岩波大学附属高校
遠回りはしたけど、ゾンビと戦闘することなく、高校へ到着することができた。
バイクをアイテムフォルダへしまい、鋼の剣を構え校内へ入る。
ゾンビが多いな…。ほとんどがうちの生徒だが、スーツ姿のゾンビもいる。あれは現文の斉木じゃないか……。
靴に隠蔽魔法を掛けてあるため、どのゾンビも俺の存在に気が付かない。
どうやらこの世界のゾンビは目が見えず、音だけに反応するらしい。逆に音さえしなければ人間の存在に気が付かないみたいだ。
校舎を4階まで上がろうとすると、3階から4階へ登る途中の踊り場に、2m程の高さのバリケードが構築されていた。
誰だか無事に生き延びていそうだな。
俺は身体強化の魔法を掛け、バリケードを跳び越える。
さあ、誰がいるか……。
あっちの教室で声が聞こえた。
ここだな……、おい…カギがかかってる。
俺は解錠と隠蔽の魔法を扉へ掛け、扉を開いた。
「いつも凄くカッコイイ……、あいつは絶対頭もイイはず……」
イキナリのビンゴ…、藍那の声だ。きっと原田の話でもしているのだろう……。
俺は教室に入りながら周りを見渡す。
幼馴染でミス岩波附属の和泉藍那、その隣りには……、グラビアアイドルの緒方梨花が窓側の壁に寄りかかっていた。
「藍那…、それに緒方…」
「ウソ……ひっ…久斗!」
クソッ……、藍那の顔を見てカワイイって思ってしまった…。
「浜崎サン!」
緒方梨花はセミロングの髪をかきあげ、笑顔を見せる。
ホントこんなときでも色っぽいな……。
「2人とも久しぶりだな……」
「緒方さん……私…幻が……見えるみたい…」
「私も目の前に浜崎サンが……」
「死ぬんだね…私達……」
「おいおい、何言ってんだ? 藍那! 緒方! 俺は現実だぞ」
「だってずっとずっと……探したんだよ……どこにも見つからなくて……」
「浜崎さんの目撃情報もゼロでしたから、誘拐なんてされるはず無いですし……」
「悪いな。ちょっと異世界にな」
「浜崎サン…ホントに浜崎サン? そんなウソ……」
「ああ、グラドルの緒方。別に冗談のつもりでボケている訳じゃない」
「久斗! 久斗!」
藍那が泣きながら俺の名を連呼し、抱きついてきた。
「おいおい藍那…」
俺は原田じゃないっつうの……。
「浜崎さん!」
緒方まで泣きながら、反対側に抱きついて来る。2人共ヤツレテるし、大分マイッテいたのだな。
「そろそろ落ち付いたか?」
「うん……」
「はい……」
空の500mlペットボトルと封の空いたカ◯リーメイトが転がって見える。
俺は魔導具で冷蔵能力がある水筒と、グラス2個をアイテムフォルダから取り出す。
冷えた水をグラスへ注ぎ、2人へ手渡した。
「おいしい…」
「すごく冷えてます〜」
藍那も緒方も瞬く間に飲み干す。よっぽど喉が渇いていたんだな…。
当然お腹も空いているのだろう……。
アイテムボックスからタルティ、塩と胡椒で味付けされた鳥肉を、クレープみたいな生地で巻いた異世界の食べ物を、2つ取り出して手渡した。
「温かいけど……、いいの食べて?」
「もちろん、緒方もどうぞ」
「ありがとうございます」
藍那も緒方も無言で食べ始めた。
2人が食べ終わるのを見とどけてから、話しを聞きだす。
彼女らの話によれば、このゾンビ騒ぎは、外国からのミサイルが23区内に落ちてから始まったらしい。どうやら何らかの化学兵器が使われたらしく、既に初めてのミサイル攻撃から1週間が経過したということだ。
ゾンビ菌が開発されているとは……。
藍那と緒方は男共に監禁されていたらしく、この2日間は1日でペットボトル1本とカ◯リーメイト1袋だけで過ごしたそうだ。
2人で500mlを1本だけなんて、危うく脱水症状で死ぬところだろ……。
どうやら男共は、ミス岩波の藍那とグラドルの緒方から、自発的に女として奉仕させたかったらしい。
無理矢理だったら、とっくに毒牙にかかっていただろう。
「ねぇ久斗、早く逃げないとアイツらが来ちゃう……」
