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単発まとめ

傭兵考察――「すぐ裏切るし当てにならない」というけれど、それは本当だったのか?

作者: curuss

 まず傭兵の定義ですが――


『封建兵と徴用兵以外の全部』


 となるようです!(驚)


「え? それだと職業軍人も傭兵にならない?」


 と反問されそうですけれど――


 その通り。

 近世以前は職業軍人を傭兵に区分する場合もあった。

 それどころか他国や異民族ですら、金銭で参戦を依頼したら傭兵と見做したほど。


 だったりするから驚きです!

 これは現代の軍隊に適用すると――


 アメリカ軍や自衛隊などは、どちらも傭兵である。

 なぜなら『共同体に所属する義務からではなく、志願者の集まり。さらに、その対価で生計も立てている』から。

 いまだに徴兵制度を維持している韓国軍などは、徴用兵に区分される。

 なぜなら『共同体の義務として兵隊になっているのであり、それによって生計を立ててはいない』から。


 となります。

(あくまでも中世の感覚です。現代では、どれも国民軍に分類されます。念の為)



 こうなると「傭兵は当てにならない」を言い換えると――


「封建兵か徴用兵しか信用できない」


 であり、かなり非現実的な意見です。それだけでは国土防衛すら不可能でしょう。

 誰が言い出したんかなと調べてみれば――


「あっ……マキャヴェッリさんか(察し)」


 だったりも。

 実践では失敗ばかりだったじゃないですか、やだー。

 さらに、ちょうどその頃から国民軍という概念が台頭(マキャヴェッリさん発信?)してきて――

 

「傭兵とかだめぽ」


 がグローバルスタンダードになったようです。

 つまり、新しい概念である国民軍を上げるために、傭兵を下げた側面もありそう。

(そして後年の愛国心に依存する近代的徴兵制度にも反するため、さらに下げられた可能性が。ただし愛国心が発明されたのはナポレオンの時代)



 しかし、マキャヴェッリさんの指摘した「傭兵は当てにならない」ですけれど、的は射ています。

 ……伊達に『主張する理屈は常に正しい。理屈は』と称されていません!

 ローマ後期など頻繁だったそうなのですが、国境線沿いの紛争解決に現地の異民族を雇用したそうです。

 つまり――


 国土防衛戦を傭兵に頼った。それもコモンセンスの違う異民族に。


 な訳です。

 そりゃ問題起きますって!

 まず異民族側に『傭兵として雇用された認識』があったのか、疑問しかありません。

 もし相手がローマ皇帝と対等な立場での軍事同盟と考えていたら、戦後に揉めるのは必至でしょう。


ローマ「〇〇部族は安価な見返りで参戦してくれて、非常に助かったわい」

部族側「同盟に支度金を用意するなんて、ローマは金持ちだなぁ」


 戦争終結。大勝利。


ローマ「おつかれさーん。ギャラは渡してるし、もう帰っていいぜ?」

部族側「はぁ? これから分配の相談だろ? なに言ってんの?」

ローマ「傭兵に分け前なんてある訳ないだろ? ちゃんとお金払ったじゃん」

部族側「あぁん? 俺らを傭兵扱いすんの? てか、うちの戦士達は売り物じゃねえ」

ローマ「なんだよ? 戦争屋は大人しく戦争だけ売ってろよ、この蛮人が」

部族側「ふざけんな、糞ローマ! 納得いかねえ。この辺を報酬に貰うからな」

ローマ「どうして防衛戦で領土を割譲しなきゃならんのだ!」


 ……


マキャヴェッリさん「傭兵は当てにならNee!」


 な可能性あります。

 大まかに言って、このパターンで西ローマは没落したわけですし。

(もちろん部族側が、確信犯的にゴネている可能性も)

 ただ、この場合――


 本当に悪いのは傭兵側か?


 という疑問も生じます。

 ローマ側の見解を、一方的に主張しているだけですし。

 そして中国史などでは、頻繁に脈絡なく蛮族が同盟軍として参加してきますが――


 同じような金銭契約だったのでは?


 と思わなくもないです。

 つまり全世界的に金銭での軍団雇用が当たり前だった?

(戦後に裏切られるところまでセットで!)


 でも、これって現代の我々が口にする「傭兵は裏切る」とニュアンスは違う気も?



 ここで話を横へ。

 調べているうちに行き当った「傭兵軍団がいると助かる」現実的な理由を。

 別件の考察で述べましたが――


 安定して徴用できるのは人口の5%程度。

 傾国の勢いで召集すればMAX10%なものの、指揮系統が足らなくて麻痺状態ともなる。


 だったりします。

 つまり人口10万の領主は、最大でも5千人程度の軍勢しか興せない。これ以上の無理をしても厳しいだけ。

 しかし、どうしても限界以上の兵数が欲しい時など、非常に困ることに。

 ですが傭兵なら、指揮系統とセットで集められます(当然、敵側も同じ選択は可能ですが)

 この即時対応性――下手したら徴用より早く数を揃えられるのは、他の仕組みにはない利点でしょう。

 唯一対抗できそうな常備軍は、規模を維持するのが厳しいですし。

 この辺に近世まで傭兵の廃れなかった理由があるのかも?



