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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第四章:魔導学院で色々やるようです
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カミングアウトのお話。

アリアのツボは浅い

 「あっははははは! なるほどなるほど、それで吹き飛ばしたのか! 流石だね!」


 「笑わないでください」


 男子三人を吹き飛ばしたすぐ後に大きな音を聞きつけて何人もの生徒たちがテラスへと集まってきた、そこにはアリアとキュリアの姿もあり二人が真っ先に響たちのところへ駆けつけた。


 そしていきさつを話した響が現在こうして、アリアに腹を抱えて笑われているというわけだ。


 「しょうがないじゃないですか、そりゃまあ少しはやり過ぎたとは思いますが……」


 「そうですよアリアさん、そんなに笑うことじゃないですって」


 「いやだって……アズサのためとはいえ壁に叩きつけて血反吐吐かせて医務室送りって…あははははははっ!」


 キュリアが何とかフォローを入れようとするがツボにはまったのか涙を流して笑うアリア。他の外野の生徒たちはなぜアリアが笑っているのかが今一番気になっている、そこへ一人、この状況も最もスマートに解決してくれるであろう人物が現れた。


 「なに? 何があったの?」


 生徒会長フラン・ヘルヴォール、彼女が現れたことで他の生徒たちがざわつき始める、実質響たちがあまり知らなかっただけでかなりの有名人なのだ。フランは涙を流して笑っているアリアに何があったのかを聞くとアリアは笑いながら何が起こっていたのかを話した。


 それを聞いた上でフランがアリアを制止するも自分も若干笑いを殺していたのは気のせいだと思いたい。


 「まぁまぁ、ヒビキ君だってそりゃ怒るって。いやまぁちょっとやり過ぎな気もするけど」


 「それはその……すみません……」


 「なに、別に個人間の問題に干渉する気はないよ。彼女のことを大事にすることは良いことだしね」


 そこで終わればよかったのだがフランの目つきが変わり、響の肩をガシッと掴んでどうやって男子たちを飛ばしたのか、それは魔法なのか響の能力なのか、魔法なのだとしたら一体どういう仕組みなのかなどなど色々と聞かれた。


 そして最終的には生徒会室でこの件について詳しく聞かせてもらおうという名目であれやこれや根掘り葉掘り聞かれる始末、響だけではなくそこにいた他の四人も強制連行され午後の授業には初回から間に合わず、というか間に合わせる気がフランにもなく「先生には私から言っておくから大丈夫大丈夫!」と、どうあがいてもこの部屋から抜けることは出来なかった。


 こうなったのは本当に何があったのか詳しく聞かなきゃいけない必要も形式上あったのだが、それ以上にフランが響の魔法について興味津々になったという理由の方が大きい。


 響はフランに聞かれた時に「ニュートンの林檎」を構成している、重力・引力・斥力のバランスを斥力寄りにして吹き飛ばしたとざっくり言った。勿論これだけでは納得するはずもなくちゃんと生徒会室で説明した。


 ニュートンの林檎を発動して相手の動きを掌握してから発動してあるニュートンの林檎の斥力のバランスを一気に高めて自分から弾き飛ばすという完全に物理法則を無視したことを行っている。

 それもこれも全て魔力や魔法といった万能術があるおかげであり、張本人である響でさえ何がどうなってあんな結果になったのかよく分かっていない。


 「なるほどなるほど、大体は分かった」


 あれで分かるのか、正直響自身何も分かってないのに。


 「本当に無茶苦茶ですわね、何も理解できませんわ」


 「わ、私も……」


 「俺もだ」


 「残念だけど僕も」


 「実を言うと私も」


 フラン以外全く持ってニュートンの林檎の応用技の原理を理解していないというこの状況、とりあえず魔法は物理法則を超える万能術ということだけ覚えておけば何とかなるからこの場はそれほど追求しなくていいだろう。

 結局響たちは残りの授業もフランの力によって生徒会室での雑談兼親睦タイムへと早変わりさせられた。どうやら医務室に運ばれた男子たちは重体ではなかったものの目覚めた途端に「ごめんなさい……ごめんなさい……」とうわごとのように呟いていたという。



△▼△▼△▼△



 「ただいま帰りましたー」


 「おっ! 帰ってきたな学院生」


 「カレンさん。帰ってたんですね」


 家に帰るとクラリアやエミルではなくカレンが出迎えてくれた。


 「なんかまた凄い魔族が現れたみたいで主力部隊が出払っちゃってさ。おかげで最近訓練ですぐ終わっちゃうから暇なんだ」


 「凄い魔族……ですか」


 カレンの発言で、響の脳裏にハーメルンの姿が浮かんだ。

 ハーメルンはすでにグラキエスの部隊を蹂躙した魔王軍幹部の魔族、しかも主力部隊が出るとなるとその可能性がないわけではないが、当然今の段階では分かるはずもない。


 「あら~、おかえり~」


 そんなことを考えていると奥からエミルがパタパタとやって来た。相変わらずおっとりとした喋り方のエミルは響の頭をワシャワシャと撫でながら「お疲れ~」と労った。


 「ちょ、母様」


 「どうだった~? お母さんみたいに~ハーフエルフの子とかっていた~?」


 「今日はその……色々あって他の生徒とはあまり話して……」


 と、響はここで違和感に気づいた。


 「あれ? 母様今自分のことをハーフエルフって言いました?」


 「そうよ~。あら、もしかして言ってなかったかしら~」


 「言ってませんよ!? そういうことは早く言ってください!」


 響は、母親の秘密を、知った。

 十一年息子をやっていてようやく知った母親の秘密。というかハーフエルフなんてものがいること自体初めて知った、いや、でもよく思い出せばフルーエン先生がそんなことを言っていたような気が……とエミルのカミングアウトで脳をフル回転させて色々と記憶を呼び起こそうとする響。その結果、まぁいいかと即座に思考を停止させて何も気にしないという結論を取った。


 ちなみにカレンはこの道場に入った当初から知っていたようで、「エミルさん……」と同じ母親として若干呆れていた。だがそれでもエミルは「あら~?」と言って、自分が作り出したこの状況に全く気が付いていなかった。

カレンは母親になってからエミルのことを「奥様」から「エミルさん」と呼ぶようになりました

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