「そうです、武道を習っていたらしく他の男の子達もたくさん殴られて……」
ほぉ……、何かテンプレ的展開が予想できるのだが……。
来た来たよ、ワクワク…、足跡が近づいて来ている。
「もう我慢できねっすよ〜。早く梨花ちゃんの胸揉みて〜わ」
「俺は藍那ちゃんにタップリと音たててしてもらうぞ〜」
「やっぱひざまずかせて、奉仕してもらわね〜とな〜。ポニーテール掴んで無理矢理もいいけどよ〜」
最低なセリフが聞こえてきて、藍那も緒方も青ざめ始めた。
「オイ、おかしいぞ。鍵がしまってね〜」
ガラガラガラ……。入ってきたのは同じ高2の落ちこぼれ3人組。高1の頃から一月経つ毎に髪が茶髪化していってたな。
「誰だテメーって、テニスの浜崎じゃねぇか?」
「何でテメーがいる?」
「どうやって入りやがった?」
「何だ…落ちこぼれ3人組かよ……」
「ぶっ殺すぞテメー!」
「まずいよ久斗……」
「浜崎さん……」
「大丈夫だ藍那・緒方、こんな奴ら余裕だ余裕」
ダテに異世界で命のやり取りをしてた訳じゃない。3年間、剣術だけでなく体術も鍛えてきたしな。
「ずいぶん余裕じゃねぇか、テニス野郎!」
「待て。ここは俺のテコンドーでシバイテやるよ」
「じゃあ、坂本さん頼むわ」
体の大きな茶髪野郎が前に出てきた。
「坂本だか橋本だか知らねーけど、さっさとかかってきな!」
「ふざけんなてめぇー! オラァ!」
アクビが出そうな蹴り、それもイキナリ上段狙いとは…。
思わず軸足の膝へ蹴りを入れてしまう。
「ウギャア!」
坂本は足を抱えて転げ回った。
やっぱ現実世界はぬるいな。軽く蹴ったつもりが、足があらぬ方向に曲がっている。
「テメー!」
残りの2人は、隠していた警棒を取り出し襲いかかってきた。
右の拳をワンパン鳩尾へ。もう1人は足を払って転びかけたところを、同じく鳩尾へ蹴りをぶち込んだ。
「「オエー!オエー!」」
「凄いです浜崎さん!」
「久斗……」
さて、懲罰タイムと行こうか?
「ちょっと懲らしめるから2人とも廊下で待っていられるか? あんまりこういうのを見られるのもな…」
「分かったわ…」
「浜崎さん気をつけて下さい…」
2人が出ていったのを見とどけてから…、
「さぁ、殺しちゃってイイんだっけ?」
「ヒィィー……」
可哀相だから、3人共両膝両肘を折るだけにトドメといた。泣きわめいていたけど…。
それから奥の教室へ行くと、服の乱れた女子が3人倒れている部屋、顔を腫らした男子6人が座る部屋が見つかった。
いずれも知った顔はいない。藍那の大事な原田君も見あたらないな。
「大丈夫か?」
「……」
返事が帰って来ない。
あれ? 男子用の体操服を着ていたから気が付かなったけど、うちのマネージャーがいるじゃん。
「マネージャー?」
「浜崎セン…パ…?」
「やっぱりマネージャーだ。なぜ男用の……、そうか……」
「長いこと何処へ行っていたのですか? 夏の大会終わっちゃいましたよ……」
みるみる内に破顔し、泣き出した。
一宮汐里150cmBカップで1コ下の16歳。ちなみにBカップは鑑定情報。
俺と同じ中学で中学生の頃からテニス部マネージャーを務めてくれていた。
黒髪のショートカット。自分のことは僕と呼ぶ、僕ッ娘だ。
男子の体操服を着ていたということは、他の女子生徒みたいにならないようにだろう。
本当に機転が効く賢い娘だ。
ショートカットだからあいつらも気が付かなかったのか…、良く見るとカワイイ顔をしているのに…。
あああ、顔が腫れてる……。アイツらマネージャーまで殴りやがって……。
俺は彼女を隣の教室へ連れ出し、ポーションを飲ませる。
他の男子達は殴られたキズぐらい我慢だよな。
「おかげ様で不思議と痛いのが収まりました」と笑顔を見せた。
一宮は、この笑顔のタレ目ちゃんがカワイイんだよね。
みんな死ぬような状態じゃないが、女子生徒だけが酷く怯えている。きっと奴ら3人のせいだろう。
