この場所って……覚えてる?
とりあえず野菜スープでも作ろう…。
具材はワイルドウルフの肉にニンジン、ジャガイモ…、長ネギは昨日食べたし今回はやめようか。
ワイルドウルフの肉は、鶏のむね肉みたいだから少し硬いけど、味は悪くない。
狼の化物とは言えないね……。
味付けは、何かないか? 塩・コショウ・醤油は家にあったものを使って…。やっぱり現実世界の調味料の方が品質イイからね。
何かないかな? オオオッ。コンソメの開いてないのがあったから、コンソメスープにしよう。
そうなるとキャベツやタマネギがあればいいのだが…。無いものねだりしてもしょうがない。
あっ、乾燥ワカメがある。じゃあ、これを水で戻して。
ただ、コンソメスープにワカメって…。まあイイか。
朝食のメニューはコンソメスープにパン。それとオレンジでいいな。
俺は梨花と藍那を起こしに行った。
「おはよ梨花、藍那」
「おはようございます久斗さん」
「おはよう久斗」
梨花は相変わらず色っぽい。
眠い眼をこする藍那…、小さい時から朝が弱いのは変わらないな…。
「水はジャグに入れてキッチンに置いておいたから、それで顔を洗ってくれ。コックをひねれば水が出る。タオルはそこにあるのを」
キャンプ用のウォータージャグ10ℓに魔法で水を入れてキッチンに置いておいたのだ。
もちろんトイレにもタンクの方と、予備としてバケツに水を入れてを置いてある。用が済んだら流せばいいだけだから。
「久斗さんて、気が効きますよね?」
「……」
「ではお言葉に甘えて」
「なんか電気や水道が止まっているのに…、快適…」
「全部久斗さんのおかげですね」
俺はコンソメスープを器によそいテーブルへ並べ、アイテムBOXから半斤サイズのパンを取り出した。
「久斗さんが作ってくれたのですね。…コンソメスープですか?」
「久斗…。コンソメスープにワカメはちょっと微妙かも……」
「悪かった。俺の持っている食材では、こんなものしか用意できなかったから。まあ味はそんな悪くないから、食べてみてくれ」
「食べられるだけ感謝しないといけないですよね?」
「……。悪気はなかったの、ごめんなさい……」
「別に気にしてないからいいよ。パンはバターかマーガリンがあれば良かったのだが…。異世界のパンだけど、焼きたてだからそこまで固くない。十分に食べられると思うぞ」
「「いただきます」」と手を合わせ、2人ともパンから取りかかる。
「あっ、パン…美味しいですよ。噛むとちゃんと味がします。コンソメスープも、うん、美味しいです」
「鶏肉? 美味しい」
魔物ワイルドウルフだけどな。まあ、害があるわけじゃないから問題ない。
「食べ終わったらフルーツだね。こっちは異世界のオレンジ。ネーブルみたいで気に入ると思う」
「うわぁ。久々の果物。冷えてるし…」
王都の市場で、氷の上に並べて売られていたオレンジだからね。こいつは結構美味しいから満足するはずだ。
「美味しい。瑞々(みずみず)しくてGOODです~」
「ホント。甘くて…、スゴく贅沢かも…」
ここで梨花と藍那に、アイテムBOXの中の食料について説明しておく。
「今言ったように、俺のアイテムBOXにある食料はそんなに多くない。だから、今日はこれから裏山へ山菜を採りに行こうと思う」
「久斗の魔法で鍵を開けられるなら、マンションの部屋を回った方が効率良くない?」
「藍那の言うことはもっともだけど、家に帰って来たら部屋が荒らされてたっていうのも強盗みたいでな? 主がゾンビになっていたら始末しないとイケないし…。食べ物が全く無いなら、そんなこと言ってられないけど…。1ヶ月後にはそうなるよ」
「それに山菜採りなんて楽しそうですよ?」
「確かにそうね。遠足みたいで……。懐かしいでイイのかな? 小さい頃に久斗と行ったよね?」
「……」
確かに藍那とは何度か行ったことがある。そして地蔵の前で転んで泣いた藍那を、おぶったまま帰って来たっけ……。
裏山へ行くには親父の友人で黒田さんへ、一言声掛けてからにしようか。とりあえず行ってみるとしよう。
隠密を3人の靴にかけ、家を後にする。マンションを出るまで、ゾンビに遭遇することも無かった。やはりゾンビは夜行性なのだな、朝一の通りにはチラホラとしか見受けられない。
俺たちは息を潜めながら、ゾンビの脇を通過して行く。
黒田さんの家はマンションから50mほど、裏山へ入るにはその自宅の庭を通る必要がある。
黒田さんに挨拶していくか、と家の中を探すもののゾンビも誰もいなかった。
いつ採ってもいいぞ、と言われていたから、お邪魔させてもらうとしよう。
