デートのお話。
タイトル通りの内容
王都の街はイベントということもあってより一層賑わっている、小さい子供からお年寄りの方まで皆楽しそうにしている。王都では出店が並んでおり本当にちょっとしたお祭り感覚で参加することが出来る。
そして響と梓もこの人混みの中を歩いていた。
「すごい人だな」
「お祭りだからねー、昔もこうしてさ、二人でよく行ったよね」
「そうだな。お前が俺とはぐれてワンワン泣いたこともあったっけ」
「ちょ! どうしてそういうこと言うのさ、折角忘れてたのに」
「痛い痛い、叩くなって悪かった。なんか奢るから」
「よし! 許す!」
「ありがたき幸せ」
長年の付き合いで生まれるこの距離感、二人はこの他愛もない感じが好きだった。とりあえずどこかいいお店はないものかとぶらぶら歩いていると梓が「あっ」と言った。響がどうしたのかと聞くと梓の目線の先には女の子が大好きであろうクレープ屋らしき店がある。
「行ってみるか?」
「うん!」
見た目からすれば年相応の反応なのだが中身はとっくに成人しているわけである、悲しきかな。とにもかくにもひとまずその店に寄ることにした二人、その出店は年頃の女子が多く如何にも女の子受けしそうなものだった。ワゴンで売っているようで中に置かれたホットプレートらしきもので生地を焼き果物やらを乗っけている、値段は銅貨三枚、まあ妥当な方だろう。ボリュームあるからむしろ安い方なのかもしれない。
「すいませーん」
「いらっしゃいませー」
「どれにするんだ? 梓」
種類は十種類ほどありチョコレートやバナナ、キウイなど日本で見たまんまの名前が書かれてある。これは「異世界言語」によって自動翻訳してくれているものだからなのだが、まさかここまでまんまだとは思わなかった。
「う~ん迷うけど……イチゴクリーム、クリーム多めで」
「イチゴのクリーム多めね、お兄さんは?」
「チョコレートバナナで」
「はいよ、銅貨六枚……だけどおまけしたげる、銅貨五枚でいいよ」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの、カップルでしょ? おまけよおまけ」
「カ……カップル……て」
出店のおばちゃんの言葉に不意に照れる響、梓も耳まで真っ赤にして黙る。響はクレープを受け取り銅貨を五枚支払ってその場を後にする。梓にクリームがたっぷりと乗ったクレープを渡して自分もチョコソースがかかったクレープを一口食べる、うん、まんまクレープだった。
梓は先ほどの発言が頭の中をぐるぐると回っているようでまだ顔をほんのりと赤くしながらクレープをパクパクと食べ進める。
「ん、おいしい!」
途端に顔をパァっと明るくさせて幸せそうに食べていく梓、それを見てなんだか響も顔が綻ぶ。美味しそうに食べていく梓だったがほっぺたにクリームが付いていることに気づいていなかった、響はそれに気づき何気なく梓のほっぺたについているクリームを人差し指で取り自分の口に運ぶ。クリームに気が付かなかった梓だが、響の行動に気が付かないほど感覚が鈍くはない。
「な、なにやってんのさ!」
「え? いやクリーム付いてたから取ったんだけど」
「そうだけどさ……」
もじもじと語尾が聞こえなくなるほど声が小さくなっていく梓に疑問を持ちつつも響は特に気にしないことにした。
「一口食うか?」
すっと響は梓に自分の食べているチョコレート味のクレープを差し出す、梓はパクッとかぶりつき「ん」と自分のクレープも差し出してきたので響も一口食べた。
「ん、美味いな」
「チョコも中々だね」
その後もパクパクと食べ進めあっという間に胃の中に収めてしまう響と梓、それからは色んな出店を回りながら王都の観光とまではいかないが周辺の散策をしているといつの間にか待ち合わせ場所の公園に戻ってきてしまい、そこのベンチに座ってお喋りすることにした。
会話の内容は学校の話やお互いの緊張の話から始まりどうでもいいことに発展していった、思えば日本にいた頃はずっとこうして時間を忘れて話していたんだっけなと響は笑顔で話す梓の顔を見てふと懐かしい思い出に浸っていた。