 また世界的に工兵や諜報兵も、傭兵が多かったようです。

 考えてみれば当たり前の話で、攻城兵器の運用に特化した人材の雇用なんて維持できません。

 そもそも常備軍すら存在しない場合があるのに、ニッチな工兵だけは常雇なんてあり得ないでしょう。

 しかし、専門家でなくては務まらないのも明らかです。

 専業のプロしか扱えないものや製作できないものだからこそ、攻城という大事業を成し遂げられるんですから。

 結果、工兵は特殊技術者として、戦争単位で雇用されるようになります。

(太古の場合、強力な王や貴族のみ、食客として抱えていた模様)



 諜報兵も外注や私兵が多かったのは、日本の忍者などが証明しています。

 ただ、『武力』や『スパイ活動』、『斥候』、『デマ情報の拡散』……と色々な商品を取り扱っていたのではなく、それらは個別の集団だった。

 もし同時に商っていた場合でも、個人個人は得意分野が決まっていたようです。

 なにが言いたいかというと『武力』で戦争に助力し、『斥候』として隠密行動も得意で、時には変装などをしながら『スパイ活動』もする――つまりは一人何役もこなすスーパーマンとしての『NINJA』は存在しなかったということです。

 ようするに『武力』を商う忍者は『武力』専門で、世界的には傭兵と見做されると思います。

 実在の忍者に多いのはこの傭兵タイプで、伝説的なスパイ活動に従事していた方は……歴史の闇に埋もれて?



 さらに横へ。

 すでに述べた「徴用兵より傭兵の方が強い」の論拠提示を。


 まず徴用兵を考えます。

 数年と期間を定めた徴兵制度は近世に入ってからですし、当時は職業軍人を傭兵と見做していました。

 つまり、徴用兵は農民など一般人から募られる訳です。


 ここで15歳から35歳までの健康な男子が、戦争の度に徴兵されるとします。

 男女で半分、さらに男でも適切な人材は半分とし、おおよそ25%が対象としましょう。

 この25%で全人口の5%に達する軍隊を作るのですから、「健康な男子の5人に1人が徴兵当番」となります。


 言い換えたら「5年ごとに1回の出兵」とも。

 そして15歳から35歳まで20年ありますから、生涯で4回の従軍となります。


 ですが、これは毎年の場合。

 仮に2年で1回のペースだったとすると、生涯では2回!

(もちろん逆に、年複数回な可能性もある)


 つまり歴戦の徴用兵と考えても――

「基本的に素人扱いで、3~4回ほど従軍した」

 だけです。

(史実には仕官を求められるほど強い徴用兵もいたようです。ただ、ここでは特殊個体として除外します)


 対するに傭兵側は15歳から参戦したとして、毎年二回ほど戦場を渡り歩くと……2年目が終わる頃――17歳になった頃には、歴戦の徴用兵よりキャリアを積んだことになります(従軍4回)


 これでは比較にもなりません。

 オリンピックのたびに触発されてスポーツを始める素人と、高校三年間をガチの運動部で過ごした子を比べるようなものです。

 ……より熟達した場合は、大学そしてプロとキャリアを積み続けた場合に匹敵しますし。

 これで殺人経験の有無にまで言及すると、もう天と地の差となるでしょう。

 まさに農民兵などは――

「カカシですな(だらしない先生じゃない方)」

 扱いと思われます。



 さらにさらに横へ。


 どうも中世の徴用兵だろうと愛国心は持っていたと信じられているようですが、歴史的にみてあり得ません。

 なぜなら庶民レベルで国という概念が浸透したのは、18世紀以降だから。

 そもそも大半の民衆が国の名前すら知らないのに、愛国心なんて持てる訳がありませんし。


 また、去年はA国の徴用兵としてB国へ攻め入り、今年はB国に徴用されA国へなども日常茶飯事だったのですから、愛国心は持っていても邪魔なだけでしょう。


 つまり、最も戦争の勝敗に興味がないのは、徴用兵といえます。

 勝敗で対価は変わらず、支配者階級にも忠誠を感じていないのですから。

 考えてることを要約したら――


「故郷が戦禍を免れ、自分は五体満足で帰れればOK。どちらが勝っても関係ないし」


 でしょう。

 これ以上に複雑なことは、知力以前の問題で情報が足りません。

 ようするに――


「敵の大将は名君という噂。ここは負けた方が、オラたちに利益あるのでは?」


 なんて判断できないということです。

 ましてや――


「今回の〇〇国は因縁の相手! 絶対に負けられない!」


 などとも発想できません。

 当時の農民にとって自分達以外は全て敵も同然で、地続きだった大陸でですら、外国人は妖怪扱いだったんですから。


 まあ、運のよい奴――知っている奴なら、「侵略戦争で勝つとフィーバータイムがある!」と興奮しているかもしれませんが(苦笑)


 一応は親の親の代ぐらいから同じ領主一族に支配され続けていると、少しは忠誠心も育っている……かも?

(農民が自国の王様を認識できていたか、甚だ疑問です。下手したら偉い人の偉い人の偉い人だったりですし? ましてや毎年変わる様な地域では、名前を知ることすら難しいでしょう)



 ……徴用兵はここまでとし、次は封建兵について。


 封建兵は日本でいうところの侍、ヨーロッパでいうところの騎士などで、通常とは契約の違う傭兵や常備兵と見做せます。

 つまり――


 君主の身代わりや絶望的な特攻なども業務に含む終身雇用


 です。

 代価として――


 給金としての金銭または領地

 日常的なカースト上位の立場

 自動的で拒否権のない縁故採用枠


 を貰えます。

 また、より高い立場だったりすると兵力の常備や育成、各種内政なども業務に。


 ……やけにドライと悲しまれるかもしれませんが、これが真実です。

 武士道や騎士道は、どちらも絶滅してからの創作なので、彼らが現役だった頃は存在すらしてません。

(でなければ下剋上なんてありえませんし!)


