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20.株式会社ベゴニア

『20××年×月×日


 お客様各位


 初秋の侯、お客様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。


 弊社は創業以来、皆様にご厚情を頂きまして、今日まで営業を続けて参りましたが、諸般の事情により来る×月×日を持ちまして会社を解散する運びとなりました。

 皆様の長年にわたるご厚情に心から感謝申し上げますと共に、突然の解散でご迷惑をおかけしますことを深くお詫び申し上げる次第でございます。


 尚、現在発売中のゲームのサポートにおかれましても、×月×日以降のお問い合わせに関してはお返事を致しかねますのでご容赦くださいますようお願い申し上げます。


 皆様の今後のご健勝とご発展を心よりお祈り申し上げます。


 株式会社ベゴニア』








「うわ、まじか・・・。」


 椿はリビングでゲーム機片手に難しい顔をしている姉の桃を発見した。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「いや、この乙女ゲームさ、不具合あったみたいなんだけどファンがそれに気付いた時にはもうあの会社が倒産してて直してもらえないみたいなんだよね。」


 なんとそれは困った事態だと妹は思う。

 桃は乙女ゲーム専門で、椿はRPG専門で魔法の世界やホラーなど恋愛ゲーム以外に熱中している。


「どんな不具合?」

「ファンディスクなんだけど、これまたネイサン先生のルートは攻略制限かかってて全員を攻略してからでないと個別ルートが開けないキャラなんだよね。」

「う、うん。」

「で、そりゃねっとり溺愛系のネイサン先生のルートなんて見るしかないじゃん?他のキャラがどれだけ興味なくてもネイサン先生の為なら他キャラのルートなんてすっ飛ばしてでも頑張ってみようとするなんて当たり前じゃん?」

「いや、知らな」

「でね、そりゃもうネイサン先生のルートはとてつもなく素晴らしかったの!もうなにあのジリジリと追い詰めていってヒロインが気付いた時には既に包囲網は張ってあるから逃げる場所なんてないけど逃げてみなよ所詮俺の目の前から身動き1つ取れないから的な攻め方!!最高!!」

「・・・・・・・・。」


 1度話し出すと止まらない。

 それは椿にも言えることであり、熱い思いはいくら話しても話し足りなくなってしまうものだ。

 それはよくわかるのだが、ジャンルが違うので全く興味がない。ネイサン先生とやらのスチルを思い出しているのか、桃は何かを我慢するように眉を寄せてぎゅっと目を瞑りながら胸に手を当てて唸っている。


 早く本題に入ってほしい。


「あ!でね!私がハマったのは最近だったから、当時からやってた友達に聞いたんだよね。ネイサン先生のルートを解放すると、ノア王子のルートにブロックがかかるんだって。」

「見れないってこと?」

「そう。ノアの個別ルートが全然開けなくなる。」

「それは駄目だわ。」


 それは完全な不具合ではないか。

 ノア王子推しのファンからすれば悔やむこと間違いなしだ。


「でもお姉ちゃんはネイサン先生がいわゆる推しなんでしょ?」

「うん。だからちょっと確認してみただけ。私はね、このゲームに関してはネイサン先生一筋だから他キャラなんてどうでもいいの。まあ、一作目は一応全キャラ見たけどね。」

「お姉ちゃん、たまに大きめのうめき声上げるよねぇ。この前、窓開けてたでしょ?隣の部屋の人が何か変な体操でもしてるんですかって聞いてきたんだけど。」

「致し方ない。だってそれだけキャラが素敵なんだよ!でも、このゲームに関してはネイサン先生だけしか興味ない。しかもノアなんて自信つけさせとけば勝手に好感度上がっていってチョロかったからつまんなかった。単純過ぎ。いくら乙女ゲームとはいえ、兄弟の確執描こうとしてんならもっと本格的に描いてほしかった。」

「なるほどー。」


 テキトーに返事をしたのがわかったのか、桃は椿をじっと見つめた。


「てか、ネイサン先生のルートのシナリオ作ったのあんたが一番最初にやってたRPGのシナリオ作った人だからね。」


 それまであまり興味なさそうに椿がかっと目を見開いて立ち上がった。


「なんだって!?」


 つまりは、株式会社ベゴニアの1番の良作『プリンセスデストロイ~アンジェリカ王女の呪い~』のシナリオライターか!


 気にはなったものの、やはり乙女ゲームに興味を持てなかった椿は手を付けることはなかった。


 1ヶ月後に車との交通事故で死んでしまうなんて、知るはずもなく。
















Webで調べて確認してはいるのですが、もし同じ名前のゲーム名があった場合は申し訳ないのですがお知らせください。


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