王都崩壊のお話。
王都より先に城が崩れそう
『ミスズったら、いつの間にかいなくなっちゃうんだものお姉ちゃん心配しちゃって……』
涙を流していないにも関わらず涙を拭くような演技をするグラン。妹想いの健気な姉を演じているようだがあまりにも嘘くさく、わざとやっているのではないかと思わせるほどだ。
「心配してるはずないでしょ……それにもう私はあなたの妹じゃない」
『ガーン………』
今度は嘘などではなく本当に落ち込んでいる様子のグラン、その予測できない行動に響たちはおろか同じ魔王軍幹部のハーメルンでさえ困惑してる様子だった。
『私から説明しましょう、グランに任せていては話が先に進まない』
仮面のくちばしを撫でながらハーメルンが意気消沈しているグランを横目に紳士的にも響たちにグランとミスズの関係を説明する。
ハーメルン曰く、ミスズはグランの妹として魔王大陸に生まれ落ち、姉のグランが魔王軍幹部のため同様に魔王軍幹部を目指そうとしたが失踪し今に至るらしい。
ただ、今の説明だけではどこか腑に落ちない響。ハーメルンもそれを感じ取ったのか響に尋ねる。
『おやヒビキ君。何か納得いっていないようだけど?』
「失踪したって言ったけど、本当は違うだろ」
『……と、言いますと?』
「魔王軍幹部くらいになれば、人一人いなくなってもすぐ分かるんじゃないのか? 当時のミスズとは今よりも戦力差があったはず、なら見つけるのは容易のはずだ」
響の問いかけにハーメルンとグランの纏う雰囲気が微かに変わった、だがそれもすぐに元に戻り、ハーメルンは少し笑いながら響の問いかけに対して返事をする。
『確かにそうなんですがね……そうですね、ある種ワザとですよ』
「ワザと?」
『あまり詳しくは言えませんがね……さて、お話もそろそろいいでしょう』
煮え切らないまま話を終わらせるハーメルン、気が付けば響たちは魔物たちに囲まれていた。一斉に戦闘態勢を取る響たちに対してまだ余裕を見せるハーメルンとグラン。
そしてグランが一回指を鳴らすと、二人の背後から一匹の魔物が飛び出してきた。響とアリアそしてマリアはその魔物に見覚えがあった、かつてフォートレス家の地下牢にてバドゥクスを目の前で食い殺した魔物、キメラである。
「ゴアアアアァァァァァ!!」
記憶の中の雄叫びと変わらぬその獰猛な鳴き声はマリアが忘れかけていたトラウマを呼び起こした。短く悲鳴を上げるマリアに、あの時のことを覚えていたのかハーメルンがあの時のことを話し出す。
『そう言えばあの時は人選ミスでしたね。私としたことが』
「バドゥクス少尉のことですの……?」
『そんな名前でしたか、一々操る駒の名前を覚えておく必要はないんで一番偉そうなやつを選んだんですけどねぇ……お知り合いでしたか』
「あのせいで、一体何人うちの使用人たちが襲われたのか分かってますの!?」
『申し訳ありませんが存じ上げませんね。私はあくまで操っただけなのでその後はそのバドゥクスとやらが私の指示通りにやったことですので。まぁ、その様子だと色々やってくれたようですから十分でしょう』
「この……外道が………!」
自分の屋敷に災いを招いただけでなく、犠牲になった門番や使用人たちのことをどうでもいいように話すハーメルンの口調に、珍しくマリアが感情を全面に出して激昂する。
「お嬢様……」
その激昂ぶりたるや、長年連れ添ったセリアですら見たことのないもので、恐らく本人もこれほど怒りをあらわにしたのは初めてのことだろう。
だが激昂してばかりもいられない。我慢の限界だと言わんばかりにキメラが雄叫びを上げながら襲い掛かってくる、響たちはそのまま応戦しようと魔方陣を展開させる。
だがそんなキメラに一振りの斬撃が飛び、またたく間に半分に切られてしまった。
「無事か!」
グリムだ。
フル装備状態のグリムがアロンダイトの一振りで発せられた衝撃波でキメラをいとも簡単に切り裂いたのだ。
グリムはハーメルンとグランの方へと剣を構え、響たちをかばうようにして前に出た。ハーメルンたちも待っていたかと言わんばかりにじっとグリムを見据える。その瞬間、先ほどまで響たちに接していた態度とは真逆の雰囲気を纏い、まるで別人のようなオーラを醸し出す。