 現代で例えるのなら終身雇用の約束された正社員……でしょうか? 対するに傭兵は不正規の派遣さんです。


 そして今回テーマの「傭兵は逃げたり裏切ったりする」から逆に考えて――


「なら封建兵は逃げたり裏切ったりしなかったのか?」


 に注目したいと思います。

 ……うん?

 いや逃げました! 超逃げました!

 封建兵だから逃げないとか、ファンタジーです! そんな兵隊は逆に凄く困ります!(苦笑)

 絶対逃げない兵隊を仮定すると――


 劣勢に置かれたら、必ず全滅


 です!

 どんな種類の兵隊だろうと、戦場へ連れてきた段階で相当な経費が掛かっています。勝手に全滅されたら、大赤字です!

 なのに必ず死ぬまで戦うようでは、全く当てになりません!

 もちろん逃げてばかりでは困りますし、死守して欲しい場合もありますが……基本的には、自発的に全滅を回避してくれないと困ります!


「だとしても傭兵の方が逃げやすかったのだ」


 などと反論されそうですが、歴史的に有名なるような『全滅と引き換えの戦果』で傭兵隊が主役のこともあります。

(もちろんケースバイケース。封建兵が捨て駒を引き受ける場合もある)

 この理由に関しては後述するとし、ここでは――


 傭兵でも死ぬまで戦った例はあるし、それは少なくもない


 としておきます。



 次に封建兵なら裏切らないかですが、残念ながら封建兵でも裏切ります。

 むしろ歴史的には傭兵が裏切った事例より多いくらいでしょう。

 なぜなら――


 裏切られて困る立場へ、そうそう傭兵は配置されない


 からです。

 いわれてみれば当たり前の話で、重要で裏切られたら困る場所には、信用できる部下を置くべきでしょう。

 そうしなかったのであれば、傭兵は裏切る云々の前に色々と基本から考え直すべきで、裏切られなくても負けていたと思います。


 さらに重要なポジションだからこそ寝返り工作の対象となり……つまり、それは封建兵となります。最も効果的ですし。


 では傭兵は裏切らないかというと、そんなこともなかったのですが……とある理由で非常に少なかったと思われます。

 それは後述しますが、まあ事例はある模様。


 おそらく歴史的にみて最も裏切らなかったのは、徴用兵でしょう。システム的に不可能ですし(逃散的な一斉逃亡は可能?)

 ……この点で発展型な国民軍が重視された可能性すら。



 そして傭兵は意外と裏切らなかった理由を説明したいのですが……先に種類を分けてしまおうと思います。

 なんというか――


 あまりにも傭兵に区分されるのが多すぎて、全部を同じに扱うのは無理!


 に思えます(苦笑)



 まずAランク!

 彼らは練度が高く勇猛果敢。信頼に足る職業意識もあり、裏切ることも非常に稀です。

 「そんな傭兵がいるのか?」と疑われそうですが、彼らは実在しました。そして現在なおも活動し続けています。

 また非常に明確な特徴を持っており、知っていれば簡単に見分けることが可能です。それは――


『母体として本拠地を持っている』


 かどうか。

 実在した例でいうと『スイス人傭兵』や『グルカ兵』、日本の忍者などがこれにあたります。

 我々日本人にはピンときませんが、イタリアの小王国では国家事業だったことも多いそうです。

 ……もしかしたら戦国時代の国人衆など実情が近いかも?


 そしてAランク傭兵が特別な人の集団だったというより、『封建兵や徴用兵とは違う事情を抱えていたから、頑張れる場所やタイミングが違う』と考えるべきです。


 例えば1527年のローマ劫掠でローマ教皇を護衛していたスイス人傭兵は、189人中147人が戦死の激戦を。

 おそらく契約の代価としては当時の感覚でも十分以上で、もっと早くに逃亡か降伏しても批判はされなかったでしょう。

 そもそもローマ教皇側の負け戦であり、封建兵の立場で考えても無駄死でしかありません。

 すでに評判の高かったスイス人傭兵部隊としては、当たり前だったのかもしれませんが……やはり、特別な動機も必要に思えます。


 この奮戦が理由で500年後の現在も、バチカンを守っているのはスイス人傭兵だったり!?

 そもそも1505年にローマ教皇の強い希望で、当代最強と目されていたスイス人傭兵部隊が教皇領常備軍に採用され、けっこうな設立資金が必要だったといいます。

 これは――


「やっぱり傭兵はスイス人に限るな! 強いし裏切らん!」


 との評判があったのでしょう。

 また教皇側だったフランスも、スイス人傭兵を重用していたといいます。

(反面、ドイツ側のウケは悪かった? 要調査)

