久斗さん、重くないですか
「あっ、美味しい……。さっぱりとしていて、梨花さんは料理が上手なのですね?」
「お口に合ったようで良かったです。久斗さんはどうですか?」
「うん美味いな。プロが作ったみたいだ」
「良かったぁ、料理を学んできた甲斐がありました」
赤い顔をした梨花が微笑んだ。
「ところでこれ何のお肉?」
と細い身体の割に、結構食べるタイプの藍那が聞いてくる。
さすがに魔物ワイルドボアとは言えないよな?
「異世界のイノシシの肉だ」
「へー、そんなに癖無いかも?」
藍那は気にせず、口へ運んでいた。こいつが食べている様子を見ていると、食欲も元気も出てくるんだよな〜。
不思議だわ。
あ〜美味かった。
梨花の作るうどんは、麺つゆをカルピ◯のように薄めて使用するものとは異なり、薄い色をしていたが『だし』の味がよく出たあっさり味のうどんだった。
彼女は福岡出身だからな。西日本のうどんのつゆは、関東の味とは違うと言うし。
その後、食後の食器の片付けをクリーンで済ませたら、
「その魔法、とても便利ですよね!」
だって。生活魔法を褒められるって複雑な気分だけどね…。
さぁ17時だ。異世界帰りの1日は長かったよ。日がほぼ沈み、俺はライトの魔法を唱えた。
「うわぁ、明る〜い」
「此れってどのくらいの時間、明るいままなのですか?」
「時間はずっとでも大丈夫。取り敢えず、後30分くらいで消えるようにしておいたけど」
「久斗って本当に便利ね?」
「何かその言われ方は微妙だな。褒められた気がしない」
寝ようか?
俺は自分の部屋で寝るから、梨花と藍那は親父達のダブルベッドで寝てくれと話したのだが……。
「いつゾンビに襲われるかもしれないので、久斗さんも一緒に寝て下さい」
「安心して寝たいから、久斗……」
そんな言葉を放置して、俺は自分の部屋で眠りについた。
ドンドンッ。
「ウウウウウウウウウ」
「えっ? 何? 何なの?」
「藍那さん玄関よ! 玄関……」
「どうした? 大丈夫か? 梨花!藍那!」
俺は急いで寝室から飛び出した。玄関扉の方からゾンビの呻き声が聞こえる。
ドアスコープから廊下を覗く。玄関前にはいないな。
隠密を靴と扉へ唱え、ドアをそっと開ける。
どうやら階段から上がってきたゾンビが偶然、玄関扉を叩いたみたいだ。
全く人騒がせな奴だ。
俺はゾンビに近づき後ろから首をハネた。
「久斗さんおかえりなさい。無事に帰ってきて良かったです」
「お疲れさま。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「向こうでクリーンして、着替えてくるわ」
俺が自分の部屋で着替えてくると、不安そうな顔をした梨花と藍那がこちらを見ていた。
「もう怖いのは嫌なので…」
「久斗…、近くにいて……」
2人とも裸Yシャツの格好だよ……、立っているのに梨花の胸元には深い谷間が確認できる。
まったく……、俺が男だと分かってないようだ…。
「一応男なんだけど……、梨花と藍那が寝た後、何かするかもしれないぞ?」
「しょうがないじゃない…。怖いものは怖いのよ」
藍那はもじもじするなっつうの…。
「私は久斗さんになら何されても大丈夫ですよ?」
「私だって……」
梨花はいつも俺を信頼しているよな……。
ところで何言ってるんだ藍那は……、ゾンビがいるなんて言う異様な環境が、きっと頭を狂わせているんだよ……。
「分かった。取り敢えず同じ部屋で寝るから…」
親父達の寝室は暮らしていないこともあり、とても簡素でダブルベッド以外は何もない。
さすがにキングサイズのダブルベッドとは言え、3人で寝ればと近いよな……。
俺は自分の部屋のシングルベッドをアイテムフォルダへ収納し、梨花達のいる部屋に戻って来た。
