任務消化のお話。
第一回、ごり押し階級上げ
「よぅしみんな! 任務に行くぞ!」
ある日の放課後、響たち転生組全員とマリアとセリア、ミスズとリナリアを生徒会室に呼び出したアリアは急に勢いよく座った状態から机をバン! と叩きながら立ち上がり全員に告げた。
「別に任務に行くのは構わないんですが、唐突にどうしたんですか?」
響の疑問に待ってましたと言わんばかりの表情でアリアは会長専用の机から円卓に移動してきた。
「よくぞ聞いてくれた、まぁみんな知っているとは思うが、このラピストリア魔法学校は卒業するためにとある試験が行われる」
アリアの発言を聞き響は今朝の記憶を呼び起こす、確かにウィルレイヤードがそんなことを言ってたような言ってなかったような。
「はい質問。それって確か学校側で用意されるやつっしょ? 任務と何か関係あるの? 実績が足りないとかそういう感じ?」
珍しく絵美里が手を挙げて質問する、しかもちゃんと連絡事項を覚えていたようだ。こう言うとなんだか絵美里がダメ人間みたいに聞こえてしまうが日本にいた頃からスクールカーストの上位に属するギャル系の彼女の印象は響には不真面目な人間という認識で移ってしまっていたからだ。
賢介も噂より真面目なやつだったし絵美里の認識を改める必要があるのかもしれないな、と響は心の中で思った。
「良い質問だエミリちゃん。いや、ここはキャラ的にもエミリ君と呼ぼうか。あ、これから女子メンバーは呼び捨てにするからそのつもりでよろしく」
「あの……話が脱線してる気が……」
「ん、ああすまないコトハ。おほん、では本題に戻るが先ほど質問されたように一見すると任務と卒業試験は何ら関係のないものに見えるだろう…………がしかしっ! わざわざ学校側で用意させられた試験をクリアせずとも簡単に試験クリアと同等の価値を得られるものがあるのだ!」
いつにも増して気合が入って暑苦しいアリア。一体何が彼女をそうさせるのかは彼女以外誰も分からないが、きっと分かってもろくなことではないだろう。だが試験クリアと同等、というと学校側で用意される卒業試験が免除されるということになる、となれば興味は嫌でもそちらへと移る。
「で? その同等の価値を得られるものが任務っていうことか?」
「察しが良いねケンスケ君。でも半分正解半分不正解といったところかな。確かに任務に行くことは行くんだがそれはあくまで通過点、最終目標は冒険者の階級がゴールド以上! それが試験を免除出来てサクッと卒業できるもう一つの方法って訳さ」
生徒会室内の空気が一瞬張り詰めた。階級がゴールド以上と来れば冒険者の中では中堅冒険者や上級の冒険者という扱いになるものでその階級になるには上級魔物との戦闘は必須である。すでに響はこの前までの怒涛の任務ラッシュでゴールドになってはいるが他は高くてもシルバーで大体がブロンズである。
「でも響君たちは別として、私たち任務の経験なんてほとんどありませんよ?」
「いいねぇ順調に一人ひとり質問してくれるねトモカ! そう、大事なのはどう効率よく全員をゴールド階級にするかだ。私はあともう少しでゴールドで確かヒビキ君がこの前の任務ラッシュでゴールドいってたね。ま、とりあえずみんな今階級がどこなのか一人ひとり聞いていこうか。ナギサ君から」
「あ、はい。ブロンズです、もうすぐでシルバーになりそうです」
といった風に一人ひとりアリアが聞いていった結果、シルバーなのがマリアとセリア、梓と影山、ミスズとリナリアの六人でブロンズが賢介と絵美里、凪沙と智香、琴葉の五人ですでにゴールドなのが響でもうすぐゴールドになるのがアリアといった感じになった。
「じゃあそれぞれ確認できたところで早速行こうか」
「「「「うぃーす」」」」
ガタガタっと全員が席を立ち荷物を持ってその場を去ろうとする。
「行こっ! 響!」
「ああ、行くか、梓」
ピタッと響の腕にくっついてきた愛玩動物のような梓。響はそんな梓とキャッキャウフフでイチャコラ空間を無自覚の内に発生させていた。元から仲の良かった二人だが、付き合いたてである最近はそれを上回る勢いでイチャイチャしている。
「あらまぁお熱いことで」
