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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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覚悟のお話。

全員「やろうか」

 「リナリアっ!」


 「ミスズ……!? ヒビキ! どうしてこっちに来た!」


 「適当に転移したらここに着いただけだ!」


 『あぁ……ハーメルンがなんかやったんだと思うよ? にしても耐えますね女神様』


 現在響たちが飛んで来た時にはすでにリナリアはあらかたの魔物を殺し終わっていたのだが、どうにも攻めあぐねいている様子だった。グランはグランで、駒の魔物たちが殲滅されているというのにまだまだいけるといった感じだった。

 そのグランの顔は、この状況を楽しんでいるとも取れるような、そんな顔だった。


 「やはりあいつに直接攻撃できないのが辛いな……」


 「どういうこと? リナリア」


 リナリアがため息交じりに吐いた言葉が引っかかるミスズ、それは響たちも同じだった。一つの種族を管理する女神が、魔王軍幹部とはいえ一人の魔族にタイマン勝負で苦戦するとは思えない。


 「……私たち女神は、自分が管理している種族には一切攻撃できないようになっているんだ」


 そう言うとリナリアはグラン目がけて火球を放とうとするが魔方陣を展開させた段階でどこからともなく光り輝く鎖が現れてリナリアをグルグル巻きにしてしまい、魔方陣も粉々に砕け散った。


 「……ほらね」


 「てことはリナリアは今回戦えないってことか?」


 「そうなるね。だから、グランは君たちが倒してほしい、私は群がる魔物どもを一掃しよう」


 響たちに緊張が走る、最高戦力であるリナリアが封印された今、現状戦えるのは響たちしかいない。

 

 やれるだろうか。


 そのような考えが全員の頭の中を駆け巡る。それもそうだ、まだまだ未熟な自分たちが魔王軍幹部といった強敵を倒せる保証はない。もしかするとあっさりと負けて死んでしまうかもしれない。


 怖いのだ、全員。アザミに使命を貰った響・梓・影山の三人でさえ。


 『怖いんだね? 分かるよ』


 遠くのグランが同情と哀れみの混じったような声色で語りかける。沈黙が続き、双方どちらも行動しなくなった。ただそんな中でとうとう沈黙を破る者が現れた。


 「フレイムエヴォルヴ!」


 詠唱破棄した魔法がグラン目がけて飛んでいった。グランはそれを防御魔法で弾いたためダメージが通ることはなかったが、それで十分だった。


 グランに魔法を放った人物とは、いつも響たちの背中を押してくれる存在。

 

 アリア・ノーデンス。彼女が放った魔法は、まるで怯え竦む響たちを夢から覚ますようだった。


 「なにも勝てないと決まったわけじゃないさ。やれるところまでやってみようじゃないか」


 楽観的に、それでいて優しく柔らかく笑うアリア。その言葉は今度こそ完全に響たちを夢から覚ました。響たちが危機的状況に陥った時、率先して勇気づけてくれたり行動するための道しるべを与えてくれたのはいつも決まってアリアだった。


 特に、この中で一番アリアと行動をしたことが多く付き合いの長い響はいつも感謝するばかりだった。


 響は俯いていた顔を上げ、今度はどこか清々しい表情を浮かべる。


 「やろう」


 響は覚悟を決めた。元々自分たちの目的はグランたちを率いている魔王イグニスの討伐である、こんなところで足踏みをしている状態ではいつまでたっても達成できそうにない。それならいっそのこと、ここで己の限界を超えてグランを倒すことの方がいいに決まっている。


 響の決意に他の者たちも応え始める。


 「だね、やろっか」


 「うっし、やるか」


 「ですわね」


 「そうですね」


 「響君がやるならね」


 「ふふっ……僕はどうやら良い後輩たちを持ったみたいだ」


 全員の考えは固まった。


 今ここで、グランをぶっ潰す。

 

 『考えはまとまった?』と、グランが嘲るように問いかける、響たちは「ああ」とそれに短く答えそちらへと体を向ける。それに呼応するかのように魔物たちがゾンビのようにゆっくりと体を起こす。だが残っている魔物たちはリナリアが強い魔物を片づけたせいか、そこまで脅威でもなさそうであった。


 鎖を解いたリナリアは響たちの足元に魔方陣を展開させる。その魔方陣から淡い光が響たちの体を包み込む、すると響・梓・影山の三人は何故かどこか懐かしさを感じた。慣れ親しんだものに触れたようなそんな感じだ。


 やがて光が弾き飛ぶように体からいなくなると、響たちは先ほどまで着ていなかった黒のベースに紫色のラインが入ったローブを身に纏っていた。


 そして響たち三人に至ってはもう一つ変化が起こっていた。


 「これって……」


 最初にその変化に気付いたのは梓だった、その反応を見て響と影山も自分たちに起こっている変化に気付いた。三人はお互いにそれぞれの体を見て確信した。



 体が転生する前の体格と同じになっているのだ。それに顔付きも。つまり今の三人は転生する前の状態になっているということだ。


 「そっちの方が戦いやすいかなと思ってね」


 「久しぶりだな、この体」


 「体軽ぃな。これならもっと早く動ける」


 「みんなには私が今できる限りの能力強化をしておいた、魔力から筋力に反射神経まで全て底上げした。三人はそれより特別仕様だけど。そのローブは上級魔物の攻撃程度なら無傷で済むくらいに頑丈だ、安心して戦ってくれ」


 女神直々の能力の底上げ、それがどんなものなのかはその効果がかかっている響たちが一番よく分かる。例えるならそう、どれだけ動いても無限に戦えるような、それほど今の自分たちの体には力が溢れそうなほど満ちている。

 これなら戦える、と先ほどまでネガティブ思考に陥っていたときとは正反対の考えが頭の中を駆け巡る。



 『話は終わりましたか?』



 自身に満ち溢れている響たちの方へグランが語りかける。

 

 「ああ、問題ない」


 はっきりと、そして堂々と響は答える。グランはそれを聞いて一つ息を吸い込み、ミスズと話していた時とは打って変わって強キャラ臭を漂わせる。



 『改めて名乗ろう、私の名はグラン・ロウ・セラフ・ローゼン。ミスズ・ゼナ・キリナ・ローゼンの姉であり、魔王軍幹部の一人である。能力は魔物の使役、ちなみにハーメルンは人を無意識下に操る能力だ』


 わざと手の内を明かすようにして名乗るグラン、ハーメルンの能力のことまでばらしたことを考えると、恐らくもう隠していても無駄だと判断したのだろう。




 魔物たちの怒号が響き渡る。

 だが響たちは怯まない。

 響たちはそのまま、グランだけを見据え、勢いよく走りだした。

次回本格的に戦闘パート

グランは戦いにおいてはフェア精神の持ち主

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