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私……、噛まれてしまいました



ミスリルナイフでビッグカウ(牛の魔物)の肉1kg塊を三等分し、梨花にお願いして焼いてもらう。


梨花は手慣れた様子で塩コショウをかけ、あっという間に中火で焼いていった。もちろん付け合わせのニンジン・ジャガイモも忘れていない。


俺はパンを切って並べ、梨花の料理を待った。


ふあ〜美味かった。ブランド和牛と比べても負けない旨味を、レアで味わうことができた。かたまりだから歯ごたえもイイ。


ひとかみごとに肉汁が…、う〜ん美味かった。やっぱり300g超えは食べた気がするよ。



梨花は俺へステーキを半分よこし、それでも少し残していたが、藍那はずっとキラキラと瞳を輝かせ、ペロリと食べたのだった。さすがの食欲だよ。




さて、もうすぐ17時。日が落ちる。


「疲れましたね」

「疲れた〜」

「疲れたな」


みんな疲れていたため、クリーンも問題無く終わった。というのも、2人ともバスタオルを前掛けにして、そこへ生活魔法をかけたらそれで済んだのだ。


「久斗…久斗…」

「なんだ藍那」

「…別に……ちょっと名前を呼びたかっただけ」


「なんだよそれ?」

「別にって言っているでしょ?」


藍那は美味しい物を食べられたからか、ひどく機嫌が良い。単純ダヨな…。


俺達のやり取りを見ていた梨花がクスクスと笑う。


「藍那さんは久斗さんに甘えたいのですね?」

「違う〜、私は別に……」


「そうですか? 私は久斗さんに甘えたいですよ〜。こうやって!」

梨花が俺の腕に抱きついてくる。


フニョ〜ンと柔らかい感触が…マズイわこれ……。


「む…むぅ……」


話を変えないとな。


「明日は三嶋町のドラッグストアと、梨花の服の調達に、岡崎町のユニク◯にでも行こうと思う」


「ねぇ私の服は?」


「岡崎町だと藍那の家の近くだから、ついでに寄ればいいだろ?」


藍那が頬を染めて俺を見上げる。


「そっ…そうよね……」


俺は藍那から視線を外した。


「薬局にはどうして行かれるのですか?」


「薬はこういった環境では不足気味になる。俺のアイテムフォルダなら、沢山の量を仕舞え、これから知り合う人達が薬を必要としていた場合は手渡すことが可能だからね」


「凄いです。そんな救世主みたいなことを目指すのですか?」

「久斗、そうなの?」


「イヤ。そんなつもりは全くないし、俺の能力をバラすつもりもない。ただ、薬と食料を交換したり、少しでも今の生活環境が良くなればイイかな? ぐらいだよ」


「良かったです。みんなの救世主になったら、私は……寂しいなと思ったので」


「そうだよ。聖人なんて私もイヤ」


「そんなつもりは、これっぽっちもないから安心してくれていい」


「分かりました。明日も忙しくなりそうですね?」


「三嶋町のドラッグストアは俺1人で行ってくる。その間、梨花と藍那で栗を料理してもらっていいか?」


「分かりました」

「分かったわ。頑張って梨花さんのお手伝いをするから」


「よろしく。じゃあそろそろ寝ようか?」


「む…むぅ」


俺が梨花の隣のシングルベッドに横になると、藍那の頬が膨らませた。


ライトを消す。外からの光は全く無い。真っ暗で静かだ。


梨花が黙ったまま、手を繋いできた。ふんわりと女の匂いも漂ってくる。俺は梨花と指を一本一本絡ませたまま眠りについた。






あ〜よく寝た。起きても梨花とつながった手は離れていなかった。なんか運命を感じるよ。


藍那も静かに寝ていた。やっぱり昨日の山登りで疲れていたからだろう。


梨花の白く綺麗な素肌と柔らかそうな2つの膨らみに、視線が吸い寄せられる。


イカンイカン。朝から発情してどうする?





