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閑話 秘密の呼び名

 

 それはアンジェリカの一言から始まった。




「ねえ!愛称で呼び合いましょうよ!」


 クリスティーナとエルヴィスは顔を見合わせ、怪訝な顔をしてアンジェリカを見た。


「お断りします。」

「馬鹿なのですか。」


 アンジェリカは表情を曇らせる。

 何も2人同時に言わなくてもいいのに。


 エルヴィスは言葉は違うが、クリスティーナと同じで愛称で呼び合うのは拒否するということだ。


「私たちは、普段は顔も名前も知らない関係なのですよ?気を付けてはいても、もし愛称で呼んでいるところを聞かれたら親しい間柄なのだとすぐにわかってしまいます。それはクリスティーナ様も困るでしょう?」

「ええ、そうですね。ローブを被っていれば誰かはわからなくても、声や愛称で特定されることは避けたいですね。」

「でもせっかくクリスティーナ様と出会えたのに・・・・あ、もちろんエルヴィス様もね?」

「ええ、どうもありがとうございます。」


 思い出したように付け加えたアンジェリカに、素晴らしい100点満点ですね完璧な表情ですと言われるような笑顔をエルヴィスは見せた。

 その目の奥が一切笑っていないエルヴィスを見て、アンジェリカはしまった!と思いながら頭ごとあらぬ方向へと向ける。




 クリスティーナはエルヴィスとつい先日に会ったが、西の国の王女であるアンジェリカとは今日が初対面だった。

 温室で今が最盛期の花を眺めていると、背後からエルヴィスに声をかけられた。振り返ると、エルヴィスの隣には見知らぬ令嬢がいて、その令嬢はクリスティーナと目が合うと嬉しそうに駆け寄ってきて両手を握り締めて前のめりになりながら口を開いた。


『貴女も前世の記憶があるの!?』


 令嬢の勢いに背中を反らせたクリスティーナが驚いてエルヴィスを見ると彼女は肩をすくめて、貴女については何も話してないわ、と言った。


『王女様。お名前を名乗って、ご自分が何者なのか紹介してください。クリスティーナ様は王女様を知らないのです。』


 エルヴィスの言葉により、はっと我に返った令嬢は恥ずかしそうに居住まいを正した。


『初めまして、クリスティーナ・アルデリア侯爵令嬢。私は西の国から参りました、アンジェリカと申します。ルチダリア公爵令嬢と同時期に学園に留学に来ました、一生徒ですわ。どうぞよろしくお願いいたします。』


 そう言えば学園長が西の国から誰かが来るとか言っていたような、とクリスティーナは思い出して、やっぱり隣の研究所にいても学園の状況はさっぱり知ることはないのだと少し安堵した。

 エルヴィスがアンジェリカの自己紹介に付け加えようとして2人に近づいた。


『身分は王女、というか女王様と言っても過言ではないけれど・・・まだ王女なのですか?』

『私は即位してないもの。ねぇ、そんなことはどうでもいいから早くクリスティーナ様とお話したい。まさか同じ転生者だったりするの?』


 アンジェリカの期待に満ちた問いにクリスティーナは目を丸くする。


『転生、者?』


 今度はアンジェリカが目を丸くして驚く。


『え?前世の記憶があるんでしょ?』

『前世の記憶というか、これまでの人生・・・というか?』

『これまでの人生?』


 お互いに謎が深まる中で、エルヴィスが3人で話し合おうと提案し、クリスティーナは2人を自分の研究室まで案内したのだ。


 しかし、クリスティーナとエルヴィスは一緒に行動することが出来ないため、研究室まではそれぞれ異なる方法で行くことになった。

 まずクリスティーナはローブを被って1人で行き、エルヴィスは時間を置いてから温室を出ていってしばらく経ってから研究室に来た。最後に温室を出たはずのアンジェリカはエルヴィスが来る前に研究室に来た。


 彼女は、クリスティーナの目の前に忽然と姿を現した。

 呆然とするクリスティーナに、アンジェリカは耳元の赤いイヤリングに触れながら妖しく笑った。


『後でちゃんと説明するわね。』


 そう言えば温室を出る前に公爵令嬢に研究室の場所を説明しようとして知ってるから大丈夫だと言われたけど・・・・・どうして知ってるのだろう?

