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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第五章:王都が襲われたようです
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勇者のお話。

勇者、ようやく登場

 勇者。


 それは希望の象徴。人々の安寧と繁栄をもたらすために選出された各種族の切り札であり最高戦力、並外れた戦闘力と魔力を兼ね備えたまさに万能の存在。また、最高重要地区である神域に足を踏み入れることのできる人物でもある。

 しかし勇者という役職についた以上、戦場が住みかと言っても過言ではないほどに常に前線に出て戦い、死と隣り合わせの生活を送っている。

 そのため人族に関わらず勇者というものは大陸に戻ってくることが少ない。



 それが今、偶然にも響たちが獣王大陸から帰ってきたタイミングで同じく近況報告のため帰還してきたのだ。当然、国を挙げてのお祭り騒ぎである。


 「ほー……こりゃえらい人だかりだ」


 「勇者が帰ってくるとあってはね、多分まだ増えるよ」


 そして現在響たちは王都へとやって来ている。理由は言わずもがな、勇者をこの目で見るためだ。

 今日と明日の二日間、王都は勇者の帰還を祝して帰還祭が催される。その間だけが勇者を見ることが出来たり会合したりできる期間でもある、大抵の貴族たちは「ぜひともうちの子を!」と自分の子供を勇者メンバーとして売り込んだり、自分の家の優秀さを売り込んだりする。


 それは梓やマリアにセリアの家計も例外ではなくこの後三人は家の事情で途中離脱することになっている。


 八人は勇者が顔を見せるという国王を始めとした一族である王族が住まう城、王城へと足を運んだ。もとい、転移した。

 王城にはすでに大勢の人だかりが出来ており下手するとはぐれそうになってしまうほど人が多かった。


 「お嬢様、はぐれないように手でも繋ぎましょうか?」


 「子供扱いしないでくださいまし! でもまぁセリアが言うのであれば……」


 「お嬢、お手を」


 「くるしゅうない」


 「はいそこコントやらない」


 マリアとセリアの仲睦まじい様子を一回の会話でぶち壊した響と梓に影山が指摘を入れる。結局手を繋いだのはマリアとセリアの二人だけ、後は気合でついて行くことにしてもし迷ったら個人行動に切り替えて合流出来たら合流という方法を取った。


 幸いにも誰もはぐれずに、ちょうどよく人のあまりいないところを見つけたので勇者が現れるのをそこで待つことにした。


 その間にも続々と人は増えていき、それに比例して熱気も増していく。

 そしてきっかり正午になった時、王城のテラスから現国王、ハーツ・プロトが姿を現す。国民の歓声が沸き上がった。


 国王は静かになるのを待ち、静かになったところでようやく語りだす。


 「親愛なる国民たちよ、よくぞ来てくれた。感謝しようぞ。知っての通り我々人族から選出された勇者が此度無事に帰って来てくれた。歓迎してほしい。では早速登場していただこう、勇者グリム・メイガスである。皆のもの、拍手で迎えてくれ」


 国王がそう告げると周りから割れんばかりの歓声と大きな拍手が空間を包んだ。お互いの声が聞こえなくなるほどの大歓声の中、薄暗いカーテンの奥から一人の人物が姿を現した。



 銀色の鎧を身につけ、腰には一振りの剣を携えた銀髪で蒼い瞳を持つ凛々しい表情の女性。


 その姿だけを見て響・梓・影山の三人はその容姿からこう錯覚した。


 『東雲アザミなのか?』と。


 だが髪の長さも違うし何よりも同じ女神であるリナリアが反応していない、仮に本当に東雲アザミ、つまり女神アザミであれば同じ女神であるリナリアであれば気づくはずである。だが今回は何の反応もない、別人ということだ。


 大歓声を浴びながらも表情一つ崩さない勇者グリム。

 彼女は一言、呟くように言った。


 「静まりたまえ」


 その瞬間、先ほどの歓声だけがこの世界から存在ごと切り取られたかのようにピタリと止んだ。

 これこそが本当のカリスマだとでもいうのか、歓声が止んだところでグリムは一度息を吸い込んだ。


 「親愛なる民たちよ。本日は私のために足を運んでくれたこと、誠に感謝する」


 凛としたその声は、その場の国民たちを不思議と彼女の世界へと引き込んだ。

 グリムは約三十秒ほどの演説を終えると一礼をした、その時再び割れんばかりの歓声と拍手が復活した。


 グリムは顔を上げると目を丸くして驚いたような表情を浮かべ、テラスの手すりに足をかけて群衆の中へと飛び込んだ。飛び込んだ先はなんと響たち、正確にはリナリアの正面に。


 群衆は慣性とは打って変わって驚愕の声を上げながらグリムの着地地点を綺麗に避ける。そこへグリムはふわりと着地し、「チャリ……」と鎧と剣の金属音を鳴らして立ち上がる。


 「……一つ問いたい」


 グリムはリナリアをじっと見て短く言う。


 「どうぞ、勇者様?」


 「私の記憶が正しければ、あなたは女神リナリアとお見受けするがどうだろうか」


 観衆がざわつく、それもそうだ、勇者が女神なのかと問うたのだ。

 リナリアは顔色一つ変えず「そうだ」と答えた。グリムは「そうか……」とだけ返事する、リナリアは何かを思い出したかのように響たちをグリムの前へと強引に近づける。


 「そうだそうだ、アザミに言われてたんだった」


 「え、ちょ、リナリア?」


 「この子たちはアザミが選んだ子たち、と言えば伝わるかい?」


 「………ええ、ここへ来る前、アザミ様から信託を受けました。『女神リナリアの連れている少年たちはいずれあなたと共に戦うことになるでしょう。私が選んだ子たちですから』と、直々に」


 「なら話は早い、と言っても全員ではないが。ああ、この子たちはアザミの選んだ子たちではないが良い戦力になるだろう」


 「なるほど、リナリア様の見解とあれば信用するに値します。それでしたら――――」


 と、言いながらグリムは転移魔法の魔方陣を展開させ自分と響たち全員を王城のテラスへと転移させた。


 「――――城へ招こう。私が実力を確かめてやる」


 「…………え?」


 その時ばかりは、観衆からの歓声は一切なかった。

 響たちに至っては理解すらできなかった。

さて、戦わせるか(予言)

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