俺はアイテムBOXから精神安定薬を取り出し、3人の女子生徒へ飲ませた。この薬は1本飲むだけでも結構効く奴で、異世界で精神病患者が居なかったのはこの薬のおかげだそうだ。
ところで、奴らを懲らしめておいたからと説明すると、男達は3人の所へ向かった。
ベランダの方へ担いで行っていたから、想像通りだと思う。
蒔いた種は刈り取るんだね。
非常食として、カ◯リーメイトやリッツ、カンパンが何百食とあった。水も何十ケースも見られる。
まだまだ非常食は屋上倉庫にあるらしく、しばらくは生活する上では困らないとのことだった。
さて、今後の方向性を決めないとな……。
「緒方はどうする? それにマネージャーも? 俺は自分の家にとりあえず帰るつもりけど?」
「私は浜崎さんについていきたいです……」
真っ先にグラドルの緒方梨花が返答した。
「分かった緒方、宜しくな…」
「久斗の家に行ってどうするの? ここになら非常食がまだまだあるし…」
別に藍那のことは誘っていないぞ……。
「じゃあ、藍那とはお別れだな」
「ッ…。そうすぐに結論出さなくても……」
「原田のこと待ってんだろ?」
「何で原田クンのことが出てくるのよ?」
「別に…」
「……」
「マネージャー? 一宮はどうする?」
「ボッ……ボクは……」
隣にいた男子生徒が一宮の腕を掴んだ。そう言えば、幼馴染が同じクラスにいるって話していたな。
彼がその幼馴染なのだろう…。
「一宮?」
「ボッ…ボクは…、ヤ……ヤメておきます……」
「分かったよマネージャー…。また近いうちに様子を見にくる。それまで気をつけてな……」
「せっかく先輩が誘ってくれたのに……、ごめんなさい……」
「気にしなくてイイぞ。じゃあそろそろ緒方行こうか?」
「ねぇちょっと私は?」
「でもその前に、私のことは梨花って呼んで欲しいです!」
「分かった…梨花…」
「私も久斗さんと呼んでもイイですか?」
「ああ、かまわないよ」
「ねぇ…ねぇってば……」
「何だよ藍那?」
「ちょっと待って私も行く。2人だけにしたら梨花さんがどうなるか……」
「別に大丈夫ですよ藍那さん?」
「そうだぞ、ここで原田のこと待っていればいいんじゃないか?」
「だから何で原田君が出てくるのよ?」
「藍那は原田ファンクラブの一員だろ?」
藍那は制服のスカートをギュッとつまむと、何度か唇を動かした後に言った。
「そっ…そうだけど……」
コイツの口から初めて聞けたわ…。内心そんなのウソだろって思っていた自分がいたが……、甘かったな俺は……。3年経ってるのに、藍那を完全に忘れられない俺ってスゲェダセェ……。
「やっぱりアイツのファンだったのか……」
「……」
藍那は目を閉じ、下唇をかんだ。
「それならアイツが迎えにくるって、信じてみれば?」
「……」
うるんだ目でこっちを見るなよ。
「行こうか梨花?」
「そうですね」
と梨花は笑顔を見せ、俺の左手に指を絡ませた。
「ねぇ…私も行くから久斗…」
何だよ…、泣きそうな顔をしやがって……。そんな表情に期待する自分が恥ずかしいわ……。
「原田って今どこに居そうなんだ?」
「……知らないわよそんなこと」
「あの日は恐らく……、原田先輩達サッカー部は岩波大で練習試合があったので、そちらにいるかと……」
うちの大学か……、そんなに遠くないな。
「ありがとうマネージャー。じゃあ藍那は岩波大まで連れて行ってやるよ」
「……」
「その代わりそれまで俺の言うことは聞くんだぞ?」
「わ…分かったわよ……」
「ところでアリシア先輩は?」
「先輩は岩波大の寮住まいなので、多分そこに……」
余計、岩波大には行かないとな…。
「ありがとな」
俺は残る生徒に別れを告げ、梨花の手を引き階段へと歩き出す。
「久斗さん、しばらくの間、お世話になりますね?」
梨花は視線をそらさぬまま、俺の瞳を真っ直ぐに覗き込みそう言った。
ヤバイよこれ。俺の顔、絶対赤いな。
「ねぇ…、私とも……手を……」
「何だって?」
藍那が頬をぷーっと膨らませる。
「そういう仕草は大好きな原田の前だけにしろよ」