事前登校のお話。
魔導学院へ向けて
朝五時、響は眠りから目覚め着慣れた道着に着替える。カーテンの隙間から僅かに差し込む太陽の光を感じながら朝が来たことを体に知らせ、顔を洗って歯を磨き、一人道場で素振りをする。
すると父クラリアが起きてきて響と朝の稽古を始める、そしてその後母のエミルとカレンが朝食を作ってくれて家族四人で食卓を囲む。たまにカレンがいないときもあるがこれが響にとっての日常である。
「響ー! おはよー!」
そして学校へ行く時間になるとタイマーよろしく梓が朝から元気いっぱいな声で挨拶をかましにやってくる。それを聞いて響も家族に行ってきますと伝え家を出る。
「おはよ梓……聖也は?」
「家の手伝いがあるから先に行っててってさ」
「そか、んじゃ行くか」
「……ね、響」
「ん?」
急にもごもごと喋る梓に聞き返す響。すると梓は少し恥ずかしそうにしながら左手を差し出した。
「手」
「手?」
「二人きりだし、さ。手ぇつなごうかなって……思って……」
「なんだお前くっそ可愛いな」
「いいから! ほら!」
はいはい、と響は朝から顔を真っ赤にしている梓の小さい手をぎゅっと握る。梓も嬉しかったようでにっこりと微笑んでルンルン気分で響を引っ張るくらいの勢いで歩き始めた。
魔法学校を卒業した響たちは成績優秀者ということもあって魔導学院への入学の権利を獲得していたため自ずと進路は前々から魔導学院一択になっていた。今日は魔導学院で行われる事前説明会に行き、そこで制服や上靴などの学校で使うものや明日の軽い日程などを聞いてくるのが今日の日程である。なので今日魔導学院の制服をこれから受け取るため今響と梓が来ているのはラピストリア魔法学校の制服だ。
響と梓が手をつなぎながら歩いていると後ろから梓に一人の少女が飛びついた。
「おはようございますわ、お二人さん」
「おはようございます、お二人とも」
珍しくテンション高めのマリアと平常運転のセリアがパーティーに加わった。四人はいつものように喋りながら王都へ行くための馬車乗り場に到着した、この世界での馬車はバスのような役割を果たしているのでこの世界で生きていれば必ずと言っていいほど通らなければいけない交通手段である、現に今、最高クラスの貴族のお嬢様であるマリアが馬車の中にある堅めの椅子に何の躊躇いもなく座っているのがその証拠だ。
「おや、おはよう」
馬車の中ではすでにアリアが座っていて響たちに気づくや否や即座にこちらに寄ってきた、もう生徒会長じゃないからといって制服を少し着崩していたアリアはなんというか今どきの女の子といった雰囲気だった。
「おはようございますアリア先輩」
「なぁ、明日からは本格的に同級生だぞ? いい加減先輩はやめろって」
「そう言われましても……」
響にとってはアリアはずっと先輩なのだ、今更やめてくれと言われてもという話だ。しかもアリアは響より年上なのでたとえ同級生でも先輩と呼ぶ方がいいだろうと響は考えていたがふと思う、同級生に対して先輩と呼ぶのはいささかおかしなことじゃないのかと。この考えが思いついた瞬間、それまでの響の思考は一気にそちらへとシフトチェンジした。
「ヒビキくーん? あらら、なんか随分と長考してるみたいだね」
「多分あれです。仮にこのまま先輩を付けた状態で呼んだ場合、同級生に先輩って使うのはおかしいんじゃないか? 的なことを考えてるんだと思います」
「なるほどね、流石は彼女だ」
「それほどでもあります」
響は自分が頭を抱えている最中にこんなやり取りが行われていたことは知らない、というか聞こえてない。そんな響を見かねたのか梓が無慈悲にデコピンをくらわせるとようやく響の意識が戻ってきた。
「痛っ」
「お、戻った」
「えっ何が?」
「君が同級生に先輩はよく考えたらまずいんじゃないかとか考えているだろうと、君の彼女が助言をくれてね」
「お前よく分かったな」
「伊達に長いこと一緒にいないっての」
誇らしげにそういう梓をよそにアリアは淡々と話を進めた。アリア曰く正直先輩後輩なんて面倒だからこの際呼び捨てにしてくれとのこと。響がそれを躊躇っているとアリアは「先輩命令だ」と言って半強制的に響に呼び捨てをさせることに成功、その時のアリアの顔はしてやったりといったような勝ち誇った顔だった。
まぁ恐らく明日にはすっかり忘れていつも通り先輩付けで呼ぶのだろうが。
ちなみに大人しくしていたマリアとセリアはと言うとマリアが窓際に座っていたセリアに頭をコテンと預けてスースーと可愛らしい寝息を立てて眠っていた。セリア曰く、魔導学院生になれることが楽しみだったとのことで、やっぱりまだ子供なんだなぁとマリアの顔を除きこんでいた響・梓・アリアの三人がほっこりしていたのはマリアには内緒である。
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「ただいま帰りましたー」
「おう、おかえり」
魔導学院での説明会を終えて帰ってきた響にクラリアが「どうだった」と聞いてきたので「普通でした」と素直に思ったことを話すとクラリアが何か今の響の状態の違和感に気づいた。
「あれ? お前制服とかは?」
「持ってくるのが面倒なので部屋に転移させておきました」
さらっと言った響にクラリアは「お、おう……そうか」と若干引き気味に返事をしてしまった。現在時間は何とまだ昼前ということで昼食を食べてから一時間ほど休んだ後にクラリアとの稽古といったスケジュールとなっている。余談だが影山はちゃんと間に合ったようで、学院に着いた時に「セーフ? セーフ?」と割と焦っていた声色で言っていたのを覚えている。
そして馬車の中で寝ていたマリアだが、あの時響たちがどんなことを思いながら寝顔を除かれていたのかは知らないままでいた。
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翌日、響は昨日受け取っていた魔導学院用の制服に袖を通し外で待っている梓と影山と共に転移した。いつぞやのフランが行った複数人を一斉に転移魔法で別の場所へ転移させる行為、響はあれが出来たら便利だなと思いクラリアやカレンに協力してもらって習得していたのだ。
転移した先は今日から通うことになる魔法の専門学校でありその国を代表する魔法技術の結集のような場所、魔導学院。ゴールド級の冒険者が通い、【神童】と呼ばれる少女が在籍しているこの学院で一体何が待ち受けているのかは今の響たちには到底わからない。
だが、ゾクゾクするほど面白くなりそうなのは、口角が上がり悪い顔をしている響たち三人の顔を見れば一目瞭然である。
「おし、行くか!」
響はそう言うと梓と影山を引き連れて魔導学院へと足を踏み入れていった。
次回より新章、魔導学院編スタート!




