九話
翌日。イリ達の宿で朝食を食べながら待つ。
「待たせたわね」
ちょうど食べ終わった所でイリ達がやってくる。
「ちょうど食べ終わった所だ。」
そう言って俺はチップを置いて立ち上がる。
「ダンジョンについては向かいながら聞こうと思うけどいいか?」
「ええ、構わないわ。行きましょ」
宿を出た俺たちは大通りを門のほうに向かって歩く。
「まずは今日行くダンジョンについて教えるわね」
「おばちゃんリンゴ一個。ありがとー。それで?」
途中でリンゴを一つ買い、齧る。
「き、今日行くダンジョンはCランク推奨のダンジョンで、アイカの足を治すのに必要な薬の材料がそこで手に入るのよ」
「なるほどなぁ。あ、おっちゃん串焼き一本。ありがとー。んで? その材料はどんな物なんだ?」
買った串焼きを頬張りる。む、牛だ。
「ヒカゲ草とハリツケ貝の粘液、あとダンジョンボスのデビルシャークの目玉です」
材料はリーナが答えてくれた。
ダンジョンボスってことは完全攻略が最終目的になるのだろう。
「おっちゃんミニワームの丸焼き一本。あざーす。攻略が目的になりそうだが、アイカさんはどんな怪我なんだ?」
ミニとは名ばかりのでっかい幼虫を丸焼きにした串焼き。んまー。
「ひぃ……!?」
シェリーは俺がミニワームの丸焼きを躊躇なく食べる姿を見て涙目だ。
こんなに美味いのにな。好き嫌いはよくないと思います。
「足に呪い付きの攻撃を受けちゃってね。呪解薬は買うと高いから材料集めて作って貰うのよ」
ほう。呪いとな?
昨日挨拶しに行ったときベッドから立ち上がらなかったのは足が使えないからなのだろう。なんと都合のいいことだろうか。
「なるほどねぇ。さすが迷宮都市だ。いろんなダンジョンがあるんだな」
未だに呪いや魔術の類は目にしてない。
今度そのダンジョンに行ってみようかな。
「その呪いにかかったダンジョンってどこにあるんだ?」
「真ん中の塔だよ! あれあれ!」
と、シェリーが指を指す方向に視線を向ける。
そこにあったのは迷宮都市の中心に位置する場所にある一際高い塔。気にはなっていたが、あの塔もダンジョンだったんだな。
機会があれば行ってみよう。
「行く時があったら気を付けるわ」
「その時は誘ってくれたら一緒に行くよ!」
「それはありがたい」
道中に色々聞き、出店で買った食べ物を食べながら街から出た。
「あなた、よく食べるわね」
街道に出た後も食べ続ける俺にイリが苦笑いを浮かべながら話しかけてくる。
「体質でよく腹が減るんだ。行儀悪くて申し訳ない」
ベルゼと契約してからと言うものの、常に腹が減るようになった。
暴食の力の影響だろう。食っても食っても満たされない食欲。そのせいで出費がかさむかさむ。
「それだけ食べてるのにその体型なんて羨ましいわ」
「食べても太らんからな」
「……それ言うと女子に嫌われるわよ?」
「気を付けるわ」
嫌われようがどうでもいいさ。
そこからもたわいのない会話をしながら目的地へと向かった。
イリが先導し、たどり着いたのは大きな湖。湖の中央には島があり、そこには古めかしい城が建っていた。いつの時代から存在していたのか、外壁はボロボロで蔦がのぼり、亀裂から草花が生えている。まるで自然の一部のようにその城は建っている。
「サメがボスなのに城なのか」
目的の材料のうち二つが水生生物の物なのに、目的地についてみれば城なのだ。当然の疑問だろう。
「あのダンジョンは特殊なもので、一階から上と、地下一階から下で別のダンジョンになっているんです」
そんな俺の問いに答えてくれたのはリーナ。
なるほど、面白い作りだな。一つの建造物で二つのダンジョンか。
「今回行くのは地下って認識でいいか?」
「ええ、その認識で大丈夫です。地下のほうは十階層で構築されていますね」
なかなか広いようだ。
続いてどう島に向かうのか聞こうとしたところで、湖に異変が起きた。
地が揺れ、湖面から水しぶきがあがり始める。そして、水を押しのけて石畳の道がせりあがってくる。
元の世界では漫画や映画でしか見たことのないその光景に思わず呆けてしまう。しかもこれがSFのように機械的な物ではなく、魔法的な物なのだからわくわくしてしまう。