 エルヴィスは来たことはないはずなのに、アンジェリカに温室からクリスティーナの研究室までの道筋を正確に説明していた。


 クリスティーナがエルヴィスに会うのは今日が2回目で、研究室まで案内したことはないし、研究所内で彼女を見たこともない。なのに、何故? ・・・・いや、そもそも温室に1人で現れるような子だった。普通の令嬢なわけがなかった。


 その後、エルヴィスが無事に到着した事で、この場に集まった3人の女性たちはお互いについて話し合い、事情を知って、アンジェリカ王女によると唯一無二の友達になった。

 後に彼女たちは口を揃えて言うようになる。


 あの出会いは確かに運命の出会いだった、と。




 お互いについて知った後、この場で身分が最も高くて年上のアンジェリカが砕けた口調で話すようになった。


 クリスティーナもエルヴィスも王女に対して気安い話し方は出来ないのだが、エルヴィスの態度または言葉選びは時間が経つにつれて雑になってきているようにクリスティーナは思う。

 王女に向かって馬鹿はない。

 もう少しオブラートに包んで言えばいいのに。


 尚もクリスティーナの横でアンジェリカとエルヴィスは言い合っている。


「それに、私とアンジェリカ様がこの国に滞在するのは僅かな時間なのですよ?それからもう会うことは皆無に等しいと思いますけど。」

「だからって、今回の出会いが無かったことになるわけではないでしょう?私にとっては本当に奇跡のような出会いなの!出来るならクリスティーナ様ともエルヴィス様ともこれからも友達として交流したい。特別な仲なんだってあの人に自慢したい!」

「国王様にですか?」

「そう!あの人ってば私に友達がいないことをいつもバカにするのよ!?ふっ、君が頼れる人間はいつまでも僕1人しかいないね、・・・なんていつまでも私がぼっちなんてそんなことあるわけないじゃない!!」


 婚約者だった第三王子の真似なのか、表情まで作って憤慨するアンジェリカを横目にエルヴィスがクリスティーナに顔を寄せて耳打ちした。


「国王様はね、王女様のことが大好きで溺愛してるの。けど最初の出会いが最悪だったから、未だに素直になれなくて不器用なだけなのよ。」

「意訳としては、いつまでも僕を頼ってほしい・・・・・みたいな?」

「それ、正解だと思う。」

「ちょっと!何で2人の方が仲良いの!?」


 アンジェリカは納得がいかないと独りごちる。

 自分がこの2人に出来ることは無いけれど、絶対に誰にも言えないと思っていた秘密を共有できる人が出来て嬉しいのに。


 王女に睨まれた2人は元の位置に戻り、揃って同じタイミングで紅茶の入ったカップを口にする。

 ふとクリスティーナは思いついて、その疑問を聞いてみることにした。


「王女様は、初恋の騎士の方に似てるから国王様を好きになったのですか?」


 隣でそれを聞いていたエルヴィスは思わず口の中身を噴き出しそうになった。危ない危ない。そんな汚いことは出来ない。

 けれど、直球でよく聞くなあと軽く目を見張りながら同じくアンジェリカの答えを待った。


 当のアンジェリカは、うげっと嫌そうに顔をしかめた。


「それ、未だにあの人にとやかく言われるのよね。僕の顔がこの顔で良かったね、って嫌味たらしくっ・・・!くっそ!ふざけんな!私はあの騎士を顔で好きになったわけじゃないわ!内面に惹かれたの!」

「だからつまりそれは嫉妬。」

「しっ、黙っててエルヴィス様。」


 またも苛立ちが沸騰して熱くなるアンジェリカに2人の小声は聞こえない。


 アンジェリカはクリスティーナの眼前にびしっと人差し指を立てた。


「クリスティーナ様にも言っておくけど、初恋が叶わないなんて定番なのよ。だって子供の頃なんてあっちへこっちへ目移りして、その中の甘いだけの思いを恋と認識したらそれが初恋になるのよ?初恋というものは、恋がどれだけ良いものか植え付けるための入門過程だと私は思ってる。」

