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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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聖剣と銃火器のお話。

勇者は天然産のチート

 「着いたぞ」


 グリムの声で響たちの意識がはっきりした時、そこはすでに巨大な扉の前だった。

 今の響たちは、勇者に城へ招こうと言われてからの記憶がおぼろげな状態で何がどうなってこんな重厚な扉の前に立っているのかが理解できなかった。


 「ここは……雰囲気からして王室か?」


 「流石です、リナリア様」


 唯一最初から平然としていたリナリアがこの扉の奥の部屋を推測し、グリムはその推測を肯定する。

 王室、つまりところ国王の部屋だということ、それを聞いて響たちは一層気が引き締る。勇者の姿を一目拝もうと思って王都にやってきたらいつのまにか王族の住まう城に招かれさらには国王の部屋の前まで来ているのだ、そんなこと想像すらしていなかった。


 グリムはコンコンと目の前の扉を二回ノックすると中からしわがれた声が聞こえた。

 「どうぞ」。

 それを聞いた響らは簡単にではあるが着ている衣服を整える、グリムはそれを確認すると凛とした態度を崩さないまま「失礼します」と言って両手で扉を開けた。


 

 その空間は、荘厳であった。

 先代の国王たちだと思われる肖像画が壁に貼り付けられ十人ほどの女中たちが一列に並び、王室、その部屋の奥には巨大な玉座が置かれており窓から差し込む太陽光が逆行となって神々しさを演出していた。

 煌びやかな装飾こそあれどそれを大量に使わず、部分部分で飾り付けているためシンプルながら別世界のような雰囲気を作り上げていたその部屋の玉座に座っていた白い髭の人物、ハーツ・プロト国王はゆっくりと威厳をもってグリムたちに話しかけた。


 「よくぞ来てくれた、若き希望よ。して、その子供たちは一体何者なのかね。君ともあろうものが、理由もなしに連れてくるはずもあるまいて」


 国王は、至極もっともな疑問を口にする。

 グリムはそれの疑問に対して一から丁寧に説明した。リナリアが本物の女神であること、人王大陸に戻る際にアザミから信託を受けていたこと、そして響たちがその信託の中に出てくる人物だったこと、これらを全て話した上でグリムは国王に続けてこう言った。


 「私は、この子供たちを育てていくべきだと考えております」


 「……具体的な案はあるのかな?」


 「我々のパーティーの一員として加える、というのはどうでしょうか」


 その言葉に、響たちだけでなく並んでいた女中らも驚愕の表情を浮かべる。リナリアもこうなるとは思っていなかったのか或いは可能性を低く見積もっていたのか「へぇ」と声を漏らした。

 国王も「ふむ……」と考え込んでいた。


 「なるほど、其方の考え方は分かった。だが戦力面では劣るのではないか?」


 「私が指導します」


 「……よし分かった、そこまで言うのなら仕方あるまい。他ならぬ其方の頼みだ、この一件は勇者である其方に任せる。好きにしたまえ」


 「感謝します、国王」


 グリムは深々と頭を垂れ感謝の意を示す。国王は蓄えた白い髭を触りながら「ほっほっほ」と笑っていた、その国王の姿は優しいお爺さんのようにも見えた。響たちもグリムを見習い頭を垂れてその場を後にすした、王室を出た響たちはこれからどうすればよいのか分からないのでグリムの後をついて行くことにする。

 その時マリアがあることに気が付いた、ちゃっかり成り行きで行動してしまっているがこの後は貴族としての勇者との顔合わせがあるのだ、そろそろ戻らないと時間的にまずい。


 「ヒビキ、今何時ですの!?」


 「一時回ったくらいだな」


 「まずいですねお嬢様、確か私の家系とフォートレス家はそろそろのはず……アズサさんのところのゼッケンヴァイス家も私たちの前後だったかと」


 「うぇえ!? どうしよ……」


 焦る三人にグリムは淡々と答えた。


 「……どのみち私と会うことになっているのなら、今私と会っている時点で用は済んでいるはずだ。君たちの両親も時間に間に合わないと断定すれば君たち無しで来るだろうからな。その時私と一緒にいれば問題はないはずだ」


 つまるところ、今だろうが後だろうが結局グリムと会うことに変わりないのならこのままでも問題はないだろうという提案だ。


 結果このままグリムと行動するということに落ち着き彼女について行くこと数分、響たちは庭園へと案内された。名前こそ庭園だがアルバレスト家がすっぽりと収まるほど大きなもので辺りには花々が咲き誇っている。


