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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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お手伝いのお話。

主人公の強キャラ化は様式美

 グリムの報告から数日経った頃、響は一人任務に明け暮れていた。


 響の実力は他の冒険者からも認められており度々他のパーティーから誘われることもあるため引き受けたりしているのだが、今日ばかりはその誘いを断り一人で目についた任務を片っ端から受けては遂行してを繰り返していた。



△▼△▼△▼△



 その理由はグリムの報告があった日の夜の夢に椿が出てきたことに起因する。あの日から毎日響の夢の中に出てきては「暇なのじゃ」と言って響を毎晩、晩酌よろしくお茶を飲みながら自分が満足するまで付き合わせていた。


 普通ならそんなことを毎晩なら寝不足になったり疲れが残ったりするところではあるが何故か日が経つにつれて寝不足も疲れが残る感覚もなくなっていった。初日がばっちり寝不足だったのにもかかわらずにだ。


 その原因を椿に話してみたところどうやらお茶の所為だったらしい。

 実際のところ響もなんとなく予想してはいたのだが、いざ当たってみるとどうしていいのか分からない。


 「まぁこのお茶には前にも言ったように妾たちの力が入っておるからのぅ! 魔力も増大するしスタミナも上がるぞい!」


 「やっぱりか、どうりで最近魔法の威力が桁違いに上がってきたと思ったよ」


 「魔力量も増えておるはずじゃし、こう毎晩妾と共に飲んでおるのなら壊級魔法も簡単に使えるのではないのか?」


 「あー……そういや試してねえな……」


 「それなら今度適当にやってみるがよい。確かお主は『冒険者』とやらじゃったろ?」


 「んじゃぁ今度任務にでも行くか」


 「妾も連れてけ」


 「は?」


 「じゃーかーらー。妾も連れてけと言っておるのじゃ、その任務とやらに」



△▼△▼△▼△


 流石に椿をそのまま実体化させて街中をうろつかせれば何をしでかすか分からないので響は一人で任務を受注し、受注した任務先で椿を呼び出すという方法を取った。


 「んー! 外に出たのは久々じゃ、空気がうまい」


 「ひきこもりみたいなこと言うなよ」


 「神様なんてそんなもんじゃよ」


 そんなことを言いながら椿は着物に高下駄という異世界にはとてもではないが似合わない格好で体を伸ばしていた。

 響は椿を視界に入れながらもお目当ての魔物たちをいとも容易く屠っていく、椿はそんな響の姿を興味深そうに見ていた。これではまるで神様ではなくただの子供である。


 「お主結構強いのぅ、あれ上級魔物じゃろ?」


 「上級くらいじゃもう手こずらねえよ。魔力も上がってきたしな」


 「まぁあれだけ妾たちの力の断片を取り込んでおればそうなるじゃろうな、あの量ならもう断片どころではないと思うぞ?」


 「んー……じゃあもう少し難易度上げてもよさそうだな。魔法も試したいし」


 それから響は冒険者ギルドに戻り報酬を受け取った後、さらに難しい任務を選び適当に受注した。任務の内容は上級魔物のさらに上である緋級魔物の討伐という並の冒険者では受けることすらできないような熟練の冒険者が受けるようなもののため、受付嬢さんに何度もしつこく本当に受けるのかと確認された。


 響も自分がなぜこんなにもしつこく確認されるのかは分かっている、どっからどう見てもこの任務を受けるに不釣り合いな子供がパーティーも組まずにソロで何食わぬ顔で任務を受けようとしているのだ。仕方ない。


 そのやり取りを何とか潜り抜けた響はその任務の討伐目標である緋級魔物を討伐するために出現場所である妖王大陸の森の中へと転移した。


 どうしようかと思っているといつの間にか具現化していた椿がひょっこりと出てきた。


 「今度は何を狩るのじゃ?」


 「確か『シルフ』とかって書いてたな。名前的にはそこまで強くなさそうなんだが……」


 「シルフ……あぁあれか。なるほどあやつか!」


 シルフの名を聞いて少し考えた後何故か椿は面白そうなことを聞いたといった顔をした。


 「なんだよ、気になるな」


 「いやいや気にするでない、ちーっとばかし面白い相手だから気を付けい」


 もったいぶった言い方の椿に若干不信感を覚えつつも森を進む響、その途中で何人かの妖族の冒険者たちが見えた。気にもたれかかり地面に座っている冒険者たちはどうやら響よりは年上だと思われるが大人と呼ぶにはまだ子供らしい感じ、つまるところアリアたちとかと同じような雰囲気だったため恐らく妖族の魔法学校生か魔導学院生だろうと思われた。


