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1.お茶会

 



 クリスティーナがそれに気付いたのは、一息つこうと紅茶が入ったカップを持った時だった。


「・・・っ・・!!」


 少しだけ浮いていたカップが行儀悪くも鋭い音を立てて落ちる。幸いにも中身が溢れることはなかったが、幼い頃から教育を受けた淑女であるならば、それはしてはならない行為だ。

 けれども、そんなことよりも、今頭を占めているのは全く別のことだった。


「クリスティーナ?どうしたの?」

「・・・いえ、なんでも、ありません。」


 恒例となっている王妃とのお茶会において、侯爵令嬢であるクリスティーナの失態は初めてだった。


 まだ小さな頃であれば数回はあったかもしれないが、クリスティーナはすでに14歳である。王妃とのお茶会も7歳の頃からなので7年もの間にこのような失態をしたことはなかった。


「申し訳ございません。考え事をしていて・・・思わず、大変失礼いたしました。」

「いえ、いいのよ。気にすることないわ。私たち3人だけのお茶会だもの。ねえ、リジー?」

「ええ、気にすることありませんよ。公の場ではありませんし、次は気を付けていればいいだけですから、大丈夫ですか?」

「・・・ええ、大丈夫、です。」


 王妃とエリザベスは顔を見合わせる。


 クリスティーナの顔色がこれまで見たことないほどに色を失っていたからだ。カップを持つことを止めた右手を左手が握りしめていても震えているのが見て取れる。

 いつも自信たっぷりに前を見据えるその目は、不安と怯えを隠すことなくさまよっている。


「考え事をしていてぼーっとすることは誰にでもあることなのだから、そんなに気にしなくていいのよ?」


 こんな些末なことで、あのクリスティーナがここまで動揺するだろうかと王妃は考える。


 薄紅に染まっているはずの唇は最早色がない。


「誠に、申し訳ございません。その・・・、本日はこれで失礼させていただいてよろしいですか?その、気分が・・・悪くて・・・。」


 3人だけとはいえ、王妃が招待した茶会を始まって間もなく抜けるなどとても見習うべき行動ではない。

 だが、クリスティーナの顔色はいつ倒れてもおかしくないほどに白かった。


「ええ、大丈夫よ。今日はもうゆっくりお休みなさい。」

「本当に、申し訳ございません・・・。」

「いいえ、私も貴女の不調に気付かなかったのだから申し訳ないわ。さあ、早く帰ってベッドに横になった方がいいわ。お医者様にもきちんと見てもらうのよ。」


 クリスティーナの侍女がさっと近寄ってクリスティーナを立ち上がらせる。少し下がって王妃とエリザベスに頭を下げたクリスティーナは、それでも淑女の見本となる美しい礼だった。

 そうして、クリスティーナは来た時とは違って、うつ向いてゆっくり帰っていった。


 それは、いつものクリスティーナを知っている者からしたら、信じられないことだった。


「クリスティーナ様、どうされたのでしょうね」

「そうね・・・。あまり、クリスティーナらしくなかったわねぇ。」


 クリスティーナを見送るエリザベスと王妃は、いつものクリスティーナを思い返していた。





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