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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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学校と友達のお話。

壮大に何も始まらない。

 入学式の翌日、響はいつものように朝の稽古をして朝食を済ませ、制服に着替えた。

 今日も今日とて太陽は相変わらず眩しく輝いていた。



 両親に行ってきますと伝え家を出ると、お隣さんである梓と影山が外で響のことを待っていてくれた。

 転生前と同じように三人で登校し、道の途中でマリアさんとセリアさんたちとばったり会い、二人を加えて五人で学校へ向かう。

 登校中、店のおばさんや武器屋のおっさんに声をかけられて挨拶を交わし、他愛もない会話をしながら学校へ到着すると玄関で上靴に履き替えて、自分のクラスへ移動する。



 先日の入学式の結果でここにいる全員Aクラス入りが決定したため、このまま全員で仲良くクラスへ向かっていく。

 学校は西棟と東棟に分かれていて、一回生から五回生までは西棟。六回生から東棟という風に教室が分かれていて、響たちは入学したばかりなので西棟になる。


 

 教室に着き、ドアを開けるや否や、クラス中がどよめきだした。

 一瞬にして囲まれ質問攻めにあう響たち五人。

 周りは「魔力値オーバーの五人が来たぞ!」とか「中級魔法の無詠唱ってどうやんの!?」だの「あの魔法って何!? 上級魔法って本当?」というのに加えて「ああマリアお嬢様……、今日も高貴だなぁ。まだ二日目だけど」さらには「俺はアズサお嬢様だなぁ……あの笑顔で励まされたい……」といった個性豊かなものまで様々な形で響たちに質問攻めをした。




 入学して二日目にしてこの有り様、どうしてこうなった()

 しかし響とてこんな状況になった理由が分からないわけではない。

 魔力値の平均を全員が大幅に超え、響に至っては測定器のタンクを爆破、その後の魔法の実践では三人が中級魔法を使いあまつさえ上級魔法も使われる始末。



 普通なら凄いねの一言で片づけられない、故にこの質問の量。

 響は出来る限り答えてあげようかと思ったが流石にこの量はちょっと厳しい。

 そう思っていると貴族家系の梓とマリアが一歩前に出てこう言った。



 「質問には後で答えますわ。ですから、今はどいてくれると助かるのですが?」

 「すみませんが、そういうわけですので」



 マリアと梓の貴族コンビが淑女的にどうにかこの状況の収集をつけてくれ、一旦事態は収束を向かえた。

 この場のざわつきを修めてくれたことに関しては感謝しているのだが、響にはどうにも敬語でさらにお淑やかを演じている梓が滑稽に見えて仕方がなく、笑いをこらえるのに精いっぱいだった。

 幸い梓には気づかれておらずその後も色々とありながらも本格的な二度目の学校生活が授業のチャイムとともに始まった。



△▼△▼△▼△



 「みなさん、おはようございます。本日からみなさんの担任を務めますフルーエン・ヴィクセンと言います。よろしくお願いします」



 しわがれた声でそう挨拶するフルーエン先生。

 優しそうな見た目で、近所の子供たちに人気のおじいちゃんという印象が真っ先に思い浮かんだ。

 先生の自己紹介が終わり、今度は生徒たちの自己紹介になった。出席番号の若い順に発表していき、途中緊張して声が裏返る人がいたりと、こういう元いた世界と変わらないところがあるのは中々にホッとするものがあるし、何より笑ってしまう。



 こうしてクラス二十五名の自己紹介が終わって思ったことは案外このクラスは、いや、想像通りといった方がいいのだろうか。貴族出身の人たちが半数以上を占めていた。

 今も幼いが、それより小さい頃からそういう教育を受けていたのだろう。

 梓やマリアも言っていたがお偉いさんの子供っていうのは大変だなと、響は他人事のように思った。

 貴族じゃないから他人事といえば他人事なのだが、一応響も国で有名な道場の息子という責任があるから、完全に馬鹿には出来ないのだ。



 「はい、では私の方から少しこのクラスについていくつか説明をしてから授業に移りたいと思います。ではまず――――」



 話が長くなったので割愛。アザミの時とどうようこちらで勝手にまとめさせてもらうことにする。

 まずこのクラスは言わずもがな入学時の試験で成績が優秀だったものが集められている進学コースで、他のクラスよりも戦闘や魔法に関する授業が多くなってくるらしい。

 魔導学院に進んだ学生の多くはこのクラスの出身らしくそのためなのか、例年いつも他のクラスとのいざこざが出来やすく、喧嘩になる生徒が多いとか。

 そりゃまあ、身分の高い貴族達からしてみれば、自分らのようなエリートとは違うんだと言いたいんだと思うが、はっきり言って響はそんなこと興味なかった。今響に出来ることはそのいざこざに巻き込まれないことを祈ることだけだ。



 また授業の一環で魔導学院の生徒たちと模擬戦をしたり、現役の冒険者を招いて魔物と戦う時の心構えを教えてもらうという。ただ、年一回の残留試験で合格しなければ成績不振者として他のクラスに移動になることもあるようだ。



