表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

十六話

すみません。

今回ちょっと長いです。

 翌日。早朝から動き出した勇者一行を追ってグランダルまで戻ってきた。

 現在の姿はまたもやおっさん。

 グランダルの教会前で一般見物人の一人として紛れてる。

 フィルの町の時と同様に教会から棺を運び出して馬車へと積み込むのを確認した。

 勇者と漆島の亡骸を乗せた馬車はゆっくりと動き出すとフィルの町側にある宿の前へと停まる。

 今日はグランダルに泊まるようだ。ラッキーだな。


「ベルゼぇ。夜になったら騎士を食っていいぜ」

「クハハハ! 待っっってましたぁ! あの騎士どもいい魔力持ってるからなぁ。楽しみだぜぇ!」

「夜になったらな」

「ああ。だが冒険者ならいいだろ?」

「いつも言うがほどほどにな。警戒されたら困る」

「まぁかせとけってぇ!」


 不安しかない言葉を残してベルゼは消えた。

 さて、奴らが動いてくれるとありがたんだがなぁ。


「とりあえず、監視するかぁ」


 宿の向かい側の屋根の上に座り込み待ち。


「お、すぐに逃げられるように大通り側の部屋になったのか」


 宿の方を見ると二つの窓から蓮田達を確認することが出来た。これまたラッキー。

 男女別の部屋になっているようだ。

 久留田と千川は部屋で泣いているようで、それを心配した蓮田達は久留田たちの部屋へと移動した。

 泣く女性陣に対して男性陣は怒りに露わにしている。

 仲の良いクラスメイト四人の死。そりゃ悲しいし怒りたくもなるよなぁ?


「あはは!」


 ぶっ殺してぇ。

 あの時あざ笑っていたのに友達の死は悲しいのか。怒りを覚えるのか。

 はぁあ。くだらねぇくだらねぇ。

 イライラが募る。

 もうこのまま街ごと癇癪で潰したいくらいだ。

 ああ、その手もあるか。

 ドラゴンにもなれるんだからいっそ街ごともありだな。


「……おっと」


 物騒なことを考えていると蓮田が乱暴に宿のドアを開けて外に出てきた。

 扉前にいた騎士に止められるが、蓮田が何か言うと止めるのをやめて再び姿勢をなおした。


「さてさて」


 どこにいくんですか? 蓮田君。

 俺は屋根の上から蓮田のあとをついて行く。

 彼はしばらくほっつき歩くとスラムの方へと入って行った。

 奥へ奥へと進んでいく彼はスラムの奥地へとたどり着くと、近寄ってきた浮浪者を殴る。

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 命乞いをする浮浪者を容赦することなく殴り続ける。ついには動かなくなってしまった浮浪者に唾を吐きかけ蹴りを入れると次の人に目を向けた。