「ちょっと待ってくれ…、すぐに済むから」
ダブルベッドの隣にシングルベッドを出す。
「なっ……」
「相変わらず驚かされますね〜」
俺は今出したシングルベッドの上で横になる。
白いシーツの掛けられたベッド、となりは梨花だな。
俺の部屋とは全く違う甘く芳醇な匂いが鼻孔を刺激する。
「ねぇ、久斗は真ん中に寝てよぉ〜」
「藍那……、早く寝ろ疲れてんだろ?」
「そうですね。寝ましょうか?」
俺はライトの魔法を消した。
すぐ眠れそうに無かったので、梨花と藍那の両親について確認する。
藍那の両親は、23区にミサイルの落ちる2日前、海外旅行でヨーロッパへ行ったらしい。偶然とは言え、運が相当良さそうだ。
梨花の両親は九州の福岡だから、どうなったか分からないとのことだった。さすがに九州は遠い、無事だと良いのだが…。
そっか…。
「ヒサトさん…、あのぅ……手だけ繋いでくれませんか?」
梨花が恥ずかしそうに言う。
俺は微笑みながら、うなずいた。不安を少しでも解消してあげないとな。
「ム〜……」
藍那は頬を膨らませるが、関係ない。
指1本1本がカラミつく恋人つなぎだ。梨花に近づくときに漂う優しい匂いがする…。
俺は徐々に意識を手放した。
フニョン、フニョ〜ン……。
まだ夜中だぞ……。俺は魔法ライトを軽く掛け、豆球程の光を作り出す。
藍那?
藍那がいつの間に俺のベッドの上へ来て、後ろから俺を抱きしめて寝ていたのだ。
おまえなぁ……。まぁ不安で一杯だから、好きでもない男の俺を、頼らざるをえないのは分かるけど……。
ったく、しょうがね〜なぁ……。
「ヒ・サ・トさん? おはよーございます」
「ああ、梨花おはよ〜」
「何で藍那さんを腕枕しているのですか?」
「うわぁっ……、いつの間に……」
「私もその腕枕お願いしてもイイですか?」
「イイけど……」
「失礼しま〜す」
梨花が俺の腕へ頭を載せ、目蓋を閉じる。彼女の高い鼻先が頬に当たるぐらい顔を近づけられる。
吐息が頬に吹きかかり、近過ぎて照れくさいのだけど……。
「久斗さん、重くないですか?」
「あぁ…大丈夫…」
「ではしばらくこ・の・マ・マで……」
梨花…お前なぁ……。この距離はちょっとでも動けば、頬にも口にもキスできてしまう。
あ〜イイ匂い…。目を閉じてもエロカワイイな梨花……。
結局2人とも2度寝。俺は梨花と藍那を腕枕に起床。充実感タップリと感じる俺ってバカだよな〜。
4時か…、日の出にはまだ2時間近くある…。食材も心もとないし、近くのコンビニでも見て来るかぁ。
俺は、梨花と藍那の腕枕を外し、隠密をかけ家を後にした。
チクショー。コンビニと近くのスーパーも見たが、何にも無かった……。見事に空だったよ。
こんな時は米くらい見つかるものだろ……。
しょうがない、今あるモノで朝飯の準備でもしようか?
俺の時間の止まるアイテムBOXの中にある食料はというと、
ワイルドウルフ肉5kg(狼の魔物肉・鶏肉みたいな味)
ワイルドボア肉3kg(猪の魔物肉)
ビッグカウ肉1kg(牛の魔物肉・異世界高級食材)
パン6個
干肉5食
煎餅12枚
オレンジ9個
梨6個
長ネギ2本
ジャガイモ5個
ニンジン5本
白ワイン?6本
パンは1個が半斤サイズとは言え、結構ありそうだがそうでもない。
炭水化物も野菜も足りないよな……。
白ワイン?は現実世界で白ワインと思われる物だ。異世界ではアルコールといった概念はなく、大人から子供までこれを好んで飲んでいた。
ヘルプに言わせると、この白ワイン?の製法はこちらの世界と違っているらしく、アイテムBOX上ではそう表示されている。
俺は現実世界の白ワインを飲んだこと無いから、その認識不足が原因かもな。
さてさて、今日はどうしよ?
朝飯が終わったら、裏山で山菜取りでもしようか?




