強化合宿のお話。
魔物は食べるもの
鳥がさえずる朝、テントを照らす朝日、とても清々しい朝だ。
この場所が、いつ魔物に襲われるか分からない森の中心部で無ければ。
吹く風は程よく冷たく、寝起きの体を優しく目覚めさせてくれる。
時折、血の匂いがしてこなければ。
隣にいる幼馴染の彼女、そして金髪の長髪を下ろしたお嬢様の安らかな寝顔を見て響も思わず頬が緩む。
先ほどから魔物の呻き声が聞こえていなければ。
「………」
響は無言のままテントに描かれた魔方陣に魔力を込めると、自動的にそこが開き外に出られるようになった。外へ出て響は欠伸をしながら近場の魔物たちを梓たちを起こさないように、かつ迅速に殺して回る。
やがてテントの中にいた二人が起きてきた。
「ふぁあ………おはよ……響……」
「おはようございま……ふわぁ……」
「おはよう、二人とも」
たった今起きてきた二人はさぞ眠そうに何回も欠伸を繰り返していた。二人は顔洗ってくると言って近くの小川へと移動した。
遠くから何やら魔法によるものだと思われる爆音がして、木々に止まっていた鳥たちが一斉にバサバサと大きな音を出して飛び去っていく。
響はその姿を眺めながら死んだ目で澄んだ青空に視点を移動させる。
「どーっすっかなぁ……これから」
響は伸びをして呟くようにそう言った。
事の発端は数日前のことだった。
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響たちが魔導学院に入学して一カ月が経った。
クラスは一クラスだけで構成されており、打ち解けるのは早かった。
そんな時、魔導学院に入って最初のイベントが訪れた、その名も強化合宿。何とも安直なネーミングだがやることは凄い。
まず、初めに妖王大陸まで出向きそこの学院生たちとの訓練に一週間。次に獣族の大陸で一週間これまた学院生たちとともに訓練をするというもので、二週間に渡って行われる。
この合宿には自分たちのレベルアップという目的もあるが他種族と交流することにより様々な戦い方や技術を学ぶことが出来、尚且つ友好関係も作れるというもの。
「獣族ってことはまたソルに会えるかもね」
「あー、確かにそうですね」
アリアが「楽しみだ」と呟くその顔は明らかに悪いものだった、それを見てどうせろくでもないことを考えているのだろうことは予想できるし自分も巻き込まれるのだろうなと響は察した。
にしても合計で二週間は流石に長すぎではないのかと思い梓に言ってみるが梓は「楽しそうだからいいんじゃない?」と楽観的な答え、こいつは昔からこういうやつだったななどと思いながら響は「そうか」と軽く相槌を打った。
その二週間後、響たち魔導学院一回生たちは妖王大陸に向けて出発した。
馬車を数台借りて妖族の住まう大陸へと出発した学院生たちは修学旅行に来た学生よろしく賑やかに話をしていたり仮眠を取ったりしていたりと思いのほか自由だった。
その自由がすぐに終わるとも知らずに。
妖王大陸に着いた一行は王都で待っていた妖族の学院生に案内されて魔導学院へと向けて行動を開始した。妖王大陸の雰囲気はなんというか神聖な感じだった。露店などで売っている食べ物も肉などは少なく野菜や魚、豆類などが多かった。
妖族の特徴としては耳の先端が尖っていて長く目鼻立ちが整っていて美男美女揃いだった、ちなみに妖族は純血だと呼び名は変わらないが、他の種族との混血はハーフエルフと呼び名が変わる。
これは妖族古来の風習によるもので、他の種族の血が混ざった者は妖族の枠組みから外れ新たな一つの種族とされていたことに由来する。妖族は昔から血筋を重んじ、何より一族の絆を大切にする種族である。
程なくして魔導学院に着いた響たちは体育館らしき場所へと招かれそこで妖族の魔導学院学院長から今日から一週間どのようなことを行うのかの説明を受けた。
そこで一同が度肝を抜かれたのが一週間どうやって生活するかということ。
その方法と言うのが、妖王大陸にある森の中で三人一組となってひたすら魔物の討伐と生活を行うとのことでこれには妖族の学院生たちも驚いていた。どうやら自分のところの生徒たちにも知らせていなかったらしい。
そしてその三人一組とやらはくじ引きで決めるというなんともチープなもので、響は梓とマリアと一週間を過ごすことになった。
「お、やった。響とだ!」
「よろしくお願いしますわ、ヒビキ」
「よろしく」
「間違いは起こさないように、ですわよ?」
口元に手を当てて響をからかうようにマリアは言う。
「私なら、何か間違いがあっても覚悟は出来てるから!」
「お前は一体何を言っているんだ」
マリアの言葉を聞いて何故か対抗心を燃やした梓が顔を赤らめながらそんなことを言う。恥ずかしいなら言わなければいいのに。
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そうした理由で、現在響は三日目の朝を森の中で迎えている。ちなみに場所は適当に狩りながら移動していたらいつの間にか中心部に来てしまっていただけでテントは妖族の魔導学院から一組ずつ支給されているもので、王国騎士団たちも使うような確かな逸品。
「ん~! いい朝だね~!」
「こういう自然の中で迎える朝と言うのも良いものですわね」
「その台詞三日連続で聞いたぞ」
「細かいことはいいんですのよ」
「さいですか」
「今日はどうするの?」
「あー……まぁいつも通りでいいんじゃないか?」
ここで言ういつも通りというのは魔物を狩りながら食料を見つけたりすることを指す。食料はどうしているのかと言うと、森の木の実を取ったり魔物を狩ってその肉をクレイモアのような平たい大剣を作りそれをニュートンの林檎で浮かせて下から魔法で火を作って焼くという鉄板焼きに近いことをやっている。
最初こそ魔物の肉を食べるのは抵抗があったが流石にタンパク質を取らないと駄目だというマリアの意見で全員覚悟を決めて食べたところこれが意外と臭みもなくて美味だったので次からは何の躊躇いもなく食べるようになっていった。嬉々として魔物を狩りとり肉を焼いて食べる女子二人の姿はさながらアマゾネスのようで、響がたまにビビることがしばしば。
今日の予定を考えながらテントを片づけていると茂みの奥から中級魔物が現れた、すると朝ご飯をまだ食べていないということもあり三人のお腹が鳴る。こうなるとこうなったら行動は早い、茂みから現れたその中級魔物は反撃する間もなく狩られてしまい、今日の朝ご飯となった。
まだ強化合宿は始まったばかりだ。
妖族との絡みをどうするかはまだ未定