 そして近づくと殴る蹴るの暴行をする。


「見ぃちゃったぁ見ぃちゃったぁ」

「ッ!? 誰だッ!!」


 あまりの愚行につい声をかけてしまう。

 声の方向、俺の方を見て凄い形相で睨んでくる蓮田。


「よっと」


 俺は屋根の上から飛び降りてふわりと着地。


「勇者が守るべき民に暴行をするなんてなぁ」


 ニタニタとした笑顔を蓮田に向ける。


「テメェ。俺を脅す気か?」


 そんな俺に蓮田は馬鹿にしたように笑みを浮かべて問いかけてくる。


「脅す? ないない。脅したところで俺に利益ないしなぁ」

「ならなんの用だよ? 浮浪者を殴ったって別に構わねぇじゃねぇか。こちとらイライラしてんだよ」


 彼は邪魔されたことによってイライラが増したのか、横に倒れている男の腹を思いっきり蹴った。


「用。用か。そうだなぁ」


 パチンと指を鳴らす。

 すると一瞬で俺たちがいる場所が暗くなった。


「ッ!? 闇魔法かッ!」


 瞬時に闇の魔法だろ気づいた蓮田は腰に括り付けてある剣に手をかけてこちらを警戒する。


「俺の用はお前だよ。この顔に見覚えはないか?」


 そう言って手で顔を覆い変形させる。


「ッ!? おい……ッ!!」


 変わった俺の顔を見て蓮田の顔は憤怒に染まる。


「あはは! どうやらこの顔に見覚えがあるみたいだな?」


 俺の声ともおっさんの時の声とも違う女の子の声。


「……そうか、テメェ……テメェが漆島を……ッ!!」


 そう、今の顔は漆島の顔を模した。


「勇者アイカだけじゃないぜ? ほれ」


再度顔を手で隠し顔を変える。


「この子に見覚えは?」


 また手をかざす。


「この子は?」


 さらに手をかざす。


「じゃあこの子は?」


 顔を変える度に蓮田の怒気と殺気がこの空間に充満していく。

 変えた顔は漆島を始めとした四人の勇者の顔だ。


「見覚えがあるみたいだなぁ?」


 今は鳴島の顔だ。

 無表情少女の顔でニヤニヤと笑みを浮かべて蓮田に問う。


「……そうか。テメェが、テメェが漆島たちを……ッ!!」

「せーかーい! 俺が四人とも殺した。あ、そうだ。この顔は?」


 最後に顔を手で隠して元の姿へと戻る。


「ッ!? ……竜胆」

「ああ! 久しぶりだな蓮田ぁ。生贄の儀式ぶりか?」

「……いや、竜胆は死んだ。お前は誰だ」

「あはは! 残念ながら死ななかったのさ。その証拠に神器は手に入らなかっただろう?」

「……神器のことを知っているのはあの場にいた奴らだけ。じゃあほんとうに……?」


 考えながら目を細めこちらを見る蓮田。


「ああ。本物の竜胆だぜ?」

「……なんでだよ」

「あ?」

「なんでクラスメイトを殺したッ!?」

「なんか、聞き飽きてきたなその言葉。単純だよ。お前らは俺を殺そうとしたんだ。あの時の恨みは今も忘れない。殺意も。ああ、思い出したらイライラしてきた。お前らのあの嘲笑った顔が憎い。クラスメイトを生贄にしたくせにお友達ごっこでお涙頂戴な態度が憎い。友達のために怒るお前らが憎い。ああ、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ。だから殺すんだよ。だから殺したんだよ」


 口から怨嗟が飛ぶ。


「……じゃあ俺も殺すのか?」

「ああ、お前も殺す。あ、そうそう。四人とも殺しただけじゃないんだ」

「は?」

「心臓がなかっただろ? 食ったんだ。心臓を」

「ッ!?」

「美味かったぜ? お前らはどんな味だろうな? 特にそう。千川は美味そうだよなぁ。あいつは確かINT値がSだったはず。つまり魔法の才能があるわけだ。魔力が濃そうで美味そうだ。おっと」


 想像して涎がたれそうになるのを手でおさえる。


「テメェッ!!」


 千川の名前を出したところで堪忍袋の緒が切れたのだろう。弾けたように剣を引き抜くと、こっちに来て強化された筋力と敏捷性。それから魔法で強化したであろう身体能力で俺に切りかかってきた。