 響はその冒険者たちをただ見ただけでそのまま素通りするつもりだったのだが直後に聞こえた声に反応して足を止めた。


 「ちょ………ちょっと皆さん……ハァ……ハァ……速いですって! 置いてかないで下さいよ!」


 聞いたことのあるその女の子の声が聞こえた方向へと響は振り向く、するとそこには背中に大きな光玉が付いた長い杖を背負った女の子が息も絶え絶えに木に腰かけている仲間であろう冒険者たちに怒っていた。


 「あれ? ラフィーさん?」


 「んぇ……? あー! 君は確か人族の! えっと……そう! ヒビキ!」


 「お久しぶりです」


 その女の子の正体は以前強化合宿の際に知り合った妖族の「自称」天才少女ラフィーリア・シャルロッテだった。ラフィーリアは仲間の冒険者のところへ行くよりも早く響のところへとやって来た。


 「お久しぶりです、まさかまた会えるとは」


 「たまたま任務の場所がここだったもので。任務ですか?」


 「そうです! 聞いて驚いてください! 私たちは今、上級魔物の討伐に来てるんですよどうですか上級ですよ? 凄いでしょう!」


 「へー……」


 「なんですかその薄い反応はー!」


 「いえいえ何でもありませんよ」


 響の反応にムーッとするラフィーリア、すると彼女の冒険者仲間が集まってきてちょっとした会話を交えた。彼女たちはすでに響が相手したことのあるスレイプニル種の討伐に来ているらしく現在捜索中なのだという。ラフィーリアは響の方は何の討伐できたのかと尋ねると響は懐からギルドの掲示板から取ってきた任務の張り紙を見せる、そこには「討伐内容:緋級魔物『シルフ』を一体以上討伐せよ」と書かれており、それを見たラフィーリア達はしばらくポカーンと沈黙していた。


 ちなみに椿だがいつの間にか消えており、姿はおろか気配さえ始めから何もなかったかのように消え去っていた。


 「緋級魔物ですかー……凄いですね」


 「あはは、最近ちょっと物足りなくなってきまして」


 「でしたら私たちの任務手伝っていただけませんか? 実力はお互いに知ってるわけですし」


 「俺でよければ協力しますよ」


 「良かった。でしたら一緒にまず索敵を――――」


 ラフィーリアがそう言い切る前に辺りの木々がガサガサとなった。


 すると森の奥から勢いよくスレイプニルが一体飛び出してきた。


 「ヒビキさん! 避けてください!」


 だが響は全く避ける素振りを見せない、ラフィーリア達はすでにバラバラにはけているおり仮に今から響を助けに行っても誰も間に合わないだろう。


 


 「その程度で殺せるとでも思ったか?」




 突如としてガクンと止まるスレイプニル。お察しの通り「ニュートンの林檎」の力によるものなのだがラフィーリア達はそれを初めて見たため何が起こったのか分からないといった様子だった、しかも響は今何の詠唱もしていないため余計に驚いていた。


 「(中々面白いことをするのぅ)」


 頭の中で椿の声が聞こえた、響は「少し試してみるか」と独り言のように呟いた。


 刹那、スレイプニルの目が見開いた。恐らく野生の勘で何か良からぬことを察したのだろうが体はピクリとも動かない。

 響は空間魔法の応用で、手の平に直径数cmほどの小さな黒い球体を作り出した。

 それをスレイプニルの胴体にピタリと触れさせると球体は一気に膨張し胴体を包み込んだ、黒い球体は直後に渦を巻きながら一瞬で収束し胴体を消し去った。

 その時胴体との接合部分は引きちぎられ肉が千切れる音と骨が砕ける音が混ざったような不快な音を鳴らして分離し、響が「ニュートンの林檎」を解除したことでボトリと地面に落ちた。


 「あと何体ですか?」


 まるで何もなかったかのように振る舞う響にラフィーリア達はただ黙って口を開けていることしか出来なかった。

椿「容赦ないの」

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