「おお、おお、懐かしい。リンドウ! ここはかつて怠惰のベルフェが住んでいた城だぜ? 自分が動きたくないから周りの物を動くようにしたんだとよ。アイツ魔法を使うのだけはめちゃくちゃ上手いんだぜ?」
と、静かについてきたベルゼが言う。
怠惰の悪魔ベルフェ。ベルゼの仲間である七つの大罪の一人か。こう言うカラクリがあるってことは、城内はさぞ罠だらけなんだろうな。怠惰なら自分で敵を排除なんてしないだろうし。
「おーい! リンド行くよー!」
呆けたままの俺に、先に進んでいたイリが声をかける。
「ああ」
短く返事をし、先を歩く彼女らについていく。
城まで来て、正面の大きな両扉から中に入るのかと思っていたら、彼女たちは扉を無視して湖のほうに向かって歩いていく。
不思議に思いながらも、俺は入り口を知らないため静かについていく。
ほとりまで行くのかと思ったが少し進んだところに洞窟があり、ここが地下ダンジョンへの入り口になっているようだ。
「ここが入り口よ。ここからは危険だから前衛をリンドに任せて、私、リーナ、シェリーで編成で進むわよ」
入る前に配置決め。ファンタジーらしくてとても好みだ。
「ヒカゲ草は三階層に群生地があるので、まずはそこへ向かいましょう。地図は私が持っているので指示します」
と、リーナ。
地図作成されているのはとてもありがたい。十階層もあるとなると、少し迷うだけでも時間がかかる。魔物と戦うことにはなるだろうが、地図があるのと無いのでは攻略時間に差が出るしな。
「さ、攻略開始よ!」
「「おーっ!」」
元気なこって。
そんなこんなで攻略スタートである。
リーナの地図のおかげですんなりと三階層までやってこれた。ダンジョンと言うこともあり、道すがら現れる魔物たちを軽く捻り潰していたが、やはりパーティーでの攻略は楽だ。複数体の魔物から襲撃された際に後衛からの援護があると対処が少ない。普段の俺であればまったくもって問題はないのだが、彼女らの手前本来の力を使っての戦闘は出来ず、手が足りなくなる時がちらほらあった。
しかも、今回は前衛として剣で戦っている。
普段はメタモルフォシスライム(通称変態スライム)の力で身体を変形させて戦っているため、剣では戦いにくくて仕方がない。
「剣の使い方習っといてよかっただろ?」
「ククク」と笑いながら言うベルゼ。
正直使う機会はないだろうとは思っていたが、少しは役にたったので素直に感謝しておこう。
「凄いわね! アイカまでとは行かないけど、リンドもすごく強い!」
楽しそうに褒めてくるイリ。
「……アイカさんはそんなに強いのか」
「だって、彼女はゆう――」
「イリ!」
イリはおそらく勇者と言いそうになったのだろう。あまり公に出していい内容ではないためリーナに止められるイリは「あっ…」と言うのをやめる。
「ううん。何でもない! でも剣は一流なの! 迷宮都市でもあれほどの剣士はいないと思うわよ!」
「……そんなにか。戦ってるところを見てみたかったな」
勇者どもがどれくらい強いのか純粋に気になる。
俺が生贄にされてからも訓練はしているだろうし、神器とやらも手にしているはずだ。今の俺に殺せるのか。それだけが気になる。
抵抗されるのは目に見えてるしな。どれだけの戦闘力があるか把握しておきたいところだ。
「回復したら一緒に塔へ挑も!」
シェリーが元気よくいう。
「その時はよろしくな」
「うん!」
「ククク」
楽しそうに会話する俺たちを見て笑うベルゼ。
「これから食うのによく言うぜ」
怪しまれないために必要なことだ。
今更人間に何も思うことない。
「ヒカゲ草の群生地はどっちだ?」
「下の階層に向かう道中にありますので、このまま進めば問題ないです」
「わかった」
俺は頷き、魔物の急襲に警戒しつつ歩みを進める。
三階層は上二階層に比べて魔物の急襲などは起こることもなく、比較的安全に進むことが出来た。現在、ヒカゲ草の群生地にたどり着いた俺たちはヒカゲ草を摘んでいる。いや、正確には彼女たちがだ。
俺は近場の岩に腰を掛けて草を摘む彼女たちを眺めている。
