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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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泡沫のお話。

今回は戦闘パートではありません

 「いよっし!」


 自分の作戦が炸裂したからか珍しくガッツポーズで喜ぶアリア。

 正体不明の蒼い雷はグランに直撃して爆散、グランはそのままぐったりと動かなくなってしまった。


 プスプスと黒い煙を上げながらレストレイト・カースの鎖に身を委ね吐血するグランの姿はもはや死にかけそのもの。放っておけばゴブリン種にすら殺されるのではないかと思わせるほどひどく衰弱しきっていた。


 「ヒビキー!」


 マリアとセリアがこちらへと走ってくる、ただ走っただけにしては少々息が切れすぎている。


 「お疲れ二人共、大成功だ」


 「本当ですか、ならよかったです」


 「……なんでそんな息切れてんだ?」


 「あら? 話してなかったんですの?」


 「ん、ああ忘れてた」


 いつも通り大事なことを伝え忘れるアリア。

 その後のアリアの説明を要約するとこういうことになる。


 まず、前提として一発限りのロマン砲で仕留めるというのが作戦の根本となっていたようで、その理由は相手が魔力に物を言わせて回復魔法を使い続けたらいずれ戦闘経験の差で押し切られてしまうのではないかという懸念があったからだ。


 だがアリアは「どうせ三人ならうまいことやってくれるでしょ」という他力本願な考えで響たちがグランの体力を大幅に削ることを仮定して作戦に織り込んだ。

 自分たちは響たちのバックアップをしながら一撃必殺を決められるタイミングを見計らっていたのだが、問題はどうやってグランの動きを止めるかだった。


 アリアは自分にそれをできるだけの魔法を使えることが分かっていた、だが機動力とばれないように行動するための隠密性が足りなかった。そこで影山とミスズの出番である。

 影山の適合能力でミスズと自分を担いでグランの元へと運んでもらい、その間はミスズの能力で二人を透過させるというものだ。

 響たちと会った当時はミスズの能力は自分しか透過させることが出来なかったが、響たちの適合能力と同じく成長し、今では自分を含め三人までなら姿を消すことが出来るらしい。


 「なるほど、そう言うことですか。それで? マリアとセリアの魔法は何なんです?」


 二人が息切れしている元凶であろう蒼い雷の魔法について響はアリアに尋ねる。


 「あれは緋級魔法に分類される攻撃魔法で「ニュクス・チャリオット」っていうんだけど、攻撃力が高い代わりにかなりの魔力を使うんだ。それで一人じゃ発動できないから二人に頼んだってわけ」


 「でも二人で魔法を発動するってかなり難易度高かったんじゃ……」


 影山がアリアに問いかける。

 そう、二人で魔法を発動するということは実は難易度が高い技術であり、呼吸の合った熟練のパートナーでしかなしえないとされている。

 マリアとセリアがそれを成しえたということは、二人の呼吸がその領域に達していたということであり、お互いの息を合わせることを難なく成功させるくらいに二人の絆が深まっているということの証でもある。


 「さて、とりあえずまた動き出さないようにしないとね。みんな、拘束するから魔法を」


 アリアのその指示で全員はすでに簀巻き状態になっているグランにさらに何重にも魔法をかけて動けないようにした。といってもすでに動けるような状態ではないのだが。


 ひとまずこちらでの役割を終えた響たちはハーメルンと戦っているであろうグリムのことを心配しながら周囲を警戒していると疲れた顔のリナリアが戻ってきた。


 「あぁ~……疲れた……」


 「リナリア!」


 安堵からなのかリナリアに飛びついてきつく抱きしめるミスズ、リナリアは多少驚いたものの、ミスズを優しく両手で抱きしめ自分の体へと寄せた。


 皆がグランとの戦闘を終え休息を取っている時、一人の人物が煙の向こうから姿を現した。



 グリムだ。高貴な鎧に身を包み聖剣アロンダイトを携えた人族の勇者グリムが戻ってきたのだ。

 だが、どこか様子がおかしい。


 「おっ! グリムさん!」


 影山がグリムを迎えに行くためにそちらへと向かう。

 響は理由のない不気味な予感を感じ取り、影山に制止するように伝えようとするも影山は少しだけ能力を発動させていたようですぐにグリムの方へとたどり着いてしまいそうになっていた。


 もう数歩でグリムと接触するといったところで響は得も言われぬ胸のざわつきを感じ取り、叫んだ。


 「影山ぁ! 戻ってこい! 今すぐ、全力でだ!」


 ネメシスに来てから転生者ということで極力「影山」という苗字ではなく「聖也」という下の名前で呼んでいた。だが今回はその余裕すらないほどだった。


 その叫びも空しく、時すでに遅し。影山はすでにグリムのところに到着していた。


 「……逃げろ、早く」


 「え……?」


 自分の目の前にいる影山に忠告するようにグリムはそう告げる。

 






 次の瞬間、グリムがアロンダイトを鞘から引き抜き上段に構え振り下ろした。







 『おやぁ? 外しましたか……いや避けられた? どっちもですかね?』


 間一髪で響の転移魔法が間に合い影山を救出することに成功した、強制的に魔法で戻された影山は直前に見た光景と今自分が一瞬で連れ戻された二つの件で混乱している様子だった。


 そしてグリムの後ろから拍手をしながら現れたのは、てっきりグリムに討伐されたと思われていたもう一人の魔王軍幹部、「クラウン・ハーメルン」だった。


 響はハーメルンが生きていることと、グリムの様子がおかしいことから今何が起こっているのかを頭の中で一瞬で結論付ける。





 「グリムは今恐らく、『わざと』意識のある状態で操られているのだ」と。





 自分の頭の中で考え出された一つの結論に響は恐れを抱いていた。

 絶対的戦力であり希望の象徴であるグリムが、最大の攻撃力を誇る味方が、いつの間にか最大の攻撃力を誇る敵であり絶望の象徴となっていたからだ。


 そして今、聖剣を携えた勇者が、ハーメルンと共に響たちを殺すために歩み始めた。

希望=絶望

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