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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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撃破のお話。

ケッチャコ

 「梓! 聖也! 転移して一気に攻め込む! 三人はバックアップを!」


 そう指示を出した響は梓と影山を転移魔法で一瞬でグランとの間合いを詰めて畳みかける。響は刀と拳銃をそれぞれ一つずつ、梓は二刀流、影山は魔力を拳に集めての近接格闘をそれぞれ行う。何も打ち合わせをしていないにもかかわらず三人の攻撃はまるで幾度となくシミュレートされていたのかのような連携を見せた、これが友達付き合いの賜物なのだろうか。


 マリア・セリア・アリアの三人は魔物をかき分けながら中遠距離からの支援攻撃をメインとし、アリアはゴーレムを複数作成して響たちのサポート要員としていたのだが、響たち三人の動きが常人のそれとは逸脱しているため、ついていくのがやっとというくらいだった。


 一方グランも流石は魔王軍幹部の一角といったところで、三対一、魔物の排除に徹しているリナリアを除くアリアたちを加えた六対一の状況でも互角以上の動きを見せている。だが数の差で負けている現状、響たち転生組の猛攻で少々危ない場面も見られた。


 『鬱陶しい……なぁ!』


 グランは緋級魔法「グリーフ・ロア」で三人を一斉に吹き飛ばした。響たちは数m吹き飛んだものの空中で一回転し砂ぼこりを上げながらズザザザザと両足と右手を使って着地する。


 「ヒビキ君!」


 「……っ!」


 『るあぁっ!』


 アリアの声で響が顔を上げるとそこにはグランが骨のような形をした長刀を手に、今まさに響に切りかかろうとしていた。響はそれを転移魔法で避け背後に回り、刀を作成し切りかかる。だがそれはグランの衣服を引き裂く程度で、本人には紙一重で避けられてしまう。


 「浅いか」


 ぽつりと独り言を呟いたのもつかの間、グランと響の刀が拮抗する。小さい頃からの道場での訓練の成果と体が一時的とはいえ高校生程度まで成長したことによる反応速度の増加、そしてリナリアの強化のおかげで魔王軍幹部相手に一歩も引けを取らずに刃を交わらせる。


 骨と鉄のぶつかり合う鈍くも鋭い音が響き渡る。これぞ命のやり取り、こんな状況ですら響はそう心から思ってしまう。


 『いい顔してるよ……妹が惚れこむのも分かるくらいだ』


 お互いがお互いの刀を抑え込み、二人の顔がぐっと近くなったところでグランが何かを認めるようにそう響に言う。


 「それはどうも……っ!」


 『悪い顔してるよ、君が魔族に生まれてたら絶対に魔王軍に推薦していた』


 「それは褒められてんのか?」


 『褒めてるに決まってるでしょ。よく見たら私もタイプかも、なんて』


 「冗談はやめろってぇのっ!」


 力を入れ、グランを吹き飛ばす響。再び刃の交わる音が鳴り渡る。グランは一度バックステップを取り響との間合いを広げ魔方陣を展開させる、それを見た響は防御魔法を展開して身を守るが、予想に反しすぐに魔法は飛んでこなかった。時間にして僅か一秒ほど、すぐに魔法が飛んでこなかったことによる響の思考のラグを見逃さなかったグランが縮地法で間合いを詰め響の刀を下から弾き飛ばす。


 「しまっ……」


 すぐさまグランの突きが繰り出されるも発動しておいた防御魔法が障壁となり直接響へと届くことはなかったものの、一撃で防御魔法の障壁にヒビが入り、突破されなかったのが奇跡といった具合だった。

 グランは障壁に刀を突き刺したまま手を離し右足を軸にして素早く一回転、そしてヒビの入った障壁に素手で掌底を食らわして防御魔法を粉々に砕け散らせた。


 ガラスの破片のように飛び散る防御魔法の欠片、グランは隙の無い動作で刀を持ち直し響を切りつけようとしたその時、


 「ちぇすとぉぉぉ!!」


 『ぐっ……!』


 急加速で飛び出してきた影山の飛び蹴りによってそれは阻まれる。


 「大丈夫か?」


 「すまん、助かった。梓は?」


 「もう行ってる」


 後ずさりする中、刀を地面に突き刺してブレーキをかけるグラン。

 その背後から、無数の刀が地面からものすごい速度で自分に迫っていることに気付いたグランは寸でのところで転移魔法を発動してそれを避け、すぐ近くに姿を現す。


 グランは転移したその直後、別の気配が迫っていることに気が付く。

 魔王軍幹部を一角を担う彼女が嫌な汗を流すほどの気配。

 それは自分に対しての明確で純粋な殺意だった。


 振り返ると、狩人のような目つきで、グランの命を刈り取るためだけに現れた刀を二本携えた小柄な少女が眼前に迫っていた。


 目を大きく見開き一切の躊躇いなく二本の刀でグランを切り刻まんとするその少女の気迫に押され一瞬反応が遅れるグラン。だがその少女の刀は一瞬で自分の体に切り傷を作り、グランはここで初めてダメージを負った。


