終戦のお話。
主人公の覚醒は勝ち確定演出
気が付くと響は、アリアの手を握っていた。
周囲は荒れ果て、周りを見れば遠くでは梓たちやマリアたちがグリムやハーメルンと戦っている最中だった。
響は先ほどまでのことを思い出した。
自分は確かに神族である椿と話していた。そこで出されたお茶を飲み、ここが自分自身の精神空間であるとも言われ、さらには禁術を扱えるようになっているとも。
「どんな魔法も使える……って言ってたよな、あいつ」
響は最後に椿に言われた言葉を思い出した。
どんな魔法でも使える、その言葉を信じて響はアリアを完全に回復させるためにアリアの体に腕に両手を重ねて魔方陣を展開させた。
すると魔方陣は白く輝き、そこから淡い光がアリアの体を包み込む。するとピクッとアリアの指が微かに動いた。鼓動も力強くなり、呼吸もしっかりしている。明らかに先ほどの危険な状態からは一転して大幅に回復したと言えるだろう。
どうやら、椿の言っていたことは本当のようだ。
「響! 後ろ!」
梓が叫ぶ。グリムがいつの間にか響の後ろまで来て今まさに響を切り殺そうとしていた。
アロンダイトが振り下ろされる。
ガギイィィィィン…………
だが、アロンダイトが響を切ることはなかった。それどころか、完全に響に止められていた。
フランとは違う純白の篭手を付けており、響は片手でアロンダイトの刃を掴んでいた。
そして響はグリムを睨み付けながらゆっくりと立ち上がった。グリムは力いっぱいアロンダイトを響にあてているのに全くと言っていいほど響は六合もしていない。
「グリムさん、少し寝ててください」
「どうやら……何かあったようだね」
響は軽く力を入れてアロンダイトをグリムの手から離し放り投げる。そのまま流れるようにグリムの腹部に正拳突きを食らわせる。グリムは「かは……」という空気を漏らし、鎧など関係なしにダメージを与えられその場に倒れ込み白目を剥いて気絶した。
そのまま響は倒れているグリムに「聖釘」を数本打ち込み、さらに黒い十字架を打ち込む。そもそもの行動を抑制するために出来ないかと思ってやった魔法だったがどうやらちゃんと発動してくれた。
「本当に、やろうと思えば発動できるようになったんだな」
響は篭手を装備した手を閉じたり開いたりして、今の自分の力を実感する。
これなら、この戦いを終わらせられるだろう。
そして響は残る魔物軍とハーメルンを倒すべくローブを翻して歩きだした。
するとローブは段々と黒から白へと変わり、装備も純白の篭手がもう片方の手にも装備されさらには両足にも防具が付けられた。
全身に純白の防具を身につけた響のその姿はその場の全員の目を惹きつけた。
勿論それはハーメルンも例外ではない。
『何が起こったのかは分かりませんが、少々めんどくさいですね』
ハーメルンはレイとヴィラとキュリアの三人を一蹴して響を排除すべく向かう。
魔物たちも響を殺すために動く。
だがただの一匹として響に傷をつけることはおろか、接近することすら叶わなかった。
響は集団で来る魔物の群れを見て片手を横に薙ぐと魔物たちが例外なく全て横に切られた。
その時の響の手にはとある剣が握られていた。
それは本来一振りしかなく先ほど響が放り投げたはずの「聖剣アロンダイト」だった。
「すげぇなこれ、こんな切れ味いいのか」
響は己に手に握られている聖剣の威力をまじまじと感じていた、たった一振りで百ほどいた魔物たちがあっさりと切り伏せられたその光景には流石の響も驚いた。
だが魔物たちは本来の目的ではない。
『この威力、間違いなく増幅されていますねぇ』
魔物たちを切り伏せたその後ろには防御魔法を展開させ、先ほどの一閃を防いでいたハーメルンがいた。体を低くして防御魔法を盾にしているハーメルンの足元にはアロンダイトの風圧による裂傷が刻まれている。