 この辺の事情から逆算するとローマ劫掠で――


 スイス人傭兵部隊は全滅しようとも、継戦するつもりだった


 ように思えます。

 なぜなら彼らの後を、スイスにいる後輩たちが続いてくれるから。

 本拠地を持つ傭兵軍団にとって――


「あいつらは、すぐに逃げる」

「弱い。まるで役に立たないほど」

「簡単に裏切る」


 のような評判は、絶対に避けねばなりません。

 なぜなら次の世代が、そして次の次の世代が困るから。

 どうして傭兵なんてしているかといえば、故郷が貧しい上に男達の命ぐらいしか輸出できないからです。

 悪評が根強く残ってしまったら、故郷は困ります。他に生活を立てる術もありませんし。

 もし自分が原因だったら、二度と故郷へは戻れません。

 つまり――


 余生は妖怪の国(がいこく)


 そんな彼らを裏切らせるのに、多少の金銭程度では不可能です。魂と同等の代価が必要でしょう。

 逆に――


「絶対に裏切らない」

「勇猛果敢」

「強い」


 などの評判は自分達はもちろん、後輩達をも救います。

 貴重で得難い戦力と思われれば重宝してくれますし、多少は不満であろうと高い賃金も払って貰えます。

 そして勇名は営業にも影響し、向こうから仕事がくるようになれば勝ったも同然!

 事実として教皇警護は逆指名された仕事ですし、奮闘に感激した顧客は500年間も愛顧し続けてくれます(途切れ途切れではありますが)



 また現在のグルカ兵が、中世のスイス人傭兵部隊と似たような感じです。

 そもそもネパール人がイギリス人に雇われた兵隊さんで、旧植民地時代の紛争を発端とする兵力の現地召集だったようですが……現地ネパールの平均収入に比べると、グルカ兵の給金は比べ物にならない()()

 おそらくネパール男子が憧れる高給取りな商売と思われます。

 そして恵まれた身体と資質を持ったネパール男子だけをリクルートしていて……もう、これだけで脅威的です。

(一国の目ぼしい人材を、子供の頃に青田刈り! グットスタッフにならない訳がありません!)

 当然、戦場で不名誉なことをすれば故国へ迷惑をかけることになり、場合によっては二度と戻れません。

 下手な騎士や侍より、その辺は厳格といえるでしょう。

 逆に、例え全滅しようとも……それで勇名を馳せれば、次代へ繋ぐことができます。

(この辺が傭兵の――『勝敗よりも評判の方が重要な軍隊』の特徴かもしれません)


 つまり、資質も士気も十二分です!

 伊達に世界最強と推されてはいませんでした。ロマンではなく、システムの裏付けがあったのです。


 余談ですが退役グルカ兵が集まって民間軍事会社を経営しているらしく、おそらく現存する世界最強の傭兵といえます(グルカ兵そのものは、イギリス支配下にあるため)

 この社員は一般ネパール人の10数倍稼ぐそうなので、相当な花形商売のようです。

(年収1万2000ドル=150万円前後だが、日本の価値に換算すると年収4000万円クラス)



 織田信長は『伊賀攻め』で大火傷をしましたが……それもそのはず。

 『忍者=傭兵。それもAランクの』説が正しいとすると、戦術レベルでは強力なAクラス傭兵本拠地との戦争です。

 たった一回の負けで済んだのは、幸運を神に感謝するべきかも?



 さらに余談となりますが――

 『抜け忍』というシステムも、単に『敵前逃亡した兵隊』と考えたら納得できたり。

 古来より敵前逃亡は死罪でしたし、地域ぐるみで傭兵稼業をしていたら『最も許されざる大罪』とされた可能性が!

 そして『草』というのも……色々な理由で里へ戻れなくなったり、でなくとも普通に婿や嫁へ出た親戚と考えられなくも?

 つまり――


 関東で忍者――傭兵稼業を営むイソノ家は、大阪で就職した――抜けたノリスケ叔父さんと今も親交がある。

 元忍者なノリスケ叔父さんも判ったもので、時事の便りで『忍者に役立つ情報』をイソノ家へ。


 というイメージです。

 地方へ行った親戚と付き合いが続くことは珍しくありませんし……なんかの拍子に抜けた忍者が、代償として現地諜報員となった可能性もあります。

 なぜなら普通に考えて忍者同士は、苦楽を共にした戦友なんですから。

 やはり『抜忍、絶対殺すべし』や『未来永劫、上忍様の命令厳守。もちろん無報酬で』はナンセンス過ぎます。

 意味不明なまでに滅私奉公で封建的なシステムより、よほど説得力があるような?(忍者の里は共和政を敷いていたという研究報告もあります)



 ……閑話休題。



 こんなAクラス傭兵でも裏切る――というか、暴れるパターンがある!

 の前に、先にBクラスの定義を。

 Bクラスは――


『本拠地こそないが集団として統率されていて、統一された目的意識もある』


 です。

 創作でアレですが漫画『ベルセルク』に登場した傭兵団『鷹の団』はBクラスといえます。

 なぜなら――


・グリフィスをリーダーとして統制がとれている

・いつか成り上がる――グリフィスが領主か何かになるのを切望している


 からです。

 後述するCクラスと非常に区別は難しいですが――


・グリフィスが困るような裏切りや逃亡はしない

・成り上がりに悪影響となるような問題行動も避ける

・場合によっては命懸けで仲間を生かすことも


 と規律が見受けられます。

 しかし、これでは漫画『ベルセルク』を読んでない人に伝わりません。なので、別の例でいうと――

 そこそこ大きな『浪人とその一族郎党』集団でしょうか?

 色んな人物に当たるはずですが、有名どころだと明智光秀とか……かな?

