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十四話

 屋根の上で一夜を過ごして翌日。

 胸糞の悪さで機嫌はそこまでよくないが、屋根から宿の入り口の方を見下ろすと人だかりが出来ていた。

 よく見ると、兵士が入り口で死んでる兵士をタンカーに乗せて屯所の方に運ぼうとしているところのようだ。

 タンカーを持った兵士と入れ替わるように別の兵士が宿へと入って行く。おそらく霧崎たちの状況確認だろう。


「さて、と」


 俺は見るのをやめて屋根を伝って宿から離れた家まで行って路地裏へと降りる。

 降りたあとギルドへと向かう。朝飯と盗み聞きするためだ。


「んじゃオレはいつも通り」

「食いすぎんなよ」

「クハハ!」


 うわ、こいつ笑って誤魔化しやがった。


「はあ……」


 建物の影に吸い込まれるように消えていったベルゼを見送ったあと、ギルドの中に入り料理を注文し席につく。

 今日はドドボアとか言うデカいイノシシのステーキだ。


「おまたせしましたー!」


 受付嬢兼ウェイトレスがドドボアのステーキを運んできてくれた。

 静かに手を合わせてフォークとナイフを手に持ち、一口大に切って口に運ぶ。

 美味い。しっかりと火が通されていてオリジナルソースがいい味出してる。白飯が欲しくなるな。

 そのまま黙々と食事をしながら周りへと意識を向ける。

 ほとんどの話は霧崎たちの件。

 漆島が死んでから期間が空かずに三人の勇者が死んだのだ。そりゃその話題でいっぱいになるか。

 死体は教会で預かるらしいとのこと。

 そして殺され方が漆島と似ていることから同じ犯人、または模倣犯と言う結論になってるらしい。

 他にもイリ達の行方不明の原因も同じ人間の仕業と言う噂も出てきているみたいだ。


「うま」


 そんな噂が出てきてるってことは探偵みたいな人でもいるんじゃないかなんて思ったりもする。

 いたらいたで面白そうだな。推理を聞いてみたい。

 他に面白そうなことはないかと聞いていたが、どうやらギルド経由で王国騎士が王都を出発したという話が回ってきたらしい。


「すんませーん。コーヒーお願いしまーす」

「はーい」


 コーヒーを頼んで片付けやすいようにテーブルの端へと寄せる。


「お待たせしましたー」


 コーヒーがテーブルに置かれ、端に寄せた食器類を持って厨房の方へと戻るウェイトレスを見送り、俺はコーヒーを一口飲む。

 さて、これからどうするか。

 うちのクラスは俺含めて三十五人。

 漆島たちを殺したからあと三十人残っているが、どこにいるかわからないしな。

 まあ、おそらくだが王国騎士に数人はついてくるだろう。漆島や霧崎たちはクラス内でも人気の高い女子たちだ。そいつらが死んだのなら仲のよかった奴らは確認と保護に来るはずだ。

 つまりは待ちだな。

 十日は待つことになるが、しょうがない。

 コーヒーを飲み終わった俺はチップを置いてギルドを出る。

 さて、俺もベルゼじゃないが食後のデザートでも食べに行くか。



   ***



 霧崎たちを殺してから数日が経った。

 あれから俺とベルゼはコソコソと食事を続けていたのが、どうやら食い過ぎたらしい。

 ギルドで掲示板で依頼を見ていると、三人組のパーティーがギルドの扉を勢いよく開けて入ってきた。

 彼らはギルド内を見渡して、目当ての人物がいないことを確認するとため息をついて受付へと向かう。


「なあ、うちの魔法使いはギルドに来てないか?」


 リーダーであろう剣士の男は受付嬢にそう聞く。


「いえ、今日は見てないですね。どうかなさいました?」


 顎に手を置いて少し考えたあと、受付嬢はそう答える。


「実はな。今日グランダルのダンジョンに向かうつもりだったんだが、その魔法使いが昨日の夜から行方が分からなくなってな。今日になっても連絡がなかったから、もしかしたらと思って来てみたんだが……そうか」


 昨夜。俺は食った覚えがないからベルゼか。


「そうだったんですね。最近行方不明者が急増していて、ギルドでも重要議題に上がってきているんですよ。勇者様の件もありますし、夜間の警備は増やしてはいるんですが……」


 姿の見えないベルゼと俺を捕まえることは無理だろうな。

 看破や魔力探知でも使える魔法使いがいない限りは。


「冒険者の皆さんや民間人の皆さんには夜間の外出を控えるようにと、領主様からお達しがでていますのでよろしくお願いしますね」

「わかった。とりあえず、うちの奴の探索願を出しといてもいいか?」

「かしこまりました」


 夜間の外出を控えるようにか。

 夜食は厳しくなりそうだな。あとでベルゼにも伝えておこう。

 しばらくは人間を控えるべきか?

