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こんなことになるなら……

「久斗さん…、私……、噛まれてしまいました」


青ざめた梨花が必死に笑顔を作ろうとして、俺へ話しかけた。


「ねぇ久斗、なっ何があったの?」

藍那が慌てた様子で試着室へ入ってきた。


「梨花が……、藍那! ゾンビが出た。レジ辺りに隠れているんだ!」


「えっ…、うん。分かった」


藍那は言われた通り、行ったようだ。





梨花へ鑑定魔法をかけると、『ゾンビ菌感染中』と表示された。


「こんなことになるなら……、私の初めてを久斗さんへ捧げていれば良かった…。今朝まで何度もチャンスは……」


震える腕を何とか俺に向かって伸ばす。梨花は真っ直ぐに、俺だけを見つめていた。


「キスの経験も無しに…、ゾンビになるなんて……」

涙が頬を伝って、落ちる。


「梨花……」


「久斗さんはこんな時も落ち着いていて、格好良いです」


梨花は泣きながら俺のシャツをつかんだ後、ためらいながらも俺の胸に顔をうずめる。


俺は、梨花の身体を抱えながらアイテムBOXのウインドウを操作した。


「私がなぜグラビアアイドルになったか知ってます?」


「……」


「久斗さんに全日本中学の時に聞きましたよね? どこの高校に入るのかって?」


「ああ、岩波大附属って答えたな…」


「家は普通の中流家庭でしたので、私のワガママなんか通るハズもなく……。そんな時に、前々から誘われていたグラビアアイドルに挑戦すればと思ったのです。そう……、私は久斗さんと同じ高校へ行きたかったから……」


梨花はダークブラウンの髪を揺らし、唇をかみつつ、苦笑い…。


「……」


「ストーカーみたいですよね? 福岡から埼玉まで追いかけて来て……。でもあなたのテニスを見て、いつもドキドキしていました。あなたと話して、もっとドキドキして…、あなたの手を握って更にたくさんドキドキした……」


「梨花……」


梨花は涙を流しながら、顔を上げた。


「私を殺して下さい。大好きなあなたの前であんな醜い姿になりたくありません」


そして、俺の胸に額を押しつけて泣く。


そんなにまで俺のことを想ってくれていたのか……。


待て待て、それより今は梨花を助けないと。


よしあった。これなら大丈夫なハズ…。ヘルプに確認している時間はない。


「久斗さん……、お願いしま……えっ……」


俺はアイテムBOXから取り出した小瓶を開け、彼女へ握らせる。


「梨花、取り敢えずコレを飲んでくれるか?」


「えっ……、はっ…はい……。久斗さんの言うことは、私何でも……」


梨花は小瓶を口元へ持っていき、コクコクと飲み干した。


魔力が急速に集まるのを感じた。よし、薬は効いている。鑑定をかけ容態を確認する。


良かった、ゾンビ菌感染中が消えている!


俺は梨花を抱きしめた。


「久斗さん?……」


「梨花!」


「久斗さん、お願いです。最後に私とキスを……」


「梨花、治ったよ。もう大丈夫だ。良かった〜」


「えっ……、あっ…あの……」


梨花が瞬く。


「待ってくれ、今、傷を治すためのポーション出すから!」


「ヒサトさん?」


「脚見せてごらん?」


「は……はい……」


「じゃあキズ口にかけるぞ〜、少しシミルからな〜」


ヨシッ、噛まれた場所に光が集まり傷がふさがっていく。何度見ても不思議な光景だよ。


「えっ…、ウッ……ウソですよね?」


「よし、半分は傷にかけたから、もう半分は飲んでくれ? ポーションだから大丈夫だぞ」


「ぽうしょんですか?」


「そう、最初に飲んだのが毒や病気を治す万能薬。コレは傷を治すポーションな。どっちも異世界の薬だよ。味はイマイチだけど、飲めば完治するから」


「はっ…はぃ……」


コクコクコク。

梨花は素直だよね。俺の言うことを理屈に関係なく、スンナリ聞いてくれる。


「えっ…、私……ゾンビに……」


「ああ、もうならないよ。完全に治っている」


「あの…、その……」


ほんのりと頬を赤く染め、瞳は熱っぽく潤んでいる。


「どうした梨花?」


梨花が急に俺の肩をつかんで……。


気づいた時には、梨花の唇が……、俺の唇に……、押し当てられていた。




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