドを後にしようとする。
「待てリンドウ! 祝うぞ!」
「そうだぜ? 依頼達成したんだ。祝いだ祝い!」
「パーッとやろうやろう!」
「騒ぎ過ぎないでちょうだいよ?」
ハイル達に捕まり、依頼達成の祝いをすることに。
食堂の方に移動して酒と料理を頼み席につく。
酒が来たところでハイルが立ち上がり音頭を取るらしい。
「護衛依頼達成を祝して! かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「乾杯」
木樽ジョッキ同士を叩き合わせ呷る。
そこからはハイルとゼクスが酔いつぶれるまで付き合わされてしまった。
酔いつぶれた彼らを適当な宿に放り込み、一人夜道を歩く。
夜も更け込み人通りのない夜道はどこか寂しくも感じるが、静けさと夜風の冷たさが心地がいい。
「リンドウ。テメェもう人を殺せねぇなんて言わねぇよな?」
いつの間にか横を歩いていたベルゼにそう問われる。
いきなり何を言ってんだこいつは?
「いきなりどうした」
「この二週間あいつらと行動してて嬉しそうだったじゃねぇか。だからよぉ、人間に情でも湧いてじゃねぇかってな」
後頭部をぼりぼり掻きながら言うベルゼ。
そんな様子の彼に思わず苦笑い。
「くくく。まさかお前がそんな心配をするなんてなぁ」
「そりゃあそうだろう。契約満了時に得る力が少なかったら困る。お前にゃ食い続けて貰わんとな」
「あはは! まあ、安心しろベルゼ。確かに今回のことは楽しかったし、頼られたことに嬉しさを感じたさ。だが、それと同時にあいつらへの嫉妬や憎悪を感じていたんだ」
彼らの関係が羨ましく、輝いて見えた。まぶしく見えた。
その輝きが、とても、気持ち悪く感じた。
反吐が出る。
「俺は食うさ」
「ククク。それを聞けて安心したぜ」
「それよりよぉベルゼ。腹が減った」
「クハッ! なら行こうぜ。美味そうなのは見繕ってある」
「さすが」
ベルゼに連れられ食事に出かけた。
ああ、久しぶりにまともな食事だ。
その日食ったのは雷の属性の魔法使いと水の属性の魔法使い。
雷は初めてであったが、ピリピリと電流が口の中で踊りそれが面白かった。二人とも優秀な魔法使いだったのだろう。その魔力は濃く美味しかった。
噛むたびに肉汁が飛び出るように魔力が弾けて浸透する。
至福だ。
***
三日後。
昼食を摂ったあと受付にカードを提出し、現在はギルドの地下にある訓練場に来ていた。
試験内容はAランク冒険者と戦い実力を示すこと。ルールは非殺傷、魔法あり、武器あり。
わかりやすくていい。何かの依頼をこなせだとかダンジョンの何階層まで攻略せよなんて試験よりも楽だ。
試験官はAランクになって長いベテランの冒険者。
初めてからすでに一時間が経過したのだが、合格者はゼロ。
ほとんどが試験官にぼこぼこにされて終わっていた。
「次! リンドウ!」
名前を呼ばれたので前へ出る。
俺のことを見た後、手にする紙へと目を落とした。
「ここまでの依頼達成率百パーセントか。凄いな」
「簡単な物ばかり受けてましたから」
「冗談言うな。オークロードの単独討伐までこなしてるじゃねぇか」
「たまたまです」
「ま、いいさ。その力があるかどうかは今からわかることだ」
手に持つ紙を魔法で燃やした試験官は右手に持った大剣を肩に担いだ。
それを見て俺も腰に括り付けた剣を抜きさり構える。
「合図を」
「はい。それでは、試験開始!」
試験担当のギルド員から合図が出る。
俺は構えたまま試験官を見る。
試験官は肩を大剣で軽く叩き、こちらの動きを見ているようだ。
このままいても始まらない。
せっかくなんでもありなのだから魔法を使うとしよう。
地属性魔法を使い、先端を丸くした槍を突き出す。
「うおっ!?」
試験官はその槍を後ろに下がって避ける。
「魔法使いかよ」
にやりと笑う試験官。
そもそも剣士とも魔法使いとも言ってないんだがな。
俺は力をセーブして接近、剣を振るう。
試験官は大剣で剣を弾くと、上まで振り上げたところで急停止。そのまま力を反転して振り下ろしてきた。この大剣をこうも軽く扱えるとは凄い膂力だ。STR数値どれくらいだろうか。
振り下ろされた大剣に地属性魔法の杭を放って弾く。空いた左わき腹を蹴る。が、大剣を離した右手で掌底うちされて防がれる。左手だけで持たれた大剣を振り下ろしてきたため、掌底打ちされた勢いを使って足を引き戻し一回転。さらにその勢いを乗せて左足で回し蹴りをして大剣の腹を穿つ。