 いや、依頼とかで出かける冒険者を狙えば問題ないな。


「さて」


 適当に依頼をこなすとするか。

 再び掲示板に視線を向けたところでまたギルドの扉が勢いよく開かれる。

 ギルド内にいた人たちの視線がすべてそちらに向いた。もちろん俺もそっちを見た。

 扉から入ってきたのは五人組のパーティー。確かこの町でも有名なパーティーだったはずだ。ベルゼが魔法使いと狩人を狙ってるって言っていたことを思い出した。

 剣士と魔法使いに肩を持たれ支えられている大柄の戦士。その後ろには狩人だろうか? がいる。

 五人は全員がボロボロであり、支えられている戦士に至っては血だらけで応急処置はされているみたいだが、それでも危険な状態に変わりはないようだ。

 血の匂いで腹が減る。


「ドラゴンだ! ドラゴンが出た!」


 支えている剣士がギルドにいる全員に聞こえるように言った。

 すると、最初こそ状況を飲み込めずにいた冒険者たちだったが、彼らのことを認識してさらに、優秀な彼らがボロボロであることから状況を理解したのかざわざわと騒がしくなった。


「なんだ? 何があった?」


 そのざわめきに気が付いたのか、霧崎たちにゴマすりをしていた男が奥から出てきた。


「ランドルフさんたちのパーティーがドラゴンに襲われたと……!」

「なにぃ!? ドラゴンだと!? クソ、勇者や上級冒険者たちがいなくなってしまったというのに……ッ! オリー、グランダルに連絡してくれ。それから状況確認にために斥候に長けた者には協力を願いたいッ!!」

「わかりました!」

「斥候なら任せてくれ! おい! 出現した場所を教えてくれ!」


 ゴマすりしていたとはいえギルドの長と言う事か。

 彼が出てからスムーズに状況が進んでいく。

 にしてもドラゴンか。まだ食べこともないし、俺も見に行くついでに食ってみるとしよう。

 俺は気配を薄くし、いまだに騒がしいギルドから外に出る。

 出るときにランドルフが場所を言っていたのを盗み聞いといたのでそこに向かってみることにした。


「確か、北門から出た先にある山脈の麓だったな」


 ちなみに東にグランダル。西は広大な森林、平原地帯。南に行けば王都方面となる。

 そして北の山脈を越えた先には別の国があるらしい。


「ベルゼ」

「なんだ?」


 ギルドから離れて路地裏まで来たところでベルゼを呼ぶ。

 彼はすぐに影から現れた。


「北にドラゴンが出たらしいから食いに行く」

「お、そいつはいいな。すぐに行こうぜ!」


 ノリノリなベルゼ。

 北門のほうに向かった俺たちだが、住民を外に出さないように多くの兵士たちが門の前に立っていた。

 そのため、北門はあきらめて西門から出ることに。

 西門の門番から北の方にドラゴンが出たらしいからそっちには行かないようにと言われた。森林の方に歩いていき、門番から俺たちが見えなくなったところで浮遊を使い、山脈の方へと飛んでいく。

 山脈の麓を見下ろしながら探していると、岩場の所にそれは居た。

 身体を丸め眠っている赤く硬い鱗を持つ巨大な竜。


「ありゃレッドドラゴンだな」

「まんまな名前だ」

「ククク。だが、奴の炎は馬鹿に出来ねぇぞ? 岩も鉄も溶かしちまうからな」

「そいつは凄いな」


 食ったらその力も手に入れられるかな?