 グリムは庭園の中心まで歩くとくるりと振り返り響たちの方を見る。


 「早速だが君たちの実力が知りたい。だから戦ってもらう」


 そう言ってグリムは携えてある剣を鞘から引き抜き地面に突き刺した。その剣は純白の刀身に薄く淡い水色で幾何学模様らしきものがまるで血管のように刻まれていた。

 「勿論ハンデは与える」、グリムはそう言いながら自分の足を肩幅に開きそれより三倍ほどの円を自分の周りに剣で後を付けた。


 「全員で来い。私はこの円から出ない。私が使う武器はこの剣だけだ」


 グリムはそれだけ言うと再び剣を地面に突き刺して動かなくなった。戸惑いが隠せない響たちだが言われた通りグリムと戦う方向で話を進める。


 その後リナリアを除いたメンバーが適度に距離を取って円状に広がり各々魔方陣を展開させる。


 「いつでもいい、君たちの好きなタイミングで――――」


 ドゴォン………


 グリムが言い終わる前にアリアが魔法を放つ。


 「先手必勝ってね」


 「せめて話は遮らない方が……」


 「甘いねヒビキ君。こんなんで勇者が傷を負うはずがないじゃいか」


 アリアは響と会話しつつも目線はそのまま魔法の着弾地点をじっと見据えていた。


 そこへリナリアが声をかける。


 「一応言っておくが、彼女の持っている剣は聖剣の一振りだ。甘く見ない方がいい」


 「聖剣?」


 そう聞き返す響は視界に一つの人影があることに気が付いた、グリムだ。モクモクと立ち込める煙の中から姿を見せた彼女は宣言通り円の内側に立ったまま突き刺していた聖剣を手に持ち替えて立っていた。着ている鎧には傷どころか汚れ一つついていない。


 「悪くはない魔法だ……だがまだ弱い」


 その姿を見た響たちはすぐさま一斉に攻撃を仕掛けた、遠距離からの魔法の総攻撃にもグリムは顔色一つ変えずなんと全て手にした剣で叩き切ったのである、それも円から出ずに。


 そんな中梓とミスズが飛び出して魔法から近接戦に攻撃方法を変える。梓は刀を二刀生成して二刀流を、ミスズは姿を消しての攪乱攻撃をそれぞれ仕掛ける。


 だがそれでも届かない。

 グリムは【神童】の二つ名を持つフランとも渡り合った梓の剣技を全て受け流し掠ることさえ許さなかった、それどころから猛攻を受けている最中でも姿の見えないミスズの攻撃を切ったり躱したりとまるで見えているかのように冷静に対処していた。


 結局梓とミスズは投げ飛ばされたり蹴り飛ばされたりしてダメージを与えることが出来なかった。

 ならばと響は拳銃を作成し弾薬を全て使い切るまで撃ち続けた。


 一瞬グリムの表情が驚きに変わった気がしたがすぐさま凛とした顔に戻り剣を振るった。

 すると彼女の周りに金属片が散らばる。



 そう、弾丸を全て切ったのだ。防御魔法を使って防ぐのではなく純粋な剣技として弾丸を切ったのだ。



 「だったら!」


 響はガトリング砲を六基作りそれを「ニュートンの林檎」で空中に固定する。


 「数で押し切る!」


 一斉射撃、そしてすぐさま魔法を何発も放つ。

 

 弾丸と魔法の雨が止んだころ、アリアの攻撃時よりも大量の煙でグリムの陰すら見えないでいると一筋の衝撃波が響の方へと飛んできた。


 それはガトリング砲六基にあたり縦に切り裂いた。

 煙が晴れるとそこには先ほどと同様片手に剣を携えたグリムが佇んでいた。


 唯一違うのはグリムの着ている鎧に掠り傷らしきものが付いていることだろうか。


 「………」


 グリムはその部分をを無言で撫でると凛とした表情のままキッと響を睨み付ける、若干竦んだ響だがすぐさま銃を作りだして第二波に備える。


 そこで何があったのかと城の住人たちや使用人たちが続々と駆けつけてきたのでグリムとの戦闘は中止となった。


 「中々面白かったぞ、稽古のし甲斐がある」


 グリムはそう言って体を翻し城の中へと戻っていく。


 「部屋を用意させよう、ゆっくり休んでくれ」


 それだけを言い残してグリムは一人足早にどこかへと去っていった、使用人の一人がグリムの代わりに響たちを部屋に案内し「待機していてください」と言って仕事に戻ってしまった。


 その部屋はしばらく無言だったという。

 無理もない、あれだけやって成果が汚れ程度の掠り傷一つだけなのだから。

 この時ようやく響・梓・影山の三人は勇者の強さそして自分たちの本当の目的の過酷さを実感していた。



 「夢から覚めたような気分だった」と、後に響は語った。

聖剣については次回詳しくやります

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