「じゃあ、私は入門が出口になっているのですね。」

「あっ、いや、これは私の初恋の見解であって貴女の初恋はまた違うと思うわ!」

「そうですよねぇ。」


 慌てる王女にクリスティーナはにこにこしながらゆっくりと返す。

 クリスティーナを見つめたままアンジェリカの頬が若干引きつる。

 この子も結構いい性格してるわ。


 ごほんと場を立て直すように咳をして、アンジェリカはエルヴィスの前の席に座り直して今度は彼女を見つめた。


「というか、私は疑問に思っていることがあるのだけど聞いていいかしら?エルヴィス・ヴィオレット・ルチダリア公爵令嬢?」


 全ての名前を言われたエルヴィスは口角を上げて、目の前に座るアンジェリカを見つめた。


 アンジェリカはそれを肯定と捉え、これはある種の地雷なのだと勘づいていながらずっと疑問に思っていたことを口にした。


「貴女のその名前は、貴女の本名なの?」

「本名ですねぇ。」

「でも、エルヴィスは、男性の名前でしょう?」


 途端にエルヴィスの微笑みが黒いものに変わった。


「私の尊敬する祖父が付けてくれた名前です。だから、私はエルヴィス・ヴィオレット・ルチダリアですよ?」

「・・・・そうね。貴女はルチダリア公爵家の1人娘であるエルヴィス・ヴィオレット・ルチダリアよね。ごめんなさい。ちょっと調子に乗っちゃったわ。」

「ええ、アンジェリカ王女。どうか今は何も聞かないでくださいね。」

「はーい、わかりましたー。」


 クリスティーナは端から見ていて思う。

 この2人も相当仲良くなってると思うけれど。


 少し踏み込んだ質問をしても、アンジェリカは引き際を理解し、エルヴィスも言葉をよく聞いていると何となく事情がわかるような言い方をしている。そう言ってくれるくらいには、気難しそうな公爵令嬢は気を許してくれているのだと思う。


 アンジェリカとクリスティーナは自分たちが体験したことについてほとんど全部話した。しかし、エルヴィスは転生者でも今までの記憶を持っているというわけではなかったので、どうして急に留学に来たのかと訳を尋ねた。

学園では、公爵家の彼女が箱入り娘なので外の世界を見せるため、とエルヴィス自身が言っていたらしいが。


『家の事情で1ヶ月だけの留学に来ました。どうして今のこの時期にって関係者各位には文句を言いたいけれど、仕方ないからこの国に来て色々と勉強させていただきます。初めに言っておきますと、基本的には秘密主義なので、余計な事は言えません。』


 彼女が教えてくれたのはこれだけだったが、2人はちゃんとエルヴィスが伝えたことを理解した。


 クリスティーナとアンジェリカにも他人に言えない秘密があるように、エルヴィスにも他人には簡単に話すことの出来ない秘密があることに。


 だから、2人は彼女のことについてはほとんど何も知らない。

 他人に何を聞かれても、学園の生徒でも答えられるようなことしか答えられないだろう。


 エルヴィスがふと近くにあった書類を手にして、中身を読んでいる。


「これ、この前の植物の実験結果?」


 クリスティーナに書類を見せるようにして確認すると、彼女は中身を見てから苦笑した。


「そう。それはね、葉っぱを色々と試してみようと思って採集したのですが1時間経つと枯れたようにしおれてしまって。隣の所長が植物の葉が好きだから興奮して、自分が調べる!って持っていってしまったんですが、いつの間にか返ってきてたみたいですね。」


