告白
真面目だよ?
※タイトルに「~のお話。」が付いていませんが、今回はこれで合っています。
周りがツリーに目を釘づけにされている中、響と梓はお互いの顔を見ていた。
二人の場所だけまるで別空間のように全く違う雰囲気が流れていた、だがそれに気づく者は一人としていなかった。
梓はまだ何も話さない、だから響も何も話せない。
だがその沈黙に耐えられなかったのか梓の話が気になっているのか、先に切り出したのは響の方だった。
「どうしたんだよ」
それでも梓はじっと響を見つめたまま口をつぐんでいる。その行為でますます訳が分からなくなってきた響、そこでようやく梓が口を開いた。
「響はさ、私のことどう思ってる?」
「どうって……そう、だな……正直、お前ほど信頼できる奴はいないと思ってる」
「そうじゃなくって……」
答え方が違ったのか響の答えを梓は否定する、響は顔にしわを寄せてクエスチョンマークを浮かべる。
再び黙ってしまった梓だったが今度は先ほどよりも早く口を開く。
「そういうことじゃなくて、私のことを好きか、嫌い……か」
「そりゃ好きに決まってるだろ」
「それは、異性として? それともただの友達として?」
その質問に言葉が詰まる響、すぐには答えられない。なぜなら彼自身、今自分がどう思っているのかはっきりと分かってはいないからだ。
沈黙が二人を包む、周りの声も聞こえないほど、二人はその隔絶された空間の住人と化していた。
しばし時間を置いて響がどうにか言葉を絞り出す。
「それは多分……」
「多分?」
「多分、両方、なんだと思う。いや、多分じゃないな。両方だ」
「そう」
現在響の心臓は尋常じゃないほどバクバクと鼓動している、冬空の下なのに体が熱くなってきた。
梓はヒュっと息を吸って深呼吸を一つとった。
「私もね、どっちもだよ」
「……おう」
「ずっと、自分がどういう気持ちなのか分からなかったんだ、私」
それが引き金になったのか先ほどまでの沈黙が嘘のように梓が喋り始める。
「ずっと踏ん切りがつかなかった、だからいろんな人に相談したりとかもしたんだけど、やっぱり自分の口から直接言う方がいいかなって、そう思ったの!」
「梓……?」
「響!」
「はい!」
「一度しか言わないからよく聞いててね……」
そう言って口を開いたが寸前で止まる梓、恐らく緊張しているのだろう。
その後何度も言おうとするのだがいつまでたってもその言葉が出ない、だが響は何も言わずただじっと梓の言葉を待った。
そしてついに、梓の口から言葉が紡がれた。
目を瞑り、胸に手を当てて深呼吸をする。
………………
スゥッ……
「私は……ずっと前から! あなたのことが好きでした! けっ、結婚を前提にっ、お付き合いしていただけませんか!」
梓の口から語られた言葉。
それはあまりにも愚直で真っすぐで曇りのない純粋な。
響への告白の言葉だった。
響はあまりのことで文字通り開いた口が塞がっていない、目も点になっている。
梓は梓で手をきつく握りしめ今にも泣きだしそうにな目でじっと響の返事を待っていた。響も何かを決めたかのように言葉に出そうとするがさっきの梓と同様寸前でどうしても声が出ない。
響は一度パチンと自分で自分の頬を叩いて気合を入れ直し、深呼吸をした。
「俺でいいのか……?」
「響じゃないといや」
「……っ!! 俺も! お前のことが好きだ、友達としても、一人の女性としても。だからっ……こんな俺で良ければ、よろしくお願いします!」
響が梓の告白を断るはずがない。
その言葉を聞いた梓は一瞬だけ状況を飲み込めないようだったが途端に顔が明るくなり涙をボロボロこぼしながら涙でグシャグシャの笑顔で響に抱き着いた。
響の体に顔を埋めて声にならない声で泣いている梓を響はそっと抱きしめた。
その体勢のまま数分ほど経ち、次第に梓の泣き声が静かになっていった。
「落ち着いたか?」
「………うん」
響から離れ目を真っ赤にした梓は「えっへへ……」と響に微笑む、響もそれで思わず顔が緩み頭を撫でた、それから小一時間ほど喋った後そろそろ帰ろうかということになった。ただ帰るだけなら響の転移魔法ですぐなのだがそうはしなかった、二人とも少し遠回りをして帰りたい気分だったからだ。というより、今日だけはもっと一緒に居たかったのだ。