今日の朝食は何にしようか?と悩んでいると、梨花が起きてきた。


「おはようございます久斗さん」


「おはよう梨花、まだ寝ていてもイイのに…」


「今日は私が朝食を作りたかったので」


「任せてイイのか? 確かに、梨花が作った方が美味しいからね」


「顔を洗いましたら、すぐに準備をしますので」


梨花は俺のアイテムBOX中から、なめこと長ネギ⅕を取り出し、スープを作った。片栗粉を入れてトロミまでついている。


それから栗を茹でて、その栗と鶏肉味のワイルドウルフ肉、平茸で煮物を作った。


イヤイヤ。梨花の料理は手際が良く感心させられたよ。この娘、本当に料理が上手だわ。


料理が完成する頃、藍那も起きてくる。栗の煮物を見た藍那は「美味しそう」と言って目を輝かせた。


醤油と砂糖と料理酒で絶妙の味の煮物とスープは絶品だった。


貴重なパンを食べなくても、計算されたかのように栗で満足させられる。


一生懸命スープをすする藍那の口元を見て、思わず笑みをこぼす。


こんな日常もイイと思ってしまった。イカンイカン。


でも梨花の料理が美味しいのは幸せだな。





それから少し食休みをしてから、栗の処理を梨花と藍那に頼み、ドラッグストアへ出発する。


梨花の料理に満たされ、俺はご機嫌でマンションを出た。


まだ低くかかった太陽の淡い光を受けて走り出す。


バイクは隠密をかければ、どのゾンビも気がつくことは無かった。


ドラッグストアへ到着すると、シャッターが上がり、ドアがこじ開けられた跡が見える。


俺は隠密を靴と扉へかけ店の中へ滑り込んだ。


うわぁ……、ゾンビだらけだよ、体育館程の面積に40体はいる。集団で食料と薬を調達に来て、全員ゾンビにヤラれたパターンだな。


さすがに、この狭さで一体一体を始末していったら、取り囲まれて詰む可能性もある。


俺は比較的ゾンビの少ない目の前の通路を進む……。こっちは薬系それでも7・8割は持ち出されて無くなっている。


風邪薬の前に座り、そっと手をかざしてアイテムフォルダへしまっていった。


「ウウウウウウウウウ」


チクショー、落ち着いて物を見ながらしまう余裕がないわ……。


30個位や風邪薬はしまえた。あとは周りのものを適当にしまいながら後退する……、残念ながら、食料の方には行けそうもないな…。


レジ近くのガム・飴・チョコ・スナック系をしまう。


おっ……、切り餅の袋が落ちている。ゾンビを2体始末すれば手に入れられそうな場所だ。


俺は自分へ身体強化の魔法を唱え、鋼の剣を構える。息を潜めながら近づくと、一気に襲いかかった。


スパン、スパン!


2体の首が転がると同時に、ゾンビ達が一斉にコチラを向いた。


「ウウウウウウウウウ」

「ウウウウウウウウウ」


俺は急いで切り餅を掴み上げ、扉へ走った。




ハァハァハァハァ。


店を飛び出しそのまま100m程走ったから、もう大丈夫だ。戦利品の確認をするか。


錠剤タイプのノーマル風邪薬6個

漢方系の風邪薬15個

頭痛薬・痛み止め12個

マスク3箱

キスミ◯トガム10個

のど飴4袋

ポテトチッ◯ス5袋

チョコレートBOX(26枚入)30箱

切り餅1kg(20個入)