『やっと本命が出てきましたね』
「貴様ら……容赦はせんぞ」
『まぁ、私たちだけにも構っていられそうにないですしね』
そう、グリムが今来たからと言って一瞬でこの地獄絵図がひっくり返るわけではない。響たちが足踏み状態の中でも魔物たちはお構いなしに群衆を殺していく。
今この場でグリムが群衆を助けようとしてそちらへ動けば間違いなく響たちが殺され、逆にハーメルンたちと対峙しようとしたのなら今度は群衆への被害が抑えられなくなる。
ならばここで自由に動ける響たちを使って群衆への被害を抑えるべきだとグリムは考え、すぐさま指示を出そうとするがグリムはここであることに気付く。
群衆の一部の国民たちが何故か同じ国民である者を襲い始めているのだ。
「ハーメルン、貴様か」
『ご名答。なかなか滑稽だとは思いませんか、人が人を襲っているのですから』
これでは仮にここで響たちをそちらへ向かわせたとしても群衆に不意を突かれて殺されてしまうかもしれない、グリムが向かったとしても勇者が人を殺すなんて以ての外。しかもこの場にいる魔物は全て上級魔物以上、中には上級魔物を超えた緋級魔物と呼ばれる部類に属する魔物もいる、響たちの戦力差なら抵抗こそできてもすぐにやられてしまうだろう。
だがここでリナリアが動く。
「私が群衆たちを食い止めよう、勇者」
「リナリア様……」
『ほぉ? 魔族の管理を担うあなたが人族の味方をしようというのですか?』
「勘違いするな、私の仕事はあくまで『魔族』の管理だ。人を殺そうが魔物を殺そうが咎められることはない」
ある意味自分の仕事の抜け道のようなものを通る提案。勇者としての立場から考えればグリムはこの提案を呑むべきではないが、ここはリナリアに任せることにした。
「お願いします、リナリア様」
『本当に宜しいのですか? 女神ともあろうお方が情に流されるようなことを……』
「二度目の勘違いだ。私は別にこの事態がどうなろうと知ったことではない、それに私は今女神リナリアではなく、ただのリナリア・ファスルという名の魔導学院生だ。そしてなにより――――」
その瞬間、リナリアの纏うオーラが凶暴なものへと変化した。
「――――なにより私は自分の友達が困っていることと寝床が無くなることが嫌いなんだ」
そしてリナリアがそう言った次の瞬間、空に巨大な魔方陣が映し出され落雷が落ちた。その雷は的確に魔物だけを撃ち抜き一撃で死滅させてしまった。
操られていた群衆たちも突然の衝撃でハーメルンの能力から覚め、途端に動きが停止する。
「じゃあ後は任せたよ」
そう言ってリナリアは群衆たちの方へと行ってしまう。すぐさまそちらへとハーメルンも飛び立とうとするがグリムに阻まれそれを阻止される。その隙にグランが転移魔法でリナリアの方へと飛び立つ。
「仕方ない。まずは貴様からだ、クラウン・ハーメルン」
『これは……骨が折れますねぇ!』
ハーメルンは地面を一蹴りして一気にグリムとの距離を縮める。
「全員離れて!」
その怒号と共に響は全員の足元に転移魔法の魔方陣を展開させ適当に転移する。そんな響たちが最後に見たのは、ハーメルンとグリムがお互いに殺気立ちながら剣と拳を交わらせている光景だった。
そして響たちが転移した先というのが、今まさに戦場と化しているリナリアとグランそしてグラン率いる魔物軍のところだった。
響たちが転移した後、グリムとハーメルンはお互いに拮抗状態のまま話し始めた。
『もう少しで能力をかけられそうだったんですがね……』
「それは残念だったな」
『ですがあの魔法に細工はしました、今頃グランのところへと行っているでしょう』
「あまりあの子たちを侮らない方がいい、きっと化けるぞ」
『なら化けないうちにあなたを殺してあの子たちも殺しましょうかぁ!!」
勇者対魔王軍幹部のタイマン勝負、其の場だけは魔物ですら立ち入ることは出来なかった。
かくして人王大陸の中枢都市である王都で、グリム対ハーメルン、そして響たち対グランと魔物軍という二つの全面戦争が幕を開けた。
次回から戦闘パート。長めの予感