 しばらく眺めていると、ギルドから派遣されたであろう斥候部隊がレッドドラゴンを確認できるギリギリの所から見ているのを見つけた。

 レッドドラゴンはそいつらの気配に気が付いたのか、丸めた首を上げると斥候部隊の方を見ると一つの火球を飛ばした。

 火球はまっすぐに斥候部隊の方へと向かい直撃、ドロドロと地面を溶かし木々を燃やす。

 当たった奴らは即死だろう。運よく逃げられたのは二人。

 レッドドラゴンは逃げた二人には興味がないのか再び首を丸めた。


「すごい火力だ」

「見てるやつもいなくなったし食いに行こうぜ?」

「そうだな」


 確かに火力は凄いが、やはりと言うかなんと言うか。

 領域にいた魔物たちを見ているからか、その辺にいる外の魔物とたいして変わりはない。

 奴の真上まで移動し両足を合わせ、ランスのように鋭利な物に変形させる。

 そして浮遊を解除し、自由落下に加えて風のブーストを使って速度を上げてドラゴンめがけて落ちる。

 魔力の塊が近づいてくることに気が付いたドラゴンは瞬時に立ち上がるとその場から離脱。

 それを確認した俺は変形をすぐに解いてスーパーヒーロー着地。


「ひぃ、確かにこれは膝に悪いな……」


 四点着地だから衝撃は少ないが、膝をついたポーズなため下手すると膝割れるぞこれ。


「Gururuuu……」


 いきなり現れた俺に敵意むき出しで唸りを上げる。

 そんな奴の足を拘束する為指を鳴らす。

 詠唱とかキーワードの代わりとなる指パッチン。今回はドラゴンの四肢を拘束するための土の魔法。

 地面がうねり、ドラゴンの足へと絡みつく。

 暴れるかと思ったが、奴は自分の足元にブレスを吐きつけて拘束を溶かした。


「赤いのに冷静だな」


 いつも通り、ベルゼは手伝う気はないだろう。

 拘束が解かれた瞬間を狙って接近。

 そんな俺にまたブレスを吐こうとしてきたので地面を蹴り、その勢いを使ってサマーソルトキック。

 吐こうとして開いた口が強制的に閉じられ暴発。


「Giyaaaaaaaaaaaッ!?」


 暴発による衝撃と痛みで叫ぶドラゴン。

 大きな隙。その隙を利用して長剣に変えた手を顎下、竜の逆鱗があるとされるところから突き上げて脳天まで貫く。


「Giiiiiii……」


 甲高い断末魔を上げて倒れ伏すドラゴン。


「いや、よっわ」

「クハッ! 領域で慣れたらこんなもんだわな」


 俺の言葉にベルゼが吹き出す。


「さて心臓はーっと」


 横倒れになったドラゴンの胸を切り開く。

 まだ小さく鼓動しているドラゴンの心臓。繋がっている血管をすべて切り、取り出す。

 人間とは比べ物にならないほどデカい心臓。


「デケェ」


 素直な感想を漏らしつつ一部をはぎ取り口に入れる。


「おほっ」


 思わず笑い声が出てしまう。それだけ美味い。

 だが、やっぱり勇者の心臓の方が美味いな。そこらの魔法使いよりは濃厚な魔力だが、勇者の特殊な魔力に比べたら劣ってしまう。だが、人間や勇者とは違った魔物の力が俺の中へと満ちていく。人間や勇者の力とは違って荒々しい力。それが俺の中で暴れ回る。