マリアが口に手を当てて「あらあら」と響と梓を見ていた、それに気づいてハッとしたのか二人の顔がみるみる赤くなっていく。マリア一人に見られたのならまだ構わないのだが今回は生徒会室にいる全員にだ。
「水無月この野郎……」
「ひっさしぶりに名字で呼ばれたわ……くっそ……」
「仕方ありませんよセイヤ君。お二人ですもの」
「………だったら言わせてもらうけど、別にカップルなら賢介と絵美里もそうじゃないのか?」
影山の肩をポンと叩きながらしれっと「響と梓だから仕方がない」といった感じの台詞を言ったセリアに響が賢介と絵美里を交互に指さしながら反論する。が。
「俺らは前々からだからな。今更だろ」
「それにうちらは許嫁だし、ラブラブなのは当たり前っしょ」
絵美里はそう言うと先ほどの梓と同じように賢介の腕に抱き着く、だがその姿は妙にしっくりきておりどこか余裕すら響に感じさせ、響はただただ己の愚かさを悔やむばかりだった。
「さっさと行こう。日が暮れる」
リナリアがその雰囲気をガラリと変えるように、そしてまるでこのやり取りに興味なさそうに言ったため黙って任務に行くことにした。
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というわけでやって来たのはいつもお世話になっている冒険者ギルド。がやがやといつも通り活気のあるそこは新人からベテランまで血気盛んな冒険者たちが張り紙を見て任務を選んでいたり、ただ単に酒を飲みながら騒いでいたりしていた。
「おおヒビキ! 今日は大所帯だな」
「ヒビキじゃねえか、なんだ、またご指名か?」
「あ! ヒビキ君じゃん! 今度うちのパーティーに来てくんない? 一人怪我しちゃってさー」
「まあ学校の方で色々と。今日は普通に任務受けに来ただけです。俺でよかったら協力しますよ」
「えと……どういう状況?」
ギルドに入るや否や冒険者の人たちと普通に話しかけられ律儀にそれぞれ一人ずつ返事をする響、唐突なその状況に思わず困惑する梓。
「いやぁ、この前のラッシュの時に話すようになって。結構手伝ってくれたりもしたし」
「なに言ってんだよ! 同じ冒険者じゃねえか水臭せえ!」
「そうそう、冒険者に大人も子供も関係ないしね。同業者とくらい仲良くしないと、いつ死ぬか分かんない仕事なんだから」
響はその冒険者二人に肩を組まれ若干苦笑した。その冒険者たちは「頑張れよ」とエールを送ってそれぞれ任務に出かけた。響たちも早速適当にグループを作って任務を手当たり次第に受けることにした、響を指名する任務があったのでちょうどいいといった感じに手伝うという名目でそれも消化することにして数を稼ぐことになった。
ブロンズ組は下級から中級魔物を討伐する任務を片端から受けていき、シルバー組は中級から上級魔物の討伐任務を片づけていく。
放課後の討伐任務はそれからしばらく続き年末で学校が休みになった時も謎テンションで冬の平原を魔法ぶっぱなしながらまるで狂ったかのように魔物を討伐していき、「ラピストリアのやつらはやばい」と、あれから度々交流のあったアクレット魔法学校の生徒たちに道で噂されるほどになっていた。
ネメシスには夏休みや冬休みなどの長期休暇の概念は特にないが年始から二週間くらいは学校が休みになり、貴族階級にいるメンバーは色々と挨拶回りとかで会うことが出来なかった。だがそれが終わるとまた討伐任務に明け暮れる日々に戻っていってしまった。
ナチュラルハイになりながら上級魔物の討伐すら慣れてきたラピストリア魔法学校のメンバーは努力の成果が実り、見事全員階級をゴールドにあげることに成功した。ふと響がリナリアに「魔族管理の女神なのに魔物殺してていいのか?」と尋ねたところ、「気にしたら負けだ」と言われたためそれ以上は考えないことにした。
響たちは休み明けの学校で一躍ちょっとした有名人みたいになり魔物との戦い方や魔法の訓練に付き合ってほしいなどと色々と聞かれた。
この後響と梓は疲れを癒すため初めてのデートに赴き存分に英気を養い、その結果学校でラブラブっぷりを無自覚の内に見せつけていたのはまた別の話。
そろそろ卒業かなー?