「健吾君」


 静かに響く皆見の声


「ッ!?」


 蓮田の剣は俺の眼前で止まる。


「馬鹿だなお前」


 皆見の顔でニィっと笑い、貶す。


「テメッ!?」


 剣を止めたのが運の尽き。

 俺は右手をあの禍々しい剣に変えて、退こうとする蓮田の両腕を斬り落とす。


「あああああッ!?」


 血しぶきをまき散らしながら後ろへよろよろと下がっていき尻もちをつく蓮田。


「本日の料理は勇者のフルコース! オードブルは蓮田健吾君だぁ」


 顔を戻しながらニヤニヤと笑い、未だ痛みで叫ぶ蓮田がうるさいので頭を斬り落とし、心臓を抉って食う。


「……勇者だからINT値は低くても底辺魔法使いよりも多いから美味いが、やっぱイリ達みたいな強い魔法使いに比べたら劣るな。無駄に筋力だけが上がってくぜ」


 顔をおっさんに戻し、魔法を解除。

 落とした蓮田の首を炎で焼き、麻袋にしまい込む。

 周りにいる目撃者になりそうなスラムの住人を胃袋に収めてその場をあとにする。



   ***



 宿の向かいの屋根へと戻り再び待機。

 特に何か起きることもなく日が暮れ始めたところで、騎士たちが慌てたように動き出した。

 四人構成の分隊を三部隊作った彼らは街中へと消えていく。

 窓から見える勇者たちの部屋では、男性陣は部屋の中をうろうろと歩き回り、女性陣は不安そうな顔でベッドに座っていた。

 その態度からいつまでも帰ってこない蓮田を騎士たちが探しに行き、彼ら彼女らは心配なのだろう。


「おっと」


 暗くなり始めたからだろうか?

 二つの部屋に騎士が来るとカーテンを閉めてしまい中が見えなくなってしまった。

 まあいいか。

 おそらく蓮田の件で外に出てくることはないだろうしな。

 騎士が許さないだろう。

 蓮田を探しに行った騎士たちはベルゼが処理するだろうから、俺はもう少し時間が経ってから動くとしよう。

 屋根の上で寝転がる。



 しばらくして人通りが減り始めたころ。

 俺は屋根から飛び降りる。

 出入り口を警備してる騎士二人は、俺が降りてきたのを確認すると槍と剣をこちらに向けてきた。


「何者だ」

「この宿に何用か」


 敵意むき出しの問いかけに俺は笑顔を向ける。


「勇者様に会いに来ました」


 その言葉に警戒心が強くなる。


「勇者様たちに会わせるわけにはいかない」

「お引き取り願おう」


 そういう彼らの視線は俺から離れることもなく一挙一動を警戒している。


「どうしても会わなければいけないのですよ」

「帰れと言っているのだ」

「ふむ。なら仕方がないですね」


 トンっとつま先で地面を小突く。

 すると宿屋を取り囲むように炎が吹き上がる。

 人よりも高く燃え上がる炎はちりちりと空気を燃やし辺りの温度を上昇させていく。


「貴様何をッ!!」


 声を上げる騎士。

 視線を感じ上を見ると、勇者たちが窓から俺を見て慌てたように窓辺から走り去るのが見えた。


「騎士さん!」

「どういう状況ですかこれは!?」


 騎士さんと言ったのは千川。

 状況確認をしたのは新見。


「この者がいきなり――」


 手のひらから物質化したトゲを飛ばして騎士の頭を貫く。

 話の途中だが騎士には退場してもらうことにした。


「ッ!? あなたは?」


 新見は細剣を抜いて問いかけてきた。

 どうやら彼は騎士が殺されたことで俺を敵とみなしたようだ。


「おっと忘れてた」


 俺は持っていた蓮田の頭入り麻袋を投げる。

 彼らの前へと転がり落ちる麻袋。

 口は締めていないため麻袋から頭が出てきてしまった。


「ッ!?」

「健吾っ」

「ひっ……!?」

「健君……うそだよね……?」


 三者三様ならぬ四者四様。


「勇者ってわりにお前ら弱いよな。蓮田なんか皆見の顔にしたら攻撃止まったんだぜ? 笑っちまうよな」


 煽るように笑う。


「お前が健吾を……?」

「ああ。面白かったぜ? 漆島たちの顔を見せたら驚きと怒り、殺意を向けてくれた。友達を殺されて、俺を殺したいって思うほど大事にしてたんだな。お前らの友情を改めて確認出来て俺はうれしいよ。殺る気がでるぜ」


