俺はお前の王子さまじゃない
なぜか急にアクセスが増えてびびっています。
「……」
クソッ……、イライラすんな〜……。
「ねぇ……」
「……」
「久斗…ねぇ……」
藍那は話しかけてくるな……。
「久斗さん……、ちょっとだけ指痛いかもです……」
何でこんなにイライラするんだ〜。つい梨花の指を強く握っていたようだ……。
落ち着けよ……、梨花のことだけを考えよう……。
「ごめんごめん梨花……」
「大丈夫ですよ。 それより……」
あ〜……、バリケードがあるのだった……。どうやって……越える……。
バラすのは面倒くさいし……、俺は早速頭を抱え込んだ。
跳び越えるくらいは余裕だ。けれど……、原田を好きな藍那なんて触れたくねぇよ。
あー……、何で藍那のことばっか意識するんだよ〜……。割り切る……。そう割り切れ!
「藍那、跳び越えるからちょっとイイか?」
「えっ…」
俺は藍那の前に屈み込んでから、彼女を無造作に肩へ担ぎ上げた。
クソ柔らけー……、何だよこの充実感あふれる感覚は……。
俺は自分へ身体強化を掛ける。
「ちょっと…、久斗…、ねぇ…パ……パンツ見えちゃうッ……」
あ~……、やっぱり面倒くせー……。そんなの原田じゃねぇんだから関係ないだろ……。
「大声を出すな。それと…、舌を噛むから口閉じとけよ!」
俺は返事を待たず、バリケードの上を跳び越えた。
「えっ…、あっ……」
「よし、大丈夫か?」
「……」
「大丈夫か?って……」
藍那は驚いた顔で、俺が自分を担ぎ上げて2m近く跳躍したことに、頭が着いていってない。
「もうこっち側はゾンビが出るから、油断するなよ。アイツらは音のする方へ近づいて来るからな。一応、さっきの奴らが使っていた警棒を渡しておく」
藍那はコクコクと頷いた。
「じゃあ梨花を連れて来るから」
俺はもう1度跳んで梨花の前に立つ。
「久斗さん……、スゴ過ぎて私……、言葉が見つから無いです……」
「梨花もイイか?」
彼女は両手を前に出した。了解、お姫様抱っこね。
これがヒロインだよ。まさにグラビア通りの笑顔……、カワイイわ…。
俺は両手で梨花を抱き上げた。いいニオイがする……。しばらく風呂入ってないハズなのに、女の子は不思議過ぎるわ……。
「梨花、舌を噛むなよ」
「お願いします」
俺はお姫様抱っこでバリケードを跳んだ。
「大丈夫かい梨花?」
「はい」
梨花はニコっと笑顔を向ける。
「ちょっと! ねぇ久斗!」
あ〜……、やっぱ面倒くさくなった。
「何だよ藍那?」
「今のはおかしい!」
真顔で俺をじっと見つめてくる。
「何が?」
「何で私は肩に担いだのに、梨花さんはお姫様抱っこなのよ?」
俺はお前の王子さまじゃないだろ……。
「……」
「なぜかと言われてみると、そうですね……、自然とそうなった…ですかね〜久斗さん?」
「そういうことだな…」
「むっむ〜…」
藍那が頬を膨らませる。
「じゃあ行…」
「それにそれに……、何で私が先で……、警棒なんか持たされているし……」
「藍那は中1の時、剣道初段だろ?」
「あーもう私の黒歴史を……」
あの頃は凛々しくて可愛かった……。
「何で黒歴史なんだよ。剣道やってる女子ってカッコイイけどな……」
藍那が頬を赤く染めてうつむく。
何言ってるんだ俺……。今更コイツ褒めてどうしたいんだよ……。
「久斗さん?」
済まない、藍那とだけ話してた……。
「梨花は俺の後ろを離れるなよ」
「ねぇ私は? 久斗…」
「藍那は警戒を怠るな」
「む〜……」
「ちょっとイイか。2人とも足元を見せてくれ」
俺は無詠唱で、隠蔽魔法を2人の上履きにかける。
「これからできるだけ静かに歩くようにしてくれ。ゾンビは音だけに反応する。だから、音をたてないように」
「はい」
「分かったわ」
「前に3体いるな。俺が先に行って始末する」
「久斗さん気をつけて」
「オーケー」
俺は気が付かれないように近づいてから、素早く懐に入る。
おおお!
