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十一話

 街へと帰る前に俺たちはダンジョンがあった場所とは正反対の位置にある草原へと来ていた。

 来た理由としては、この草原でしか現れない魔物を狩るためである。

 確かその魔物の肉の納品依頼があったはずだ。イリ達の消息不明の疑いをかけられないための偽装工作として使わせてもらおう。

 俺たちが行ったダンジョンからこの草原まではかなりの距離があるため、ダンジョン攻略からの草原の依頼は無理がある。俺とベルゼみたいな規格外でもなければ、だがな。


「いた。あのデカい牛だ」


 広い草原を歩き回ってやっと見つけた牛。

 大きさ的には通常の牛の二回り位の大きさだろうか? 相当な大きさだ。

 牛は近づく俺たちに気が付くと前片足で地面を数回蹴ると、こちらに突進してきた。


「牛ってなんでこう言う攻撃しかしてこないのか」


 速度や重量的にも当たったら普通の人間ではひとたまりもないだろうが、正直言って対処方法はいくらでもあるよな。


「ほい」


 タイミングを計って牛へとアッパー。

 姿勢を低くしているとはいえ、大きさ的に俺の頭の位置に角が来るため殴りやすかった。

 綺麗にアッパーがキマリ、ひっくりかえる牛。ただ気絶してるだけなため止めとして首の骨を捻り折る。


「あとは薬草くらい持って帰れば問題ないだろ」

「薬草なら採ってきたぞ」


 薬草の方はベルゼに頼んでおいた。俺は薬草の知識なんてないからな。


「助かる」


 ベルゼから三束くらいの薬草を受け取る。


「しかし、こいつどうしたもんかね」


 薬草をポーチにしまい、牛を見る。

 解体方法なんて知らないし、どうしたもんか。


「オレも食うことは出来ても解体は出来ねぇぞ」


 ベルゼも解体が出来ないのか。そりゃ困ったな。


「普通に持ってくか」


 担いで持ってくのはさすがにしんどいため、引きずっていくことにした。

 この牛の皮は硬いため、皮には傷は付くだろうが肉は大丈夫だろう。



    ***



 牛をずるずると引きずり、ダンジョンに行くときに出た門までやってきた。

 門番は俺の引きずる牛を遠目に見て警戒していたが、俺が朝出て行った冒険者だとわかると警戒から苦笑いへと変わった。


「解体しなかったんだな」

「解体の方法を知らなかったので……」


 苦笑いに対して、俺も苦笑いで返す。


「なるほど。でもさすがに街にこのまま持ってくのは厳しいな」

「あ、なら解体屋に使いを出すから少しここ頼む」


 もう一人の門番が気を利かして屯所に入っていく。


「すみません」

「気にするな。でも、さすがにグランドカウを引きずってくるのはこれっきりにしてくれ」


 こいつグランドカウって言うのか。


「以後気を付けます」


 まあ、今回は理由が理由だからな。次からは全部食うから必要素材だけになるだろ。


「そう言えばイリの嬢ちゃんたちは? 一緒に出て行っただろう?」


 やっぱりその話になるよなぁ。


「彼女たちはCランク推奨のダンジョンに向かったみたいです。俺は草原の方に行く予定だったので、途中で別れたんですよ」

「なるほどなぁ。強いって言っても女の子三人だけで古城攻略は少し心配だな」

「ええ。今更ながらついて行くべきだったなと……」

「後悔してもしょうがねぇよ。無事に帰ることを祈るだけさ」

「ですね」


 もう二度と帰ってこないけどな。

 そんな俺と門番の会話を聞いてベルゼが「クハハ」と笑う。


「白々しいな」


 俺もそう思う。


「使いを頼んできた。もうじき来るだろうし、君は先に入ってていいぞ。料金はギルド経由で請求させてもらうが、それで大丈夫か?」


 屯所に行っていた門番が戻ってきてはそう言う。


「うーん。この場で払えるなら払ってしまいたいところですね」

「ああ。解体屋の方に直接渡せるから問題ない」

「わかりました。これくらいあれば大丈夫ですかね」


 そう言って俺は金貨一枚を取り出す。


「待て待て! さすがに多い!」

「いえ、呼んでいただいた手間もありますし、持ってきてしまった謝罪も込めての金額です。使いに行った方にでもご飯奢ってあげてください」


 一番上澄みにあったのが金貨なだけである。


「……わかった。だが、あまりこういう事してくれるなよ?」

「ええ、気を付けます」


 おとなしく受け取ってくれてよかったよかった。

 軽く会釈して、俺たちは街の中へと入り、その足でギルドへと向かった。

 受付で牛と解体屋、薬草のことを伝えた。薬草の依頼は常時依頼だったらしく、束を渡して依頼完了となった。牛の件は明日またギルドに来てくれと言われたため、俺たちはギルドをあとにして宿屋に戻る。

