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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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願い事のお話。

ハーメルンとの会話メイン

 「さて、と。どうしたものか……」


 未だ目を覚まさないアリアを背中におぶって響は荒れ果てた周囲を見渡す。


 「……あーごめん響。やられた」


 「あれは仕方ない」


 『どうにか打開出来るんじゃないかと思ってたんですがね、誤算でした』


 ハーメルンに操られたことを申し訳なさそうに謝る梓と、己の計算違いを嘆くハーメルン。すっかり大人しくなったハーメルンは一切抵抗することもなく地面に座っている。


 そして響たちの戦いが終わってから数十分後、遅すぎる増援として王国騎士団がやって来た。騎士団はガッチガチのフル装備でやって来たのだが、戦いが終わった今ではあの鎧程度の装甲では重量があり過ぎて動けなくなった上で上級魔物たちに潰されてしまうだろうと思えてくる。


 やって来た騎士団の団員たちは顔つきを見るに戦闘経験のない新人が多かった気がした、恐らく逃げ惑う群衆たちを誘導し終わった順に駆けつけたのだろう。団員たちは増援に来たはいいものの、すでに片付いた戦場を見てただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


 それから数分経ってようやくグラキエス率いる騎士団の本陣たちが来て現場の事後処理に当たった。流石の騎士団団長のグラキエスといえど魔王軍幹部二人が拘束され勇者が気絶しているという異様な光景には驚きを隠せていない様子だった。


 「お父様!」


 「マリア……それにセリアも無事でよかった」


 「勿体ない言葉です、グラキエス様」


 「……してこれはどういう状況なんだ? 終わった……のか?」


 「ええ、ヒビキのおかげですわ」


 「ヒビキ君……確かアルバレストのとこの……だがどこにもいないようだが」


 キョロキョロと響を探すグラキエス。その父の姿にマリアはクスクスと笑いながら十七歳まで成長し純白のローブと防具、そしてこの世に一本しかなかったはずの聖剣を二本携えた響を指差した。


 「君がヒビキ君……なのか? アルバレストのところの?」


 「あはは……お久しぶりですグラキエスさん。アルバレストのところの響です」


 若干申し訳なさそうに頬を掻きながら答える響にあんぐりとするグラキエス。



 ひとまず王城が奇跡的に無事なのでマリアたちをそちらへと避難させグラキエス達は騎士団の本部へとグランやハーメルンを捕虜として情報を聞き出すために連行する。


 「ヒビキ君、君も一緒に来てくれないか? もし二人が暴れた時のために対処してほしいのだが」


 「分かりました……梓、先輩を頼む」


 「おっけ、気を付けてね響」


 「ああ、なんかあったら任せた」


 響は背中のアリアを梓に預けて響はグラキエス達と騎士団の本部へと同行する。

 動けないグランを馬車の荷台に三人の騎士団で監視させ、グランよりも自由が利いているハーメルンは響が監視するということにした。


 ほどなくして本部に着いた響たちは地下にあるフォートレス家の地下牢と同じような場所にグランとハーメルンを別々の牢屋に収容した。


 『ヒビキ君、二つほどお願いがあるのだが』


 二人が隣同士で別々の牢屋に入れられ、鉄格子が閉められようとした時、ハーメルンが響に話を持ち掛けた。


 「……聞くけど、俺は別に何かできるわけじゃないぞ? 王国騎士団の人間でもないし……」


 『それは分かっているとも。ただ私が直接騎士団の人間に頼むよりは、私の願いを君から騎士団の人間に頼んでもらった方が通りやすいと思ったまでだよ』


 「期待はするなよ。それで? お願いってのはなんだ」


 『グランをある程度回復させてほしい。能力を強制介抱して仲間を弱らせた奴が言うのもあれだが、あのまま衰弱させたままでただ待っているというのは正直見てられない』


 その願いじゃ確かに通るはずだがないだろう、と響は心の中で呟く。

 折角弱っている状態で敵を捕虜にしているのにそれを回復させるなんて普通はあり得ないどころか考えすらしないだろう。


 「んで、残りの一つは?」


 『もし拷問の類があるのであれば、私だけにしてほしい』


 「……一応理由を聞くけどなんでだ?」


 『これでも情に厚いんだよ、私は』


 「仲間に悲鳴を上げさせた奴が情に厚いとはな」


 『ははっ。それを言われちゃ何も言い返せないね』


 仮面の所為で表情は見えないが恐らく本心だろうと響は勝手に想像する。ハーメルンの仮面の下の素顔と今の心情が気になるばかりだが、響はその願いを二つとも通してもらえるようにグラキエスに頼み込むことにした。

 案外自分は、情に流されやすいのかもしれないな。響はそう、自分で思った。

 

 「……ダメ元でグラキエスさんに頼んでみるけど、期待はするなよ」


 『ふぅむ……なるほどなるほど』


 「なんだよ」


 『君も案外、情に厚いのかなと思ったまでだよ。いや、この場合は情に流されやすいというのが正しいのかな』


 「お前、いつ俺の心を読んだんだよ」


 その言葉を聞いて茶化すように笑うハーメルン。

 敵とはいえ、こうして話をしている内に妙な感情が生まれたのだろう。

 もし出会う形が違っていたら、きっと良い話し相手になれていたかもしれない。そんな考えさえ沸いてくる。


 響はハーメルンの願いをグラキエスに伝えるために牢屋を後にした。



△▼△▼△▼△



 ったく、どうやって頼んだものか……。

 ハーメルンめ、今度無理やりにでも仮面取ってやる。声だけだとよく分かんないんだよなぁ、あいつ。

 ま、いっか。頼みごとくらいどうにかしてやる。




 コンコン


 「開いてるぞ」


 ガチャッ


 「失礼します」


 「おや、ヒビキ君か。どうした? マリアたちのところへ戻りたいのなら、悪いがもう少し待ってほしいのだが――――」


 「いえ、そうではなく」


 「……そうか。それじゃあ一体何の用かな?」


 「実は折り入って頼みごとが二つほどあるのですが」



 さてと。こういう交渉は初めてなんだけどなぁ……。

 ま、頑張ってみますか。

はてさて、願いは受理されるのでしょうか?

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