思ったより少ないが、まぁこんなもんだろう。


俺はバイクをアイテムフォルダから出し、隠密を掛け自宅へ戻って行った。





「ただいま〜、おおやってるね?」


梨花と藍那の2人はYシャツの袖を捲り上げ、茹でたての栗を剥いていた。


「梨花さんがちょうどイイ感じに茹でてくれたから、スンナリと剥けるの〜」


「藍那さんは剥くのが早いのですよ〜」


と、外にはゾンビがいるというのに何だかノンビリとした雰囲気だよ…。


「そういえばイイ物が手に入ったんだ。何だと思う?」


「久斗さん、お米ですか?」


「ブッブ〜」


「ポテピじゃない?」


「何だよポテピって?」


「ポテピって言ったらポテトチップスのことよ!」


「まあ半分正解」


とポテトチップスを出して見せる。


「ヤッタ正解! でも何で半分だけ正解なの?」


と、ここでもったいぶらせて、俺は切り餅1kgを取り出す。


「あ〜お餅ですね。炭水化物は助かります」


「ま〜嬉しくはあるけど…、普通ね」


普通なのか、わざわざゾンビ2体を倒して手に入れたのに…。まあイイや…。


「驚くのはこれからだぞ!」


「えっ何?」


「何でしょう? 甘いものですか?」


「正解だよ梨花!」


と笑いかけながら、赤いパッケージのチョコレートを見せた。


「ハイミルク!」

「チョコレート!」

2人の顔が明るく輝く。


「久斗! 食べたい! 食べたい!」

「手が汚れれているので、久斗さん! 食べさせて下さい」


「しょうがないな…」


「久斗、あ〜ん」

藍那がアホのように口を開ける。


「ヒ・サ・トさん? あ〜ん」

梨花が舌をレロッと出しながら口を開けた。


まったく梨花はエロ過ぎるんだから……。


俺は赤いパッケージを解き、包みを開いて梨花の口に入れようとすると、


「ちょっと、久斗。何で梨花さんからなのよ? 私、正解したでしょ?」

ホント、藍那はうっさい女だ。


「ハイハイ」


「あ〜、チョコレートだぁ〜、美味し〜!」


口の中に甘味が広がったのだろう、藍那は満足そうに微笑んだ。クソ、カワイイ顔しやがって……。


「ハイヨ、梨花も?」


「甘い〜! とろけてしまいます」


ニコニコと笑みを浮かべながら、梨花は幸せそうに身をよじる。


「30箱も手に入ったから、まだまだあるよ」


「最高です久斗さん!」

「大好き久斗!」

顔を緩めながら、藍那は立ち上がった。


「藍那は何言っちゃってるの?」


「むっむぅ……」





栗をあらかた片付けた俺はバイクの前と後ろに2人を乗せて、岡崎町にあるユニク◯に来ていた。


道中の2人とのやりとりは、疲れたので省略する。


両腕を俺の首に絡めている藍那を見て、

「久斗さん、今度は私が前がイイです」だって。





それにしても今日は本当にいい天気だな。寒さもほとんど感じないし、ポカポカして気持ちいい。


ユニク◯は、ミサイルの着弾早々に店を閉めたのか、扉には鍵が掛けられ、中にゾンビを1体も確認できなかった。


もちろん電気は点かないので、俺はライトの魔法で店内を照らした。


梨花も藍那も下着から見ているみたいだ。


俺はアリシア先輩とマネージャーが着られそうな服を何点かしまう。俺用の服は別に必要無いな。


「久斗…、ここに置いておくからしまっておいてね」


「分かった〜」


こうして呑気に買い物をするのも悪くないよな。


俺は梨花と藍那が選んだ下着類を、凝視しないようにアイテムフォルダへしまっていく。


2人は引き続き、上着やズボンを見ているようだ。


「ちょっと試着したいので試着室へ行ってきますね〜」


梨花はふんふんと鼻歌を歌いながら、奥の試着室へ向かった。






「ヒッ!!」

悲鳴は梨花のもの。


「梨花どうした?」


俺は慌てて梨花の試着室へ向かった。


「ギャオオオオ」


内臓の飛び出た怪しいネコが、梨花のそばから顔を出した…。


どこに隠れていたのだろうか?


「何だよこのネコ?」


俺は鑑定をネコに向かってかける。


結果はネコゾンビだ。


慌てて鋼の剣を取り出し、ネコゾンビの首をハネた。


「梨花大丈夫か?」


放心状態の梨花が試着室に座り込んでいた。


キレイな細い脚から出血が……。一瞬にして鼓動が速くなる。


「久斗さん…、私……、噛まれてしまいました」









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