 今日は宿屋で夜になるのを待つことにしよう。

 ディナーが楽しみだ。



    ***



 深夜。地球のように夜店が開くようなこともなく、外は静まり返っている。

 そんな夜道を俺とベルゼは漆島のいる宿屋へと向かっていた。


「リンドウ。巡回だ」

「了解」


 ベルゼに言われ、物陰へと隠れる。

 それから少しして俺たちが通っていた道を三人の衛兵が通り過ぎた。夜に犯罪が多発するのはどこも同じなのだろう。

 衛兵をやり過ごした俺たちは再び宿へと足を進める。

 宿まで来たところで扉のカギが閉まっていることに気が付く。


「まあ、そうだよな」


 俺はシェリーから奪った炎属性でナイフ上の炎を作り出して扉の隙間をスッと通す。


「慣れてんな」

「見たことがあるだけだ」


 開いた扉を静かに開けて中に入る。

 そのまま漆島のいる部屋へと向かった。

 入り口の扉と同じく炎のナイフでカギを壊して中へ。

 あらかじめ部屋に入ったら防音の魔法を使うようベルゼに頼んでおいたので、すでに防音処置はされているだろう。


「こんな夜中に女の子の部屋に来るなんて、こっちではそれが当たり前なの?」


 魔法の有無を確認する前に漆島が寝ているだろうベッドの方から声がかけられた。

 どうやら漆島は起きていたようだ。


「どうだろうな。俺もこっちの常識はわからないからなんとも言えん」

「ッ!? 君はッ!」


 漆島の方に近づいたところで、月明かりにより俺の姿が見えたのだろう。漆島は俺を見て驚きの声をあげた。


「やっぱり死んでなかったんだね。君が死ななかったせいで私たちは神具を手に入れられなかったんだよ?」


 神具? ああ。俺を生贄にして手に入れられるとか言う武器か。

 ざまぁねぁな。


「くくく。手に入らなかったか」

「何がおもしろいのさ?」

「いや、ざまぁないなってな。しぶとく生き残ってよかったぜ」

「そう。私はそうでもないけど、ほかの子たちは君のこと相当怒ってたよ? 死んでも使えないクズだってさ」


 何が面白いのか笑う漆島。

 死んでも使えないクズねぇ。


「あ、そういえば、いつもつるんでた霧崎とかはどうした?」

「美奈たちとは別行動中だよ。ちょっと喧嘩しちゃってね。だから気分転換にこの街で出会ったイリ達と行動してたの」

「なるほど」

「ところでイリ達は? 昨日ここに来たのってリンドウ君だよね? なぜかあの時はわからなかったけど。一緒にダンジョンに行ったんでしょ?」


 気づいていたのか。

 いや、俺がここで顔を見せたことで認識のズレが一致して気づけたのか。


「イリ? ああ、あの白魔法使い達か。殺し……いや、食ったぜ?」

「食った? イリ達を?」


 俺の言っていることが理解できないのだろう。疑問を投げかけてくる漆島。

 そりゃ食ったって言われてもわからないよな。普通人間は人間を食べないのだから。


「ああ、食った。最高だったぜ? 今まで食べた物のなかで一番美味かった」


 今思い出してもあの味は素晴らしかった。正直満腹ではあったがもっと食べていたかったし、何よりイリに限っては食べたりないまである。


「殺しったってこと?」

「そうなるな」

「なんで、なんでそんなことをッ!! 彼女たちが何をしたっていうのさ!? 私たちを殺そうとするならわからなくもないけど、彼女たちは関係ないじゃん!!」


 いきなり怒り出す漆島。情緒不安定かよ。


「全部お前らが悪いのさ。見捨てたお前らが、蔑んだお前らが全部な。そんなに大事なら会わせてやるよ。俺の胃の中でな」


 彼女へと近寄り腕を彼女へと伸ばす。

 が、届く前に肘から先の感覚がいきなりなくなった。


「あ?」


 感覚のなくなった腕を見下ろすと、そこにはベッドへと落下した肘から先があった。

 俺はすぐに後ろへと下がり、彼女の間合いから抜け出す。


「悪いけどね。これでも剣聖の弟子なんだ。彼女たちのためにも君を殺すッ!!」


 突如部屋の温度が下がったような感じがした。

 怒気のようだが、まったく質の違う何か。魔物と相対している時のような感覚だ。これが殺気というやつなのだろうか?