 1556年に明智城陥落で浪人化、以後は一族郎党を引き連れて流離うわけですが……この一族郎党というのが曲者でしょう。

 何だかありとあらゆる人物像を思い浮かべてしまいますけれど、あくまでも武家の一族郎党です。

 女性はともかく……男子は全員が戦闘員か、その予備軍。

 義理立てして付いてきてくれた使用人も、武家の話ですから……現代の感覚だと兵隊です。

 ようするに引き連れて歩いているのは、武装集団としか言いようがありません。


 そして浪人となって困った光秀は縁故を頼って朝倉義景に仕えたり、足利義秋の幕臣になったり、なぜか信長の命令を聞いたり、それでいて正式に信長の家臣となるのは遅かったり……

 ちと封建兵としては軽すぎないでしょうか?

 これが本拠地を持っていない傭兵というのであれば、話は理解しやすいのですが。


 光秀の場合は詳しい人に怒られそう。

 より実態が傭兵に近い蜂須賀小六の方は、かろうじて本拠地を持つAクラス?

 実際に大名の同盟相手としては軽すぎ、かといって家臣として扱うには問題があり、それでいながら旗下へ加えたくなる武装勢力も多かったようです。

 つまりは傭兵と見做すしかなく、褒賞も金銭が常だったとか。

 また『陣借り』という傭兵を押し売りする制度も日本にはありました。



 次はCクラスとなりますが、これが一般的な傭兵団のイメージだと思われます。

 特徴は少なく――


『集団を構成している』


 だけです。

 また外見からBクラスとの区別は難しいでしょう。

 イメージ的には、漫画『ベルセルク』で主人公ガッツが子供の頃にいた傭兵団? 小説『傭兵ピエール』なども史実に即していたとか。

 さらなる特徴を挙げるのであれば――


『団長以下、全員がノーフューチャー』


 でしょうか?

 全員が傭兵稼業に将来性を感じていないか、将来を考える能力がないかです。

 つまり、団長ですら――


「早いところ傭兵なんて危ない仕事は辞めて、なにか堅い仕事を……」


 と考えています!

 もしくは――


「嗚呼、今日も酒が上手い!」


 でしょうか?

 しかし、これを笑うことはできません。現代の我々も似たようなケースに陥りがちです。


「こんな会社、一日でも早く辞めないと()()。将来性は全くないし、若さを使い潰されるだけ。転職できる元気があるうちに動かなきゃ……でも、辞めたら生活費に困るし……」


 みたいな?

 辛いとか危険だから辞めたいではなく、『明確にバッドエンドな将来が見えているから』というのが悲しいところ。

 また、このことから宿命的に――


 金銭の誘惑に弱い! それも非常に!


 といえるでしょう。

 個人レベルなら『引退しても困らない程度の金』を積めば、即座に裏切るはずです。

 べつに裏切ったところで故郷へ帰れなくなったりしません。Aランク傭兵とは事情が違います。

 ただ、これを非難するのはやや一方的でしょう。

 もしブラックな糞会社に勤めていて――


「御社の顧客情報リストと引き換えに200万円あげる」


 と言われたら、転ぶ人は多いと思います。

 会社は辞めなきゃならなくなりますが、そもそも退職したかったのでノーダメージ。貰えないはずの退職金に色が付くなら万々歳でしょう。


 ……一番の問題は、経営者である傭兵団団長も()()なことかも(苦笑)



 しかし、このAからCクラスですが、通常の意味では裏切らなかったと思われます。

 ……ジリ貧ブラックなCクラスを含めてです。

 なぜなら傭兵稼業を継続するにあたり、露骨で申し開きのできない裏切り行為をすると――


 次から雇って貰えなくなるからです!


 その辺は現代のブラック企業と大差ありません。

 心の奥底から辞めなければと思っていても、いきなり倒産されたら路頭に迷ってしまいます。

 そして一度でも裏切れば、もう誰も雇ってくれないだけでなく――


 下手したら団員全員が賞金首のお尋ね者


 でしょう。

 次の戦争を始める前に当事者へ引き渡されるまであります。


 色々な理由で手抜きもしたと思います。少し早く逃げ出したりもあったでしょう。嘘かホントか敵方の傭兵とヤラセをしたケースもあるとか。

 それでも全く申し開きできない裏切り行為は少なかったはずです。

 なぜなら傭兵団として成立できなくなるから。そして史実に傭兵団は存在しています。


 ちなみに、ここで念頭にしている申し開きができない裏切り行為とは――


・昨日までの敵に雇われる(契約後、ギャラを理由に寝返り)

・朝起きたらいない。完全なる敵前逃亡(もちろん契約中で。更新期は除く)

・敵と通じて、作戦中に背任する


 などです。



 しかし、Cクラスなら相応の金――全員でなくとも傭兵団団長を買収に足るだけの金額を積めば、容易に転んだと思われます。

 包囲戦の最中に城門を開けておく程度なら、十二分にあり得たかも?

(よくあるパターン? 裏切った団長と全滅する傭兵団。生き残った主人公は復讐を誓い……)


 Bクラスの場合もアキレス腱が残っていて――

 リーダーの任官などを条件とすれば、それで折り合いがついてしまいます。

 つまり浪人と一族郎党であれば、領地を与え召し抱えるなどです。

 ……まあ、それが悲願の集団であれば、どうしょうもない?


 Aクラスは裏切りというより……コモンセンスの違いが激しかったようです。

 どちらの立場で考えるかによって、裏切った側が変わることすら?