「よぉ、さっきので切られてくれればよかったのに」
『生憎とそういう訳にはいかないのでね。にしてもその姿……一体何が』
「まぁ色々あってな、にしてもアロンダイトも白いからほんとに全身真っ白だな」
『なぜあなたがその剣を』
「教える義理はねぇ」
静寂が訪れる。
響はアロンダイトを握り直し、片方の手にもう一本複製する。
『本当に……どういうことなのか』
その行動に我が目を疑っている様子のハーメルン、だがそれもすぐに終わりハーメルンは地を蹴り響との距離を縮める。
魔法で強化しているのだろうと思われるスピードでハーメルンは響を攪乱させるために不規則に動きながら魔法で攻撃を仕掛ける、だがアロンダイトの能力によるドーム状の不可視のバリアによって全て無効化される。だが何発かは地面に当たり爆風と大量の土埃を巻き起こして響の視界を遮る。
ハーメルンはその隙を狙い土埃の中から突如として響の背後に姿を現して迫る、これで多少なりともダメージを与えられるはずだったのだがそれはなかった。
完全に死角なはずの背後からの攻撃、それもハーメルンは自分の気配を極限まで消した状態で迫ったのにもかかわらず響は全くそちらを見ずに体を捻って躱したのだ。そのまま体を回転させてハーメルンの首元を掴み完全に捉えた。
『ぐ……』
「捕 ま え た」
もはやどちらが悪者なのかが分からないほど悪い笑みを浮かべる響。
ハーメルンは自分の首を掴んでいる響の手を叩いたりジタバタと暴れたりしているが響はびくともしない。それどころか響は完全に動きを止めるため「聖釘」を数本突き刺した。
「本当なら、だ」
響はハーメルンの首を掴みながら低い声で話し始めた。
「グリムさんやアリア先輩を酷い目に合わせたお前をここで殺したいんだよ」
『………っ!!』
その瞬間響の体から凄まじいほどの殺気が放たれた。
その殺気にあてられてかハーメルンがより激しくもがき暴れたが響はびくともしない。そんなハーメルンなど気にも留めず響は話を続ける。
「でも普通に殺しちゃうと色々問題あるんだよ。普通こういう時って相手を捕虜にして情報引きだしたりしなきゃならないからさ」
響の殺意がより一層増す。
「だから今お前はここで殺せないのは本当に残念だよ。クラウン・ハーメルン」
そう吐き捨てて響はハーメルンの首を掴んだまま地面へと叩きつける。その衝撃は凄まじく叩きつけた地面がひび割れるほど、純白のローブがその風圧で逆立つ。
『こう……なれば!』
圧倒的不利な状況のなか、ハーメルンは己の能力を限界まで解放した。
その瞬間、アリアとグリムと響を除く全員がハーメルンの支配下に置かれた。全員はフラフラと響に向かって歩き始めた、表情を見るに無意識下ではないようだ。恐らく無意識下に操れるほどの余裕はないのだろう。
「悪あがきだな」
『悪あがきでもなんでもいいんですよ、もう私では勝てませんからね』
「それであいつらってわけか」
『実際に戦った分には戦力としては申し分ないっ……! しかも勇者と戦っていたあの二人はその中でもかなりの上物!』
仮面越しに一人で興奮するハーメルンだが能力の開放をしたせいか全然動かない、能力的にも本人自身も余裕がないのが目に見えて分かる。
全員が一斉に襲い掛かってくる。
だが響は自分の周りにこれまた純白の障壁を展開させて全ての方向からの攻撃を完全にシャットダウンする、そして響は全員を光を纏った鎖で縛りあげる。
「さて、次はどんな手で殺してくれるんだ?」
『完全に詰みですね、これ』
観念した様子で今度こそ本当に打つ手なしの様子のハーメルンは大人しく拘束され、全員にかけられた能力も解けた。
こうして人王大陸の中枢都市王都で繰り広げられた魔王軍幹部と魔物軍団対響たちの死闘は、一人の少年の覚醒と魔王軍幹部二人の捕虜という結末によって終結した。
次回、事後処理回