 『ぃ……ったいな!!』


 「………!」


 ダメージを受けたばかりにもかかわらず地を蹴り、わざと攻撃を受けて斬撃を止めゼロ距離から魔法を放とうとしたがそれは不発に終わった。





 なぜなら、グランは転移魔法で背後に現れ自分の背中に右手を触れさせている響に気付いていなかったからだ。


 「止まれ」


 短く発せられた一言で我に返るグラン、だが時すでに遅し。「ニュートンの林檎」で完全に動きを止められたグランは言葉こそ発せられど指一本動かすことが出来なかった。


 「今だ梓!」


 「分かってるって!」


 二刀の少女、もとい梓は刀をグランに突き刺そうとする。グランは雄叫びを上げながら力づくで「ニュートンの林檎」による拘束を一部振りほどき腕でガード、もう一本の刀も片腕でガードし即死は免れる。

 だがグランは梓の適合能力を知らない、つまり、地面から刀が突き出てくるなんてことは微塵も思っていなかった。


 『か……っはぁ……!』


 これがもし防御魔法を使える状況ならばこれも防がれていた可能性が高かっただろう。だが響に魔法を無効化させることは出来ない、だが現に今グランは防御魔法を展開できていなかった。これにはグラン本人が一番戸惑っていた、なぜ魔法を発動できなかったのか、いくら「ニュートンの林檎」を使ったとしても動きを抑制できるだけで魔法を抑制することは出来ない。

 なら一体誰がこんな芸当を出来たのか。


 「ナイスタイミングです、先輩」


 「これ……中々維持するのきついんだからね?」


 スゥ……と虚空から姿を現したアリアが響と同様にグランの背中に手を当て魔方陣を展開していた。


 『そんな……一体どこから……あぁ、そういうこと……』


 最初こそなぜ現れたのかが分からなかったグランだがすぐにその理由が分かった、そしてもう二人虚空から姿を現した。ミスズと影山である。


 梓はグランの体に突き刺した刀を引き抜き、一歩後ろに下がる。

 腹部から血液をボタボタと垂らしながらよろよろと歩くグランは、たった今己に起こった事象を答え合わせをするかのように響に問う。


 『ミスズがその男の子と女の子の姿を消し………その男の子が二人を引っ張ってここまでやって来て、その女の子が私の魔法を抑制した………』


 「正解、お姉ちゃん」


 『ぐ……まさか地面から刀とはね………予想外だった………でもそれより予想外なのは……』


 と、グランはゆっくりとアリアを指差す。


 『その魔法………っはぁ……壊級魔法の……』


 「……ご名答」


 してやったり。そう訴えるような顔を浮かべるアリア。


 『……壊級魔法「聖釘エレナ」か……』


 「ああ、そろそろ具現化するよ」


 アリアがそう言った直後、グランの心臓の部分を一直線に貫くようにして光が集まり、それが細長い釘のような形状に変化する。グランはその場に跪き、腹部の傷を抑えながら息も絶え絶えの様子だった。


 「チェックメイト、だな」


 『まだ……だ………。まだ動ければなんとかなる……』


 途端、グランの放つ強靭な気が数倍に膨れ上がり、まだまだ自分は戦えるといった感じだった。


 だが、響は「ニュートンの林檎」を。

 ミスズが上級魔法「レストレイト・カース」を五重に発動させてグランの動きを縛り付ける。


 それでもグランはそれを振りほどくのではないかと思わせる力で無理やりに動き、殺気を膨らませる。


 まさかこれほどとは、響はさらに力を強めるがアリアはその状況でも笑みを浮かべていた。

 アリアは空中に向かって下級魔法「マジックバレット」を三発放つ。


 「そのまま抑えておいて二人とも」


 「何か策あるんですか?」


 「案ずるなよ、チェックメイトしたんだろ? ならもうゲームセットと同義だ」



△▼△▼△▼△



 「合図ですわね、いきますわよセリア」


 「了解です、やりましょうマリアお嬢様」


 響たちがグランを拘束しているその数十m先、マリアとセリアは両手を重ね、魔方陣を一列に多重展開してとある魔法を放つためチャージしていた。


 マリアとセリアはアリアからとある合図を教えられ、その合図が出たら魔法をそのまま発射するように言われていた。

 さっきのマジックバレット三発がそれだ。


 「「リヒト・スクロペトゥム!!」」


 その叫びと共に蒼い雷は一列に並んだ多重魔方陣を割りながら、凄まじいスピードで発射された。



△▼△▼△▼△



 「よし! みんな離れろ!」


 アリアの叫びと共に辺りに散らばる五人。


 その五人が最後に見た光景は、蒼い雷が拘束されて動けないグランへと無慈悲に直撃し爆音と煙を上げるというものだった。

自分で戦闘描写書いてるのに「容赦ねえなこいつら(響たち)……」って思うことがしばしば

特に梓

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