 殺意と愉悦で顔が変に歪むのを感じる。


「なぜ漆島さんたちを知って……? 漆島? この世界の人たちは僕らのことを下の名前で……。あなたは一体何者なんですか?」


 怪訝な顔で聞いてくる新見。

 こいつこの状況下でかなり冷静だな。なんか気持ち悪い。


「ああ、そうか。そうだな」


 俺は顔を手で覆い顔を元に戻す。


「どうだ? 俺の顔忘れたとは言わせねぇぞ?」


 目を細めて睨みながら言う。

 そんな俺の顔を見た彼ら四人は驚く。

 やっぱり正体を明かすと驚かれるらしい。誰にしても一ミリすら俺が生きているとは思ってないのかもしれないな。


「竜胆。お前、なんで」


 絞り出すように言ったのは岬川。


「そのなんではどのなんでだ? 生きてることか? 蓮田を殺したことか? それとも霧崎たち? 漆島?」


 岬川に視線をあて問いかける。


「火事! 火事よ! 勇者様方もそんなところで立ってないで逃げ――」


 パスパスパス。

 そんな小さな音ともに宿屋から出てきた男女二名女の子一名にトゲを飛ばして殺す。


「アリーシャさんッ!?」

「ミリカちゃん! イーダルさん!」


 出てきてすぐに倒れた彼らに駆け寄る千川と久留田。

 二人は三人を回復しようとするも、トゲが額を貫いているため即死。それに気づいて涙を流しながらこちらを睨んでくる。


「この人たちは関係ないじゃない!」

「殺すなんて酷いよ!」


 講義してくる二人。


「殺すなんて酷い? てめぇらからそんな言葉が出てくるなんてなぁ? じゃあ俺からも言っていいか? 生贄にするなんて酷いよぉ」


 俺の言った言葉に顔を歪ませる四人。


「くくく。力がないからって理由でクラスメイトを生贄にする奴らに文句を言われる筋合いはねぇ」

「だからって!」

「俺はお前らを殺すためなら誰が何人死のうが興味はない。邪魔なら食い殺す。そいつらも俺の顔を見られたら邪魔になる。後ろのもだ」


 そう言って背中からトゲを出し、後ろの建物の二階から覗いている人間へと放つ。

 窓の割れる音と何かが倒れる音が聞こえた。


「お前ッ!!」


 俺の行動に岬川は吠える。

 背負っていた大剣を引き抜いて俺へと接近してきた。

 下から振り上げるその軌道は確実に俺を殺すためのものだ。

 俺はその軌道上にあたる部分を硬化する。ガチンッ!! ッという音ともに衝撃が脇腹へと走る。岬川は力を込めているのか、大剣は脇腹のところでガチガチと音を鳴らしている。


「それだけか?」

「ッ!? はああああああああああッ!!」


 俺の煽りに怒りを覚えたのか、岬川は縦横無尽に大剣を振るう。

 硬化した腕で振るわれた大剣を防ぐ。

 岬川もSTR特化なのか一発一発に重みはあるものの俺の防御力を突破することは出来ずにいる。


「クソッ!!」


 一度後ろに下がると魔力を大剣に込め、切っ先を俺に向けて突貫。

 全力の突きを繰り出してきた岬川。

 俺は硬化した右腕を魔力で強化して、突きに合わせて拳を振るう。

 大剣の切っ先が俺の拳にあたる。岬川のSTR値から出る威力と勢いが俺の硬化し魔力で強化された拳、二つはぶつかり合い一瞬火花を散らすもその衝撃に大剣は耐えきれず砕け散った。