 また調べていて判明したのですが、ほぼ全ての傭兵が裏切る――というか、暴れるケースが存在しました。

 それは――


 終戦で解雇した場合です! 特に負け側!


 戦争が終わったら傭兵から盗賊へ転職などと、様々な文献で目にしましたが……驚くべきことにスイス人傭兵部隊ですら、帰国のついでに村々を襲ったケースがあるとか!


 まあ、戦争なんてある日いきなり終結するんですから、誰にとっても突然ではあります。

 その日暮らしな傭兵たちにとって、勝ち側で少しは報酬金などあったのならともかく……負け側での解雇は、死刑宣告にも近かったでしょう。

 そして暴力以外で生活の糧を得る方法を知らないんですから、そりゃ盗賊にでもなるしかありません。

 もはや必然の流れですらあり、当時の支配者層は対処するべきなんですが……上流階級は傭兵を蔑むくせに、何ら手を打っていなかったりも。



 「朝になったら陽が昇るように、冬になったら寒くなるように……傭兵は解雇したら村を襲って暴れる。困ったものだ」程度の認識だった?

 また、当時の人は問題と認識していなかった可能性も否めません。

 なぜなら現行犯でもなければ、襲撃が解雇された傭兵団よるものか判らないから。

 そして何とでも申し開きはできます。

 目撃者を残さなければ良いのですし、いたところで「よく似た奴もいたものだ」と強弁すれば終わりです。

 今後の傭兵活動にも大きな問題とはならないでしょう。

 また道義的には裏切り行為であっても、軍を離れてからの犯行です。傭兵側は裏切りと考えていない可能性すら。



 そして逆説的に、解雇されるまでは傭兵たちも大人しかったというか――職務に忠実だったようです。

 ……この辺はブラック企業の社員さんも、給料が支払われ続ける限りは働いちゃうようなもの?


 それに侵略側&勝ち戦だったりすると、最も有能なのは傭兵だった可能性が高いです。

 侵略ですから勝利には略奪がセットでついてきます。

 戦争のプロということは、略奪のプロでもありますから……最も熱が入ったことでしょう。傭兵という職業的に考えたらボーナスか退職金なんですから。



 最後にDランクを。これは非常に簡単で――


『単独で傭兵を名乗っている』


 です。

 落ちぶれ領地もなくした騎士や貴族、上級戦士階級であっても次男坊などの部屋住み、元A~Cランクの傭兵、目的は戦場働き、敵方の密偵など……雑多な人種がいたようです。

 日本人の感覚だと「そんな奴らいたのか?」と思ってしまいそうですが、本邦でも普通のことでした。

 有名なパターンでいうと……関ケ原の合戦で豊臣方へ参陣した浪人達は、個人参加だとDランク傭兵に相当します(普通に一族郎党を率いてきた場合、それはAランクと考えるべき)

 はっきりいって『どこの馬の骨とも知れない個人』など、戦争においては邪魔なだけでしょう。全く当てになりそうもありません。

 しかし、断ったら敵方へいってしまいます。

 なので兵糧ぐらいは支給することにして、とりあえずの編成をしたようです。

 これに近い制度の『陣借り』は手弁当での参加、報酬は出来高払いの確約無しだったとか(とはいえ日本のことですから、勝てばそれなりに――駄賃程度は支給したと思われます)


 ……正直、Dランクは傭兵に分類するべきか悩んだりも。



 そして考えるべきことは、まだ残っています! それは――


「どこから裏切りと見做すべきか?」


 です!

 調査中に判明したんですが、布陣および開戦後に裏切るパターン――つまり戦闘中に裏返るパターンを、史実で確認できませんでした!(作者の調査範囲では)


 例えば関ケ原の合戦では『小早川秀秋は豊臣方として布陣してから、戦場で徳川家康へ裏切った』が長く定説となっています。

 戦場についてなおも葛藤する秀秋へ家康は鉄砲を撃ち込ませ、最終決定を促したというのは有名でしょう(『問鉄砲』の逸話)


 しかし、これは後世の創作と断定されてます。

 というか「開戦前から小早川は裏切っていた。どころか関ケ原の戦いはあっという間に決着。そもそも関ケ原で戦ってない可能性すら」なんてのが最新の研究ですし。


 また、素朴な疑問も生まれます。

「そもそも戦場で布陣してから、しかも開戦後に敵味方を変えられるか?」

 ……考えれば考えれるほど、難易度ウルトラCの離れ業に思えなくも。


 戦いの始まる前なら判りやすいでしょう。単純に相手側へ布陣し直せばいいわけですから。

 一般兵士も――

「ああ、俺達はこっちへ味方することになったのか」

 と理解してくれるはずです。

 でも――


 いきなり号令に合わせて反転。一糸乱れずに敵と味方を逆に――自分達だけでなく、相手も。


 ……これ、できるんでしょうか?

 例えば事前に頼んだとしても――


「No! 絶対にNo! そんなことしたら死ぬ!」


 と断られるんじゃないでしょうか?

