戦闘民族のお話。
4000字近くなりました、今回は真面目だと思います
「数日でしたが楽しかったですよ、今度はしっかりと私の魔法を見せてあげますからね! 期待しててください」
「ああ、僕たちも楽しかったよ。また今度手合わせをしよう」
「いや……それはまぁ考えておきます。任務にも行きたいですからね、またいつか遊びましょう」
妖王大陸から旅立つ朝、アリアとラフィーリアは強く挨拶と握手を交わし響たちとも握手を交わす。響たち人族の魔導学院生たちは、ラフィーリアたち妖族の魔導学院生たちに見送られ妖王大陸を後にした。
またいつか会える日を待ち望んで。
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妖王大陸を離れたたどり着いたのは獣王大陸、妖王大陸よりは古びた感じだがその分活気があり、町並みは人王大陸と似ているといった印象を受ける。
響たちは妖王大陸同様、獣王大陸にある魔導学院へと移動しその門を叩いた。
学院の関係者たちに案内され訓練室と思しき広い空間へと響たちは連れてこられ、しばらくそこで待機だと指示され、だだっ広い空間には響たち人族の魔導学院生たちだけが取り残された形になった。
しばらく経っても誰も来ないので響たち人族の魔導学院生たちは手持ち無沙汰になり各々雑談を始める。
「てか、なんで誰も来ないわけ? 遅くない?」
しびれを切らしたのか暇になったのか絵美里が愚痴り始める。
「確かにおかしいな。誰か一人くらい来てもいいはずだ」
と、賢介が冷静に分析を始める。
その後「何かあったのかな?」と智香が少し不安になり、「いや、むしろこう考えるべきだ。もうすでに何か始まっているんじゃないかと」とアリアがケラケラと面白半分で言う。
だがアリアがそう言うもんだからみんな黙ってしまった。
そう、アリアがこんなことを言った時はもれなく高確率で当たるのだ。
そして今回も、例外なくその言葉は当たっていた。
その時、何の前触れもなく部屋の扉が勢いよく開き、数十人の獣族たちが雪崩れ込み、あっという間に響たちを囲んでしまった。
クラスメイトたちが呆気に取られている時、響たちはすでに臨戦態勢に入っていた。
銃を作り、刀を作り、魔方陣を展開させ、拳を鳴らす。
「なぁ、僕って結構凄くないか?」
「もはや予言ですね、先輩」
そんなことを言っている間にもう二人、今度は普通に入ってくる。
一人は以前知り合った獣族の褐色少女ソル・リーハウンナなのだが、もう一人、赤髪の方は分からない。
その二人が入ってくるや否や、響たちを囲んでいる獣族たちが一斉に敬礼をし始める、その光景にぎょっとする響たちだったが二人のうちの片割れ、赤髪の女性の方が咳払いをして大きく息を吸い込む。
「よく聞け人族の魔導学院生たちよ!! 今日は遠路遥々獣王大陸まで足を運んでくれたことに感謝をする……がっ、しかぁし!! 我々獣族はただの歓迎をするつもりはない。今日から一週間、貴殿たちは強化合宿のためにここに来たと聞いている、ならば! ごたごた話をして親睦を深めるより、直接拳を交わし合って親睦を深めようではないか!」
「………大変ですわ、コトハが雪山に捨てられた奴隷のように震えています」
「その例えはちょっとどうか思う」
きっと琴葉は察したのだろう、これから何が起こるかを。それもそのはず、この後に続いた言葉はその答え合わせでしかない。
「ここは我々獣族古来の方法によって親睦を深めさせてもらおう、つまりっ! 今から我々が一斉に攻撃を仕掛けるからどうにかして生き残って見せろ!」
そこで再度、その女性は大きく息を吸い込んで指示を下す。
「かかれぇお前らぁ!! 我々獣族の強さ、見せつけてやれぇ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」」」
その号令を合図に、囲んでいた獣族たちが一斉に襲い掛かってきた。
もう完全に一方的に吹っ掛けられた喧嘩である。とあれば響たちがリミッターをかける必要は自然となくなったわけだ。
なら、響たちが取る行動はただ一つ。
迎撃である。
琴葉以外の顔つきが戦闘用のそれに代わり各々クラスメイトたちの心配をすることなく個々の力で、あるいはコンビを組んで獣族たちを返り討ち、もとい、蹂躙する。
ある者はこの世界には存在しない超速度で弾丸を飛ばす武器を用い、ある者は正面突破で二刀の刀で乱舞し、ある者は身体能力に秀でた獣族たちですら反応に遅れるほどの速度で畳みかける。