ザシュッ、ザッ…、ザン……。
俺が剣を振るう度にゾンビのクビがゴロリと転がる。
「久斗さん凄いです〜、軽々と……」
「動きが速くて…見えない……」
まぁ、素人の目から見たら中級冒険者のレベルはそんなものだろう。身体強化も軽く掛けているしね。
校舎の玄関から出るまで、15のゾンビを始末した。
玄関を出ると、なぜかゾンビが3箇所に別れて固まっている。いや…、競うように何かを喰ってるのか…。
あー……、3人組が役に立ったのだな。
「ねぇ久斗…。何に群がっているのかしら?」
「よーく見ない方が良さそうですね…」
「今のうちに校門から出て行こう」
お陰さまで、スンナリ校門を出ることができた。サンキュー橋本クン? 坂本だったっけ?
さて、ここからは、
アイテムフォルダ……、バイク……。
目の前に250㏄H◯NDAのスクーターが出現する。
「えええっ?」
「何でですか?」
身体強化の効いたジャンプ力や剣さばきより、アイテムフォルダが1番ビックリするとは……。
「異世界へ行っていたって言っただろ? 今のは空間魔法だ」
「だって……えっ……」
「不思議過ぎです……」
「こうやって隠密魔法を掛けてからエンジンを始動すると……、ほら…音が聞こえないだろ?」
「ホントです。エンジンは動いて振動が伝わって来るのに……」
「全く音が聞こえないわ……」
「これも魔法だ。俺が7月から見つから無かったのは、誘拐されたんじゃなくて、異世界へ召喚されていたからだ」
「異世界ですか……」
「異世界……」
「まぁ詳しくは落ち着いたら話す。それより梨花?」
「はい」
「ヘルメットつけるから?」
「分かりました……」
俺はヘルメットを梨花の頭に被せ、顎ひもをつけてやる。
あーこれ……、彼女ができたらやりたかったヤツだ。
「梨花? 窮屈じゃないか?」
「はい久斗さん」
少し恥ずかしそうに、顔を赤くしてる。エロカワイイよ。
「ねぇ久斗。ワタシのヘルメットは?」
うっせーわ。
「ヘルメットは1個しか無いから、藍那は梨花の後ろから抱きついてろ!」
「えっ? 1番後ろ? 久斗の後ろじゃなくて?」
俺はバイクにまたがってスタンドをはずす。
「梨花イイぞ」
「はい…、お邪魔します」
「ねぇ? 聞いてるの人の話?」
「梨花、俺の体に両手をまわして」
「こうですか?」
なんて色気のある声なんだよ……。
梨花は俺の腰に手をまわすと、身体と頭を預けてきた。
うわぁ……、背中に2つ……フニョ〜ンと柔らかい感触…。
これが……、異世界で3年間見続けたグラビア写真の実物かよ…。
ケタ外れの美貌とメリハリのハッキリした肉感的な身体。
「ねぇったら…久斗! ずるい〜…ねぇ……」
うっせーなー……。夢に何度も見た梨花の感触を堪能しているのに……。
「しかたねーな…」
俺は藍那の右腕を引っ張り、抱き寄せてから膝の上で抱える。
お姫様抱っこみたいな形だ。
「えっ……あっ……」
「藍那、両手を俺の首にかけろ…」
「う…うん……」
藍那はもじもじしながら、ゆっくり手をかけてきた。
「……久斗…」
「どうした?」
「私…、くさくない?」
藍那が不安げに尋ねてくる。
「大丈夫だ。それより、しっかり掴まっていろよ」
「分かった……」
藍那は頬を赤らめたまま、うつむいた。
うるさかったくせに、急にしおらしくなったよ。
「梨花も出発するけど大丈夫か?」
「はい久斗さん!」
俺はゆっくりと、スロットルを回した。