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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第四章:魔導学院で色々やるようです
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レベルアップのお話。

合宿編ラスト

 「おら声出せ声! そこぉ! もっと激しく」


 「はい!」


 合宿四日目、すっかりこの訓練の雰囲気にも慣れてきた頃、もはや軍隊と化した人族獣族入り混じったこの強化合宿。精神統一から入るのは変わらないが、時間が延び三十分近く座禅を組んでいる。何人か集中力が欠けアキレアに喝を入れられる者もいるが大半の生徒たちはじっと耐え集中力が頂点に達した状態で実戦訓練に入る。それを休憩を挟みながら三回ほど繰り返す。

 それから昼食を挟みまた同じことを繰り返し一日の最後に模擬戦を行って終了、これがこの合宿での一連の流れである。


 「よぉし! 今日はそこまで! 各々解散!」


 「「「「ありがとうございました!!」」」」


 最後にアキレアに対して感謝の気持ちを込めて挨拶するのもお決まりだ。


 「ふぅ……初日よりはだいぶ慣れたな」


 「ほらよ」


 「サンキュ、賢介」


 賢介は粗目の生地で出来たタオルを響に投げ渡して自分の汗も拭く、響も受け取ったタオルで汗を拭い制服の襟元を広げて熱を逃がす。


 「ひ……響君……おつ……お疲れ……うぇぇ……」


 「ちょ、大丈夫か?」


 フラフラと歩み寄りすでに崩壊しそうな笑顔で響に声をかけるミスズ、今にも吐き出しそうになりその場にへたり込みながら汗を拭体力もないのかそのまま息を荒くしたまま動かなくなってしまった。

 これはダメだと思い響はすぐさまミスズに回復魔法をかけて体力を回復させる、次第にミスズの呼吸が整い始め深呼吸が出来る程度まで回復させることが出来た。そこへ賢介が未使用のタオルを手渡しミスズの変わりに優しく拭う。


 「あ、ありがと。賢介君もごめんね」


 「気にすんな、こいつのついでだ」


 その後体力の回復した者たちから空き教室を借りて作られた場所に学院別ではあるが男女混合で過ごすことになっている。空き教室と言っても日本の教室とは比べ物にならないくらい綺麗で教室と言うよりは本当に部屋のようになっているし、男女混合と言ってもこの世界ではそう珍しいことでもなく何か過ちがあったら個人個人で何とかしろといった風になっている。要はなにかヤるにしても自己責任だということ。


 ちなみになぜ女神であるアキレアが魔導学院でこうして指揮を取っているのかと言うのは実は最近のことではない。

 元々暇つぶし目的でアキレアが身元を隠して個人的に学院に忍び込み、当時の学院生全員をフルボッコにしたうえでダメ出しをしたところ翌日から講師として招かれることになったらしい。アキレア自身もいい暇つぶしが出来たと思って快く引き受けていたのだが、次第に管理作業よりも現場作業の方が楽しくなってしまい今ではアキレア自身が女神でありながら魔導学院生徒会長を務めているというわけだ。



 かくして簡易的な寝泊まりスペースの空き教室には響の他にミスズとアズサに賢介の三人がおり、三人はしばしの間休息をとることにした。

 すると休んでいるところでドアがガラガラと開きソルとアキレアが入ってきた。


 「邪魔するぞー」


 「お邪魔しますー」


 「お邪魔しまーす」


 「はいどうぞ……おいちょっと待てや最後」


 普通に返事をしてしまったが声が一人分多いことに気が付いた響はバッと勢いよく振り向きその正体にツッコミをいれる。


 「なぁ響。女神ってのはアホが多いのか?」


 「いやきっとこいつだけだ」


 「おいこら男子組」


 言わずもがな三人目の正体はリナリアなわけで、賢介は半ば呆れながらリナリアを見ていた。何かミスズからフォローが入るかと思ったがミスズもミスズで「あはは……」と愛想笑いをしているだけだった、どうやらリナリアと一番付き合いの長い彼女でもフォロー出来なかったらしい。


 「ども、お久しぶりです……って言っても毎回訓練で会ってますけどね。その節はどうも」


 「そうですね、でもゆっくり会うのはあの時以来じゃないですか?」


 「こき使われてましたからね」


 「こき使ってたからな、どうにも実務処理は慣れない」


 完全にリナリアをスルーしてソルとアキレアはその場に座り体を伸ばした。リナリアは自分が予想していたより反応が薄かったことが不満だったのか「あれぇ~?」と何やら物足りなさそうにしていた、もちろんそれも無視した。


 そんなこんなで六人で駄弁っているとあっという間に夕食時になる、ここでの食事のシステムは給食のようになっており地元のおばちゃんたちが手伝ってくれているそうだ。

 そのためどこか懐かしい味がして心が休まる。妖王大陸の主流な食事はどちらかといえば野菜中心のヘルシーなものだったが、獣王大陸の食事は家庭的なものが多い印象を受ける。


 そんな日々を繰り返して残りの合宿日数はあっという間に過ぎ去っていく、光陰矢の如しとはよく言ったものだ。最終日では獣族・人族問わず初日より戦闘スキルは格段にレベルアップしていた。こと響たち転生組のメンバーに至っては近接戦に自信を持つ獣族の学院生たちと遜色ないくらいに近接戦のレベルが上がっていた、琴葉でさえ最終日には戦うことへの嫌悪感をうまくコントロールして獣族の学院生たちと白兵戦を繰り広げていた。思えば訓練前の精神統一の時間が琴葉をここまで気持ちの面で成長させたのかと感じさせる。


 かくして響たちは妖王大陸と獣王大陸での強化合宿の日程を全て終え、二週間ぶりに人王大陸へと帰ることになった。


 「またいつでも来い。その時はまた総出で歓迎しよう」


 「今度は任務で会いましょう、短かったですが楽しかったです」


 帰り際に学院を代表してアキレアが挨拶しその後にソルが響たちへと言葉をかけた。


 響たちはアキレアたち獣族の学院生たちに見送られて獣王大陸を去った。



△▼△▼△▼△



 無事家に帰り着いた響はその日、二週間の疲れが出たのかベッドにダイブするなりすやすやと寝息を立てて寝てしまった。自分でもいつ寝たのか覚えてないくらいに。


 翌朝、アリアや梓とはまた違った五月蠅さで朝の稽古前に目が覚める。寝ぼけ眼を擦りながら響は部屋の窓を開けると何やら外が早朝だというのに騒がしいことに気付く。

 そしてその直後、それとはまた違った騒がしさがやってきた。


 「おはよう響! ねぇ聞いた? 勇者が来るんだって勇者! 見てみたくない?」


 「勇者ぁ?」


 その一言で響の眠気は一気に覚めた。それと同時に最近忘れかけていた自分たちがこの世界にやってきた理由を思い出した。


 そして朝の稽古後、影山は勿論のこと、勇者が来るという話を聞きつけたアリア・マリア・セリア・ミスズ・リナリアの六人がアルバレスト宅になだれ込み、八人の大所帯で王都へと出かけることになった。





 数時間後、この中の誰かが生死の淵を彷徨うことになるとも知らず。

次回、勇者登場

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