その他にも百発百中の魔法を当てる者、攻撃を全て予測する者、姿を眩ました者と共闘してその行動を把握し魔法で連携をかける者、鮮やかな蝶の形を模した精霊を使役し使う者などさまざま。
緋級魔法や、阿吽の呼吸で畳みかけたり、他を寄せ付けないほどの絶大な力を持つ者だっている。
この時響たちは頭の中が戦闘狂になりかけながらこう思っていた、「負ける気がしない」と。
いつしかそこは響たち対獣族の集団になっており、クラスメイトたちが入る隙は全くなかった。自分たちに出来ることは響たちの戦闘を邪魔することなく自分たちの身を守ることだということを本能的に感じているだけで動くことはなかった。
「なるほど、中々やるじゃないか……私も行こうか」
「あー……あまりやり過ぎないでくださいね? 片づけ大変なんですから。それに……」
「分かってるって。あ、確かお前の知り合いがいるって話だよな、ソル。どいつだ?」
「えっと……あの見たことない武器を使っている男の子と片目が隠れている人、それからあの金髪のお嬢様とその隣のセミロングで茶髪の子です」
「よし分かった。では―――」
その瞬間、影山と互角、もしくはそれ以上の速度でその赤髪の女性はソルの視界から消え、残ったのは移動した衝撃からくる突風だった。
「―――――――――――っ!」
乱戦中、突如として自分の背後から伝わる悪寒に思わず振り向き響は全意識をそちら側へもっていき、緋級防御魔法を三重に重ねて自分の目の前で障壁を発動させる。
その直後、先ほどの赤髪の女性が眼前に迫り、拳を障壁に叩きつけると二枚の障壁を破壊し三枚目の障壁にヒビを入れた。緋級魔法で作った障壁にも関わらずにだ。
「くはははははっ!! まずは貴様からだ!」
このままではまずいと感じた響は新たにショットガンを五丁作成、障壁を消すと同時に発砲、続けざまに火球を放つ上級魔法「フレイムエヴォルヴ」、無数の氷の礫を一気にショットガン同様撃ちだす緋級魔法「フレシェットカノン」、一点火力特化の業火の矢「バニシングヴェロス」を同時に発動し攻撃。
確実に全てが着弾した手ごたえが響にはあったのだがその赤髪の女性は後ずさりしただけで倒れはしない。
そして姿が消え、再び背中に悪寒を感じる。
そう赤髪の女性が一瞬で響の背後に回り込んでいたのだ。
「はっ!」
「んなっ……!」
拳が文字通り目と鼻の先に迫る、普通の状態ならもう避けられない。だが響は背中に悪寒を感じたその時にすでにある魔法を発動させていた。この状況を打破できるであろう回避行動を。
赤髪の女性の拳は響に当たる寸前で空を切り空振りになる。
響が取った回避行動、即ち、転移魔法によるショートワープ。
間一髪で攻撃をかわし背後に回り込んだ響はクレイモアを作成、そこに並の人間なら魔力切れで倒れるであろうほどの魔力を纏わせ右下から左上に斜めに一閃。
だが赤髪の女性が切られる事は無かった。
彼女は手に魔力を纏わせて素手でクレイモアの刃を掴んで力づくで止めた。
「なるほど。転移魔法を回避行動に使うのは良い手だ、褒めてやろう……だがしかし……」
彼女は首だけを少し後ろに向け響を睨み付けるように言う。
「私を仕留めるには、この程度では足らん」
それだけを言うと赤髪の女性はクレイモアを響ごと引き寄せ蹴りを入れようとする。
これは避けられない。今から転移魔法を発動させても寸での差で蹴りの方が早いだろう。観念してダメージを受け入れることを覚悟した響。
だったのだが、急に赤髪の女性が吹き飛び、響が蹴りのダメージを食らうことはなく、引っ張られていた勢いで床に倒れるだけとなった。
「がふっ……」
急な不意打ちに流石にダメージを食らったのか彼女は横腹を抑えながら立ち上がる。響は反射的に彼女を吹き飛ばした人物を見る。
その人物とは。
「ちょいとばかし本気になり過ぎだ。少しは加減を覚えろ、昔からの悪い癖だ」
リナリアだった。リナリアは普段見たことがない真剣な顔で蹴り飛ばしたときの体勢のままその女性に言う。
「つい血が滾ってね……にしてもいい蹴りしてるじゃないかリナリア。中々効いたぞ?」
「リ……リナリア……?」
「ヒビキ、あいつは私に任せてもらおう。君では……いや、ここにいる中であいつに太刀打ちできるのはいない。いるのは私だけだ」
「どういうことだ」
「いいかよく聞け、あいつはな――――」
そしてリナリアの口から衝撃の事実が告げられる。
「――――あいつはアキレア。獣族の管理を担っている、私やアザミと同じ女神の一柱だ」
次回、女神VS女神