馬車に揺られ、会話が弾む二人。幸いにも他の人たちはすでに結構帰っており乗っているのは響と梓を含めて十人程度しかいなかった。ただ会話の途中で梓が泣き疲れたのか響の肩に頭を預けてスゥスゥと可愛らしい寝息を立てて寝てしまった。
ガタガタと車輪から伝わる振動と、静かな馬車の中の雰囲気が相まって次第に響も眠くなってくる。いっそ自分も梓に体を預けて眠ってしまおうか、そう思い目を閉じたがタイミングよく馬車が止まり冒険者ギルドの近くで降りることになってしまった。
未だ眠りこける梓を起こして馬車が出発する前に手を引いて下車する、夢の世界から覚めきっていない梓は欠伸を繰り返して瞼を擦っていた。そして響が自分の手を握っていることに気づき一瞬でこちら側の世界へと意識を戻した。梓はその繋がれた手に少しだけ、ほんの少しだけ力を入れて鼻歌交じりに今度は逆に響を引っ張る。
「おい、引っ張るなって」
「いいじゃんいいじゃん、さ、帰ろー」
ルンルン気分で副都の夜を彼氏である少年を引っ張りながら歩く少女、その少女につられて困惑しながらも笑う少年。二人を別つことが決してないと信じながら少年少女は互いの家に帰り着き、安らかに眠り夢を見たという。
△▼△▼△▼△
翌朝、下駄箱にて。
「おっはよー! リっナリっアちゃーん!」
「うお、朝からテンション高いな。何かいいことでもあったのか……って、聞くまでもないようだね」
超が付くほどハイテンションでリナリアに飛びつく梓、リナリアは幸せ成分の塊のような笑顔をしている梓の顔を見て即座に聞くまでもない愚問だったことを悟った。
「おはよ、リナリア」
「ああおはようヒビキ……なるほど、そういうことか」
「何がだ?」
「いや、何でもない。独り言だ、気にしないでくれ」
何かを含んだようにニヤリと笑うリナリアに多少なりとも疑問を持つ響だったが「まぁいいか」と流したのでそれほど気にしていなかったことが伺える。
リナリアは未だ自分にくっついている梓の耳元に口を持ってきて響に聞こえないように小さく、それでいていつもより低い声で囁くようにこう言った。
「お付き合いおめでとう、彼女さん?」
「んな……!?」
クスクスと笑いリナリアは梓を体からはがして教室へと行ってしまう、固まる梓に響が何があったのかと聞いても梓はなんでもないと言ってそそくさと教室に向かってしまった。
首をかしげながら響も教室に行くと何やらリナリアとアリアが楽し気に話していた、響が教室に入ると二人は同時に響の方へと駆け寄ってきて、まずアリアが物凄く楽しそうにニタニタしながらこう言った。
「いやぁおめでとうヒビキ君! いつかこうなるとは思っていたけどまさかねー」
「え? 何がですか?」
「だって、アズサちゃんと付き合ったんだろ? 喜ばしいような、悲しいような複雑な気持ちだよ」
「アリア先輩ぃ!!」
座っていた梓が勢いよく立ち上がりアリアに詰め寄り誰から聞いたのかと問いただすとアリアは一人の人物を指さした、その人物、それは。
無表情のままピースサインを目に当てて「いぇい」と誇らしげにするリナリアだった。
「リーナーリーアーちゃーん!?」
「すまない、面白そうだったからつい」
「響! お前らいつの間にそんなことに!」
アリアとリナリアのおかげで影山も反応した。
「お二人ともおめでとうございます。ですがアズサが付き合わなければ私が狙ってましたのに、複雑ですわ」
「大丈夫ですお嬢様、第二夫人という手があります」
「響君が……誰かのものに…………ふあっ……」
続いてマリアとセリアが反応し、ミスズが気絶した。
「ああもう、なんでこうなる!?」
朝からギャーギャーと騒がしくなった教室は一度チャイムの音で静まったものの、その日の響と梓は一日中周りから質問され、一瞬にして広まり、一躍話題のカップルとなった。
恋愛系表現は不慣れなものであまり上手く表現できていなかったかもしれませんが、ひとまずはこれで。