 興奮するほどに葉っぱが好きな研究所所長ってどんな所長なんだろう。


 クリスティーナが何でもないように当たり前のように言うからアンジェリカもエルヴィスも聞かないが、内心は疑問でいっぱいだ。

 聞いていた通り、研究所には変人がいるようだ。


「だから、次はその植物に成ってる赤い実を実験対象にしてみようと思うのです。」

「ふーん。」

「昨日、赤い実をジャムにして学園長に食べてもらったら美味しいって仰ってたから果実としては大丈夫みたいですよ。」

「・・・・・そう。」


 疑問が焦りに変わってもエルヴィスの表情は変わらない。

 エルヴィスは無意識に首元に手を当てる。


「じゃあ、愛称が駄目なら、秘密の呼び名はいかが?」


 1人口元に手を当てて真剣に考え込んでいるいるように見えていたアンジェリカが、良いことを閃いたと言わんばかりにキラキラした目を2人に向けた。


 実際に年上で、王女自身は精神年齢は自分たちよりとても上だと言ってたけどどう見ても年下のように感じるなあ。

 2人の思いはまたもや一致する。


「それならいいと思います。」


 諦めたようにため息を吐いて、最初にアンジェリカに同意したのはエルヴィスだった。


 クリスティーナは驚いて隣の令嬢を目を丸くして見つめる。


「秘密の呼び名ってことは、要は私たちだけがわかっていれば名前自体は何でもいいってことですよね?」

「そう!暗号名みたいなの!その方が楽しそうでしょう?いつまでもエルヴィス様、クリスティーナ様、アンジェリカ様って呼ぶのも呼ばれるのも面倒だし、それこそ名前で呼んでるんだから知り合いなのかもしれないって気付く人は気付くわ。」

「それなら呼び名の時点でどうかと」

「エルヴィス様、黙って。」

「はい、わかりましたー。」


 やっぱり仲が良いな、とクリスティーナは思わず笑みが零れる。


「さあ、2人とも考えて。貴女達はどんな名前で呼ばれたい?」

「私はエルでいいですよ。」

「え?」

「え?」

「え?・・・・なに?」


 今度はクリスティーナとアンジェリカが驚いてエルヴィスを見た。


 2人からの視線を受けて、当人は薄く微笑んだままで更に続けた。


「私の名前はエルがいい。知ってます?私の国では、愛称で呼び合うとしたらセカンドネームから取られるのです。だからファーストネームで呼ばれるの、ちょっとした憧れなんですよ。」

「そうなんだ・・・。」

「じゃあ、私もアンでいいわ。」


 エルヴィスは思わず眉を寄せた。


「それはさすがに・・・。」

「大丈夫よ。 私、本国ではアンジーって呼ばれてるの。私の祖母の名前がアンジェリーナで、祖母がずっとアンて呼ばれてたから。学園でも、アンは私の大好きな祖母の愛称だから呼ばないでって言ってあるから。」

「・・・・・まあ、学園で会うことは絶対に無いから大丈夫かしらね。王女ご自身もこれでも忙しいし。」

「これでもとはどういう意味?」

「クリスティーナ様はどうなさいますか?」


 アンジェリカを無視したエルヴィスは、隣で考え込んでいるクリスティーナに振り向いた。


 エルヴィスにちらりと視線だけを向けてからクリスティーナが顔を上げた。


「リズ、でお願いします。」


 つい先程と同じように、アンジェリカとエルヴィスは同様に眉を寄せて困惑した。


「どうして?エリザベス様は何て呼ばれてるの?」


 リズとは通称エリザベスの名前の愛称でもある。

 秘密の呼び名とは言え、身近な人間に同じ名前で呼ばれるような存在がいるのだから避けた方がいいのではないだろうか。


「エリザベス様は別の愛称で呼ばれてるからいいの。それに、もし万が一アンジェリカ様が口を滑らせてもエリザベス様のことを仰ってたと言えば問題ないでしょう?」

「なるほど。」

「ねぇ、なんか2人とも私のこと馬鹿にしてない?」

「それに、隣国にリズルリランっていう湖がある・・・よね?」

「ああ、辺境のリズルリランの湖ね。」

「ねえ、無視なの?」

「いつの時か、国外追放になって隣国に行ったことが1回・・・ぐらいあって。そこで偶然、リズルリランの湖を見たの。その時、私は風邪を悪くしてて肺炎になってたんだと思う。もう永くなくて、最期に見た湖面に映し出された光を浴びた静閑な森の様子がとても綺麗だった。」


