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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第三章:魔法学校を卒業するようです
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冬の日のお話。

ミスズ「ラブコメの波動を感じる……!」

作者「今回出番ないぞ?」

 日本で言えば大体十二月の下旬である今日この頃、またも響はギルドからの任務に追われていた。この前のアクレット校からのアプローチが終わったと思えばまたこれだ、理由は分からない。


 任務の内容は変わらず討伐任務が多く前まで中級魔物程度までだったものが今度は上級魔物相手の討伐任務もちらほら見られる、しかも響単独での任務か、連れて行けてももう一人だけと来るんだから溜まったものではない。


 そしてもっと不思議なことに人族のギルドからの依頼だけでなく獣族のギルドからの任務も来ている、これに関しては理由は何となく推測できる。

 多分だがソルが響たちのことを話したか何かで噂が広まったのだろう、フランは魔導学院生徒会長という肩書があるから強くても納得できるのだが響に至ってはまだ魔法学校で生徒会の役員をやっている程度だ。フランとは肩書の質が圧倒的に乏しい、にもかかわらず響はフランと上級魔物を倒す主要部隊としてあの時善戦したのだ。しかもノーダメージで、それに加えてこの世界にはないガトリング砲という未知の兵器をパッと見では理屈の分からない魔法である「ニュートンの林檎」でそれを自由自在に操っていたとなれば、実際にそいつを見てみたいと思った輩がどんどん広まり、こうして獣族からの任務が来る要因となったのだろう。


 そしてそんな中響はある人物に相談していた、その人物とは。


 「もう疲れたんだけどどうしたらいい……」


 「君だけに限らず、なぜ相談事があるとみんな真っ先に私のところへ来るんだ」


 魔族の管理を担当している女神の人柱、リナリアである。


 「相談しやすいというかなんというか……」


 今日は生徒会の仕事もないので放課後フリーとなった響が人のいなくなったAクラスの教室で机を合わせてうなだれながらリナリアに愚痴をこぼしていた。


 「それは別にいいんだが……で、何が悩みなんだ」


 淡々と響の悩みを聞きだそうとするリナリア、女神ということもあって結構面倒見がいい彼女は机に突っ伏してうなだれている響の髪の毛をわしゃわしゃしながらちゃんと相談に乗ってくれる。


 「まあ大方、最近の任務のことだろうがね」


 「おかげでランクもゴールドに上がりましたよ、剣の腕も上がってきて父様やカレンさんにも褒められてます」


 「ん? いいじゃないか、何が不満なんだ?」


 「不満があるわけじゃないんだが、ちょっと疲れたというか」


 「疲れてるときに訳もなく人に愚痴りたくなる気持ちも分からなくはない、私もミスズに愚痴ったことがある」


 そう言うとリナリアは響に愚痴をこぼし始めた、管理したいけどあの種族好き勝手やるからまとまんないとか、ようやくまとまったと思ったらイグニス調子に乗り出すし馬鹿みたいに強くなってるしとかのマジなやつを。もうどっちが相談しているのか分からなくなり、仕舞にはリナリアも「うぇ~」と言いながら机に突っ伏してうなだれてしまった。


 そして突然リナリアは何か思いついたようにガタッと立ち上がった、響はいきなりのことにビクッと体を震わせる。


 「そうだ! リフレッシュしてこいよ、誰かと二人で」


 「リフレッシュか……」


 確かにいい案ではある、疲れた時はどこか行ってパーッとリフレッシュしてくるとまた頑張れるものだ、日本だと温泉とか映画とかがあるがネメシスの場合はどうなのだろう。


 「つってもなんかあるか? そういうところ」


 「王都の方で今週末にお祭り的なのがあるっぽいぞ」


 「もう冬なのにか?」


 「ほら、アザミから聞いたがなんでも地球にはくりすます?とかいうカップルたちが我が物顔で街を闊歩するイベントがあるらしいじゃないか」

 

 「説明はあれだけど大体あってるのがなんかな」


 クリスマス、それはカップルという名の亡霊が独り者という生者を存在しているだけで呪い殺すという凶悪なイベント。というのはひとまず置いておいて、クリスマスは冬の大イベントの一つである。

