宴のお話。
祝勝会
響たちの戦いから数日が経ちアリアの怪我も無事に回復しそれぞれが家路に帰りそれぞれの日常を再び享受していた頃、響たちは再び王城に呼び出された。
なんでも、今日の夜は王城にて宴が開かれるらしい。ようは祝勝パーティーみたいなものだ。
王城には現国王ハーツ・プロトを始め王国騎士団団長でありマリアの父であるグラキエス・キャロル・フォートレス、そして人族の勇者グリム・メイガスなどを始めとして主要な貴族たちが揃っていた。他の貴族たちが煌びやかなドレスに身を包む中グリムだけは鎧にアロンダイトという格好だった。
響たちは王城に着くや否やその浮世離れした光景に目を奪われ、自分たちは来る場所を間違えたのではないかと錯覚してしまった。
「あ、ようやく来たね。今日の主役たちが」
そんな中グリムが響たちに気付き、会場内へと案内する。
貴族たちも響たちに気付いたようで王城内がざわつき、辺りからは響たちの戦いがどうとか魔王軍幹部の二人は今どこにいるのかなどの話ばかりが聞こえた。
そんなことはお構いなしにグリムは響たちを席に座らせ、国王の元へとグリムは戻った。そしてグリムは国王に何かを伝えると国王は設けられた壇上に上がり拡声器を口元にあてた。
『えー、皆のもの。今日はよく集まってくれた。本日集まってくれたのは、先日の魔王軍幹部を名乗る二人組とそれらが率いる魔物軍団の襲撃からこの王都、ひいては人族の危機を救ってくれた若き戦士たちを称えるためだ!』
響は、国王がその言葉を言った後に国王がちらりとこちらを見た気がしたがほんの一瞬だったのでよく分からなかった。
『今宵は無礼講だ。皆のもの、存分に楽しんでくれ。以上だ』
短く会場内の皆に伝えるとすぐさまパーティーが再会された。響たちはグリムやグラキエスに促されてそれぞれ並べられた豪華な料理をいただくことにした。
形式は立食パーティーみたいなもので立ちながらスマートに食事をいただくというものなのだが、貴族組の面々はまだしも平民組にとっては日本でもこういう経験は無かったので正直どうしていいかどうか分からず立ち尽くしていた。
「あれ? どったの?」
どうしようか悩んでいる時に梓が響に声をかけてきた。大方、立ち尽くしている響を見かねて声をかけてきたのだろう。
「いや……こういうのは初めてだからよく分かんなくてさ」
「ほぉ? ほぉほぉほぉ?」
響の言葉を聞いて何故か梓の目がキラキラし始める。この時響は長年の勘から梓の心境が分かった、これはあれだ、不慣れな環境で戸惑っている響より優位に立っていることで珍しくリードできる立場にあるからだと予想でいる。
「はっはーんなるほどなるほど、そう言うことなら彼女である私が完璧にリードしてあげようではないか!」
ほら見たことか。
「……ちょっと癪だけど今回はお前に頼ることにする、か」
「うんうん! 素直でよろしい! まぁリードするっていっても一緒にいるくらいなんだけどねー」
それからはテンションが上がってルンルン気分の梓と一緒に食事を楽しむ響。
他の面子を見るとマリアやセリアたちの貴族組は他の貴族の人たちと食事をしたり話を聞いたりしたりしている様子でどこか窮屈そうではあった。
そんな中でもひときわ目立っていたのはレイとヴィラだった。
元々顔立ちが整っておりスタイルもいい二人は普段から人の目を引くことがあったのだが、今回二人はしっかりとドレスアップしており余計にその容姿が強調されていた。
「……なんか視線感じる気がするのは俺だけか?」
「そうね……何かおかしかったのかしら」
勿論当の本人たちがそれを自覚しているはずもなく二人はただ単に食事をしているだけなのだが、その単純な所作でさえも二人にかかればとてつもなく映える絵になるのだ。
「あのふふぁりすふぉいね。やっふぁりいへへんといじょはちあうね」
響たちもレイとヴィラの二人に目を奪われているその隣でほお袋に食べ物を詰めたハムスターの如く口の中に食べ物を入れながらリナリアが客観的な意見を述べている……のだが口いっぱいに頬張りすぎて何言っているのか分からない。
「なんだって?」
「……んぐ。あの二人凄いね。やっぱりイケメンと美女は違うね」
「あぁそう……てか口に物入れて喋るなよ」
「ひふぃき! これおいひいよ!」
「ほら、彼女が呼んでるぞ」
たった今叱ったばかりのリナリアと同じことをする幼馴染であり現彼女。一体リードするとは何のことだったのか、そう考えると響は頭が痛くなりそうである。
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その後も特に問題もなく食事を終え飲み物の入ったグラスを片手に響は一人王城のテラスで黄昏ていた。
「ふぅ………」
響はため息を吐きながら王城から夜に包まれた街を眺め思い出に耽っていた。
結局、ハーメルンの頼みは無事に響の交渉によってグラキエスが約束してくれた。というのも元々グランは喋られるくらいにまである程度回復させる予定で、拷問に至っては予定にそもそもなかったとのことだった。
その後響は帰る前に一度牢屋に立ち寄ってハーメルンにそのことを伝えると、ハーメルンは「そうか……ありがとうヒビキ」と言って座ったまま響に頭を垂れて感謝していた。
「そういや、あいつの素顔見てねえな。どんな顔してたんだろ」
響はふいにそんなことを思いながらグラスの飲み物を一口飲み喉を潤す。
そこへ梓がやって来て響の隣に立つ、二人はしばし談笑していると梓が何やら話しづらそうにしているのに響は気づいた。
聞くとアリアのことについてらしく、梓自身どうしたらいいのか分からないというのだ。そんなことを言ってしまえば響だってそうだ。
ネメシスでは重婚や複数人との交際などの類はごくごく一般的に認められているものなのでこの世界に住んでいる人たちにとっては何ら珍しいことではないのだが、響たちは元々日本人であるためそう言ったものには頭で分かっていても少なからず抵抗してしまう。
「響はさ、もしアリア先輩から告白されたらどうするの?」
「告白されたら、か…………」
それから響は何も答えられなかった。
実際に考えてみるとどう答えたらいいのか分からない、今までそんな経験無かったし梓がいるだけで響としては幸せだったからだ。
「………正直、どうすればいいのか分かんねえんだよ」
「………そっか。そうだよね、ごめんね変なこと聞いて」
「いや、俺の方こそうまく答えられなくてごめん」
「ううん。いいのいいの。あ、なんか飲み物持ってくるね、グラス頂戴」
「ああ、ありがとう。梓」
そう言って梓は自分のグラスと響のグラスを持って室内へと戻ろうとしたところで梓はくるりと振り向いた。
「ねぇ響」
「ん?」
「大好きだよ」
「ああ、俺も大好きだよ」
それだけを言って梓はトタトタと戻っていった。
夜の冷たい風が響の体を吹き付ける。
「もしそうなったら……か……」
その響の呟きは吹き付ける夜の風に攫われていき、誰にも答えられることなく掻き消えていった。
次回からは次の章に向けて徐々に時間を進めていく予定ですが、アイディアはこれからです。