「マジか」
スライムの柔軟性ゆえの攻撃だ。
穿たれた大剣は軌道が反れて俺の横の地面へと叩きつけられる。
出来た大きな隙を突いて剣を振るい、魔法も使う。
試験官からすると右側に剣が突き付けられ左からは土の槍。後ろからも土の槍。
三方からの寸止めで動けない試験官は一粒の汗を顎から垂らすと力を抜いた。
「負けだ。負け。ここまでコテンパンにされるとは思わなんだ」
「そうかい」
土の槍を崩し、剣を鞘に納めながら答える。
「こりゃ達成率百パーセントってのも頷けるな。お前ならSランクもいけるんじゃないか?」
「あはは。Sランクにはなる気はないんですけどね」
「おいおい。Sランクと言えば冒険者の夢だろうが」
「Sランクだと国からの依頼が舞い込むんですよね。嫌ですよそんなめんどくさい」
「だはは! そんなこと言うやつがいるたぁなぁ! よぉし、飲むか!」
「え、いや試験は」
「合格に決まってんだろ! あとの処理は頼む!」
「はい」
試験官は試験担当者に一言いうと俺を引き連れて食堂に引っ張って行った。
なぜ昼間から酒を飲まなければならないのか。
結局逃げることが出来ずに飲まされた。もちろん試験官の奢りだ。
「あ、いたいた」
しばらく飲んでいると試験官は酔いつぶれテーブルに突っ伏している。
そんな彼の所に見た目年齢三十代くらいの青髪の女性がやってきた。
「あら、酔いつぶれてる。ごめんね、付き合わせて」
「いえ、あなたは?」
「あ、そうね。私はこの酔いつぶれてる馬鹿の妻のエンリよ」
「よろしくお願いします。俺はリンドウです」
「よろしくね。さて、私はこの馬鹿を連れて行くわね」
「ええ」
見た目に騙されるなとはこのこと。
エンリは試験官を軽々と担ぎ上げるとギルドから出て行った。
まったく。
残りの酒を呷り俺もギルドから出ていく。
「あー、もう日が落ちかけてる」
どんだけ飲んでんだ。
まあいいや。
Aランクカードも明日には出来てるだろうし、カードを受け取ったらエンデに向かうとしよう。
「ベルゼはどこ行ったんだか」
ベルゼの気配を辿って裏道へと入って行く。
何人かついて来てる気がするが、ついてきたのが悪い。
ベルゼの所に行くと、まあ食事中だよな。
男の首筋に噛みついているところで、俺のことに気が付くと噛みちぎり手を振ってくる。
「魔物だ」
俺の背後でそんな言葉が聞こえた。
振り向くとそこにいたのは三人。昼間試験を受けていたBランク冒険者達だ。
「ギルドに報告してくるッ!」
そう言って一人が踵を返しては駆けだそうとした。
「悪いけど行かせないよ」
闇属性の魔法である影移動を使い瞬時に駆け出した男の進行方向に移動する。
「テメェ! 街中に魔物が出たんだぞ!」
「そうだな」
「なら退け!」
「受からなかった腹いせに俺を複数人で襲おうとしたんだろ?」
「今はそれどころじゃ……!」
「あれは俺の友人でね。食事の邪魔をするなよ」
そう言いながら右腕をドラゴンに変える。
「まあ、俺も腹が減ってたからちょうどいいか」
「ま、まも――」
冒険者は俺の姿を見て恐怖し、顔を歪めたが襲い来る俺の右腕に食われた。
「ば、化け物だッ!」
「もうそれ聞き飽きたわ。おーいベルゼ。追加だぞ」
「クハハ! んじゃ一匹貰うわ」
「おう」
闇属性の魔法で俺の獲物を一人を縛り、近づく。
「見るからにSTR重視の見た目だが、まあいいか」
「や、やめてくれ……!」
「ついてきたのが悪い」
結論はそこである。
ドラゴンになってる腕で男の脇腹に食いつく。
「くせぇ」
ちゃんと身体洗ってんのかこいつ。
「ぎゃあああああああああああああああああッ!?!?!?」
悲鳴を上げる冒険者。
「うるせぇ」
左腕もドラゴンに変えて頭から食らう。
「まじぃ」
不味いが食う。
好き嫌いはよくないからな。
俺が咀嚼し終えるころにはすでにベルゼはもう一人を片付け、最初食っていた男の所にいた。
「こっち来いよ。これ魔法剣士だから美味いぜ」
「お、口直しにちょうどよさそうだ」
「ククク」
お読みいただきありがとうございます!
ベルゼはちょっとかわいいハエです。
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