 「とりあえず今は以上のことを覚えておいてくれれば問題ありませんので、ちゃんと覚えていてください。では授業の方に移りたいと思います。今日は私たちの暮らすこのネメシスと王国について説明した後に、知っておかなきゃいけない一般常識の説明という流れで進んでいきたいと思います」



 という流れで授業が始まり、ようやくこの世界について詳しく知ることが出来る。

 この異世界ネメシスは、人族・獣族・妖族・魔族・海王族・竜族・神族から成り立っていて、それぞれの種族ごとに大陸が設けられている。各大陸には王国と神域という場所があり、王国はその名の通りその大陸の中心地で、その大陸の政治の方針や他の大陸との外交が図られている。また大陸の中心だけに専属の騎士団が設置されている。

 そして神域というのは、その種族を体現する「聖戦武器」と呼ばれる太古の武器が守られ管理されている場所であり、この場所に入れるのは王国の統治者と各大陸の勇者だけだというがその実態はよく分かっていない。



 てっきり勇者というのは一人しかいないものだと思っていたがそういうわけでもなく、話を聞くと種族ごとにいるみたいだ。

 アザミが響たちをこっちにやる際に説明していたのは人族の勇者のことなのか、それとも勇者全員のことなのか、これで分からなくなった。



 「私たち人族の王国は現在、当代のハーツ・プロト国王によって他の大陸との均衡がとれているのです。最近ではめでたいことに新しい勇者様が選ばれまして、しかも我がラピストリア魔法学校の卒業生ということで喜ばしいことです」

 「ラピストリアっていうのが、王国の名前なんですか?」



 一人の生徒が手を挙げて質問する。



 「いいえ、王国には名前はありません。このラピストリアというのはこの学校の名前です。初代学校長の名前を取って、この名前になったとされています。大陸に学校が一つしかないというのは、いささか不便なこともありますからねえ」



 確かに一つの大陸に一つの学校では、距離的な問題で通学が大変な人も多いだろうしそれ以外にも色々と問題があるだろう。

 じゃあ魔導学院はどうなるんだと思ったがあそこは確か寮生だったか、入学する前にカレンさんが父様と話しているときに少し聞こえていた。



 「ですが大陸には名前というわけではありませんが、それぞれの種族になぞらえて、【~王大陸】と言われています。人族であれば人王大陸、妖族であれば妖王大陸ということになります。ここまでで何か質問のある人はいますか?]



 フルーエンがそう問うも誰も質問をする生徒はおらず、次に魔法についての説明を聞くこととなった。

 ようやく魔法の勉強か、と思ったが実際響はもうすでに魔法学校で習得すべきものをある程度使えるため恐らくは自主トレーニングがメインになってくるだろう。

 それにどうせ貴族連中は専属の家庭教師とかついていそうだしそもそもここ特進クラスだし、進行速度は速めだと思うから退屈することはないだろう。それに効率のいい魔法の撃ち方とか方法とかも学べるかもしれないし。



 と思ったのだが、魔法の授業は大体家にある本ですでに知っていたことだったのであまり目新しいことはなく響は少しだけ残念がった。

 終業のチャイムが鳴り、この日の学校は終わりになる。

 三回生までは午前中で授業は終わりになるが、自主練などで残ることは許されている。

 だが今日は特に残る理由もないので真っすぐ帰って剣の稽古でもしようかと響はスケジュールを立てていた。



 「ではみなさん。また明日元気に来てください、さようなら」

 「「「「さようならー」」」」」



 さて、梓たちはどうするのだろうか。そう思う響だったが梓たちの周りにはすでに人だかりが出来ていた。

 梓の方には男たちが、影山の方には女の子たちが群がって色々と話しかけていた。

 会話の内容はがやがやしていてよく聞こえなかったが二人とも何とも言えない困った顔をしていたのははっきり分かった。


 


 しょうがない、助け舟でも出してやるか。




 「梓ー、聖也ー、一緒に帰らないかー?」



 それを聞いた二人が「しめた」と言わんばかりの顔をして早々に会話をシャットダウンして響のところに来た。

 どうやら上手いこといったようで、群がっていた生徒たちが何人か響の方を睨み付けたのははっきりと分かったが気にしない気にしない。



 「ヒビキさん。もしよろしければ私もご一緒してよろしいかしら?」



 話しかけてきたのは意外や意外にマリアだった、その後ろにはセリアが立っている。

 響もまさかこの人に下校を申し出られるとは思ってはおらず少し驚いた。



 「別に俺は構いませんよ。こいつら次第ですが」

 「私も別にいいよ! 多い方が楽しいし」

 「俺も賛成」



 全員の意見が合ったところで本当に帰るとした。

 なんか疲れたし、響はさっさと部屋で魔術本でも読みたい気分だった。

 ロッカーで外靴に履き替えて学校を後にすると、玄関前の校庭で上級生たちが魔法の訓練をしていた。今は上級生は昼休みの時間なので自主練でやっているようだったが、流石は上級生といったところか、魔法の精度が段違いに違う。

 入学式の時の試験時の的からの距離の二倍以上離れているところから正確にど真ん中に穴をあけていった。規模からして恐らく中級魔法だが、下手な上級魔法よりもよっぽど戦力になるだろう。