「どしたの響、ぼーっとしちゃってさ」
「お前とこうやって二人でゆっくり話すのって久しぶりだなぁって」
「そうだね……よし!」
そう言うと梓はコテンと響の膝に頭を置いて「にへへ」と笑う、突然のことで驚くかと思いきや響は平然として梓の頭を撫でた。日本にいた頃は梓が響に体を預けて携帯をいじったり漫画を読んだり挙句の果てにはスヤスヤと寝たこともあったためそれほど驚くことでもなかった。梓も梓でよく響にこうしていたことを覚えているので特に何とも思っていない、梓なりに気を使って日本にいた頃と変わらず接していつも通りの響にしてあげようというものなのだが、傍から見ればただ単にカップルがイチャついているだけにしか見えていない。
「よく寝てたよな梓、おかげで動けなかったんだからな?」
「だって響あったかいんだもん」
「まぁ俺もあったかかったから良かったんだけどさ」
「なにそれ」
クスクスと梓は笑いながら同じく笑う響と楽し気に話す。
「ねぇ響」
「ん?」
「ようやくいつも通りになったね」
「え……?」
急にそんなことを言われ響は少し困惑してしまった。梓はそんな響の顔を真っすぐ見つめながら続けてこう言った。
「ほら、最近響、任務ばっかで疲れてたから」
「リナリアにも言われたな、それ。そんなに疲れてる?」
「うん、なんか大変そうだもん。それに幼馴染だし、響のことはすぐ分かるって!」
満面の笑みを咲かせる梓に響は頭を撫でながら「ありがと、梓」と素直に感謝の気持ちを述べた。風が心地よく二人に体を撫でるように通り過ぎ穏やかな時間が流れ二人は再び街の方へと行くことにした、二人が休んでいる間に人はさらに増え賑わい活気に満ちていた。
お祭りと同じように響と梓は街を歩き、気が付けば夕刻に差し掛かろうとしていた。響が時計で時間を確認すると現在午後四時半ちょっと、これからどうしようかと梓と相談していると待ち合わせ場所のグラスベル公園にある木で六時ごろから何かあるらしいので、適当に屋台で夕飯を買ってベンチで食べてそのイベントを待とうという方針で決定した。
焼きそばやらたこ焼き的な何かを買い込んで早めにベンチに座って早めの夕食とすることになりチープな感じの屋台飯を懐かしく思いながら食べ進めていくと段々公園に来る人が増えてきた。
「何やるんだろうね」
「点灯式……とか?」
梓ともぐもぐ夕食を食べながら時間を待つ、その間にも続々と人は増え老若男女問わず色んな人が来た。そして午後六時、木の前にこのイベントのスタッフらしき人が拡声石片手に話し始めた。
『えー、みなさん。それではいよいよ! ツリーの点灯式を開催したいと思います!』
その合図で周りの人たちから歓声が上がる、どうやら本当に点灯式だったらしい、しかもツリーってまんまクリスマスだ。
「本当にクリスマスみたいだね」
「うん、俺もお前と同じこと思ってた」
ツリーにはグルグルと照明が巻き付けられ係の人たちが互いに確認し合っている姿が見受けられた。
『それではお待たせいたしました! 点灯です!』
スタッフの人の合図とともにツリー、もとい公園の巨木に巻きつけられた電飾が一斉に点灯し色鮮やかに辺り一面を照らした。ネメシスは前の世界ほど科学技術が発達しているわけではないが電気や水道、ガスなどの生活に必要なものくらいは十二分に発達しているため普通に生活する分には日本もネメシスも基本的には変わらないだろう、科学技術が魔法に置き換わったようなものだ。
「うっわぁ綺麗……」
「ああ、綺麗だな」
梓は隣で目を輝かせて煌びやかに光り輝くツリーを眺める、周りからも歓声が聞こえてくる。響も予想より格段に綺麗だったツリーに目を奪われている。
梓はツリーから隣にいる響に目を移し、何かを決めたように手をギュッと握った。
それに響は気づいていない。
「ねぇ響」
「どうした、そんなに改まって」
「話したいことがあるの」
自分の顔を真っすぐに、いつになく真面目な顔で見つめる梓に少し動揺してしまう響。
だが梓の目には確かな覚悟の火が灯っていた。
梓の覚悟とは、一体何なのでしょうか