「何か宝探しみたいでワクワクしますね?」
笑顔を見せながら梨花が俺の腕を引っ張る。
「……馬鹿」
とつぶやいたのか藍那は口を尖らせて、スタスタと先へ歩き出した。
裏山の獣道を登って行く、地元でも誰も入らないから整備されている訳じゃない。
「久斗さん。今の季節は何が採れるのですか?」
「キノコ類だね、あと山菜ではないけど栗とかかな?」
「それくらいなら、私でも見つけられますでしょうか?」
10分程登って行くと、昔、藍那が転んで泣いた地蔵の所へたどり着いた。
「こんな所にお地蔵様ですか?」
「久斗……この場所って……覚えてる?」
沈黙と冷たい風が流れる。
俺は胸を押さえた……、嬉しく思ってどうする? ただの思い出だろ? お互い忘れた方がイイ場所なんだよ……。
胸の手をおろし、ハッキリと言う。
「何をだ藍那?」
「……別に……その……、何でもないわ……」
藍那は少し小走りになり、先へ進んで行った。
藍那は原田のことが好きなんだから…、この答えで正解だ……。
「ヒ・サ・トさん? なんか急に怖い顔になりましたよ?」
梨花が心配そうな様子で、のぞき込んでくる。
「そっか…ごめん…」
「もしかして? 幼馴染の藍那さんとの思い出の場所だったりします?」
鋭いよ梨花…。俺は小さくかぶりを振って言った。
「そんなことはない。ただ地蔵が懐かしかっただけだね…」
「そうなのですか? それなら良いのですけど…」
忘れよう、今は食料調達の時間なんだから。
それから20分位登ったところで、無事に食料を発見した。
「ほら、これがなめこ。スーパーとかでも売っているよね?」
「えっ…スーパーで売っているなめこより、全然大きいですよ?」
「間違えない。鑑定でもなめこと出ているし」
「もしかして、こちらもなめこさんじゃありませんか?」
「そうだよ梨花。あっさり見つけたね」
「手のひらサイズもありますよ〜」
「このヌメリの有無で一般的には見分けるのだって」
「久斗さんは物知りなのですね?」
梨花は満面の笑みを見せた。
「俺も、教えてもらっただけだから」
「たくさん周りにも生えていますし、結構な量です」
「こんなになめこがあるとはね」
味噌があればなめこの味噌汁にできるのに…。
先を進んでいた藍那が戻ってきた。
「ねぇ久斗。これは?」
「それはツキヨダケって言う毒キノコだぞ」
以前の俺のなら、キノコの判別は無理だったが、今は鑑定があるからね。
「久斗さんこっちこっち。これって食べられそうじゃありません?」
「ああ、これはヒラタケだから大丈夫。少ししいたけに似ているし、味もそんなに変わらない」
「そっちはどうだ?」
俺は少し離れている藍那に言った。
「むぅぅ。さっきから毒キノコばっかしだし…」
「藍那さんもそのうち見つかりますよ」
「あっ! ねぇ久斗! 久斗!」
「なんだよ藍那」
「これってもしかして、舞茸?」
「そうだね。結構大きな舞茸だ。4、5kgありそうだな」
「ヤッター!」
と飛び上がったかと思えば、藍那はわなわなと震え、うっ……、うっ……と嗚咽を漏らし、子供のようにたったまま泣きだした。
「何泣いているんだ?」
「だって私……、梨花さんみたいに料理できないし……、全然役に立ってないから……」
藍那なりに気を使っていたのだな。
「そんなの気にしてねーよ」
「そうですよ藍那さん」
「うぇーん…、ううう…」
「舞茸は食感・風味とも最高ですからね。私もきのこ類の中では一番好きです」
と梨花が藍那へ穏やかな笑みを見せ、抱きしめた。彼女は性格もイイし大人だね……。
結局、なめこがスーパーのビニール4袋、ヒラタケが1袋、舞茸は藍那が見つけた分だけ。
それなりの成果だと思う。
帰りは栗エリアに寄って行くかな?
そろそろあるはずなのだけど…。あったあった。たわわに実った栗の木が20本以上。
「うわー…。いっぱいあるよ久斗、これ全部食べられるの?」
「本当にたくさん。栗ごはんにできちゃいますね?」
「残念ながら、お米は無いけどね」
剥くのは大変だけど、おいしいからいいだろう。
栗はたくさん有り過ぎて、そのままアイテムBOXにしまった。もちろんトゲトゲからは出してからだけど。
アイテBOXの⅕は栗かも……。
今日はもうこんなもんだろう。春ならもっと野菜みたいな山菜が期待できるのだろうけど。
夕食は簡単に調理できる、ビッグカウのステーキにしてもらおうか。
ビックカウは異世界でも高級食材で中々手に入ることはない。
俺は魔法討伐のパーティで献上されたものをもらったに過ぎないのだけどね。
そして、帰りの地蔵は静かにスルーした……。