 同様に戦闘中――


「こっちが負けそうだから、いまから俺達はそっちに付く!」


 なんてのも不可能でしょう。

 それが可能なのは、一旦落ち着いてから。

 場合によっては罠と考えられたり、不快に思われたりで上手くいきそうにありません。バレたら内通の罪で死刑ですし。

(基本的に相手から持ち掛けられない限り、傭兵が裏切るのは難しそうです)



 なので裏切るタイミングというのは――


 『戦争が始まる前』と『膠着して休戦状態になった場合』


 の二つだけに思えます。



 『戦争が始まる前』の裏切りですが、実は多かったそうです。

 ここでAとBという、そこそこ大きな二つの陣営が戦争する場合を考えて下さい。


 まず地域によって名称や形式となりますが、両陣営で戦力召集をします。

 そして召集要請された各武装集団の長は、ここで三択を迫られるのですが――


 期待値的に三分の二ほど裏切りが確定します!


 なぜなら選択肢はAに付く、Bに付く、傍観(日和見を含む)の三つで……Aに付けばBに裏切者と呼ばれ、Bに付けばその逆です。

 かといって傍観を決め込めば、両者から裏切ったと見做されるでしょう。


 さらに参戦を決めた各武装集団は、とりあえず戦場の近くまで出張ってから様子を伺うのが常識だったそうです。

 理由は――


 どちらが優勢か見極める為!


 封建兵だろうと、傭兵だろうと……誰だろうと負け側に与するのは嫌です。

 なので選べる場合は、じっくりと見極めたといいます。

 そもそも現代と違い、正確な情報の入手は至難のことでした。最も手堅い調べ方は現地へ自分が赴くだったので、多少は仕方のない面も?

(日本の場合、戦国時代では聞かないものの、鎌倉や室町の時代ではよくあったそうです)


 で、酷い奴になると――


・呼ばれもしなかったのに勝てそうな方へ付く(Aに呼ばれたのに、Bへ参加)

・悪びれもせず、両陣営へ挨拶しにいった

・一度は参陣したのに、朝になったら向こうへ寝返っている


 なんてのもあったとか。

 しかし、封建君主にとって――


 勝利こそ至上命題


 です。

 『裏切らないこと』や『自分達の評判』なんてものは、二の次三の次。

 仮に誰もが顔を顰めるような悪評がたとうと、封建君主は成立します!

 むしろ――


 勝てる方に裏切ってなんぼ


 ですらあるでしょう。



 ただ、この参陣前の裏切りは、傭兵にも可能だったのか疑問です。

 もし――

「去年は我が軍に参加したのに、なぜ今年は敵軍なのだ! 裏切者め!」

 と言われても、傭兵側の立場で考えたら――

「いや、専属契約料を貰ってませんし……その時その時で条件の良い方に雇われるのは当然としか……」

 でしょう。

 他にも――

「参陣要請の手紙を出しただろうが!」

 みたいな文句も――

「両方からご連絡を頂いたもので……当社としても条件の良い方を選ぶしかありませんし……」

 となります。


 あり得るパターンは両陣営と交渉し、高い方に付くような場合ですが……それが可能かどうかは、時代や地域性に左右されるような?


 まあ、どのパターンでも雇用者側は悪し様に罵ったでしょう。傭兵が信用されなかった原因にもなったはずです。

 しかし、だからといって裏切りかといわれると、やはり言い掛かりに思えます。



 次に裏切れるタイミングは『膠着して休戦状態になった場合』ですが――


 Aランクを転ばさせるのは至難

 BとCランクは不可能ではないが、それなりに必要。少額では無理

 Dランクは簡単な反面、個人かそれに近い少人数でしかない


 です。

 攻城戦など長期化すれば機会もありそうですが、野戦は即決することもしばしば。

 その場合は裏切るタイミングすらありません。


 さらに戦争終盤になってしまうと、傭兵が裏切るかどうかで状況は左右されなくなるでしょう。

 つまり、負け側にいる傭兵側が期待しても、相手側にはメリットがありません。


 となると――


・戦況が長期化し膠着状態となって、やっと調略が検討される

・策が成立するかどうかに関わらず、かなりの大技かつ奇策

・また、内通が決まっても、戦闘中は難しい


 でしょうか?



 それに警戒するべきは、裏切りよりもサボタージュに思えます。

 どうにも傭兵というシステムは、勝利を最重視していないようです(もちろん勝利報酬が約束されていて、それが確実視できるのなら別)

 それよりは賃金や評判、個人の生命が重要だったのでしょう。


 なのでほんの僅かに保身に走った行動――どちらでも良い場合は、常に危険の少ない方を選択したはずです。

 つまり――


 深く切り込んで戦果を得るよりは、安全重視です


 ほんの半歩ほど足りない打ち込みは、その一撃だけなら大きなマイナスとなりませんが……積み重なれば莫大なものに。

 現代でも正社員中心の企業と派遣主力とを比べたら、客目線ですら一目瞭然です。

 これは派遣さんが勝利に――企業の成長に興味がないからですし、当然と言えば当然でしょう。

 傭兵の欠点は、そういった……観察していれば誰にでも理解でき、それでいて対処のしようもないところに思えます。

 さらに――


 これは傭兵の裏切り行為か?


 と問われれば、首を捻らざるを得ません。

 傭兵達の保身を嫌うのであれば、雇用側は手厚く保障――ようするに正規軍として雇用すれば解決できます。

 派遣を買ったのに「正社員みたいに働いてくれない」と文句を言うのはお門違いでしょう。


 また、これは申し開きのできる範囲でもあります。

「なぜ危険を顧みずに、あと半歩踏み込まなかった!」

「いや、俺だとあれで一杯々々なんッすよー。へらへら」(ふざけんな! 俺の手足が千切れたら、お前がくっつけてくれるのか!)