「なッ!?」


 砕けてしまったことに驚き隙が生まれた。

 その隙を突いて胸に手を突き刺す。


「カハッ!?」


 血反吐を吐きながらも俺の腕を掴む。痛みによってその手には力が入っておらず、まさに無駄な抵抗となっている。

 俺は突き刺した手で心臓を鷲掴む。早い鼓動が俺の手のひらに伝わってくる。

 左足を岬川の腹に添え、心臓を掴んだまま後ろへと押していく。


「あがっ……ぅぁ……っ」


 ぶちぶち。と血管や筋肉が千切れていく音と岬川のうめき声が響く。

 さらに足を込め、膝が伸び切ったときには心臓は身体から離れてしまう。心臓で繋がっていた支えがなくなり、後ろへとよろよろ下がると岬川は倒れてしまった。

 手に持つ心臓はすでに鼓動が止まっている。


「スープ役は岬川一くん」


 顔を上に向け、持った心臓を顔の前まで持ってきて握りつぶす。

 開けた口へと肉片と血が流れ落ちてきた。

 食生活に問題があるのか、彼の血はドロドロとしていて美味しくはない。味もまた魔力量が少ないため薄い。

 得る力はSTRと少々の魔力。勇者の癖に不味い。蓮田よりも不味いってどんな生活を送ってきたのやら。これだと他の部位も筋張ったりで不味そうだな。

 左手で背嚢から出したハンカチで右手の血を拭きながら新見たちの方に視線を向ける。

 彼らは衝撃的な光景に身体を震わせていた。


「た、食べ……た……?」


 カタカタと手に持った細剣を鳴らしながら、今見た光景に顔を青くしている新見。


「さて、ポアソン役は誰だ?」


 俺の問いに震えながらも立ち上がったのは千川。彼女は俺に杖を向けてきた。


「すまないが、千川はデザートで決まってるんだわ」


 魔法使い。しかも魔力量が多く、光属性の使い手。

 美味いに決まってる。


「よくも……よくも岬川君を……健吾君をッ!!!」


 向けられた杖の先から光線が放たれる。

 右手を前にかざして光線を遮る。手のひらで分散される光線。

 チリチリと痛む手のひら。他の魔法では痛みもないんだが、やはり悪魔の力を持つ俺には光属性が弱点なのかもしれないな。

 空いている左手の指を鳴らす。指パッチンをキーにして発動したのは地属性魔法。

 ちょうど千川の持つ杖の真下。その地面から土の柱が伸びて杖を弾き飛ばす。

 手から離れた杖は光線が止まったが、光線が止まるのと同時に放たれていた水球が俺の眼前へと迫っていた。

 それを左手を狼に変えて食って防ぐ。


「はああああああッ!!」


 意識がそれた所に新見の鋭い突きが俺の喉を狙ってきた。

 少し膝を追り、突きの位置が口に向かうようにして細剣が口内に入ってきたところで噛み砕く。

 勢いがあるため刀身が進んでくるため、棒菓子を食うようにバキバキと食い進んだため細剣の刀身は消失してしまった。

 鉄とは違う不思議な味。だが、魔力を流していたのか美味い。

 ボリボリと咀嚼して飲み込む。


「ッ!? ミスリルのレイピアですよっ!?」


 ミスリル。ミスリルか。

 そう言われてもよくわからんけど。

 なんだっけか。鋼よりも硬く軽い金属で、魔力との親和性が高いんだけっけか?

 道理で美味いわけだ。


「ちょっとしたおやつに丁度よかったぜ?」


 ソルベとポアソンが逆になっちまったが、まあいいか。


「ポアソン役は岬川君で決定」

「ま、待っ――」

「いただきまぁす」


 瞬間的に足を強化して後退しようとする新見へ狼の左手を伸ばして頭を咥え込む。

 少し上向きに角度を変えて、咀嚼しながら口の中へと飲む込んでいく。

 足の先まで口の中に入ったところでもぐもぐと口を動かし、ごくんと胃に流し込んだ。

 いつも思ってるけど、口から食ってどう胃に行くのだろう。

 まあいいか。


「さぁてさてぇ。アントレ役は久留田さんだね」


 残りの二人は魔法使い。

 つまるところ魔力が多いわけだ。

 美味しそうな物が二つもあったらニコニコしてしまう。

 殺したい欲に食欲。その二つが叶うのだ。

 ニコニコしないわけがない。


「来ないでッ! ”アクアショット・ボム”!!」


 ゆっくりと近づく俺に水球を飛ばす久留田。

 さっきと同じように狼の口で食う。

 口内に入り咀嚼しようと水球を噛んだ瞬間弾けた。


「いッてぇ!」


 爆発の威力は狼の頭を吹き飛ばすほど。

 血が飛び散り、自分の血で服が濡れてしまった。

 左手――否、左腕が吹き飛んだのだ。めちゃくちゃ痛い。


「あーあ。中途半端に左腕が残っちまった」


 二の腕の半分くらいの位置から下がない。

 どうせなら肩まで吹き飛ばしてほしかった。


「まあいいや。自分で落とすよ」

「え……?」


 右手を剣に変えて肩を斬り落とす。


「いてててて……」


 血がダラダラと垂れる。


「いてぇ……。だがま、これで綺麗に治せる」


 綺麗な切り口がぐちゅぐちゅと蠢くと、肉が盛り上がって腕を生成されていく。


「ふぅ」


 腕が完全に再生したのを確認しながら一息つく。


「う、”ウォーターレイ”ッ!!」


 水のレーザー?