 魚介類の踊り食いをしているよな気分になるが、これがまたいいのだ。

 咀嚼して飲み込む。

 おそらくこれでレッドドラゴンの力が手に入ったな。

 試しに右手に口を生成してブレスをイメージして吐いてみた。

 手の口の中、と言うよりも手首らへんが熱くなり吐き出される火球。

 最初ドラゴンが寝ていた岩はドロドロと溶けてしまう。

 威力も変わりはないな。


「クハハ! 強くなったなぁ!」


 口から肉片を飛ばしながら笑う。

 汚ぇ。


「最初に比べたら別人だなこりゃ」


 自分で言って人と言う言葉に違和感を抱きながらも、両手を今食ってるドラゴンの頭に変えて心臓をバクバクと食らう。

 人の口では一度に食える量が限られるからな。

 ベルゼと二人で満腹まで食っていると、ガサガサと後ろの森から音がした。

 振り向くと、そこには二十人くらいの冒険者たちがいた。

 彼らの眼には驚きと警戒が浮かんでおり、こちらに武器を向けている。


「おいおいおい。デザートにしちゃ不味そうな奴らがきたなぁ?」


 ベルゼは口元を拭いながら言う。


「ッ!?」


 ベルゼの姿を見た冒険者たちの方から驚きで唾を飲む音が聞こえる。


「ベルゼ。俺は逃げた奴を追うわ」

「ククク。じゃあ、ここの不味そうなデザートはオレのだな」

「おう。全部やるよ」

「クハハ!」


 愉快に笑うベルゼを背に俺は地面を蹴って跳び、空中で浮遊を使って逃げた奴らの方へと向かう。

 後ろからは人間の悲鳴が響く。派手にやってんな。

 少しとんだところで逃げた奴らを見つけた。人数は四人。

 彼らの前に落下して再びスーパーヒーロー着地。

 カッコよさがあるが、この着地のいいところはインパクトによる驚きで行動を阻害。一時的に動きを止めることが出来るところにある。

 驚きで無警戒となっている彼らのうち、前を走っていた二人の頭を両手に作ったドラゴンと狼の頭で食らう。


「まずッ!?」


 美味い物食った後だから余計に不味く感じた。


「お、お前は……!」


 混乱。

 状況について行けない残りの二人だが、俺の顔を見て震えた声を上げる。


「り、リンドウなのか……?」

「依頼達成率百パーセントの……?」


 意外と有名なんだな俺。


「なんでお前が……」

「いやなぁ。人間って美味いのよ。お前らはまずそうだけど」


 素直に答える。どうせ食うしな。

 不味いけど。


「お前、俺たちを騙してたのかよ!? 化け物が!」

「騙す? 騙すも何も俺はギルドに所属する冒険者の一人でしかないぞ?」


 趣味は食べることです。


「仲間を殺しておいてどの口が――」


 その言葉は最後まで紡がれない。

 接近した俺に下から切り上げられ真っ二つになったから。


「ひぃぃぃッ!?」


 腰を抜かすもう一人の冒険者。


「ま、ままさか、お、お前が最近起こってる事件の犯人か!?」


 震えまくってる声に思わず笑みがこぼれる。


「おお! 正解! 行方不明事件は俺とさっきいたベルゼが犯人だぜ?」


 拍手をしながら言う。


「く、狂ってる……!!」


 笑みを浮かべながら言う俺を見て震え声で言う冒険者。


「狂ってる。狂ってるかぁ! あはは!」


 間違ってないその解釈。

 俺はあの時、生贄にされたときから狂ってる。

 自覚してるさ。

 人を殺して、人を食って愉悦する。自分から見ても狂ってる。

 だが、狂ってるからどうした?

 俺を狂わせた奴らが悪い。俺は何も悪くない。

 そう、俺は何も悪くないのだ。


「怒りや恨みは俺じゃなくて、狂わせた奴らに向けてくれぇ」


 また醜い笑顔が顔を歪ます。

 顔面蒼白な冒険者に醜悪な笑顔を向け、ドラゴンの頭となっている右手を向ける。

 ブレス。

 小型の火球が冒険者に向けて飛び、あっという間に火だるまにする。

 食ったらところでたいした力にもならないし、何より不味い。

 食う気のないものは廃棄だ。

 他の三人の死体も燃やし尽くす。

 肉の焼けるいい匂い。を越えて焦げた臭いがあたりを漂う。


「……戻るかぁ」


 ドラゴンの元に戻ると、そこは血みどろ。

 血の水たまりの中央で人間の腕をもしゃもしゃと食ってるベルゼ。


「おお、帰ったか」


 俺を見つけたベルゼは人間の腕をポイっと捨てて俺に近づいてくる。


「残ったドラゴンどうするよ?」


 親指でドラゴンをさしながら聞いてくるベルゼ。


「さすがに満腹だからな。放置でいいだろ」

「ま、そうだな。オレも今日は食い過ぎたぜ」


 ベルゼが食い過ぎたって言うなんて珍しいな。

 大部分が残ったが周りにいる魔物が食いに来るだろうから処理はそっちに任せよう。


「あ、鱗と牙と爪くらいは貰ってくか」


 なにかに使えるだろうしな。

 二十枚くらい鱗を剥ぎ、爪と牙を切り取って背嚢に入れる。


「さて、帰るか」


 さすがに血みどろで帰るわけにもいかないため、途中で水魔法を使って汚れを落としてから町へと帰った。

お読みいただきありがとうございます!

面白かったら下の星で評価の程よろしくお願いします!

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