 で通せなくも?


 ……まあ、もちろん、当時の雇用側は傭兵に問題点ありと貶したはずですが。

 そして延長線上にも、ヤラセ問題があるようです。

 しかし、それも――


 本当に傭兵だけの問題か?


 と疑問は残ります。

 ようするに傭兵同士が話を合わせて、お互いに戦っているフリをしていたらしいです。

 日当計算である彼らは戦争が長引けば利益も積みあがる訳で、理屈としては通っています。

 ですが敵味方に分かれているにも関わらず、即興で細かな打ち合わせをできたとは思えません。

 つまり、話し合いをするための下地は、開戦前からあったと考えるべきでしょう。

 例えば去年の戦争で、友軍として轡を並べたなどで……ようするに最低でも顔見知り、おそらくは友人関係です。

 そんな人間たちを戦わせれば、そりゃ無意識にでもサボタージュはするでしょうし、隙を見せたらヤラセにも発展するかもしれません。

 でも、それは――


 雇用側にも問題がある


 ように思えます。

 ヤラセにまで発展したら、間違いなく非は傭兵側にありますが……彼らも人間であると考慮していない可能性が高い!

 友人同士――というか当時の事情を考えると、おそらく同国人――を戦わせるよりは、直接に戦わないで済むよう配慮するべきです。

 それは人道的な見地からではなく、自軍の傭兵が手心を加えてしまわないように。

 さらには大枚を叩いて雇った軍勢が、人情に負けて壊滅したりしないようにです。


 ……逆に顔見知りだからこそ疑われないよう、それこそ死力を尽くした例もあります。

 そしてヤラセなどは、国民性も大きく影響していそうです。



 最終的には、AまたはBランクの傭兵だけを使えばよいとなりそうですが……その結論に達するのは歴史を俯瞰できるから。

 当時の人から見ればAからDまで同じ穴の狢とか思えなかったでしょう。


 それに各傭兵団の新陳代謝サイクルも異常だったようです。

 Aクラスであれば壊滅しようと後続もあり得ますが、Bクラス以下は全滅したら記録すら残りません。

 そしてAクラスのように母体を持っていようと、母体ごと滅ぶ例だって無くはない話。


 また、AからBクラスは有能であれば、次々に封建兵として再雇用されていきます。

 傭兵からの仕官や建国の例も、史実には枚挙の暇がないほどです。

(そして傭兵軍団としては、姿を消すこととなる)


 結果、常に傭兵軍団は歴史の浅いどこの馬の骨とも知れない奴らか外国人であり……信用する方がどうかしているレベルですら?

 さらに戦乱の時代は、傭兵に限らず誰だろうと裏切ったし、逃げたわけですから――


「傭兵は裏切るし、すぐに逃げる。当てにならないし、弱い」


 と考えて当然です。

 事実かどうかより、そんな心構えが必要だったのでしょう。

 しかし、現代の我々が真に受けて――


「傭兵は裏切るし、すぐに逃げる。当てにならないし、弱い」(キリッ)


 とか言ってしまったら……少し雑過ぎるし、不勉強とも謗られそうです。



◎まとめ


Q 傭兵は弱い?


A 当代最強から、いない方がマシまでピンキリ。

  平均すればプロの兵士水準ではあった模様。


Q 傭兵はすぐ逃げた?


A ピンチなどで普通に逃げた。

  特に敗色濃厚時の逃走率は高かった模様。

  しかし、逆にいうと注意するべきはそれだけ。

  プロとして慣れてる分だけ、意味不明な挙動は少なかったはず。


Q 当てにならない?


A 逆説的に裏切るのは難しいので、多少は当てになった。

  しかし、信用できたかというと、それはそれで疑問。


 でしょうか?

 さらに追記するのであれば――


・裏切りよりもサボタージュを警戒するべき

 不慣れな軍監だと、思いっきり手抜かれる可能性アリ。


・解雇時に暴れる可能性が高い

 放流は必ず敵国側とするか、国境を超えるまで十二分な監視下に置くべき。


・なるべく本拠地を持っているか、一定の戦歴が評価されている軍団を雇う

 下を見たら限がないほど酷い。

 おそらくCマイナスからDクラスは、雇うだけお金の無駄。


 だと思います。


 まあ、数千年の歴史を持つ古い職業で、近世こそ徴兵制を理由に廃されてましたが、現代に復活すらしてます。

 どうやら人が戦争を続ける限り、『兵力を売る』という商売も存在し続ける?

 そんな事実を踏まえれば、商売として成立する程度には信用できると考えるべきでしょう。


 ……例によって近代のプロパガンダで、不当に貶められた可能性も?

 タダ同然で国民を徴兵するのに、同じ作業で賃金を貰っている傭兵は邪魔でしかありません(苦笑)

 そして日本人は江戸時代に傭兵稼業が途絶えたことで、より忌避感が強くなっている可能性すらあります。


 さらに色々な創作で、逆説的に下げられていることも。

 それらを踏襲して利用するのは否定しませんが、知識としては踏まえているべき……かな?


 武士や騎士より傭兵の方が頼りになるのであれば、それらが主人公の物語は形になりません。

 対照的に傭兵は、忠義を解さないならず者の敵役とされがちです。



 まあ、見方は色々!

 傭兵の再評価も必要ではないかな?


 として、今回は終わります!

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