 なるほど、そんな行事もネメシスではあるのか。本当に地球と似通っているんだな、と響はしみじみ思った。折角リナリアが提案してくれたんだ、たまにはそういうのもいいかもしれない。


 「いい機会だし、そうさせてもらうよ」


 「ああ、そうすればいいさ。私も気が向いたら行こうかな」


 両者そう言って席を立つ。


 「相談乗ってくれて助かった、今度なんか奢るよ」


 「じゃあ学食のデザートでももらおうか」


 「おーけー、んじゃそれで」


 「気を付けて帰れよー」


 リナリアはそう言って響に小さく手を振る。


 「あれ? リナリアは帰んないのか?」


 「ん、まあちょっとやること思い出してね」


 「そか。じゃあまた明日な」


 響は手を振って教室を後にする、リナリアは響の姿が廊下の曲がり角で見えなくなると制服のポケットから通信石を一個取り出して机の角に一回ぶつけるとどこかへと繋ぎ始めた。


 「やぁ、私だ。予定通り上手くいったよ…………え? ……ああ大丈夫だ、彼ならきっとそうする。自信を持て、彼を一番知っているのは君だろ、そして君のことを一番知っているのも彼だ。そうだ、信じて待っていろ、これでも女神だ。ああ、じゃあな」


 誰かとの会話を終えたリナリアは机にコンコンと通信石を二回ぶつけ回線を切る。リナリアは通信石を制服のポケットにしまい、教室を後にした。



△▼△▼△▼△



 その日の週末の昼頃、響は王都に来ていた。

 服装は黒のズボンに黒灰色の長袖、それにRPGに出てくるような厚めのフードのついたローブというシンプルなものでローブには青色の装飾が施されていた。


 響はある人物と待ち合わせているため、観光スポットにもなっている公園にある大きな木の下に急ぐ。


 そこには黒いショートブーツを履き、白いスカートとグレーのニットで上着にはコートよりのおしゃれなローブを羽織っている響と同年代くらいの少女が木の陰で人待ちをしていた。


 響はその少女に向かって歩き、そこへ着くと少女に話しかけた。


 「すまん、待たせちゃったな、梓」

 

 「ううん、そんなに待ってないから気にしないでいいよ、響」


 少女の正体は響が最も信頼し最も親しい人物である幼馴染の梓だった。梓は響が話しかけるといつもとは違って少しお淑やかに話す。だが普段元気っ子の梓では多少大人しいくらいにしか響に捉えてもらえなかった。ネメシスの冬は雪が降ることがあるものの外気温は特別寒いというわけでもなく、肌寒いくらいで終わるものだ。


 「寒くなかったか?」


 「全然! 響こそ大丈夫?」


 「俺も大丈夫だよ。んじゃあ行こっか!」


 「うん!」


 ぴょんと勢いをつけて楽しそうにくるっと回る梓、響はそれを見て凄く安心した。それだけで最近の疲れが吹っ飛んだ気がして梓の笑顔につられて響も笑顔になる。公園には響たちのほかにも何人か人がいてそのどれもが男女一組だった。



 もうお分かりだろう。そう、ここは王都でも有名なデートスポットなのである。



 勿論、響がそんなことを知っているはずがない。なぜなら響は梓にここの木の下で待ち合わせと言われたまま来たのだから。梓が偶然選んだ場所が偶然カップルたちのデートスポットということなのだろうか、いや違う。梓はちゃんとこの場所のことを事前に知った上で、響との待ち合わせ場所にしたのだ。


 そして響はそのことを全く知らない、響の目にも男女のカップルがちらほら目に入っているが梓と話していたため特に気にしてもいなかった。


 「あ、その服似合ってるぞ。可愛い」


 「えっへへー、そうでしょー! ありがとね、響もかっこいいよ!」


 「そりゃどうも」


 などと傍から見れば公園にいる他の人たちと同じカップルのような発言を無意識に繰り出す響と梓。心底嬉しそうにする梓、その顔を見て嬉しくなる響。


 ではなぜ梓はこの場所を選んだのか。

 それは遡ること数日前、リナリアが響の相談事を受けていたあの日のことだった。

こんな可愛い子と待ち合わせとかやってみたいものです(血涙)

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