必要分よりも多く摘んでいるのは何かしらの依頼も受けているんだろう。
ふと、横を見ると壁に張り付いたデカい貝が目に入る。
こいつは……。
「よし!」
デカい貝を壁から引っぺがしたところで、イリが手についた泥を払いながら立ち上がった。
「リンド! 摘み終わったから進むわよ!」
「ああ。ところでこれなんだが……」
摘み終わった彼女たちの所へ行き貝を見せる。
「ハリツキ貝だぁ!」
シェリーが驚き声をあげる。
思った通り、こいつがハリツケ貝のようだ。
「三階層でも取れたんだね!」
この言い方からするに、三階層にはいない貝なのだろう。
「たまに取れるそうですよ。もともと見つけにくい貝ですし、手間が省けましたね」
「でも、見つけたのはリンドでしょ?」
「……そうですね」
そう言うと、彼女たち三人は俺を見る。
「やるよ。必要ないし」
金なら食事の途中で手に入るし、薬とかも俺には必要ないものだしな。
「「やったー! ありがとうリンド!」」
「ありがとうございます」
お礼を言う三人。
「ああ。あとはボスを倒すだけだな。とっとと行こうぜ? アイカさんのためにもな」
「ええ!」
もう少しだけ耐えてくれベルゼ。
ご馳走を前にして待てをくらう犬のようにチラチラとこちらを見るベルゼに念じとく。
今すぐここで食ってしまってもいいがな。
どうせならもう少しこの状況を楽しもうじゃないか。
三階層で貝を見つけてからどれくらい時間が経っただろうか。
俺たちは順調に攻略を進め、今は最下層への階段のあるフロアまで来ていた。
じゃあ、なぜ最下層に進まないのか。その答えは今目の前にある。
「おいおいおい! ハーレムパーティたぁいいご身分だなぁ?」
俺たちの前、最下層への階段を塞ぐように三人の冒険者たちがいる。
喧嘩を売るような言葉。彼らは男三人のパーティなようで、俺が今置かれてる状況を羨ましがっているようだ。
そんな喧嘩っぱやっかったらそりゃ女性冒険者なんて入らないだろうさ。
「あんだと!?」
おっと、心の声が漏れてしまったようだ。
「俺たちはボスに用があるんだ。どいてくれ」
「そうよ! 邪魔しないでちょうだい!」
とっとと攻略して食事にしたいのに。
「うるせぇ! ここを通りきゃ俺たちを――」
リーダーらしき男がそこまで言ったところで距離を詰めて、フックで顎を穿つ。
それと同時にリーナが右にいた男の両足を狙って矢を射った。
残りの一人はいきなりの状況の変化に戸惑い判断が遅れ、俺が近づき終わる前に戦闘を態勢を整えることが出来ずにいた。
そんな男鳩尾を殴り昏倒させる。
「ロープはあるか?」
「ありますよ」
俺の問いにリーナがポーチからロープを取り出して渡してきた。
「追ってこられてもめんどくさいからな」
男たちをロープで縛り上げ、フロアの隅っこの方へ投げておく。
「てめぇ! 俺たちにこんなことしてただじゃ置かないからな!?」
足に矢を貰った男が喚いているが、ただの騒音でしかない。
「凄いね二人とも! あっという間だった!」
「私が援護する必要はなかったみたいですね」
と、シェリーとリーナ。
「いや、正直助かった。真ん中のに近づいたときに右のは反応してたからな」
「そう言って頂けるとありがたいです」
ニコリと笑うリーナ。エルフであり、美形な彼女の微笑は絵になるな。
「……私、今日何もしてない」
としょぼくれているシェリー。
「ヒーラーはあまり戦闘に関与しませんからね。今回は仕方がないです」
怪我なんてするようなダンジョンじゃなかったしな。
「次がボスなんだ。そこで活躍すればいいだろ?」
「……そうね。怪我してもすぐに治してあげるわ! バフも任せなさい!」
俺の言葉に元気を取り戻すシェリー。
「ボス戦気張って行くわよ!」
「「おー!」」
気合を入れた彼女たちと共に最下層へと降りる。
さて、デビルシャークと言うのはどんな魔物なんだろうな。
楽しみで仕方がない。
お読みいただきありがとうございます。
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そして次回は食事会です。おたのしみに!