「その足でどうしようってんだか」

「次、間合いに入った時が君の最後だよ」

「そうかい」


 足を庇いながら居合の構えをする漆島。

 間合いだろうがなんだろうが関係ねぇ。こうして話してるだけでも隠した怒りが表に出てきそうなんだ。


「俺はな。お前らがのうのうと生きてるのが気に食わねぇんだよ」

「ッ!!」


 間合いに入った瞬間横に一閃。

 脇腹から鉄の味がする。なんとも不思議な感覚だ。


「な……ッ!? なんで切れてないの!?」


 さっきまでの殺気はどこへやら。


「鉄分補給させてくれるたぁ気前がいいな」


 鉄の味がまだ残っていて思わず舌なめずりしてしまう。変な味は混ざってないから特殊な剣ではないのだろう。


「え……?」


 彼女は恐る恐る握られた剣に視線を移す。

 そこには刀身のほとんどがなくなってしまった剣があった。もはや握られた柄しかない。


「なんで……? え? なんで……?」

「剣なんて初めて食ったがなかなかイケるもんだな」

「ひっ……!? 来るな!! 来るな!!」


 漆島は近づく俺に対して柄だけの剣を振り回して威嚇する。


「邪魔」


 振り回されてる腕を残った左手で弾きながら食いちぎる。


「ひぎぃッ!?」


 変態スライムのおかげで全身のどこにでも口を作れる。さっき居合を受けた時も腰に口を作って食ったのだ。今は左手に口を作って柄ごと腕を食いちぎった。


「美味い、美味いな。勇者も光の属性を持ってるのかぁ?」


 手しか食ってないが美味い。イリを食った後だから感動は薄いが、それでも美味い。しかも手だけでこれだぞ? 心臓だったらどれほどのうま味が詰まっているのだろうか?

 ああ、食うのが楽しみだ。いや、食ってしまおう。


「ぁ……あ……ぁぁ……」


 腕からは絶えず血が流れ続けベッドを汚す。

 だが、痛みよりも死への恐怖が勝ってしまったのか、腕を押さえながら俺から離れようと後ろへ下がっていく。だが、すぐに壁に背が付いてしまった。


「生贄にした相手に殺されるのはどんな気分だ? あざ笑っていた相手に報復される気分は? なあ? 教えてくれよ漆島ぁ?」

「……だ……い……だ……」


 ぶつくさと呟く漆島。

 恐怖でイカれたのだろうか?


「いやだ……嫌だ嫌だ嫌だ!! 殺されてたまるもんかッ!」


 どうやら逃げるつもりらしい。彼女は素早く反転すると窓を開け放つ。


「おっと」


 さすがに外に逃げられると困るのですぐに左手を背中に突き刺す。


「ぅぁ……?」


 彼女は身体を貫通した何かに疑問符を浮かべ、自分の胸元に視線を落とす。

 俺からよく見えないが、彼女には俺の左手に握られたまだ鼓動している心臓が見えていることだろう。


「ぇ……?」


 漆島の背に足を乗せて引き抜くと、ぐちゅぐちゅと耳に残る気味の悪い音が立つ。


「手負いだからあっさりといったな」


 少しずつ鼓動が弱くなる心臓を大口を開けて一気に半分食う。


「ッッッ!?」


 咀嚼して雷に打たれたような衝撃を受ける。凝縮されたうま味。血液にすらほのかに甘く。なんとも形容しがたい美味さ。

 咀嚼するたびに広がる濃厚な魔力が口の中で弾ける。

 満たされるなんてもんじゃない。むしろ溢れ出てしまう。


「ベルゼ!!」


 俺はベルゼに残りの心臓を放り投げる。

 すると、彼も大口を開けて心臓を口でキャッチした。


「クハッ! うめぇな!」


 咀嚼し、感想を溢すベルゼ。

 その口元が大きく弧を描いている。


「勇者だから光かと思ったが無か。んー! さすが魔力が濃いぜ」


 漆島でこれなら初期ステータスにSがある奴らはどれほど美味いのだろう?


「楽しみだ」




お読みいただきありがとうございます。

まず一匹ですね。

面白かったら評価の程よろしくお願いします!

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