 「すげえな、やっぱ」



 影山が隣で小さく感想を漏らす。同感だ。

 的の真ん中に穴あけるんだったら銃作ればいいかもしれないがやはりそれでは折角の異世界のムードが無くなる。

 帰り道にまた響たちは他愛もない会話をしながら帰った、学校の授業の話、クラスメイトの話、さっき見た上級生の話などなど。

 向こうの世界と何ら変わらない会話を交え、自分の話や他の人についての話を、聞いたり言ったりしてみんなで一緒の道を帰る。

 マリアとセリアに至っては、まだ知り合って二日しか経っていないのにも関わらず、こんな会話をやり取りしている。

 子供というものはどんな環境にも瞬時に溶け込めるのだと響は再認識した、そんな気がした昼過ぎだった。



 「じゃあ私たちはこの辺で失礼しますわ」



 そう言ってマリアとセリアの二人がパーティーから外れた、気が付けばもう家についてしまっていた。

 時間を忘れるほど話していたのか、単に学校からの距離が近かったのか。

 恐らくは前者だろう、こういうのは時間がいくらあっても足りない。



 響は転生する前にもよく、三人で日が暮れるまで喋っていたことを思い出した。

 そんでいつも言ってたんだったな。



 「また明日……って」



 その瞬間、みんなが響に視線をやったことで響はハッとした。

 どうやら声に出てしまっていたらしく響は「俺って結構、普段から本音だだ漏れだったのかもしれないな」など思いながら視線を一身に浴びてどうしたものかと考えていると、梓がクスリと笑った。



 「そうだね。また明日だね、マリアちゃん! セリアちゃん!」



 また明日()、そう元気に言ったのは先ほど笑っていた梓だった。

 それを皮切りに、みんなが口々にその言葉を繰り返す。



 「そうだな。また明日な、二人とも」

 「ええ、また明日、お会いしましょう」

 「また明日、ですわね」



 帰り際に寂しくさせない魔法の言葉。それを交わせば古今東西、ある程度の人は別れを悲しいものと認識せず明日の活力に出来る。



 今日が終わっても、また明日になれば会えるから。



 ひとしきり会話を終わらせ、二人は自分の家へと帰っていった。

 幼馴染二人も隣ではあるが、それぞれの家へと帰っていく。

 それは友と居れたことへの満足感もあり、喪失感も孕んでいた。



 響は片引き戸をガラリと開けて無事帰宅した。

 道場兼玄関には父様とカレンが模擬戦を行っており、木刀のぶつかる軽くも重厚感のある音がピタリと止む。



 「おうヒビキ、おかえり」

 「おかえりなさいヒビキ君」

 「ただいま帰りました、父様、カレンさん」



 靴を脱いで道場へと上がると、クラリアが「学校はどうだった」とか「友達は出来たか」とかっていうありきたりなことを聞いてきて響は何故か口角が上がってにやけてしまった。

 汗だくの父様に若干の嫌悪感を示しつつも、「なんてことなかったです」とか「フォートレス家のお嬢様とサイト家のお嬢様と友達になりました」とかそんなありきたりな答えを返した。

 それを聞いて安心したのか、父様が何も言わずに頭を撫でてくる。年相応の子供なら喜ぶんだろうが生憎と、中身はすでに立派な大人なもので素直に喜べないのが何とも言えない。



 「にしてもフォートレスんとこのお嬢様にサイト家か。中々凄いのと友達になったじゃねえか! 流石はこのクラリア・アルバレストの息子だな!」



 仲睦まじいであろう光景にカレンがはにかむ。その姿に響は不覚にも少しドキッとしてしまった。

 いつもは凛とした態度のこの人が、まるで我が子を見ているかのように微笑む。

 普段笑わないとかそういうことではないのだけれど、普段の笑顔とは違う顔に響はギャップを感じていた。




△▼△▼△▼△




 響は部屋に戻ってベッドに体を預け、天井を見つめた。

 やばいな、あのカレンの笑顔が頭から離れん。恋でもしてしまった乙女のようになってしまった。

 さぞかしモテることだろう、文武両道で性格も良いとくれば惚れる男などそれこそ星の数ほどいると思う。


 

 今日は色々とおかしいな。昔を思い出したり、恋心に近しいなにかを感じたり。きっと久しぶりの学校生活が心地よかったんだろう。

 転生してから、あまりこういう、元の世界と同じような日常的な出来事が少なかったから安心してしまったのだろうそうだろう。

 成長すれば勇者の一行として魔王討伐の戦いに行かなければならない、ならばせめてそれまでの長いチャージタイムとしてカウントさせてもらうことにしよう。



 午後の稽古まで少しだけ仮眠を取ることにして響は目を閉じた。

 そのまま深い微睡みの中へと沈み、目が覚めると夕飯の時間だったのは少しだけ反省点であった。

読み返すと話があまり進んでいないので時間軸を早送りしたりして調整します。

出来るかどうかは別の話。そろそろ戦闘シーン入れるよう頑張ります。

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