 いや、どっちかって言うとウォータージェットやウォーターカッターの方がぴったりな気がする。


「おっと。殺す気かよ」


 直線の攻撃なため横にズレるだけで避けることが出来た。

 水のレーザーは建物に直撃。

 久留田が魔法を止めると建物には穴が空き、どこまで射程があるかはわからないが貫通していることだろう。


「全部、全部君のせい! 君がいなければ! 君があの時ッ!!」


 涙を流しながら俺を睨み魔法を連射する久留田。

 激情に駆られ、周りのことなんかどうでもいい。そんな感情が彼女から感じ取れた。

 俺を殺す。そのためだけの魔法。


「そう! あんたがあの時おとなしく死んでてくれれば!」


 久留田の言葉に便乗して千川も魔法を放つ。


「おとなしく死んでれば? おとなしく死んでればなんだってんだ?」

「あんたが大人しく生贄になってれば、私たちはこんなに苦労しなくてすんだのにッ!!」


 自分勝手だこと。


「苦労だぁあ?」

「ええ! 神器さえあれば今頃魔族に攻められず、みんなバラバラになることもなかったのにッ!!」


 あれからどれほどの時間が経ったかは知らないが、話からするに俺が領域に飛ばされた後魔族が王都に攻め入ったのだろうか?

 では、バラバラにならなくてすんだのに。とは?

 神器なしでの力不足を痛感してそれぞれ修行か何かにでも出たか?

 それとも、居場所が割れたからバラバラに移動させられたか?

 あとはあれか。逃げたか。居場所がバレている以上王都は危険だしな。


「それが俺のせい? 優秀な力を手にして舞い上がって俺を貶しといて? 今度は死んでないからって俺のせいにするのか? 人を馬鹿にするのもたいがいにしろよ。こちとら死にたくなくて、死に物狂いで生き抜いたってーのに」

「あんたのことなんか知らないわよッ!! 神器がなければ勇者は真の力を出せないのよッ!! あの時、魔族が攻めてきた時に神器があれば街の人を守れたのにッ!! だから全部あんたのせいッ!! あんたが死ななかったせいよッ!! なのに今度は愛花たちを殺して私たちも殺す!? ふざけんじゃないわよッ!!」


 なんかもう、言い返すのも億劫になってきた。

 数多の魔法を受けた建物は、俺の背後でガラガラと崩れ去る。


「腐ってんな。いい匂いを漂わせながらもその身は腐ってやがる。食ったら腹を壊すような。そんな腐り方」


 パスッパスッとトゲを飛ばして千川の肩を射抜く。

 関節を射抜いたことで腕を上げられなくなった千川からの魔法は途切れた。

 それを確認した俺は未だに魔力が尽きる気配のない久留田の方へと近づいていく。

 放たれる魔法を躱したり食ったり。

 魔法も食えるとわかりおやつ感覚で食っていく。

 魔力の塊である魔法が不味いわけもなく、ほんとにおやつだ。

 彼女の前まで行くころには魔法は飛んでこなくなった。距離的に自分にも被害が出てしまうからだろう。

 久留田は魔法を放つ代わりにダガーナイフをこちらに向けて睨んでいる。

 一歩足を前に出すと彼女は身体に魔力を集中させた。

 身体強化だろうか?