 その光景を思い出しているのか、潤んだ青の瞳を懐かしそうに細めて柔らかい笑みを零しているクリスティーナ。


 その様子を見て、アンジェリカもエルヴィスも複雑な思いを隠すように微笑んだ。


 報われなかった、報われない想いだとわかっていてもその人を好きになってしまうのだとクリスティーナは言った。だから別にもう叶わなくてもいいんです、と。


『初めは、私は、私がずっとあの人を好きなことが運命だって思いました。そして、そんな運命も素敵だなって思いました。理解してほしくて言ってるわけじゃなくて、自分でも馬鹿だなとは思うけど、でもそれでもやっぱり、ね。私は今回もあの人を好きになってしまったんです。』


 エルヴィスはそれを聞いた時に、本当に馬鹿で愚かだと思った。

 さっさと他の男性を好きになればいい。その方がきっと、クリスティーナは幸せになれるのに。


 でもそれは他人から見た価値観であって、本人にとっては違うのだろう。


 どこの国も大抵はそうだろうが、アンジェリカの国も王族しか魔力を持たないから血筋を第一としていた。だから、無能な国王が出来上がってしまい、国は腐敗して内乱が起きそうになり、ゲーム本筋のように暗い陰鬱な未来が待ち構えていた。

 アンジェリカが転生者だからこそ、その未来を防ぐことが出来たが魔力はなくても政治は行えると彼女は知っている。だから公爵や第三王子に国を任せようとしたが、公爵に外堀を埋められてしまい、結局まだ国にいる。

 貴女の血は貴いのだと言われても、彼女にとって魔力は諸悪の根源だという認識は変わらない。


 エルヴィスにとっても”エルヴィス”という名前はとても大切なものだ。いつか”エルヴィス”を返すその日まで、エルヴィスの計画が狂ってはいけない。

 力を貸してくれている男は何もかも捨てて逃げたいならいつでも逃がしてやると言ったが、エルヴィスは逃げたいと思ったことはないし、名前を捨てて逃げ出すなんて死んでも有り得ない。

 “エルヴィス”を返す日まで存在することが、彼女の存在意義だ。”エルヴィス”でないエルヴィスなど存在する価値は無い。


 人それぞれ価値観の違いがあることをアンジェリカもエルヴィスも理解している。

 理解しているからこそ、思っていても口には出せないことがたる。


「じゃあ、クリスティーナ様はリズね。」


 アンジェリカがはっきりしっかりとしたよく通る声で言った。

 クリスティーナもエルヴィスも王女を見て、3人はお互いに顔を見合わせて笑い合う。


「忘れないように。外での私たちは、他人で顔見知りですらない。けれど、同じ秘密を持つ者で、私たちはずっと友達なのよ。」

「了解です。アン。」

「秘密の呼び名は、リズの研究室で集まった時にだけ。」

「はい。アン。」


 アンジェリカの言葉に姿勢を正したエルヴィスとクリスティーナが順に手を真っ直ぐに挙げて返事をする。


 それを見て、アンジェリカは笑みを深めて立ち上がった。


「じゃあ、私はそろそろ失礼するわ。リズ、エル、今度とっても良いものあげる。リズとエルだからあげるんだから、誰にも渡しちゃ駄目よ。じゃあ、またね!」


 そう言うやいなや、アンジェリカは2人の目の前から忽然と姿を消した。

 消える瞬間に、アンジェリカのイヤリングが赤く光ったことをエルヴィスは見逃さなかった。


 アンジェリカがいた場所から、2人はそろって視線を外さないで同じ方向を見続けていた。


「リズ。」

「なあに?」

「彼女のこと、どう思う?」

「私は・・・アンのこと、好きになった。」

「・・・ふふっ、私も。」


 お互いの声音が弾み、クリスティーナとエルヴィスは15歳の少女たちらしく屈託なく笑い合った。




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