 さらに一歩。


「やああああああッ!!!」


 彼女は咆哮し、俺を仕留めるために首筋へと切りかかる。

 俺は硬化もせずにその攻撃を受けた。

 切り裂かれた首筋。動脈まで達した切り口からは血が噴き出し、とめどなく血が流れる。

 痛みで顔が歪むが、犬に身体をむさぼられた時の痛みに比べれば苦でもない。


「倒れてッ! 死んでッ! 私たちの前から消えてッ!」


 倒れない俺に何度も何度もダガーを刺す久留田。

 刺される痛み。流れる血。

 飛び散る血は久留田を汚していく。

 何十度目かの刺し込みの時に、刺された箇所に力を入れる。それだけでダガーナイフは抜けなくなってしまう。さんざん食らって溜まったSTR様様だ。


「なんでッ!? なんで抜けないのッ!?」


 力を込めて抜こうとするも、ダガーナイフはびくともしない。


「もう、俺は無能じゃねぇのさ」


 そう言って右手をドラゴンに変えて久留田の左脇から体の中心まで咥え込む。


「や、やめ――」

「いただきまぁす」


 グシャッ。

 心臓ごと肉を噛みちぎる。


「いやあああああああああああッ!!いだいいだいいだいだいっ……!?!?」


 なくなった部分を触ろうとして空を切る久留田の手。

 もがき苦しむ彼女を見下ろしていると、痛みで暴れていたのが嘘のように静まり返る。

 死んだようだ。

 そんな彼女から視線を外して千川を見る。


「なんだ。逃げなかったのか?」

「……逃げてもどうせ追ってくるんでしょッ!」

「そりゃな。俺はお前らを殺すためだけに今を生きてるからな」

「……そう」


 呟き俯く千川。

 抵抗をやめたのかと思ったが、彼女の身に宿る膨大な魔力が身体の中心へと集まるのを感じた。


「まさかテメェッ!」

「あんたなんかに食われるつもりはないわよッ!!」

「待っ――」


 急いで千川の胸部に手を伸ばすも遅かった。

 俺は全身を硬化して千川の攻撃から身を守る。

 眩い閃光に視界が覆われ、破裂音と共に肉片が飛び散り俺にかかる。

 目が慣れると、千川が居た位置には血だまりがあるだけで、その周辺には肉片が散らばっていた。


「ッ!! クソがあああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


 千川の自爆で建物の一部も壊れたのか、俺の咆哮とともに崩れていく。

 甘かった。

 すぐに殺せばよかった。

 自爆する可能性を視野に入れなかった。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


 悪態が止まらない。

 死んだことには変わりはない。が、復讐として俺の手で殺したかった。


「……」


 一度深呼吸をして、気を落ち着かせる。

 そうだ。千川が死んだことには変わりはない。仲の良かった奴らを目の前で殺したんだ。苦しませることは出来た。復讐は出来た。

 そう、言い聞かせる。そう言い聞かせないと落ち着けないからだ。

 しばらくしてようやく落ち着く。

 落ち着いたら今度は食えなかったことに絶望する。

 肉片が散らばっているとはいえ、出来れば塊で食いたかったものだ。


「……あった」


 周辺を見渡して出来るだけ大きい肉片を探して見つけたのは、がれきの方に転がる左腕。

 肘から先しかないが、千切れ方からして千川のものだろう。

 俺は拾い上げて口に運ぶ。


「………」


 美味い。やはり光属性の魔力は最高だ。

 俺の人間だった部分を満たしてくれているような感じがする。

 これしか食えないのが非常に残念ではあるが、食えないよりはいいだろう。


「……ちっ。久留田も粉々じゃねぇか」


 近くで倒れていた久留田は、千川の魔力爆発に巻き込まれ粉々になっていた。

 ちょっと前まで上がっていたテンションはだだ下がり。

 あまりの騒ぎに炎の外側からは人々のざわめきが聞こえている。

 食うものは食ったのだ。捕まる前に退散しよう。

 宿屋の向かいの崩れた建物の横を通り、少し離れたところまで行って炎を消す。

 破れ、ボロボロになった服も体を変形させることで補う。

 刺されてしまった箇所は食ったことですでに再生している。

 宿屋の方から悲鳴が響いてくるの聞きながら俺は路地の闇の中を歩み進んだ。捕まってもバレてもめんどくさい。出来るだけ遠くへ離れなければな。


お読みいただきありがとうございます!

デザートの心臓食い損ねましたね。


もし、面白いと思ったら評価していただけるとありがたいです!

感想やレビューもお待ちしておりますよ♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